<憑依>凄腕のヒットマン②~恨~(完)

裏社会で暗躍する謎のヒットマン。

憑依能力を持つ彼は、
美女に憑依した状態でしか”仕事”をしないという
そんなこだわりを持っていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーうん!大好きっ♡」

嬉しそうに彼氏に抱き着く女ー。

その数秒後ー、彼氏はその場に倒れ込んで
絶命していたー。

数秒前に”大好き”と言っていた女は、
嘘のように冷たい目線をその彼氏に送り、
そのまま立ち去っていくー。

彼女は今、裏社会で暗躍する謎のヒットマン”シャドウ”に
憑依されているー。

「ーーーー」
綺麗な手を見つめながら、少しだけ何かを思うと、
シャドウはそのまま、その女の身体で安全な場所へと移動ー、
その身体から抜け出しー、今日の”仕事”を終えるー。

アジトにしている森の中に戻ったシャドウは、
”ある大木”を見つめると、少しだけ表情を変えるー。

”ーーーーー…”

がー、その時だったー。

「ー”シャドウ”はこの森にいる!」
「ー奴を見つけ出してぶち殺せ!」

荒々しい男たち4人がシャドウのアジトにやってきて、
そんな言葉を口にするー

”ーーーー”
シャドウは、その男たちの方を見つめながら呟くー

「ー”アビス”の奴らかー」

犯罪組織アビスー。
先日、シャドウがお嬢様・蘭の身体に憑依して
抹殺したターゲットが、その犯罪組織アビスの幹部候補の男だったー。

シャドウは表沙汰になるような”証拠”は残さないが、

犯罪組織アビスも裏社会で暗躍する組織の一つ。
警察沙汰になるような証拠は100%残していないが、
何らかの方法で、幹部候補の男の死が”シャドウ”と関係していることを突き止め、
こうして”報復”にやってきたのだろうー。

「だが、無駄なことだー」
シャドウはそう呟くと男たちの方を見つめるー。

「ーくそっ!いねぇ!」
「本当にここで合っているのか!?」
「大体、やつはなんでこんな森の中にいる!?ホームレスなのか!?」
犯罪組織アビスの男たちが叫ぶー。

が、結局シャドウを見つけることができないまま、
そのまま立ち去っていく男たちー。

「ーーーー」
シャドウは、そんな男たちの後ろ姿を見つめると、
静かにため息をついたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日ー

