憑依して奪った他人の身体で、
人生を謳歌していた男ー。
しかし、彼は少し前から
バイト先の先輩に付きまとわれるようになり始めて、
怯える日々を送っていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー」
怯えた表情を浮かべながら、周囲をキョロキョロしている
女子大生ー。
彼女は今、バイトを終えて自宅のアパートに帰宅している最中ー。
しかし、その様子は明らかに何かに怯えているかのような、
そんな様子だったー
♪~~~
突然スマホが鳴ったことにビクッと反応する彼女ー。
しかし、スマホを確認して
すぐに大学の友達からのメッセージであることに安堵すると、
そのまま彼女は歩き出し、ようやく一人暮らしをしている
アパートにたどり着いたー。
”間宮(まみや)”
そう書かれた部屋に入っていく彼女ー。
「ーーふぅ…」
部屋の中に入り、ため息をつくと、彼女は静かに呟いたー。
「まさか、”俺”がこんな風に怯えるなんてー」
そう呟くと、そのまま疲れた様子で部屋のイスに座るー。
彼女ー…
間宮 絵梨菜(まみや えりな)は、
半年前に”憑依”された女子大生ー。
そのため、今はもう、身体は絵梨菜であって、
中身は絵梨菜ではないー。
そんな状態だー。
しかし、絵梨菜に憑依した”男”は、絵梨菜の脳から
絵梨菜自身の記憶も引き出しているため、
周囲はそのことに気付いておらず、
絵梨菜として女子大生ライフを送っているー
そんな状態だー。
絵梨菜に憑依している男の名は、
北沢 郷太(きたざわ ごうた)ー。
彼は小さい頃から運動神経抜群で体格もよく、
屈強な肉体の持ち主だったー。
それを生かしてガードマンの仕事をしていて、
実際に不審者を撃退したりしたことも何度もあったー。
だが、ガードマンとして熱心に働き続け、
30代後半に差し掛かった彼は、あることに気付いたー。
”俺の人生は、まるでモノクロの写真だ”
とー。
彼は、肉体を鍛えることと、
ガードマンとしての仕事にばかりのめり込んでいたために、
独身で、彼女はおらず、友達ともいつの間にか疎遠、
趣味もない、そんな有様だったー。
40を目前にしたある日、
ふと仕事帰りに買ったコンビニ弁当を一人で食べている際に、
彼は自分の人生がモノクロ写真のようである、と気づいたのだー。
彼自身、”生涯独身でもいいや”というタイプではなかったため、
その時から婚活を始めたー。
が、遅すぎたー。
年収はあったが、異性との関りのノウハウもなく、趣味もなく、
そして、容姿も決してイケメンとは言えないそんな彼に
相手は見つからず、かと言って今更趣味を見つけることもできず、
すぐに行き詰ったー。
そんな状況で”人生を変える方法”とネットで検索している最中に
見つけたのが”憑依薬”だったー。
彼は震えたー。
”他人の身体と人生を乗っ取ることができる”
そんな夢のような薬がこの世に存在していたという衝撃にー。
そういえばー、高校時代にそれなりに親しかった幼馴染の子が、
急に冷たくなって、そのまま疎遠になってしまったことがあったー。
あれも実は幼馴染の女子が、憑依されていたのではないかと、
そんな今更どうでもいいことを考えつつ、彼は憑依薬を注文したー。
手元に届いた憑依薬ー。
当然、本物なのか?という疑問もあったし、
そもそも本物だったとして、他人の身体を乗っ取る、ということには
罪悪感もあった。
しかしー
「このままじゃ、俺の人生は永遠にモノクロ写真だ!」と、叫ぶと
意を決して憑依薬を飲み干しー、
そしてー…霊体となってしばらく色々な人を物色した結果ー、
近くの大学に通う、可愛らしい雰囲気の女子大生・間宮 絵梨菜に憑依し、
その身体と人生を乗っ取ったのだったー。
それから、半年ー
「ーーーー…ふぅ…」
絵梨菜は小さくため息をつくー。
絵梨菜に憑依してからの人生は、
本当に、斬新だったー。
モノクロだった世界が、カラフルになったと言ってもいいー。
女子大生として大学で過ごすのも楽しかったし、
バイト先でも大学でも”絵梨菜のようなかわいい子”には周囲がー、
特に、男子が優しくて、これもまた新鮮だったー。
そしてー、自分自身が”元々男”であるが故に、
どんな反応をすれば相手が喜ぶか、相手がドキドキするか、
