<憑依>凄腕のヒットマン①~闇~

”シャドウ”と名乗る凄腕のヒットマンー。

裏社会で暗躍する彼は、
どんな”依頼”でも確実に成し遂げる男として
その名を轟かせていたー。

しかしー、彼に依頼するにはあるものを用意する必要があったー。

それはー”彼が憑依する美女の身体”だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー悪いが、その”殺し”は受けられない」

”シャドウ”の異名を持つヒットマンは、
そう言葉を口にするー。

黒い霧に包まれた不気味な森の中ー。
そこが、”シャドウ”との交渉場所だー

「な…何故だ!?」
大富豪の男が声を上げるー。

「これだけ金を積んでいるのだ!
 これ以上、何を望むというのだ!?」

大金を手に、ライバルでもある富豪の始末を依頼している
大富豪の男ー。

が、凄腕のヒットマン”シャドウ”は、
仕事を引き受ける様子はなく
”金の問題ではない”と、そう言葉を口にしたー。

「金は事前に連絡した金額以上は必要ないし、受け取ることもない」

「ーで…では、何を用意すれば?」
大富豪の男が尋ねるー。

「ー女だ」
シャドウは、即答したー。
その声からは、感情を感じられないー。
”姿”は見えないが、声だけで大富豪の男は委縮していたー

「お、女ー…?
 ーーあ、あぁ、なるほどー
 ではすぐに選りすぐりの美女をご紹介ー…」
大富豪の男がそこまで言いかけると、
シャドウは続けるー

「別に俺は女遊びがしたいわけじゃないー。
 必要なのは、女の身体だー。」

シャドウの言葉に、大富豪の男は「と、言いますとー?」と、
びりびりと殺気を感じながら震えつつ、言葉を口にするー。

「ー俺は”美女の身体”でしか殺しをしないー。
 ー俺に依頼を受けて欲しければ、”俺に身体”を献上するんだー」

シャドウがそう言うと、大富豪の男は冷や汗をかきながら笑ったー。

「ーーび、美女の身体で殺しをー…?」
戸惑う大富豪の男。
シャドウが何を言っているのか理解できないー。

「ー理解できなくてもいい。
 お前の身の周りで一番の美女を連れてこいー。
 そうすれば、”殺し”を引き受けてやるー」

その言葉に、大富豪の男は恐怖を感じながら
「し、承知いたしましたー」と、その場を後にするー。

「ーーーー」
闇の中から大富豪の男を見つめていたヒットマン・シャドウは
そんな男が立ち去っていく様子を、
鋭い視線で見つめ続けたー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の夜ー。

”シャドウ”は別の男からの依頼をこなしていたー。

”依頼人”から紹介されたお嬢様・蘭(らん)の身体に
憑依して、
その身体で依頼をこなしていくー。

「ーーー」
ライフルを手にし、
ターゲットである犯罪組織・アビスの幹部候補の男を狙う”シャドウ”

シャドウに身体を支配された蘭は、
いつも浮かべている笑顔とは真逆のー、
冷たい、殺意に満ちた目でターゲットのほうを見つめるー。

「ーーー」
彼が仕事を行う際には、必ず”美女”の身体に憑依して
仕事を行うー。

理由は、いくつかあったー。

その一つは単純に
”美女に憑依しないとやる気が出ない”と、いうものー。

「ーー殺しは、美女でするに限るー」
シャドウは、蘭の身体でそう呟くと、
そのままターゲットの男を”撃つ”タイミングを見計らうー。

彼はプロの中のプロだー。
”証拠”は一切残さないー。
故に、憑依された人間も翌日になれば解放されて、
今まで通りの生活を送ることができるー。

「ーーー死ね」
蘭は、普段は絶対に口にしないような冷たい言葉を
その口から吐き出すと、無表情のまま
躊躇なく引き金を引くー。

「ーーぁ」
ターゲットだった犯罪組織アビスの男は、
”シャドウ”が放った銃弾により即死ー、
その場に倒れ込むー。

「ーー」
蘭は、遠目からその死を確認すると、
そのまま表情を変えることなく、その場から立ち去って行ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