シャドウは今日も”依頼”をこなしていたー。

今日は、とある悪徳企業の社長からの依頼で、
その社長自身の秘書に憑依し、
次期社長候補の一人を抹殺する仕事だったー。

「ーーー」
秘書の手を見つめるシャドウー

”違う”
秘書の身体のまま、シャドウはそう呟くと、
女子トイレに入り、そのまま個室へと入るー。

別に、女の身体に憑依して
女子トイレを覗こうとしているわけではない。

これも、仕事の一環だー。

「ーーーーー」
秘書の身体で、しばらく待機するシャドウ。
胸を揉んだりすることもなく、
ただ、冷徹に”獲物”を待ち続けるー。

そう、今回始末する対象の”次期社長候補”とは女なのだー。
そのため、ここで相手が来るのを待っているー

「ーあ~~やだわぁ、アイツにわたしが負けるなんて、あり得ないのにー。
 常務も見る目がないわねぇ」

ボソボソ呟きながら入ってくるおばさんー。

これはー
ただのおばさんで、殺しの対象ではないー。

じっと息をひそめる秘書の身体に憑依したシャドウー。

「ーあら?ーー…誰かいるの?」
おばさんが言葉を口にするー。

”男”が個室に籠っているとでも思ったのだろうかー。

「あ、すみませんー長居しちゃって!
 お腹を壊しちゃってー」

がー、今は”女”の身体ー。
声を出して事情を説明すれば、問題にはならないー

「あらそぅ。ごめんねぇ」
おばさんはそれだけ言うと、自分の用を済ませて立ち去っていくー

そしてーー

続けてコツ、コツと足音がしたー。

個室から出て、手を洗うフリをしながら
”相手”を確認するー。

冷たい目つきの眼鏡の女ー

”こいつだー”
秘書の身体で、シャドウはそう呟くと、
そのまま個室に入ろうとした”次期社長候補の女”の首筋に”針”を突き刺したー。

”痛み”もなく、体内に”数時間後に死に至らしめる検知できない毒”を送り込むー。

秘書は、笑みを浮かべることもなく、
何事もなかったようにトイレから立ち去りー、
その日の夕方ー、次期社長候補の女は会議中に突然死したー。

世間的には”心臓発作”ー。
毒も検出されず、そのまま”突然死”として処理されたー。

シャドウは、今日も無事に”仕事”を終えたのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その夜ー。

先日の”大富豪の男”が、シャドウのいる森にやってくるー。

「ーここに66億円あるー。
 これは前金だー。どうか、私の元で働くつもりはないか?」

先日、自分の愛人である梨沙を差し出し、
ライバルの富豪の抹殺を依頼した大富豪の男は、
そんな言葉を口にしながら、
アタッシュケースを見せるー

がー

”断るー。”
即答で、シャドウの声が返って来るー

「そ、そんな金額が少ないと仰るのですかー?
 それとも、女が必要ですか?」

大富豪の男が言うと、
シャドウは”そういうわけではない。”と、告げた上で
”俺は何者にも味方しない。それだけだー”と、そう言葉を口にしたー。

「ーーー…く…」
大富豪の男は不満そうにしながらも
「分かりましたーそれじゃあ」と、立ち去っていくー。

”ーーーーー”
シャドウは、そんな大富豪の男を見つめながらため息をつく。

彼はー”大富豪の男の目の前”に立っていたー。
しかし、シャドウに依頼する人間は、いつもシャドウの姿を見ることはないー。

先日、報復に来た犯罪組織アビスの人間も、
シャドウの姿を見ることはできなかったー。

それも、そのはずー

シャドウは”既に”死んでいるのだからー。

「ーーーー」
シャドウは、大木を見つめるー。

”ーーごめんねー。ありがとう”
あの大木で、シャドウは”妹”と共に命を絶とうとしていたー。

もう、何年いや、何十年も前かもしれないー。

事故で、両親を一度に失った兄と妹ー。
2人で生きていくことに絶望し、二人は、この場所で”死”を選んだー。
この森の、この大木の下で、
小さい頃、ピクニックをしたー、そんな思い出があるー。

ここで死ねば、父と母にまた会える、と
妹と共にここで自ら命を絶つ道を選んだー。

がーーー
”首を吊った”シャドウー…当時はまだ”普通の人間だった”彼は
裏切りを受けたー。

「ーーばいばい、お兄ちゃんー」
邪悪な笑みを浮かべる”妹”ー

そう、彼女は死ぬつもりなどなかったのだー。
いいやー、両親の事故も彼女が仕組んだものー。
彼女はずっと、家族に不満を持っていて、
家族全員の抹殺を狙っていたのだー。

”一緒に死のう”
そんな風に言っていた二人。
が、妹に死ぬ気はなく、首を吊り始めた兄にそう言葉を投げかけて
立ち去って行ったー。

シャドウはあの日、死に、亡霊となったー。
そしていつしか、裏社会のヒットマンとして暗躍を始めたー。

依頼人から”仕事をするための身体”=美女を紹介してもらっているのは、
あれ以降、足取りがつかめない”妹”にいつかたどり着けると信じているからー。

ヒットマンという仕事を始めたのは”今の自分”にでもできる範囲内の仕事で、
自分のような得体の知れない存在でも、”客”が集まって来るからー。

憑依という強力な力を持ちながら、ターゲットに直接憑依して自殺しないのは、
”妹”にたどり着くためー、加えて、自分自身が過去に自ら命を絶った経験から、
あの時のことが強くフラッシュバックしてしまうからー。

そしてー、妹の手には事故の時にできた”消えない傷”があるー。
そのため、シャドウはいつも憑依した女性の”手”を必ず確認しているー。

”妹”を見つけるその日まで
シャドウは”ヒットマン”として暗躍し続けるー。
これからも、ずっとー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーははははは 今日もみんな可愛いなぁ」
夜の町で、とあるキャバクラ店を貸し切りにして
豪遊していた大富豪の男ー。

「ーーそういえば、この前、60億以上払ったのに
 ”いらない”とか言う馬鹿な男がいてさぁ~」

大富豪の男は女たちにそんな言葉を投げかけて笑うー。

「ーーーえ~~~ほんとにそんな人いるの~?」
キャバ嬢の一人が笑いながら、大富豪の男を見つめると、
大富豪の男はうすら笑みを浮かべながら
「あぁ、馬鹿なやつだったよ」と、少しだけ残念そうに言葉を口にするー

