<憑依>芸能界は憑依まみれ③~異変の果て~(完)

”必要なのは、肉体のみー”

この世界の芸能界は、憑依に塗れ、
完全に腐敗していたー。

ある日ー、
”親友”がアイドルデビューを果たした彼女は
その様子に違和感を覚え始めるー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

”ごめんごめんー…ほら、わたし、デビューしたばかりでしょ?
 だから、忙しくなっちゃってー”

電話相手の”円花”がそんな言葉を口にしたー

「ーーーえ…えぇ…?」
戸惑う克枝ー。

今日は、高校時代の親友である円花と
久しぶりに会う予定だった日ー。

事前にLINEやメールで確認をしても
応答がなく、仕方がなく電話をしたところ、
そんな返事が円花から返って来たのだー。

「ーで、でも、いきなりアイドルになるなんてー…
 前、言ってたよね?わたしには無理~みたいなこと」

克枝が苦笑いしながら言うと、円花は
”あ~、うん、そうだったね~、でも気が変わったの”と、
適当そうな口調で返事をするー。

「ーーーーー」
そんな円花の反応に、克枝は不安を覚えるー。

「ーー大丈夫?嫌々、やってるとかじゃない?」
克枝がそう言うと、円花は”あはは、そんなことないない”と、笑うー。

しかしー
話せば話すほど、克枝の不安は強まっていくー。

まるで”円花が円花じゃないような”
そんな気がしたからだー。

そしてー…

”「ね、ねぇユキちゃん!
 どうしちゃったのー!?
 ユキちゃんが、アイドルになるなんて、やっぱり変だよー!」”

高校時代、当時人気だったアイドル・ユキのライブを
円花と見に行ったとき、
”乱入”してきた女のことを思い出すー。

あの時は、ただの”頭のおかしなファン”だと、
克枝はそう思っていたー

けれどー、今になってあの時の光景が
頭の中にフラッシュバックしてくるー。

「ーーでも、どうして急にアイドルになろうなんて思ったのー?」
克枝が不安そうにそう言葉を口にするー。

ちょっと前に円花とLINEでやり取りした時も
そんな素振りは全くなかったはずだー。

”ーあははー、ごめん。ちょっと忙しいからそろそろ切るねー”
円花が、少し面倒臭そうにそう言葉を口にしたー。

「ーー…え…? り、理由ぐらい教えてよー
 ー急に約束もキャンセルされてるんだし、そのぐらいいいでしょ?」

克枝が食い下がるー。
本当に親友が自ら望んでアイドルになったならー、別に何も言わないー。
でも、克枝の中には言いようのない不安ばかりが膨らんでいたー。

”ーーーー…だから、忙しいって言ってるじゃん”
円花が、不満を露わにするー

「ま、円花ー…?」
克枝は戸惑うー。
円花は”こんなこと”で怒るような子ではないー…
少なくとも、克枝はそう思っているー。

”ーわたしがアイドルになったのが悔しくて嫉妬してるの?
 そういうのー……うざいよ?”
円花がキツイ口調で言葉を口にするー。

「ーーー…そ、そんなんじゃー…」
戸惑う克枝ー。

そうこうしているうちに、円花はそのまま電話を切ってしまいー、
それ以降、電話も、LINEも、メールも応答がなくなってしまったー。

”美鈴”という子と共に、みるみる人気になっていく円花ー。
見れば見るほどー、円花が、円花じゃないようなー、
そんな気がしてしまうー。

「ーーーー」
克枝は、大学とバイトの合間に、”円花”のことー、
そして円花が所属している芸能事務所のことを調べていたー

「ーーーー…!!」

そんな克枝は、あることに気付くー。

「ーこ、この女ー……」

サイトに掲載されている所属アイドルの一覧を見ていた克枝ー。

そこにいた掲載されていた”明日香”というアイドルの写真を見て
表情を歪めるー。

明日香は”ユキ”がブームを起こしていた頃に出て来たアイドルで、
大ヒットという感じではないものの、
堅実にファンを集めている、そんな感じのアイドルのようだー。
克枝も、”明日香”のことは知ってはいるー。
が、特にファンではなかったし、そんなにじっくり見ることはなかったから
気付かなかったー。

