<憑依>さよならこの世界①~自暴自棄~

宇宙から未知の物質が流入したことで、
崩壊した世界…

そんな世界で、自暴自棄になった彼は
”どうせ滅ぶなら”と、憑依薬を盗み出し、”暴走”を始めるー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”今まで、ずっと真面目にやってきたー”

その結果が、これだー。

男子大学生の野島 速人(のじま はやと)は、
自虐的に笑みを浮かべていたー。

男子大学生…
いや、”元”男子大学生と言うべきだろうかー。

もう、通うべき大学は存在しないー。
就職活動の最中だった彼も、もう、就職をする意味すら
無くなってしまったー。

なぜならー…
1か月間…世界は崩壊したからだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

1か月前ー。

いつものように、大学にやってきた速人は
穏やかな表情で、昼食を口にしていたー。

「ーーでもまさか、速人がわたしの彼氏になるなんて
 小さい頃は夢にも思わなかったなぁ~」

同じテーブルで食事を口にしているのは、
幼馴染であり、今は彼女でもある
寺内 凛花(てらうち りんか)ー。

凛花とは、大学で再会してからお互いを始めて異性として
意識するようになり、こうして付き合い始めた間柄だー。

「ーーははは それは俺のセリフだよー。
 小さい頃、泥団子俺に投げつけて来てた凛花と付き合うなんてー」

今は長い黒髪が特徴的な穏やかそうな雰囲気の凛花。
しかし、昔は男子に混じって公園で悪ふざけをしているような
活発な子で、髪も短かったー。

「ーふふ あの時はまだ子供だっただけー」
凛花がそう言うと、速人は笑いながら、
当時のことを話し始めるー。

そしてー…
いつものように大学での1日を終えて、
帰路につくー。

ちょうど、その日は雪が降っていたー。

一緒に歩いていた凛花が笑いながら、
雪を掴むと「えいっ!」と、それを速人の方に投げつけて来たー。

そんな凛花を見て、笑いながら
「おいおい、やっぱ泥団子投げてたころと変わらないじゃないか!」と、
言いながら反撃を始めるー。

がー…
その時だったー

凛花が先に異変に気付いて、空を指差すー。

「ーー…な、なにあれー?」
その言葉に、速人も空を見上げるとー、
空から”見たこともない”光の粒”のようなものが
ゆっくり、ゆっくりと地面に向かってきているのが見えたー。

「ーー…!」
”綺麗な光”ー
だが、速人はなんだかとてもイヤな予感がして、
凛花の腕を掴んだー。

「ーーえ!?」
戸惑う凛花ー。
速人は、謎の光の粒のようなものが、地面に落下してくる前にー、
すぐ近くの建物に飛び込んで、扉を閉めるー。

光がー…地面に降り注ぐー。

そしてーーー…
黒い煙のようなものを噴き出すとー、
世界は”闇”に覆われたー。

その日ー、宇宙から”未知の化学物質”が降り注いだー。
地上に到達したそれは、謎のガスをまき散らしー、
外にいた人間は一瞬にして液体のようになって、消滅したー。

植物も、動物も腐敗しー、
建物も腐食ー…

様子を見に出た人間も、同じ目に遭いー、
あっという間に世界の人口の3分の2以上がその日、消滅したのだったー。

人口の大幅減により、”人間社会”は崩壊ー。
今までのような社会システムは維持できなくなり、
インフラも崩壊し、
世界はまさに”崩壊”したー。

やがて、数時間後に地上に落下した未知の化学物質の影響はなくなり、
人間は外出できるようになったものの、
生き残った人間たちの調査により、
”絶望”の未来が判明したー。

地上に降り注いだ謎の光ー。
それは、どうやら地球周辺を通過した謎の隕石上の物体から
降り注いだもののようだったー。

そしてー、1か月後には
さらに”大規模な同様のもの”が地球の付近を通過する予測が
立てられており、
研究者によれば、”次”は、さらに強力な未知の化学物質が
降り注ぎ、建物も全てを溶かし、地球は壊滅する、
という絶望の予測を立てたのだったー。