そんなことも分かっていたため、色々な意味で楽しかったー。
友達と一緒に”女子大生っぽいこと”をしたりー、
女子としておしゃれを楽しんだりー…
特に、おしゃれをするというのは、彼にとってはとても新鮮で、
感動的な経験だったー。
”わたしが可愛くなる”
そんな喜びを感じることができたー。
そんな風に過ごして来た半年ー。
だが、1か月ほど前ぐらいだろうかー。
”問題”が起きたのだー。
それはー
”バイト先”の先輩ー…
同じバイト先で働いている別の大学に通っている1学年上の男子大学生が
1か月ほど前に、絵梨菜に告白してきたのだー。
がー、今のところ、”絵梨菜に憑依した郷太”は、男と付き合うつもりはなく、
その先輩の告白を断ったー。
そこからー、歯車が狂い始めたー。
そのバイト先の先輩が”ストーカー化”し始めたのだー。
連日付きまといのような行為をされー、
バイト先からの帰りに待ち伏せされたこともあるー。
次第にエスカレートしていくその様子に、
絵梨菜は怯えていたー。
「ーくそっ…こういう時、”俺”だったら、簡単にあんなやつ、
倒せるんだけどなー」
絵梨菜はそう呟きながら鏡を見つめるー。
元々ガードマンで、屈曲な肉体を持っていた郷太。
しかし今は、華奢な身体になってしまったし、
色々会得した”格闘技”の類も、”身体”が違うと全然上手く行かないー。
体型が変わるだけで、ああいうものには大きく影響が出るし、
それが他人の身体、しかも異性の身体となれば尚更だー。
正直、ガードマン時代のように戦うことはできないー。
それ故に、”屈強なガードマンだった俺”が、ストーカー化した
先輩に怯える羽目になっているー。
「ーーーったく、せっかく楽しい女子大生ライフを送ってたのにー」
絵梨菜は不機嫌そうにそう呟くと、そのままため息をついて、
「そうだーお風呂入ろー」と、今日も自分の身体を堪能しながら
お風呂を楽しもう、と、そのままお風呂に入る準備を
始めるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
バイト先にやってくると、
”シフト”が入っている日でないにも関わらず、
”先輩”はいたー。
「ー久保原(くぼはら)先輩ー…」
絵梨菜は表情を歪めながら、
忌々しいその名を口にするー。
久保原 洋介(くぼはら ようすけ)ー。
彼こそが、絵梨菜に告白し、振られたあとに
ストーカー化している”バイト先の先輩”だー。
「ーー今日は、シフトじゃないはずですよね?」
絵梨菜がそう言うと、
洋介は笑みを浮かべながら言ったー。
「僕のシフト、覚えていてくれたんだね。嬉しいよ」
とー。
「ーーーー~~~…」
”良い意味”で先輩のシフトを把握しているわけではないー。
”一緒になりたくない”から先輩のシフトを把握しているのだ。
そこのところ、勘違いしないでほしい。
そんな絵梨菜の気持ちを知ってか知らずか、
洋介は笑みを浮かべながら、絵梨菜のほうを見つめるー。
「今日は、絵梨菜の誕生日だからさー。
プレゼント、渡そうと思って」
洋介の言葉に、絵梨菜はさらに表情を歪めるー
”好きでもない男に、下の名前で呼ばれるー”
なるほど、確かに不快だー。
絵梨菜に憑依している郷太はそんな風に思うー。
まぁ、男でも同じなのかもしれないー。
しかし、女になって、好きでもない先輩に
”絵梨菜”と馴れ馴れしく呼ばれて、
”好きでもない男に馴れ馴れしく呼ばれる”ことへの
嫌悪のようなものが、初めて理解できたー。
久保原先輩は、そんな絵梨菜の想いになど
まるで気付く様子もなく、
笑みを浮かべながら、
「ーーこれ」と、プレゼントを手渡して来たー。
「ーー……ーーありがとうございます」
下手に刺激しないように、事務的に受け取る絵梨菜ー。
”何で俺がこんなやつにびびらないといけないんだ”
そう思いながら、不愉快そうに表情を歪めるー。
「ーその中に、”指輪”が入ってるからさー」
久保原先輩が笑いながら言う。
「ー指輪…ですか?」
絵梨菜はさらに表情を歪めるー。
「ーーいやぁ、高かったんだけどさー。
どうして、絵梨菜に渡したかったからー
僕からの”婚約指輪”ー」
久保原先輩の言葉に、思わず絵梨菜は
「は…はぁ!?婚約指輪!?」と、素で言葉を吐き出してしまうー。
すぐに、”しまった”と思いながら