昨日、シャドウに憑依されていたお嬢様・蘭は
何事もなかったかのように、自分の大学にやってきていたー。

「ーーえ~?本当~?今度わたしもに行ってみようかなぁ~」
友達と、楽しそうに新しくできたお店について、
雑談を交わす蘭ー。

まさか自分が、”この手”で、昨日、人殺しをさせられたとは夢にも思わずー、
そして、この先もそれを知ることなくー
日々を過ごしていくー。

そしてー
その日の夜ー。

”蘭”の件とは別件ー
昨日の大富豪の男が、再び”黒い霧の漂う森”にやってきていたー。

「どうか、どうか、宜しくお願いしますー」
男は、言われた通りに”シャドウ”に美女を紹介するー。

「ーーえ…ね、ねぇ…何なのー?」
大富豪の男が連れて来たのは、彼の”愛人”の一人ー。

「ーなるほど、悪くない」
シャドウがそう言うと、大富豪の愛人・梨沙(りさ)は戸惑いながら、
「え??なに??何が起きるの?」と周囲をキョロキョロしているー。

がー、次の瞬間ー
森の奥から、黒い煙のようなものが飛び出て来てー、
それが、梨沙の耳の中へと入り込んでいくー

「ひっ!?」
ビクンと震えて白目になる梨沙ー。

その場に膝をついて、ガクガクと震えているー。

「ーり、り、梨沙!?」
愛人の異変に驚く大富豪の男ー。

だが、梨沙はガクガク震え、白目のまま言葉を口にするー。

「ーーー気にするなー ”憑依”の際の通常の反応だー」
苦しそうに呻きながら、梨沙はそう呟くー

「り、梨沙…?? え?」
大富豪の男は怯えた様子でそんな言葉を口にするー。

「ひ、憑依って…???」
大富豪の男が情けない声を出すと、
やがて、梨沙は口から泡のような涎を垂らしながら、
ビクンビクンと震えてー
ようやく、白目から普通の目に戻ると、静かに立ち上がったー

「こういうことだー」
と、そう呟きながらー。

「ーり…梨沙…じゃないのかー?」
大富豪の男がそう言うと、
梨沙は「ー今は俺がこの女の身体を借りている状態だー」
と、そう呟くー。

「ーー…そ、そ、そんなことがー」
大富豪の男は、青ざめながらそう呟くー。
完全に、”目の前の愛人”に対してビビってしまっているー。

「ーーり、梨沙は、どうなっているんですかー?」
大富豪の男が不安そうに聞くと、
梨沙は「奥底で眠っているー。今はこの女の意識はないー」と、だけ
呟きながらそのままゆっくりと歩き出すー。

「ーま、ま、まさか、り、梨沙の身体でー!?」
大富豪の男は戸惑いながら叫ぶー

「言っただろう?美女の身体でしか殺しはしない、とー」
先程までとは別人のような梨沙の言葉に、
大富豪の男は怯えた様子を見せながら
「で、でも、そ、それじゃ、梨沙が殺人犯にー」と、
言葉を発するー。

確かに、”美女の身体で殺しをする”とは言われているー。
が、まさかこんな風に”憑依”されるなどとは夢にも思っていなかったー。

「ーーー俺は”証拠”を残さないー」
梨沙が今にも人を殺しそうな目で、大富豪の男を見つめるー。

「ーーし、し、しかしー」
なおも食い下がる大富豪の男ー。

「ー俺を信用できないのか?」
梨沙から、恐ろしいほどまでの殺気が放たれー、
大富豪の男はあまりの恐怖にその場で尻餅をついてしまうー。

「そ、そ、そ、そんなことありませんともー…!
 し、シャドウさんは、裏社会でも有数の凄腕のヒットマンー
 し、しくじるだなんて、そんなこと思ってませんー」

大富豪の男はそう言い放つと、梨沙は
「依頼が終わり次第、また連絡する」と、だけ呟いて
そのまま黒い霧が立ち込める森の中へと消えて行ったー。

「ーーーーー」
あまりの出来事にぽかんと口を開けたまま、
放心状態でその場に座り込む大富豪の男ー。

が、しばらくするとにやりと笑みを浮かべたー

「他人の身体を使って殺しをするヒットマンかー…
 私の屋敷に、ぜひ欲しいー」

とー、そう呟きながらー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大富豪の男が連れて来た梨沙に憑依した
”シャドウ”は依頼をこなすべく、
ターゲットの屋敷にやってきていたー。

「ーーーーーーお疲れ様です」
メイド服姿でやってきた梨沙は、何食わぬ顔で
屋敷の奥深くに忍び込んでいくー。

”この屋敷には、メイドが大勢いるー。
 全員の顔を覚えているやつなど、いやしないー”

「ーーー」
ぺこりと頭を下げてすれ違っていく梨沙ー。

”シャドウ”は、ヒットマンー。
直接相手と1対1で肉弾戦闘になったりすることは少なく、
ほぼ全ての仕事が”一方的”に終わるー。
相手がシャドウに気付く前に、シャドウはその相手の命を奪うのだー。