そしてー、今…
速人は、笑っていたー。

速人は小さい頃から、何事にも一生懸命頑張って来たー。
勉強も、人間関係も、何もかもー。

しかしー、その努力が、積み重ねて来たものが全て崩壊しー、
速人は、狂ってしまったー。

「どうせ…どうせ死ぬならー…」
数日前…速人は、とある場所から”憑依薬”なるものを
盗み出していたー。

崩壊した研究所に”食料”を探して忍び込んだ際に
偶然見つけたのだー。

元々の速人なら”人の身体を奪うなんてひどいこと、絶対にできない”と、
そう言葉を口にしただろうー。

しかし、今の速人はもうーーー

「ーーーこれがあれば…くくくくくく」
笑いながら、憑依薬を見つめる速人ー。

そこにー…
彼女の凛花がやってきたー。

疲れ果てた様子の凛花ー。
あの日、凛香も速人が建物の中に避難したことで、
一緒に助かっていたー。

凛花は、速人とは対照的に、
”あと1か月で滅ぶ”この世界でも、必死に頑張っているー。

「ーーー…速人ー。向こうの建物にいる人が食料、少しだけ分けてくれるってー」

廃墟になった建物をアジトに生活している二人ー。
その近くで何とか生き延びている人が、食料を分けてくれるのだと言う。

既に、秩序の崩壊した今はー、
略奪なども横行していて、こうして身の安全の確保を
することも難しい状況なのだー。

がー
そんな凛花の言葉に、速人は自虐的に笑うー。

「ーー少し?全部よこせよ」
とー。

その言葉に、凛香は表情を歪めながら
「ーその人、小さな子と一緒のおじいさんだったからー、
 少し食べ物を分けてくれるだけでもー
 感謝しなくちゃー…」
と、言葉を口にするー。

が、速人は少し前に拾って、護身用に持っていた
鉄パイプを手にすると、
「そのジジイとガキはどこにいるんだ?」と、立ち上がるー。

「ーち、ちょっと!何するつもりなの?」
凛花が戸惑いながら言うと、
速人は笑ったー

「そいつら殺せば、食料全部、手に入るだろ?」
とー。

凛花は青ざめながら
「は、速人!いい加減にして!いつからそんなことー!」
と、少しだけ声を荒げると、
速人は凛花のほうをまっすぐと見つめたー。

「ー俺たち、どうせあと1か月ぐらいしたら死ぬんだよー。
 そんなキレイごと言ってても、何も意味がないー。
 残りの1ヵ月、好きなことをやりまくってやるんだー」

自暴自棄な速人の態度に、凛香は「速人!しっかりして!」と、
そう叫ぶー。

誰よりも速人のことを知っているー。
そんな凛花にとって、今の速人は見るに堪えないそんな
状態だったー。

がー…
凛花を見て、速人は笑みを浮かべるー。

「そうだー。凛花さ、お前の身体、俺にくれよ」
速人の突然の言葉に、
凛花は「え…?」と、表情を歪めるー。

速人が何を言っているのか分からないー。

「ほら、数日前、製薬会社の研究施設から
 色々、使えそうな治療薬持って来ただろー?

 そん時、こんなものを手に入れたんだー」

速人のその言葉に、凛香は表情を曇らせるー。

「ー”憑依薬”
 へへっ…他人の身体を乗っ取ることができる薬なんだってさ」

嬉しそうに笑う速人ー。

凛花は「そ、そんな変な薬…飲まない方がいいよー」と、
速人を落ち着かせようとする。

しかし、速人は止まらないー。

「ーどうせ1か月後には死ぬんだー
 今、死んだってあんま変わらないだろ?

 それに、もしこれが本物ならー
 凛花に憑依して、エロイこといっぱいできるー」

速人の狂気的な笑みに、
凛花はぞわっ、と悪寒を感じるー。

速人はこんな人間じゃなかったー。
これが本性なのかもしれないけれど、
少なくともそんな下心は今まで一度も感じなかったー。

世界の崩壊が、速人を狂わせてしまったー。

「ーーなぁ、身体をくれよ」
速人の言葉に、凛花は「ふ…ふざけないで!」と、声を荒げるー。

「ーーうるせぇ。凛花だってどうせ死ぬんだから、
 身体を俺によこせよ」

そう言うと、速人は凛花を無視して憑依薬を飲み干すー。

身の危険を感じて後ずさる凛花ー。

だがー、速人は凛花の方に向かって歩き出すと、
その腕を乱暴に掴んで、凛花にキスをしたー。

「ーーーぁ」
その場に倒れ込む速人ー。

やがてー、目に涙を浮かべていた凛花が
ゲラゲラと笑いだして、
狂ったように胸を揉み始めるー

「あは…あはははははっ♡ すげぇ… すっげぇぇぇ!」
その場に膝をついて、胸を揉むこと以外、何も考えられないという様子で
夢中になって胸を揉み続けるー。

恐怖と、速人に裏切られた悲しみから、
目に涙を溢れさせていた凛花の顔も、すぐに欲望に染まっていき、
あっという間にその涙が止まるー。

”内側”から支配されて、身体は完全に速人の意のままに突き動かされ、
悲しみの感情が消え、欲望に塗りつぶされていくー。

「ーーへへへ…へへへへへへー
 今日から俺は凛花だぜー…
 あと1か月ぐらいしかねぇけどー
 へへへ…どうせ死ぬなら人生楽しまなくちゃな…
 へへへ…へへへへへ♡ ははははははっ!」