咳払いをすると「こ、婚約指輪なんてー…結構です」と、
プレゼントを突き返そうとするー。
受け取れば”僕と絵梨菜は結婚するんだ”とか
言われかねないー。
「ーーー…どうして?」
久保原先輩の表情から笑顔が消えるー
「ーだ、だってー…い、いきなり婚約なんてー
久保原先輩だからじゃなくて、
誰が相手でも、普通はないことですよー。
わたしと先輩は付き合ってもいないんですから、
それで結婚なんて、たとえ女から男に対してであっても、
誰も「はいそうですか嬉しいです」なんて言いませんから」
絵梨菜は慎重に言葉を選びながら、
そう言い放つー。
すると、久保原先輩は「そっか。それもそうだな」と、
納得した様子で指輪を受け取ったー。
がー、次の瞬間ー
手をぐいっと引っ張られて、
久保原先輩は、絵梨菜を壁際に追い込むと
そのまま”壁ドン”をしてきたー。
「ーー!?!?!?」
絵梨菜は思わずビクッとしてしまうー。
「だったら、まず改めて告白するよー。
僕と、付き合ってほしい」
久保原先輩の言葉に、
絵梨菜は表情を歪めながら、「ちょ、ちょっと、やめてくださいー」と、
言葉を口にするー。
まだ、絵梨菜に憑依する前ー、
ガードマンだった頃の郷太が、同僚と話したことを思い出すー。
”ー女の子はイケメンに壁ドンされたら、コロッと惚れちまうー”
軽い性格の男が、そんなことを言っていたー。
がーーー
”ぜ、全然惚れねー!いや、中身の俺が男だからかー!?”
そんなことを思いつつ、
久保原先輩を押しのけようとするもー、
久保原先輩に強引に腕を掴まれて、動けないようにされてしまうー
「は、離してください!」
絵梨菜が、久保原先輩の手を振りほどこうとするー。
しかしー
その”力”に抵抗できないー。
久保原先輩は別にごつくないし、どちらかというと細身の先輩。
それなのに、”絵梨菜”の身体では
久保原先輩の力に抵抗できないー。
”くそっ、俺の身体だったらこんなやつー!”
そう思いつつも、久保原先輩がキスをしてきそうな雰囲気になり、
絵梨菜は、改めて”恐怖”を覚えるー。
がーーー
「ーー!」
久保原先輩は突然ビクッとして、絵梨菜から離れると
平然とした表情で仕事に戻るー。
「ーーあ、久保原さん、どうもー」
茶髪の少しチャラそうな男子大学生バイトが、
そう言いながら入って来るー。
その気配に気づき、久保原先輩は慌てて
壁ドンをやめたのだー。
「ーー間宮さんもどうも。いやぁ、いつも遅刻ばっかりっすけど、
今日は珍しく俺、10分遅れで到着しましたよー。」
やる気のない男子大学生バイト・厚川(あつかわ)ー。
いつもは”厚川の野郎、また遅刻かよ!おかげで俺のシフトが延びるじゃねぇか”などと、
絵梨菜に憑依している郷太だったが、
今日ばっかりは、厚川に心の中で感謝するのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅した絵梨菜はため息をつくー。
”バイト、辞めるかー”
今のバイト先は仕事も好きだし、
店長は優しいし、厚川みたいな遅刻するやつもいるけど、
他のスタッフたちもいい感じだー。
できれば辞めたくないー。
しかし、今日の出来事で絵梨菜はもう”限界”を感じたー。
翌日ー
店長に相談すると、”間宮さんが辞める必要なんてないよ”と、
必要であれば、久保原先輩から事情を聞いた上で、
厳重注意、あるいは解雇することも考えると言ってくれたー。
が、久保原先輩のエスカレートを恐れ、
”バイトを辞めて、姿を消したい”と伝えると、
店長は残念そうにしながらもそれを理解してくれたー。
”大学は知られてるけどー、バイトを辞めればさすがにー…”
絵梨菜は、そんな風に思いつつ、
バイトを辞め、久保原先輩から逃げ出したのだったー。
しかし、絵梨菜は知らないー。
バイトを辞めるぐらいでは久保原先輩からは逃げられない、
ということをー。
②へ続く
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コメント
12月最初のお話は憑依のお話デス~!☆!
憑依で手に入れた憧れの人生に暗雲が…?
続きもぜひ楽しんでくださいネ~!
今日もありがとうございました~!
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