<憑依>魂のパズル①~分離~

ある日、自分の魂が10分割されてしまったー。

自分の身体以外に分かれた9つの魂が、
それぞれ学校内の誰かに憑依している状況ー。

彼は、分割してしまった自分を探し求めて、
徘徊を始めるー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーえっ…!?」

彼は、”これってー…?”と、
信じられない気持ちになりながら、
表情を歪めたー。

非常階段から落下していく身体ー。

非常階段にいる体格の良い男子生徒が
”やべぇ”という表情を浮かべているー

それでも、もうどうすることもできない。

一度、落下を始めた彼は、
そのまま地球の重力に逆らうことが出来ず、
下に、下に落ちていくー

”嘘だろー…?俺、ここで、死ぬのかー?”
落下しながら、
彼…戸部 直道(とべ なおみち)は、
そんなことを考えていたー。

避難訓練が行われた今日ー、
非常階段に出たタイミングで、
他の男子同士が争っていた側にいた直道は、
体格の良い男子生徒が他の男子に突き飛ばされたのにぶつかり、
非常階段から運悪く落下してしまったのだー。

永遠とも思える数秒ー。
けれど、このまま時が止まるはずもなく、
直道の身体はそのまま地面に激突して、
一瞬にして意識ははじけ飛んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー!!!!!」
直道が、ハッとして目を覚ますと、
そこは、”保健室”だったー

「ーーーえっ…?」
直道が戸惑いながら周囲を見渡すー。

しかし、保健室の先生の姿も、
他の誰の姿もないー。

「ーーーー…」
呆然としながらも、”こうなる前”の出来事を思い出した
直道は、慌てて自分の身体を見つめるー。

手に擦り傷があったり、足に打撲があったりはしたもののー、
気になる部分と言えばその程度で、
あまり大きな怪我をした様子はないー。
身体も動くー。

「ーーー…ぼ、僕は…助かったのかー?」
直道はそんな風に呟きながら、立ち上がるー。

そしてーー
保健室の扉が開き、保健室の先生が中へと入って来たー。

「ーーー!」
直道が一瞬驚くと、
保健室の先生は「あ…戸部くんーよかった…意識が戻ったんだねー」と、
そんな言葉を口にしたー。

「ーーあ、あの、僕はー…」
直道がそう呟くと、保健室の先生は
「怪我はそんなに酷くないみたいなんだけど…
 このあと、病院で検査を受けたほうがいいわね」
と、そんな言葉を口にしたー。

非常階段から転落してしまった直道。
しかし、怪我の度合いはそこまで酷いものではなく、
こうして無事に、目覚めることができたのだー

”死ぬかと思ったー…よかったー”
ホッと、安堵の息を吐き出す直道ー。

やがてー…
担任の先生もやってきて、
「戸部くんー大丈夫だった?」と、心配そうに言葉を口にするー。
優しそうな雰囲気の30代の女性教師だー。

だがーー
ここで、直道は少しだけ表情を曇らせたー

”あれー…?”

担任の先生の名前が、頭の中に浮かんでこないー。

「ーあれ………えっと…」
戸惑う直道。

あまり接点のない先生の名前を憶えていない、と言うのであれば
まだ頷けるー。
しかし、さすがに担任の先生の名前は覚えているし、
忘れたことはこれまで一度もなかったー

「ーー……」
険しい表情を浮かべる直道ー。

一瞬、自分が記憶喪失なのではないか、と、そう考えるも、
ちゃんと自分の名前は覚えているし、出来事も、家の場所も覚えているー。
両親の名前も、だ。

そう思いながら、先生たちに案内されて、
学校の車に乗り込むと、そのまま病院へと足を踏み入れたー。

病院に到着すると、同伴していた保健室の先生が、
ご家族にも連絡した、と、そう教えてくれたー。

そして、脳を含む精密検査を行ったものの、
特に異常はなく、打撲や擦り傷など、そういった怪我のみに
留まっていることが分かったー。

安堵の表情を浮かべながら、病院の待合室にいると、
ようやく到着した母親も、安堵の表情を浮かべながら
「無事でよかったー」と、そう言葉を口にしたー。

「ーあはは…ホント、自分でもそう思うよー」
直道はそう言葉を口にすると、後から入って来た
ツインテールの子がこちらを見ていることに少し違和感を感じて、
苦笑いしてから目を逸らしたー。

