<憑依>芸能界は憑依まみれ②~闇の業界~

その世界の芸能界では、憑依が蔓延していたー…。

本人がアイドル志望であろうと、そうでなかろうとお構いなしに
憑依して、アイドルにしてしまうー。

そして、また一人…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日は、”オーディション”が行われていたー。

”何も知らない”アイドル志望の子たちが
そこには集まっているー。

アイドル志望、というだけあって、
集まっている人間は、それぞれそれなりに可愛い子ばかりー。

「ーーー…ふむー」
この芸能事務所の社長・戸塚 龍次郎(とつか りゅうじろう)は、
履歴書を見つめながら呟くー。

「ーー何か”持病”はございますかー?」
戸塚社長はそんな言葉を口にするー。

「え?あ、はい~ え~っと
 じ、持病ってなんでしたっけぇ~?」

とても可愛らしいが、壊滅的に一般常識が足りていないー。

戸塚社長は、そう思いながら、
「ーあなたが何か病気…いつも調子の悪いところが
 ないかどうかってことですー。
 具合の悪いところはありませんか?」と、
この頭の悪そうな子にも分かるように説明するー

すると、
「あ~、あたし~~よく気持ちが落ち込んだりはしますけどぉ~
 他は元気です」と、
笑みを浮かべたー。

「ーーそうですかー」
戸塚社長は笑みを浮かべるー。

ならば、合格だー。
この女は可愛いー、売れる素質は十分にあるー。
”気持ちが落ち込む”のは、何も問題はないー。
どうせ”お前の中身”に用はないのだからー。

とー。

戸塚社長は、面接を終えると、
その女が不思議そうに呟くー

「あれれ~?演技力のテストみたいのしないんですかぁ~~???」

その言葉に、
「ーーそれは、大丈夫ですよ」と、戸塚社長は微笑むー。

そうー。
”見た目”さえ整っていれば、あとはどうでもいいのだー。

極端な話、文字が読めなくても、会話が成り立たなくても構わないー

”ー我々が欲しているのは、アイドルにふさわしい見た目を持つ
 身体だけなのだからー”

戸塚社長は邪悪な笑みを浮かべるー。

この日、この事務所のオーディションでは2名が合格したー。
どちらも、とても可愛らしい容姿の持ち主だー。

しかし、一人は壊滅的に一般常識に欠けていてー、
もう一人は、病気のおばあちゃんのお見舞いを毎日したい、等と言っていて、
芸能活動よりもおばあちゃんを優先したい、とそう言っていたー。

普通であれば、落とされそうな二人を”合格”にした戸塚社長ー。

判断基準は、単純だったー

”見た目 ”健康”
この、2つだけー。
後は、どうでもいいのだー。

憑依さえしてしまえば、どうにでもできるー。
急に性格が変わったことを疑問に思われても、
そこから”憑依”にたどり着く人間など、まずいないー。

演技力など、なくてもいいー。
いくら教養がなくてもいいー。

「ーーそれでは、こちらで”手続き”をお願いします」
同意書に目を通してもらう、という名目で
2人を控室に通すと、
戸塚社長は後からやってきた男二人に向かって言葉を掛けるー。

「ーー憑依の準備はできているか?」
とー。

「ーもちろんですー」
2人組の男はニヤニヤと笑みを浮かべるー。

そうー。
それぞれの事情なんて、どうでもいいー。
見た目と、健康さえ
整っていればーーーー

そしてーーー

相手がアイドル志望かどうかー
それすらも関係ないー。

オーディション自体は、開催すれば
”容姿にそれなりに自信のある子”が集まる為、
憑依の素体を集めるのにはうってつけのため、
今も行われているー。

しかしー、街中で見つけた”素材”も逃さないー。

憑依さえしてしまえば、
本人の意思など、関係ないのだからー

”例の子を見つけましたー。”

アイドル候補の女を監視させていた写真から連絡が入るー。

「そうかー。
 タイミングを見計らって憑依しろ」

戸塚社長はそう呟くと、静かに笑みを浮かべるー。

また、新しいアイドルが生まれるー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大学からの帰り道、円花はいつものように、
家に向かって帰宅していたー。

「ーーあ…」
円花は、ふと電車内のモニターに表示されていた
宣伝を見て、高校時代を思い出すー。

”ユキ、引退ライブ”
そんな宣伝が流れているー。

高校時代、親友の克枝が大好きだったアイドルー。
よく、そのライブに連れていかれたことを
懐かしそうに思い出すー。

「ーあの子も、もう引退するんだー」
円花はそんなことを思うー。

確かに、円花と克枝が高校生だった頃、
”ユキ”は人気絶頂だったー。

しかし、その後デビューした”明日香”や、
”リン”など、別のアイドルが台頭してきて、
ユキの人気は衰えていたー。

最近では、”劣化した”などとファンに言われてしまっていて、
確かに容姿も以前より衰えているような、
そんな印象を受けるー。

芸能界は、過酷な世界だと聞いているー。
人気の衰えて来たユキは、引退せざるを得なかった、
ということなのだろうー。

”ーそんなこと言いながら、円花も大学生になるころには
 現役女子大生アイドル~!なんて言ってるんじゃないの~?”

親友の克枝に、高校時代に言われた言葉を思い出すー。

「ーあはは、わたしには無理無理」
そんなことを呟きながら、懐かしそうに微笑むと、
電車を降りて、家に向かって歩き出すー。

がーーー
円花が、人通りの少ない路地に入ったその時だったー。

背後から、男が近付いてくるー。

「ーあの、すみませんー」
男が声をかけて来るー。
円花が「え、はい?」と振り返ると同時にー、
男は有無を言わさず、円花に近付いてくるー。

円花がヒヤッとして身構えようとするもー、
その瞬間ー、男は円花にキスをしたー。

「ー!?!?!?!?」
男の意味不明な行動に驚く円花ー。

その直後、キスをしてきた男が
光のようになって消えていくー

何が起きているのか分からないまま、
円花は今まで感じたことのない、
”何かが入ってくるような感触”を覚えてー、
そのまま、事態を理解することなく、
その意識は途切れたー。

「ーーー…ふふ…」

”憑依”が終わったー。
円花は笑みを浮かべながら鞄からスマホを手にすると、
「ー”憑依”完了しましたー」と、
芸能事務所の社長・戸塚社長に連絡をして笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー”先輩”お疲れ様でしたぁ~♡」
明日香が、引退ライブを終えたユキの元にやってくるー。

「ーチッ」
ユキは、不快そうに表情を歪めると、
「ーそれにしても先輩、すっかり人気落ちちゃいましたねぇ~」と、
明日香はニヤニヤと笑みを浮かべるー。

数年前、ユキのことを心配してライブに来ていた頃の
面影は、今の明日香にはもうないー。

自分も”アイドル側”になってしまったのだからー。

「ーーこの身体がいけねぇんだよー。思ったより
 容姿の劣化が早かったー」
ユキが舌打ちしながら、自分の身体を触るー。

しかし、明日香はそんなユキに対して言い放つー。

「ーー乗っ取った身体で、豪遊してるからでしょ?」
とー。

「ーーー」
悔しそうに明日香を見つめるユキー。

「ー”次の身体”では、負けないからなー」
ユキがそう言うと、
明日香は「”成績”が悪いと、なかなか次の身体も回してもらえませんよ?」
と、笑みを浮かべながら呟くー。

「ーーチッ…ー
 お前も、せいぜい、その身体が劣化しないように祈るんだなー」
ユキは捨て台詞を吐くと、明日香はクスクス笑いながら、
そのまま立ち去っていくー。

「ーくそっ!!!」

アイドルの世界は、この世界でも厳しいー。
特にー、”いくらでも”憑依で補充することのできるこの世界では、
尚更だー。

”売れないアイドル”、”売上の落ちたアイドル”は
容赦なく粛清されるー。

「ーーお疲れ様ー。
 その身体は”事務員”として処理するよー」

戸塚社長がそう言うと、
ユキは「ー俺の次の”身体”はー?」と、呟くと、
戸塚社長は「君の成績だと”順番待ち”も長くなるだろうねー」と、
”ユキ”として、ブームを築くことはできたものの、
その後、続かなかったことで、”次はあまり期待できない”と、
戸塚社長はそう説明したー。

「ーーチッ…」
ユキは思わず舌打ちをするー。

そしてーー
「ーーーぁ…」
険しい表情をしていたユキが突然倒れー、
中から憑依していた男が出て来るー。

「ーー”憑依待ち”の社員はたくさんいるのでねー。
 順番が来たら、また連絡するー」

戸塚社長はそう言うと、ユキに憑依していた男を
立ち去らせて、倒れたままのユキのほうを見つめるー。

「ーーーーー」
奥の部屋から、”魂のような物体”を持ってくると、
戸塚社長はそれをユキに対して、放り込んだー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーご苦労だったなー」