しかしー…

「こ、この顔ー…」
克枝は思い出すー。

あの日、”ユキ”のライブに乱入して、
”ユキちゃん、どうしちゃったの!?”と騒いでいた女だー。

「ーーな、なんで…?
 なんでこの人までアイドルにー?」

そう思った克枝は、表情を歪めながら
”あること”を決意するー。

それはー…

「ーーーー何か、持病はございますかー?」

数週間後ー。
克枝は、”芸能事務所”のオーディションにやってきていたー。

戸塚社長の言葉に、
持病はないことを伝える克枝ー。

”オーディション”とは名ばかりの
”これだけでいいの?”と思ってしまうような面接ー。

自分の順番が終わった克枝は、隙を見て控室を抜け出しー、
芸能事務所の内部を徘徊していたー。

そうー…
”何か、おかしいー”そう感じた克枝は、
芸能事務所に潜り込むためだけに、オーディションを受けたのだー。

部外者はそう簡単にこの建物に入れないー。
入るには、”こうする”しかなかったー。

「ーーよし、上手くいった!」
少し嬉しそうに微笑む克枝ー。

いざとなったら”トイレに行こうと思って迷ってしまった”とでも、
適当に理由をつければ言い訳をすることもできるー。

「ーーーー!」
歩いていた通路の反対側から、
”明日香”がやってくるー。

”あ、やばっ…”
克枝はそう思いながらも、咄嗟にすれ違い様に
「お疲れ様ですー」と、言葉を口にすると、
明日香は「あぁ、お疲れー」と、違和感のある口調で、
何事もなかったかのようにすれ違って、そのまま階段の方に
姿を消したー。

「ーーーよ、よかったー。社員だと思われたのかなー」
そんなことを口にしていると、やがて、近くの部屋から
笑い声が聞こえて来たー。

”ははははははっ!この前もさぁ~、ファンのやつが
 俺の顔見て、すっげぇ顔を赤らめてたんだよー”

”くくく…コイツ、”俺にドキドキしてるんだな”って思うと
 マジで快感だよな”

そんな”女同士”の会話が聞こえて来たー

「ーーーー?」
克枝は少しだけ表情を歪めるー。

自分のことを”俺”という女子はいるにはいるし、
まるで男のように話す子も、いるにはいるー。

が、こんな風に二人とも男みたいに話しているのは、
少し珍しいー。

それにー

「ーーー…」
克枝は、少し間を置いてから「ーー…ま、円花?」と
言葉を口にするー。

口調も、喋り方も全然違うため、
一瞬気付かなかったものの、話をしている二人の女のうちの一人の声が、
どうしても”円花”の声にように聞こえて仕方がなかったー。

そんなはずはないと思うケドー、と、思いながらも
笑い声の聞こえた部屋の方に近付いていくー

”ー今じゃ女のアイドルの中身はほとんど男だってのにな!あはははっ!”

”この声”は違うー。
問題はもう一人のー…

”ーー…そうそう 裏じゃこんな風に胸を揉みまくってるのにー へへ”

「ーーー!!!」
克枝は表情を歪めるー

”やっぱり、円花の声ー…”