がーー

「ーえっ!?ちょっと!何その反応ー!?」
そのツインテールの子が、そんな言葉を不満そうに口にするー。

「えっ…?あぁ、いえー…ごめんなさいー」
直道は戸惑いながら、”え?僕、どういう反応すればいいんだー?”と、戸惑うー。

知らない子からじっと見られている時に
どう反応すればいいのかなんてわからないー。

そんな風に思っていると、
「え!?なんで敬語!?」と、ツインテールの子が
再び不満そうに言葉を口にしたー

「ーえっ…あ、あの…どういうことですかー?」
直道が不安そうに返事をすると、
「ーーえ…」と、ツインテールの子も戸惑いの表情を浮かべるー。

そしてー
そんな二人の会話を聞いていた母親が、とても不安そうに言葉を口にしたー。

「ちょっと、直道ー…
 分からないの?」

とー。

「え…?」
混乱する直道ー。

その様子を見た母親から帰って来た言葉は
”信じられない”言葉だったー。

そう、それはーー

「ーーー由夢(ゆめ)のこと、分からないのー?」

そんな、言葉ー。

直道は、驚いてツインテールの少女のほうをもう一度見るー。

「ーーえ…???」
直道が今一度戸惑いながら、
「ゆ…由夢ってー?」と、そう言葉を口にすると、
「ーーーーーーお、お兄ちゃんー…?」と、
ツインテールの少女がそう言葉を口にしたー

「え…えぇ…!?」
直道は混乱しながら、ツインテールの少女のほうを見つめると、
「ーも、もしかして、ぼ、僕の妹ー?」と、
そんな言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”妹のことを忘れている”

そんな事態に、その場で病院の担当医に再び声をかけて、
再度確認してもらったものの、
やはり脳には異常は見当たらず、
転落の際のショックによる一時的なものだと、そう診断されたー。

だが、帰宅してからも”抜け落ちている記憶”が複数見つかり、
後から帰宅した父親も含めて、家族は直道のことを心配していたー。

「ー大丈夫。由夢のことも、きっと思い出すよ」

夜ー
直道はそんな風に言いながら自分の部屋の方に向かうー。

妹の由夢は寂しそうに
「早く思い出してよねー…」と、だけ言うと、
そのまま由夢も自分の部屋に戻っていくー。

部屋に戻った直道は、ため息をつきながら、
そのままベッドに寝転んだー。

が、その時だったー。

♪~~~

スマホが鳴り始めて、直道がそれを確認すると
”逢坂さん”と、スマホに表示されていたー。

”逢坂さん”とはクラスメイトの
逢坂 瑠璃(おうさか るり)のことー。

瑠璃とは小さい頃からの幼馴染で、
何となく連絡先を交換していたものの、
ここ最近はほとんど接点がなく、
連絡など取り合う間柄ではなかったー。

”ーー…”

”幼馴染が転落したから、一応心配してくれてるのかなー?”と、
そんな風に思いながら電話に出ると、
瑠璃がいきなり声を発したー。

”ーもしもし? 逢坂だけどー…
 一つ、確認したいことがあってー”

瑠璃のそんな言葉に、
”なんだ…僕の心配をしてくれてるんじゃないんだー”と、
少し残念そうにしながら、相手の言葉を待っているとー

”ーー戸部くんで、間違いないよね”
と、そんな言葉を瑠璃が口にしたー。

「ーえ…ぼ、僕ー?う、うんー戸部だけどー…え?」
戸惑いながら直道が返事をするー。

すると、瑠璃は言葉を続けたー。

”ーーー……じゃ、”俺ってことかー”
とー。

「ーーは…??え???」
戸惑う直道ー。

”ーーーーはは、まぁ、驚くかー そうだよなー”
瑠璃が突然、男のような言葉遣いになって、言葉を口にすると、
さらに言葉を続けたー。

”いいか。よく聞けー。
 ”俺”は落下した時の衝撃で俺の魂がパズルのように砕け散って
 10分割されちまったんだー。

そんな瑠璃の言葉に、直道は
「え…そ、それは一体どういう?」と、困惑の表情を浮かべるー。

”で、俺自身の身体に残ったお前以外の9つの”俺”は、
 それぞれ他の身体に憑依した状態になってるー。
 俺は逢坂さんにー、残りの8つの”俺”も、それぞれ学校内の
 別のやつに憑依してるー”

瑠璃の口調が明らかにおかしいー。
そう思いながら、直道は「つ、つまりー…き、君も僕ってこと?」と、
聞き返すと、瑠璃は”あぁ、そうだー”と、返答したー。

”自分の身体から追い出されちまったこの状態は、
 不安定な状態でなー…
 こうして、誰かの身体に憑依しないと、そのまま消えてしまう状態だったからー…
 だから、こうして仕方がなく、俺は逢坂さんにー、
 他の8つの俺も、それぞれ別の身体に憑依したー”

瑠璃はそう説明したー。

「ーーそーーそんなことが…」
直道はまだ、”信じられない”というような声を出す。

すると瑠璃は”記憶ー”と、呟くー。

”記憶、一部が抜け落ちてるだろ?俺もだー。
 理由は簡単ー。
 俺が10に分離しちまったからー、それぞれ記憶が不完全なんだ”

瑠璃の言葉に、
確かにそう言われると納得できる、と直道は頷きながら、
「じ、じゃあ、僕はどうすればー?」と、そう言葉を口にするー。

”俺たちは元々一つ。
 このまま分離したままだと、やがてそれぞれの魂は不安定になり、
 消滅するー

 だからー…一つに戻らないといけない。
 お前が、残り9の俺を見つけ出して”回収”するんだー”

瑠璃がそう言うと、
直道は「ーわ、分かったー…」と、呟くと、
「3つ、聞いてもいいかな?」と、そう言葉を口にしたー

”あぁ”
瑠璃の返事に、直道は
”他の8つの自分”の居場所を確認するー

”ーー半分ぐらいは分かってるけど、残り半分は分からないなー。
 ほら…”本体”からはじき出されたやつらは、本体に吸収されれば
 ”自分が消えちゃう”みたいな感じになるだろ?

 だから、憑依した身体で本人のフリをしてるやつらもいるー。”

瑠璃はそう説明したー。

多重人格における”後から生まれた別人格”のように、
今回、”10つに分かれた魂のうち、残りの9つ”は、
本体に吸収されれば、統合され、消滅するかのような形になるのだというー。

だから、本体に戻ることを拒むやつらもいて、
”10に分かれた直道”のうち、半分ほどは誰に憑依しているのか不明らしいー。

戸惑いながら、2つ目の質問をぶつけるー。

「ーどうして、君は、こんなに物知りなの?」
直道の言葉に、瑠璃は
”ははーこうなった後に調べたんだよー。過去にも同じ事例があった”
と、そう説明したー。

そして、最後の質問をぶつけるー。

「ーー…ところで、何で君はー…逢坂さんに憑依したのー…?」
とー。

僕は男子だし、男子相手の方が良かったんじゃー?と、
そう言葉を続けるとー、
瑠璃は少し黙り込んだー

”ーーー……へへー…実はちょっと……
 その方が興奮するかなってー”

瑠璃がいつもは出さないような声でそう言い放つー。

「ーー…え…えぇっ!?た、ただの変態じゃんー…!」
直道が思わず呆れながらそう叫ぶと、
瑠璃は笑ったー

10個に分かれた”直道”の魂ー。
瑠璃に憑依している自分は元々、直道の中にあった”下心”の部分が
強く出ているのだろう、と、瑠璃はそう笑ったー

”とにかく、明日学校で詳しく説明するー。
 元々俺たちは一つー。
 元に戻らないと、やがて本体も、分離した9つも、消滅しちまうー。
 早いところ、俺とお前以外の8つも見つけ出して説得しようー”

その後もしばらく話をして、電話を終えると
直道はため息をついたー。

10に分離してしまった自分の魂ー。
自分以外の9つを回収しなければ、自分はやがて消滅してしまうー。

こうしてー
パズルのようにバラバラになった自分の魂を探す、
自分探しの旅が始まったのだったー。

②へ続く

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コメント

10に分離してしまった自分の魂…!
明日からは、自分探しの旅(?)を始めていきます~!☆

今日もありがとうございました~!

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憑依<魂のパズル>

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