凛花は狂ったように笑いながら、
鉄パイプを手にするー

近くの建物にいるというおじいさんたちを
そのまま襲撃するつもりだー。

「ーーふふー
 ごめんね速人ー
 わたし、間違ってたー

 少しだけ分けてくれるー…?
 ふふー ちゃんと全部、奪わなくちゃね」

凛花の身体にそんな言葉を吐かせると、
鉄パイプを引きずりながら、
そのおじいさんたちがいる建物を見つけ出すー。

凛花は、鉄パイプを手に、そのおじいさんたちを襲撃したー

”さっきとまるで違う凛花の態度”に
混乱しながら悲鳴を上げるおじいさんとその子供ー。
凛花は笑いながら、二人から食料を根こそぎ取り上げると、
笑いながら、それを手で食べ始めるー

「ーふふ…あぁぁ、俺の身体で食うよりうめぇじゃんー」
血のついた手でむしゃむしゃと、食料を食べ続ける凛花の姿は、
”血に染まった花”そのものだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あと半月ー。

謎の化学物質が、再び降り注ぐ時が、
さらに近付いていたー。

宇宙には、まだ分からないことが山ほどあるー。
地球上の生命体を多数、滅ぼしたあの光の粒が何なのかは
結局まだ分かっていないー。

人類の知らない化学物質がたまたま降り注いだのかー、
あるいは遠い惑星の宇宙人が地球に攻撃を仕掛けているのかー。
それすらも分からない。

仮に後者なのだとすれば、相手は地球側から察知できない場所から
地球に攻撃することができる恐ろしい相手だ。
もはや、勝ち目は100パーセントないと言ってもいいだろうー。

しかし、前者だとしても、このあともう一度、
しかも前者よりも大量の化学物質が降り注ぐとなれば
もう、人類に未来は”確実に”ないことぐらいは分かるー。

だからこそー

「ーー…本当に、ありがとうございますー」
ずぶ濡れの状態の凛花が、お礼の言葉を口にするー。

今日は、雨ー。
”わざと”外でずぶ濡れになって、
”生存者”がそれなりに身を隠している元繁華街をうろついていた凛花は、
優しそうな青年から声を掛けられて、
その青年がアジトにしている建物の中に匿ってもらうことになったー。

青年は、どうやら一人のようだー。

「おひとりですか?」
凛花がそう言うと、青年は「彼女は、死んだよー」と、寂しそうな
表情を浮かべるー。

青年と雑談しながら、凛花は周囲を見渡すー。

”ククー…食料もそれなりにあるし、なかなかいい場所じゃないかー”

凛花は
”わざとずぶ濡れで街を歩き”誰かが救いの手を
差し伸べてくれるのを待っていたのだー

”略奪”するためにー。

「ーーーー」
凛花は隠し持っていたナイフを手に、油断した青年に迫るー。

突然、凛花に攻撃された青年は驚きの表情を浮かべるー。

「ー女だからって油断したかー?
 へへー…バカな野郎だ!

 中身は男だってのによ!」

凛花が笑いながらそう言うと、
血を流しながら青年が「き…君はー!?」と、驚くー。

青年が、凛花の言葉の意味をちゃんと理解したかは分からないー。
目の前にいるのが”女装した男”だと思ったかもしれないー。
目の前にいるのが”男の娘”だと思ったかもしれないー。

だが、そんなことはどうでもいいー。
青年の息の根を止めると、凛花は濡れた髪を揺らしながら
ゆらゆらと立ち上がって、手に入れたこの建物を見つめながら
嬉しそうに笑みを浮かべたー。

どうせ、この世界にいられるのはあと半月ー。
だったら、存分にやりたいことをやりまくってやるー。

そう、改めて決意しながらー…。

②へ続く

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コメント

世界の終わりを前に、自暴自棄になって
暴走してしまった男の憑依物語デス~!

もし、こんなことになっていなければ
今頃幸せに暮らしていたのかもしれませんネ~…!

今日もありがとうございました~!

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