<皮>受け入れることができなくて②~希望~(完)

急病で命を落とした彼女を皮にして、
彼女になってしまった彼氏…

周囲からは”生き返った”と思われている中、
彼は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーご、ごめんねー…記憶がハッキリしない部分もあってー」
”架純”になった照樹は、
架純として、親友の涼音にそんな言葉を口にするー。

「ーううんー。大丈夫ー。
 こうしてまた一緒にいられるだけで、嬉しいー」
親友の涼音は、心底嬉しそうにそんな言葉を口にするー。

架純になった照樹は、
”架純”として生き返った風を装い、そのまま生活していたー。

こんなことをするつもりはなかったし、
こんなこと、望んでもいないー。
最初は、架純になってしまった直後、
周囲にこのことを打ち明けるつもりだったし、
架純のフリをして、周囲を騙すつもりなどなかったー。

だがー…

架純が生き返ったことに、心の底から喜び、
涙を流していた架純の親族や友達を見て居たらー
言えなくなってしまったー。

自分は何と言われてもいい。
けど、この人たちを傷つけてしまうことが、
また、絶望のどん底に突き落としてしまうことが、耐えられなかったー。

あれから、”架純を脱ぐことはできないのかどうか”
後頭部のあたりを何度も何度も確認してみた。
だが、チャックのようなものは見当たらず、自分では架純を脱ぐこともできなかった。

それはつまり、”俺は…架純じゃないんだ!”と、周囲に向かって叫んでも
この状況をどうすることもできないことを意味している。

自分自身に戻ることもできず、架純の姿のまま
過ごさないといけないのであれば、
このまま”架純”として過ごしていた方が誰も傷つけずに済むー…

照樹は、そう思っていたー。

「一度”死んだ”から記憶がまだ完全にもどってないのかもー」
架純として過ごすことに決めた照樹は、
そんな説明を周囲にしていたー。

架純を着ても、架純の”記憶”はないー。
そのため、細かいことまでは分からないのだ。
架純の彼氏として、架純と一緒に過ごしていたし、
大学も同じだから、”大体のこと”は分かるー。

が、例えば親友の涼音との”以前の会話”など、
そういった細かい部分までは分からないー。

だから”死んだから記憶が曖昧な部分がある”ということにしているー。

「ーーーしかし、女子大生ってみんなおしゃれだよな…」
帰宅した架純は、そんなことを呟きながら
鏡を見つめるー。

架純になってから、ドキドキするようなことも
それはたくさんあったー。

今でも架純のことを大切にしている気持ちは変わらないし、
そこまでおかしなことはしないけれどー、
やっぱり、お風呂に入ったりすればドキドキするし、
架純の胸を触ってみたりしてしまったこともあるー。
それに、自分の口から架純の声が出るのもドキドキで、
架純としておしゃれをして大学に行くのもドキドキするー。

とにかく、ドキドキまみれだー。

「ーーなんか、色々大変だよなー」
架純になってから”女子のおしゃれ”の大変さが
何となく分かった気がするー。

周囲に負けないように、と、妙な競争意識のようなものも
芽生えて来て、それが時々負担になる…。
そんな気持ちも感じながら、
ふと、表情を歪めるー。

架純の身体になってからー、照樹はいくつかの違和感を感じていたー。

それはー…
”味覚”が変わっていないことー。
自分が架純になれば、味覚も変わるのではないか、そう思っていたものの、
架純になっても、照樹の時の味覚のままで、
”別の人間なのに、全く同じ味覚”ということに少し違和感を感じていたー。

またー…”女の快感”と、でも言えば良いのだろうかー。
そういう女特有の感覚を味わうことはできておらず、
例えば胸を揉んでも、何だか、あまり特別な感触はしないー。

もっとこうー、今まで感じたことのない感覚を感じると思っていたものの、
不思議なぐらいに、何も感じないのだー。

「ーーー……まぁ、”着てる”だけだからかなー」
架純はそんな風に呟くと、”明日の予定でも確認しておくかー”と、
そのままスマホを見つめ始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

架純の周囲の人々を悲しませないため、
架純として過ごす日々ー。

だがー…
”異変”は起きたー。

「ーーー…!!」
肩のあたりに”謎の痣”のようなものが出現したのをきっかけに、
身体の各地に痣のようなものが出現し始めたー。

そして、それは次第に拡大していき、
異臭のようなものまでするようになってきたー。

最初は香水などで誤魔化すこともできたー。
が、それも限界になってきて、ついには異臭を隠すこともできずに
架純は家の中に引きこもるようになったー

「くそっ…これはー…なんだー…」
架純は戸惑いの声を上げながら、身体を見つめるー。

「ーーーー……く…ーー…架純はもう死んでいるからか…?」
架純を着ている照樹はそんなことを思ったー。

架純は”既に”確実に死んでいたー。
だからなのだろうかー。
この痣のようなものは、”架純が腐敗してきているようなー”
そんな状況に見えたー。

そして、この異臭はー…
嗅いだことがあるわけではないから、想像でしかないものの、
”人の死臭”なのではないかと、そう思い始めていたー。

日に日に体調が悪くなっていき、再び病院送りになった架純ー。
両親は架純の異変に悲しみー、親友の涼音も心配そうに、
架純のお見舞いに来ているー。

「ーーー…くそっ……」
架純はー…架純を着ている照樹は”俺はどうなるんだ…”と、
そんな言葉を口にするー。

さらに架純の身体の異変は続いたある日の夜ー、
架純は”夢”を見たー

”ーーー照樹…もう、いいよー”
謎の何もない空間で、架純が姿を現すー。

「ーか、架純ー…?」
困惑しながら照樹が自分の身体を確認するー。
”久しぶりに”自分の身体に戻っていることを確認した照樹は
架純のほうを見つめるー。

”ーーわたしのために、ありがとうー…
 でも、もう十分ー。
 照樹は、照樹の人生を生きてー”