そう思いながら、意を決して
部屋の扉をほんの少しだけ開けた状態で、
中の様子を伺うー。

すると、そこにはー…

親友の円花の姿があったー。

もう一人の女は、
一緒に活動しているアイドルの美鈴のようだー。

「ーーー…ま、円花…」
小声で呟く克枝ー。

足を広げて男のように座りながら、
下品な笑みを浮かべて、胸を揉んでいる円花の姿が見えるー

”ど、どうしちゃったのー…?”
克枝はさらに混乱するー。

あれは、確かに円花だー。
けれど、あまりにも円花の様子がおかしいー。
”普通”じゃないー。

そんな風に思っていると、
円花が同じ部屋にいる美鈴に対して言葉を口にしたー。

「ーそういやさ、”この女”の友達から連絡があってさー、
 面倒臭いこと言ってるから、ついキレそうになっちまったー」

円花がそう言葉を口にするー

「はは…あんまりキレるなよ。
 ”俺たち”が憑依して身体を乗っ取ってることがバレたらー
 まぁ、騒ぐやつもいるかもしれないからなー」

相方の美鈴が笑うー。

「ーーー…ひ、憑依ー?」
呆然とする克枝ー。

が、その時だったー。

「ーそこで、何をしている?」

「ーー!」

声がしてビクッとする克枝ー。
慌てて声がした方向を向くと、そこには
芸能事務所社長の戸塚社長の姿があったー。

「どうやら、聞いてしまったようだねー。」
戸塚社長の言葉に、身の危険を感じる克枝ー。

が、部屋から円花と美鈴も出てきて、
芸能事務所の廊下で、克枝は包囲されてしまうー

「ーーま…円花ー」
克枝が円花に助けを求めるような視線を送るも、
円花は「聞いてたなら…”わたし”はもう”わたし”じゃないって
理解したでしょ?」と、笑みを浮かべるー。

「ーーー……ま、円花を元に戻して!
 他のみんなも!」
克枝はそう言いながら、”録音”するために使っていた
ボイスレコーダーを手にするー。

当然、”身の危険”に遭うことも想定済みだ。
何の下準備もせずに、のこのことここにやってきたわけではない。

がー、戸塚社長は笑みを浮かべると、
「ー君も”アイドル”になってもらうか」と、そう言葉を口にするー。

「ーそうそう、録音なんてしても無駄だよー。
 ”憑依”されてしまえば、君は喜んでその音声を消すし、
 我々に渡すだろう」

戸塚社長の言葉に、克枝は震えるー。

確かにその通りだー。
まさか、こんな恐ろしいことが起きているなんて思わなかったー。

克枝は慌てて隣の部屋に逃げ込むー。

しかしー、部屋の中で戸塚社長らに包囲されてしまうー。

「ー社長ー
 ”その女”、わたしより”ブス”だから、
 ”事務職”の方がいいんんじゃない?
 アイドルなんて、無理でしょ」

円花が笑みを浮かべるー。

円花に憑依している男は”あえて”そう言葉を口にしたー。

克枝にも、アイドルができるぐらいの容姿はあるー。
が、”元親友”の身体で煽るのが、楽しかったー。

「ーーま、円花ー」
克枝は動揺した様子で円花を見つめるー。

「ーーあんた、”アイドルになったわたし”に嫉妬してるんでしょ?」
ニヤニヤ笑みを浮かべてそう言い放ってから、
真顔で、攻撃的な口調を作りー、ハッキリと言い放ったー