「ーもっとお金が欲しかったんじゃないですかぁ?」
他のキャバ嬢の言葉に、大富豪の男は「はははーそうかもなー」と、
笑いながらも、表情を歪めたー。

”いやー、あの男は”金”では買えないー…
 あの男は………もっと何か別のものを望んでー…”

大富豪の男は思うー。

今までそれが”何”であったとしても
欲しいものは”金”で手に入れてきた男。

しかし、金で手に入らないものもあると、
今回、思い知らされたー。
その一つが、あの男だー。

そんなことを思いながら、すっかり酔ってしまった男は、
店でのひと時を終えて、ゆっくりと立ち上がるー。

「ーーーー今日も楽しかったよー」
そう言葉を口にして、店の外に歩いていく大富豪の男ー

がー、
笑っていたキャバ嬢の一人が、
ピクッと震えると、途端に冷たい表情を浮かべて、
静かに歩き出すー。

「ーーーーー」
”自分の手”を確認するキャバ嬢ー。

「ーーーこいつも違うー」
それだけ呟くと”シャドウ”に憑依されたキャバ嬢は
そのまま大富豪の男の後を尾行しー、
人通りのない道に入ったところで声をかけたー。

「ーーーあの」
その言葉に、大富豪の男が振り返るー

「ーーーー?」
少しだけ表情を歪める大富豪の男ー

がー、先日、自分自身も”シャドウ”に依頼したからだろうかー。
大富豪の男は、店から追って来たキャバ嬢に違和感を感じー、
そして声を発したー

「ーま、待て。それ以上近付くなー」
とー。

がー、キャバ嬢は冷たい視線を大富豪の男に送ると、
そのままゆっくりと近づいてくるー。

事前に用意しておいた、特殊な針を手に、大富豪の男に近付いていくー

「ま、ま、待ってくれ!
 この前の件は謝るー
 も、もう、私の元で働けなんて言わない!許してくれ!」

大富豪の男はそう言うと、
シャドウに憑依されているキャバ嬢は言葉を口にしたー

「何を勘違いしているー?」
とー。

「へー…?」
大富豪の男は首を傾げながら、少し間を置いてから
嬉しそうに叫ぶー。

「ま、まさか、気が変わったのかね!?
 66億円の用意なら、すぐにー!」

シャドウが”自分の元で働いてくれる気になった”のだと誤解した
大富豪の男は、とても嬉しそうに声を上げるー。

がー、
すぐにそれは”勘違い”であったと気付かされるー。

「ーーー…別に俺は、この前の件で怒っているわけじゃないー」
殺気を放つキャバ嬢に、大富豪の男はまた、怯えた様子を見せながら
「じ、じゃあ、どうしてー?」と、声を上げるー。

するとキャバ嬢は言葉を口にしたー。

「ーお前の”殺し”の依頼を受けたー。
 依頼を受ければ、相手が元依頼人だろうと、誰であろうと、消す」

そう言い放つと、大富豪の男が悲鳴を上げようとするー。
がー、シャドウは”速攻で死に至らしめる”針を大富豪の男に突き刺しー、
大富豪の男は、数秒後、絶命していたー。

そしてー、もうその場にキャバ嬢の姿はなくー
シャドウもまた、”成仏できずに居座るあの森”へと戻って行ったー。

今回の依頼は、
”大富豪の男が通っていたキャバクラのオーナー”からの依頼ー。
シャドウのルールに従い、一番可愛いキャバ嬢を”身体”として紹介ー、
シャドウがその身体で依頼をこなしたー。
オーナーは、大富豪の男がいつも店で横暴な態度を取ることや、
店側にも”貸し切りにするように”脅しをしてくるような行為が
繰り返されていたことから、噂になっていた”シャドウ”を利用したようだったー。

がー、そんなことはシャドウには興味のないことだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーばいばい、お兄ちゃんー」

今日も、妹の声が脳裏に響き渡るー。

いつの日かー、
必ず妹を見つけ出すー。

そのために、シャドウは”裏社会のヒットマン”として
活動を続けているー。
いつの日か、妹にたどり着くことを信じてー。

「ーー必ず、お前を見つけ出してやるー。」
シャドウはそう呟くー。

見つけ出したときー、
”俺”は妹に何をするのだろうかー。

”復讐”するのか、それともー?

それはまだ、今のシャドウには分からなかったー。
妹の顔を見た時ー、
自分がどう思うのかー。

それはー…
今はまだ、分からなかったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

憑依能力を駆使するヒットマンのお話でした~!☆

いつの日か、”妹”と再会するお話も
あるかも…しれないですネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント