<入れ替わり>虫歯の治療を代わってあげるよ(前編)

虫歯の治療が怖くて怖くてたまらない女子高生ー。

ある日、そんな彼女に対し、
クラスの男子生徒がある言葉を口にしたー。

それは”僕が代わりに虫歯治療を受けてあげるよ”という、
驚くべき提案だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー…うぅぅぅぅぅぅぅ」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「あ~~~~~~!」

教室で奇声を上げているのは、
おしゃれで少し派手な感じの女子生徒・倉石 萌美(くらいし もえみ)ー。

「ーーも~!萌美ってばうるさい!」
友達の栄恵(さかえ)が、呆れ顔でそう言いながら、
萌美の頭をぺしっと叩くと、
「だって怖いものは怖いんだもん!」と言いながら、
反撃と言わんばかりにツインテールの栄恵の髪を引っ張り始めるー

「いたたたっ!やめて!やめて!」
栄恵が笑いながらそう叫ぶと、
萌美はその手を離して、
「あ~~~…明日は歯医者の治療ー」と、
物凄く低いテンションでそう呟いたー。

「それに、昨日新発売のチョコ買おうと思って
 コンビニ寄ったらどこも品切れだったし~…」
愚痴も呟く萌美ー。

「あはは、あれは人気だから仕方ないよー」
栄恵がそう笑うー。

萌美には”虫歯”があったー。
小さい頃に一度、歯医者で虫歯を治療してからは
虫歯になったことはなかったものの、
数か月前に、右下の奥歯に黒い部分が見え始めてー、
虫歯に気付いたー。

けれど、小さい頃、萌美は歯医者の虫歯の治療で
死ぬほど痛い経験をして、大泣きした記憶があるため、
”死んでも歯医者に行きたくない”と、そんな風に思い、
それを放置してきたー。

歯を磨く時間を長くしてみたり、
歯にいいよ!みたいなことが書かれているガムを家でこっそり噛んだり、
色々試してみたものの、
そんなことで虫歯が消えるはずもなく、
逆に虫歯はみるみるうちに大きくなってしまったー。

次第に痛みも強くなってきて、
流石に隠すことももう限界、と、歯科医院の予約をしたものの、
その日が近づいてくるにつれて、
萌美の不安は膨らむばかりだったー。

「ーーーそんなに怖がらなくてもいいじゃん~!」
栄恵のそんな軽い言葉に、
萌美は不満そうに頬を膨らませながら
「怖いモノは怖いの~!」と、駄々をこねる子供のように叫んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昼休みー。

「ーーあ、あのー…」

萌美の背後から、そんな声がして、萌美が振り返ると、
そこには気の弱そうな、オドオドした雰囲気の
前髪でほぼ目が隠れた男子生徒の姿があったー

「ーーーえーー 野内(のうち)じゃんー…何か用?」
萌美が不思議そうに首を傾げるー。

野内 尊(のうち たける)ー。
尊とは同じ中学出身だが、ほとんど喋ったことはないー。
いつも一人でいるし、本ばっかり読んでいるから、
そもそも萌美以外の生徒ともほとんど喋っていないー。

そんな尊が何のようなのだろうかー?

「ーそ、そのー…、は、歯医者の治療
 怖いって言ってたからー」

恥ずかしそうに、オドオドした様子で
そんな言葉を口にする尊ー。

「ーーーーなに?聞いてたの?」
少しムッとした様子で言う萌美ー。

「ご、ご、ごめんなさいー。
 大きい声で話してたから、普通に聞こえてしまってー」
尊のそんな言葉に、萌美は
”まぁ、あの声で話してれば聞こえるよね”と、
心の中で思いつつ、
「で…?わたしが歯医者に行くことがー、野内となんか関係あるの?」と、
萌美は言葉を口にするー。

「あ、うーうん…
 そ、それなんだけど…あの、そのー」

尊が俯きながら言葉を口にするー。

なかなか話が先に進まないために、じれったい気持ちに
なってきてしまった萌美は「あ~~~…何?言いたいことがあるなら
遠慮せず言って?」と、うんざりした様子で言葉を口にするー。

すると尊はようやく言葉を続けたー

「ー、む、虫歯の治療ー、ぼ、僕が代わってあげようかー?」
とー。

「ーーーは…??? え???? ど、どういうことー?
 意味分かんないんだけどー」

萌美は、きょとんとした表情を浮かべながら
そこまで言葉を口にすると、
「ーわたしの代わりに、野内が虫歯治療受けても、
 何も変わんなくない?
 野内の虫歯が治るだけだよね?

 そもそも、野内に虫歯があるのかも知らないけどさ」
と、萌美はそう言葉を口にするー。

そう、尊が代わりに歯医者に行ったって、意味がないのだー。
治療されるのは尊の歯であり、
萌美の歯の虫歯が治るわけではないー。

がー、それでも尊は言葉を続けたー。

「ーーーーか、身体を入れ替えて、
 僕が倉石さんとして歯医者の治療を受ければ、
 倉石さんは…痛みを感じないまま、虫歯を治すことができるからー

 ど、どうかなってー?」

尊が気まずそうに言う。

「ーえ…え~な、何言ってんの?」
萌美は引いたような表情を浮かべながらそう言うと、
「ー虫歯治療の間だけ、身体を入れ替えれば…
 ぼ、僕が倉石さんの代わりに虫歯治療を受けられるんだー…!」
と、尊はそんな言葉を口にしたー

「ーーー…あ、あはははー
 入れ替わりなんてー…で、できるわけないじゃんー」
萌美がそう断言すると、
尊は「できるんだよー」と、珍しく少し自信を覗かせるー。

「ーーー」
萌美は、そんな尊を見つめながら
少しだけ考えていたものの、
「ーじゃ、もし今、わたしがここで”お願い!”って言ったら、
 野内がわたしと入れ替わって、虫歯の治療を受けてくれるってこと?」と
確認するー。

尊は静かに頷くー。

「ーーーーー…って、野内、わたしの身体で変なことしたりするつもりじゃー!?」
萌美がハッとした様子でそう言うと、
尊は「僕ー…そういうの興味ないしー」と、そう言葉を口にするー。

確かに、尊は”女子”とは全く縁が無さそうだしー、
恋愛経験も、そういうことをした経験もないだろうー。

いつも、勉強ばかりしていて、まるで女子に興味もないように思えるー。

がー、それでも萌美はまだ”疑い”を抱いていたー。

「ーで、でもさー、女に興味ないなら、
 尚更、野内がこんなことする意味なくない?
 逆に不気味なんだけどー」

萌美がそう言い放つー。

仮に本当に入れ替わることが出来るとして、
尊が、萌美と入れ替わって何のメリットがあるのだろうかー。

正直、まだ”身体目的です”と言われた方が、
”ですよね”という気持ちになるー。
別に親しい相手でもなければ、身体目的でもないー。
それなのに”虫歯の治療”をするために入れ替わりたい、なんて
正気の沙汰ではないし、何か別の目的があるのではないか、と
そんな風に不安に思う萌美ー。

だがー、尊は「え……あぁ、だ、だってそれはー…」と、
言葉を口にしてから、
自分の口元を指差したー。

「僕、小さい頃から、なんでも…その、しっかりこなすからー
 虫歯になんてなったことないし、
 た、多分、この先もずっとならないと思うんだー…

 だ、だからー…
 そのー、”虫歯の治療”を経験してみたくてー…

 と、父さんも小さい頃から 
 ”なんでも経験だ!”って言ってたしー」

その言葉に、萌美は少しイラッとしながら
「ーな、なによ!わたしがちゃんと歯を磨いてないって言いたいの!?」と、
尊に突っかかるー。

「ーーそ、そ、そういうわけじゃー…」
尊は戸惑った様子で顔を背けながらも、
「と、とにかく、僕は虫歯の治療を体験できてー、
 倉石さんは、怖い虫歯の治療を受けずに済む…ってことで、
 どうかなー?」と、
そう言葉を口にしたー。

考え込む萌美ー。
野内 尊は、小さい頃から不思議な幼馴染だー。

あまりにも周囲に無頓着で、人間に興味がないー、という様子を
醸し出しているー。
童貞だろうし、恋愛経験も0だろうし、それどころか、
Hなことにも興味が全くないー、そんな感じは
いつも学校で見ていて、とても良く伝わってくるー。

本当に、虫歯治療を体験してみたいだけなのだろうー。
”野内”が、”罠にはまったな!ひゃははははは!”なんて
笑う姿は全く想像できないー。

「ーじゃあ、一つ条件があるのー」
萌美がそう言うと、尊は「条件?」と、不思議そうに首を傾げるー。

「ー野内のことだから、本当に”虫歯治療を体験したいだけ”っていうのは
 何となく分かるんだけどー

 それだとさー…”最初の治療”だけで、飽きそうじゃん?」

萌美がそう呟くー。

尊が入れ替わって”萌美の代わり”に歯科治療を受けてくれたとしてもー、
虫歯の治療は1回では終わるとは限らないー。
虫歯の進行状況次第では、何度も歯医者に通うことになり、
その都度、痛い思いをすることになるー。