「ブス」
とー。

円花に言われているのではないー
そう思いながらも、克枝は強いショックを受けてしまうー。

「ーククク…そうだなー
 じゃあ、君には”量産型”の魂を与えようー」

人造的に作り出した”憑依”のための魂ー。
ただ、忠実に事務職をこなし、
”無難に日常生活をこなす”だけのロボットのような存在になる、
悪魔のような魂ー。

「ーーー…!」
量産型の魂が示す意味が克枝には分からないー。
が、何かヤバいモノであることを感じるー。

「ーーククク 押さえておけ」
戸塚社長の指示通りに、円花と美鈴が克枝を取り押さえるー

「ま、円花!目を覚ましなさいよ!」
克枝がそう叫ぶも、円花は「わたしは正気だけどぉ?」と、
煽るような口調で言い返してくるー。

口に、量産型の魂を捻じ込もうとする戸塚社長ー。

「ーーや…やめて…やめてってば!」
克枝は、まだ自由になっていた足で戸塚社長の顔面を蹴りつけるー。

「ーぐぁっ!?」
その衝撃で、量産型の魂が宙を舞いー、

そしてーー
驚いて口を開けていた戸塚社長の中に入り込んでしまったー

「ーがっ… ぁ… ぁ… ぁぁぁぁ」
もがく戸塚社長ー

やがてー…戸塚社長は「ーー…今日から…この会社で働くことになりましたー…」
などと、ぎこちない口調で言葉を口にし始めるー

「ーーあらら…社長が量産型の魂に憑依されちゃったよー」
美鈴が笑うー。

「ーー…これ、あれじゃね? もう元に戻せないんだよな?」
円花が笑いながら言うー。

「ーーあはは、まぁ、いいじゃんー。
 副社長もいるし」
美鈴はそんな言葉を口にすると、
逃げ出そうとする克枝を見て、笑みを浮かべたー。

「ーーー…逃げられないよー」

また別の量産型の魂を手にする美鈴ー。

円花と美鈴に包囲された克枝は、今度こそ逃げることはできなかったー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

戸塚社長は、辞任ー。
後任として、副社長が社長に昇格する形となったー。

量産型の魂に憑依されてしまった戸塚社長は、
無難に事務職をこなし、世間で騒がれないよう
無難に細々と生活を続けるロボットのようになってしまったー。

克枝は、”円花”のマネージャーとして働いているー。

克枝の最後の意地が、戸塚社長を破滅させるという結果に結びつきー、
一矢報いたー。

けれど、戸塚社長一人が消えたぐらいでは、
この世界の芸能界の闇は、消えないー。

この芸能事務所だけではなく、どこの芸能事務所でも、
”憑依”は当たり前のように用いられているのだからー。

「ーーー今日のスケジュールですー」
量産型の魂に憑依された克枝が、円花にそう言い放つー

円花は偉そうに腕組みしたまま「ノロマ!」と、言い放つと
克枝から手帳を取り上げて、スケジュールを確認したあとに
それを放り投げて克枝に拾わせるー。

「ーねぇ、”親友”のマネージャーでいる気分は、どう?」
円花はニヤニヤしながらそう言い放つー。

がー、克枝は「働かせてくれてありがとうございますー」と、
嬉しそうに微笑むー

「ークク…バーカ!」
円花は克枝をビンタするとゲラゲラ笑いながら
今日の仕事へと向かうー。

”アイドル”になった人間はー、
芸能事務所に目をつけられた人間は、
もう、元の生活には戻れないー。

永遠にー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

恐ろしい芸能界が存在する世界のお話でした~!☆

アイドルとしての役目が終わった後も
解放されないので、
一度憑依されてしまったら、おしまいですネ~…★!

お読み下さりありがとうございました~~!☆

今日までお正月休みだった皆様は、
明日からふぁいとデス~!
(…私は普通に仕事でした~笑☆)

コメント

  1. 匿名 より:

    社長は破滅させたものの、恐ろしい結末になってしまいましたね☆

    下手に真相を探ろうとしなければこんな目にはあわずに済んだでしょうに。

    ところで、明日香も克枝みたいに真相を探ろうとした結果、憑依の餌食にされてしまったんですかね?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~~!☆

      明日香も克枝と同じ感じですネ~!
      ただ、もう少し単純に心配している感じでした~!
      (なので、無警戒にライブ会場でユキに向かって叫んだりしちゃってました…!)

  2. ムッシュ より:

    克枝にもアイドルできる容姿あったのに
    円花の鶴の一声で事務員。

    社長再起不能になっても代わりがいると落ち着いていたし
    この事務所
    雇われ社長より実績ある
    アイドル憑依者の方が偉いようですね

    • 無名 より:

      ムッシュさま~!ありがとうございます~!

      雇われ社長は、あまり発言力が
      大きくないみたいですネ~笑

      この世界の芸能事務所は売上を叩きだしているアイドルの
      発言力が大きいのデス!

  3. ムッシュ より:

    克枝もアイドルできる容姿あったのに円花の鶴の一声で事務員に決まったり
    社長が再起不能になっても円花も美鈴も落ち着いていたり
    この会社は社長より実績ある憑依者のほうが発言力ありそうですね。