数時間後ー。
戸塚社長がそう言葉を口にした先にはー、
憑依されたばかりの円花の姿があったー。

「ーーークク…この清楚な雰囲気ー
 確実に売れますよ」
円花がニヤニヤしながら言うと、
「ー今回”も”期待しているぞー」と、戸塚社長はそう呟いたー。

”円花”に憑依した男は、これまでも”二人”の身体を渡り歩き、
それぞれブームを築いた男だー。

「ーーそれにしてもー
 大人しそうなこの子に、こんな自信満々な表情を
 させてると思うと、興奮しますよー」

事務所の鏡を見つめながら、円花がそう言うと、
「ーーお疲れ様ですー」と、頭を下げながら
隣の部屋から出て来たユキを見つめるー。

「ーーーー”アイツ”はもう抜けたんですね」
円花が笑いながら言うと、
戸塚社長は「あぁ…”引退”したからなー」と、笑うー。

アイドルの競争は激しいー
”引退”したアイドルからは、憑依していた男はすぐに抜け出すー。

そしてー、”アイドルではなくなった身体”には
”量産型の魂”を憑依させるー。

そのまま放置しておけば、正気に戻ってしまい、
当然長ければ何年も意識が飛んでいた本人は騒ぎ出すだろうー。
ユキもそうだー。

かと言って”使い終わった身体”を処分することはできない。
引退したアイドルが次々と失踪するのはおかしいし、
憑依した状態のまま自殺させても
”引退したアイドルはみんな自殺する”なんてことになれば
当然芸能界自体が疑われてしまうー。

そのようなことになってしまわないためにも、
芸能界全体で生み出されたのが、
先程ユキにも憑依させた”量産型の魂”だー。

”無難に仕事をこなし、無難に日常生活を送り続けるー”
そうプログラミングされた”人工的に生み出した憑依用の魂”ー
それを憑依させることにより、引退した”身体”を
正気に戻すことなく、適当に使うことができるのだー。

「ーうちは事務員として再利用してるからなー」
戸塚社長がそう言い放つー。

この芸能事務所では、”アイドルとしての役目を終えた身体”は、
事務職や、その他会社の社員として利用しており、
重鎮以外の社員は全員”元アイドル”だー。

量産型の魂を憑依させたあとには、”一般人として生活を送り続けろ”と
命令して、そのまま会社との関係を切る芸能事務所もあるが、
戸塚社長のこの事務所では、”再利用”しているー。

「ーーしかし、永遠に身体を利用されるってのはー、
 哀れなものですねぇ」

円花がニヤニヤしながら、無表情で仕事をしているユキを見つめると、
戸塚社長は「ー本人には”何も”分からないんだー。苦しみもない」と、
笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後、”憑依された円花”が、アイドルとしてデビューしたー。

同時期に憑依された別の女子大生・美鈴(みすず)と一緒に
2人組のアイドルとしてデビュー、その人気は瞬く間に
広がっていくー。

「ーーーー…え?」

そしてー…
瞬く間に有名になっていく円花のことに気付いた人間が
ここにもひとりー。

「ーーー…嘘でしょ?」

高校時代の親友・克枝は、
円花がアイドルデビューを果たしたことを、心底驚いていたー。

”「ーそんなこと言いながら、円花も大学生になるころには
 現役女子大生アイドル~!なんて言ってるんじゃないの~?」

 「え~~無理だよ~!わたし、可愛くないし!」”

そんな、高校時代の会話を思い出すー。

がー、
配信されている動画に映る円花は、
自信に満ち溢れた笑みを浮かべて、まるで別人のようだー。

「ーーーー…ま、円花ー…」
あまりの変貌ぶりに戸惑った克枝は、
”憑依される前の円花”と、約束した
”久々に会う日”が近付いていることを思い出し、
「今度、会ったら聞いてみよっと…」と、
不安そうな表情を浮かべるのだったー…

③へ続く

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次回が最終回デス~!☆

どんな結末が待っているのか、
ぜひ見届けて下さいネ~!☆

今日もありがとうございました~!
続きはまた明日デス~!

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