が、尊が”最初の1回”で”虫歯治療体験”に飽きてしまったら、
それ以降は結局、萌美本人が治療を受けることになってしまうー。

「ーーーー入れ替わってわたしの代わりに虫歯治療を受けてくれるなら、
 虫歯の治療が終わるまで、毎回、入れ替わってくれる?」
萌美のそんな言葉に、
尊は「あ~~うん。別にいいよー」と、頷くー。

「ぼ、僕も、虫歯が治るまでの一連の流れを体験したいと思ってたから
 何度も入れ替わらせてくれるならー、全然構わないよー」

とー、目を輝かせながらそう言い放ったー。

「ーー…あははー、野内、マジで変わってるねー」
萌美がそう言うと、尊は「そ、それは褒めてるのー?」と、
困り果てたような表情を浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、翌日ー。

放課後になると、萌美は尊の家に移動して、
”入れ替わり”をすることにしたー。

「ーわたし、ここで待ってるから、
 治療が終わったら真っすぐ帰ってきて」

萌美がそう言い放つと、
尊は「うんー。虫歯治療以外に興味ないし」と、
ハッキリと断言するー。

あまりにもハッキリと断言されて、少しだけ複雑そうな
表情を浮かべながら、萌美は
「ー…もし本当に入れ替われたとして、普通、女子と入れ替わったら
 ドキッとかしないの?
 ほらー…よくあるじゃん?入れ替わって、おっぱい揉んだりしちてるやつー」と、
そう言葉を口にすると、
尊は「僕は興味ないし…」と、少しだけ笑うー。

「ーーだって、人間と肉と骨だし…
 別に肉の塊触ったところで、肉は肉だしー」

尊のあまりにもドライな感想に、萌美は「あははー…野内らしいね」と、だけ言うと、
「ーーじゃあ、そろそろ予約の時間が近付いてるし、お願い」と、
尊の方を見つめながら”入れ替わり”をお願いしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーうそ…本当に入れ替わってるー…」
尊になった萌美が驚いた様子で言うと、
「ーーだ、だから言ったじゃんー…」と、
萌美になった尊が言うー。

「ーうわっ…うそ!?目の前にわたしがいるとか、
 すごっ!?」

尊(萌美)が、目の前に”萌美”の身体があることに
ある種の感動を覚えながら
そんな言葉を口にするー。

その言葉に、萌美(尊)は苦笑いすると、
「ーーえ、えっと…それで、どこの歯医者に行けばいいんだったっけ?」と、
歯医者の場所を再確認するー。

「あ、え~っとね、ここー」
そう言いながらスマホを操作しようとする尊(萌美)ー。

が、萌美のスマホは指紋認証のため、ロックを解除できずに
「あ…」と、少し恥ずかしそうにしながら、
「ーゆ、指!」と、萌美(尊)の手を掴んで
ロックを解除させたー。

表示した地図で、行き先となる歯科医院の場所を
伝える尊(萌美)ー。

萌美(尊)は「うん!わかった」と、場所を確認すると
「じゃあ、い、行ってくるー」と、
そう言葉を口にしながら、家の外へと出かけて行ったー。

「ーーーすごっ…ホントにわたしが野内になってるー」
尊(萌美)は、そんな言葉を口にしながら、
鏡に映る自分の姿を見つめるー。

とても、新鮮で不思議な経験ー。

「ーーーん~野内もちゃんとおしゃれにすれば
 そこそこイケメンになりそうな気もするんだけどー」

尊(萌美)はそんな言葉を口にしながら
「まぁ、あの性格じゃ嫌がるよね」と、苦笑いしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーふふ」

家を出て、外を歩きだした萌美(尊)が
ニヤリと笑みを浮かべるー。

そしてー…
萌美(尊)は、教えられた歯医者がある方向とは
別の方向に向かって歩き出すのだったー…

<後編>へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

代わりに虫歯治療を受けてくれるはずが…!?
なんだか不穏な雰囲気ですネ~!

火曜日の作品のみ、予約投稿の都合上で、
続きはまた来週になってしまいますが、
のんびり待っていて下さいネ~!

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