そのため、”女”の身体の方が色々とやりやすいー。

シャドウ自身の身体のまま、メイド服を着て
この屋敷に忍び込むことは、さすがに難しいし、
場合によっては色仕掛けを使うこともできるー。

色々この方がやりやすいー、という”実用”的な意味も
”美女の身体でしか仕事をしない”目的の一つだったー。

「ーーーーー」
何食わぬ顔でターゲットの男の元にやってくると、
梨沙は”この屋敷のメイド”のフリをしながらにこっと微笑むー。

依頼人である大富豪の男の”ライバル”でもある富豪の男・勝田(かつだ)は、
「ーーどうかしたかね?」と、梨沙の方を見つめる。

「ーーあの…ご主人様ーー…
 ちょっと、困ったことがー」

心底困ったようなか弱い表情を浮かべる梨沙ー。

”勝田”は女好きであることー
それが理由で”無駄に”この屋敷にはメイドが多いことなどは
既に調査済みだー。

「ーーふふ そうかそうかー どうかしたのかなー」
下心を丸出しにする笑みを浮かべながら近づいてくる勝田ー。

梨沙は近付いてきた勝田に対して、メイド服のスカートの中に隠していた
小さな針を手にすると、それを首筋に刺しー、
そのまま勝田のいた部屋の外へと飛び出したー。

わずか数秒の出来事ー
勝田は下心を丸出しにした笑みを浮かべながら絶命していたー。

彼本人からすれば、”何が起きたか分からないまま”
人生を終えた…そんな状況だー。

「ーーー」
梨沙はそのままベランダから壁を伝って下に降りると、
そのまま闇の中へと姿を消したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

”梨沙”は何事もなかったかのように解放されていたー。

「ーーー…ーーー素晴らしい」
大富豪の男は、そんな梨沙の方を見つめながら呟くー。

”シャドウ”によって、憑依された前後の記憶は、
上手く調整されているのか、梨沙はいつも通り、
”昨晩、自分が人の命を奪った”ことも知らずに
行動しているー。

「ーーー…凄腕のヒットマン…シャドウ…
 噂には聞いていたが、実に素晴らしいー」

大富豪の男はそう呟くと、
ニヤリと笑みを浮かべるー。

「ーーいくら払ってでも、やつを私の元に
 引き入れることができればー…」

”シャドウ”を仲間にすることができれば、
いくらでも邪魔者を排除することが出来るし、
いくらでもー…そうー…
好みの女を手中に収めることもできるー。

「ーー…クククク…」
大富豪の男はそう呟くと、
”これまで、欲しいものは何でも手に入れて来た”と、
不気味な笑みを浮かべながら、シャドウを仲間に引き入れるためのことを
あれこれ画策し始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーす、すまなかった…ゆ、許してくれ!」

悲鳴をあげながら、情けない声を出す男ー。

彼は、少し前に”シャドウ”に殺しを依頼した人間ー。

が、”後日報酬を振り込む”約束を破り、
ちょっとした出来心からそのまま逃亡しようとしたところを、
捕まったー。

「ーーーーひ、ひぃぃぃぃ…ゆ、許して…許して」
何度も何度も謝罪を繰り返す男ー。

がー、シャドウに憑依されてしまった男の”彼女”は、
無表情のまま言い放ったー。

「ーー”契約”違反は死ー。
 お前は死に、この女は殺人犯になるー。
 全て、お前が引き起こしたことだー」

憑依された彼女の冷たい口調に
「ゆ、許してー…」と、男は泣きながら言うー。

シャドウとの”契約”違反を行えば、
待つのは”死”のみー。

シャドウによって”契約違反した人間の身の周りの
一番大切な人間”が憑依され、
その人間に、殺されるー。

「お前のせいで、わたしは殺人犯♡」
笑みを浮かべる彼女ー。

”自分が死ぬ”
”自分の一番大切な人が憑依されて殺人犯にされてしまうー”
2つの絶望を同時に味わい、
契約違反をした依頼人の男は泣きながら「許して!」と叫ぶー。

がー

「ー慈悲などない。死ね」
シャドウに憑依された彼女に、命を奪われる男ー。

そしてー、
”あえて”殺しの証拠をその場に残したまま、
シャドウはその女から抜け出しー、黒い霧のようになって去っていくー。

”契約”違反をした場合、
依頼人は”依頼の際に紹介した女性に憑依したシャドウ”によって殺されるー。

そしてー、その場には”あえて”証拠を残して立ち去っていくー。

”契約違反”は死ー。
一番大切な人間を巻き込み、死ぬことになるのだー。

”シャドウとの契約違反は、死を意味するー”

「ーーーー」
契約違反の依頼人を始末したシャドウはそのまま、夜の闇へと姿を消したー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

”憑依能力”を持つヒットマンのお話デス~!

憑依能力を持つなら、ターゲットに直接憑依して
自害させてしまうのが一番手っ取り早いような…?と
思う人もいるかもしれませんが、
それをしない理由は…
…まだ、これ以上は言えないのデス~!

今日もお読み下さりありがとうございました~~!

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