架純が優しく微笑むー。

そんな架純に向かって、照樹は言うー。

「ーー架純のためなんかじゃないよー…
 俺…架純が死んだのを受け入れられなくてー…
 架純の眠りを妨げてー、
 あんなことをしてしまったー」

照樹は後悔した様子で言うー。
謎の男から”架純ともう一度向き合える”と言われて、
死んでいた架純を”皮”にして、架純を着てしまったー。

それは、自分の心が弱かったからなのだと、照樹は言うー。

「彼女が死んだ事実を受け入れられずに、
 よく分かんない男の言葉を真に受けて、
 結果、こんなことになってしまったー

 弱い彼氏で、ごめんなー…」

照樹がそう言うと、架純は首を横に振るー。

「でも、照樹はみんなを悲しませないために
 必死に頑張ってくれたー」

架純のそんな言葉、照樹は自虐的に笑うー。

確かに、架純の両親や周囲の人を悲しませたくないという想いから
架純として振る舞い続けて来たー。

だが、それもたった2カ月ちょっとで終わりだー。

「ーーーーそれだって、自己満足だよー…
 余計に、架純のご両親や、友達を傷つける結果になっただけだー」
照樹がそう言うと、架純は「そんなことはないよ ほら、見てー」と、
何もない空間に”映像”を浮かび上がらせたー。

そこには、”生き返った架純”との時間を楽しんでいた人々の笑顔ー、
そしてー、今、病室で”再び苦しむ”架純に対して
”また、会いに来てくれてありがとうー”と、たとえ一時的にでも
生き返ってくれた”娘”に対する感謝の気持ちを投げかける両親の姿が
映し出されたー

「ーーーーー照樹は、照樹の未来を生きてー。」
架純はそう言うと、照樹のことだけは助けようと、
何か不思議な光を放ち始めたー。

がーーー
「ダメだ!」と
照樹は叫ぶー。

「ーー?」
架純は少しだけ不思議そうな表情を浮かべてから
「あははー…大丈夫ー。病室で急にわたしの身体の中から照樹が出て来ちゃったりは
 しないようにするからー」と、
架純を着ている照樹は、”照樹の家”で目覚めるようにするから、
”わたしを着て、わたしのフリをしていたことは誰にもバレない”と、
そう架純は説明したー

「違うよ!そうじゃない!」
照樹はそう言うと、
「俺の命をあげるからー…なんとか…なんとか、架純だけ助けること、
 できないかなー?」と、
涙目でそう言葉を口にしたー

「え…わたしを?」
架純は戸惑うー。

「ほ、ほら、その光ー…何の力かは知らないけど、
 何か力を使えるなら、俺じゃなくて、架純を助けること、できないかなー?
 俺はいいー。架純だけでも助かるなら、それでいいからー」

照樹がそう言うと、架純は「照樹…」と、表情を曇らせるー。

「ーーーー架純を着た俺はもう”行方不明”扱いになってるしー…
 ーー架純が生き返ったと思って喜んでるみんなを悲しませたくないー。
 それに、俺は架純に生きてほしいんだー。
 だからー…なんとかできるならー…」

照樹のその言葉に、架純が戸惑いながら返事をしようとしたその時だったー

「ーできますよ」
そう、言葉が聞こえたー。

「ーー!」
照樹と架純が、声のした方向を見ると、
照樹に”力”を与えた好青年風の男が姿を現したー。

「ーー架純さんにあなたの命を与えるー。
 僕の力を持ってすれば、それは可能ですー。
 ただし、あなたは消滅することになるー。
 永遠にー」

好青年風の男の言葉に、
架純が「あなたはー…?」と、戸惑う中、
照樹は迷わず言葉を口にしたー。

「ーーなら、答えは決まってるー…
 架純を助けてくれー」
とー。

まさに、即答だったー。

「ーほぅ…彼女のために、消滅することに何の迷いもない…ということですか?」
好青年風の男が言うと、照樹は頷くー。

「ーーー迷いなんてない。
 それで架純が助かるならー」

照樹はそう言いながら、好青年風の男を真っすぐ見つめるー。

その目に嘘、偽りはないー。
だが、照樹の手が小刻みに震えているのに好青年風の男は気づくー

”なるほどー…
 彼女を救うことに迷いはないー。
 けれど、やはり死は怖いー。そういうことですか”

好青年風の男は内心でそう思いながら、笑みを浮かべたー。

そしてーーー
照樹にだけ、語り掛けるー。

”彼女を大切にする気持ちー…素晴らしいものですねー。
 感動しましたー。
 では、こうしましょうー。
 あなたを藤下架純の身体で生きられるようにしてあげますー。
 彼女の身体の腐敗を止めて差し上げましょうー。

 そうすればあなたは、最愛の人の身体で、
 そのまま生きていくことができるー。
 彼女の家族や、友達を悲しませることも無くなるー。

 素晴らしいでしょう?”

しかし、そんな”誘惑”にも照樹は乗らなかったー

「ー俺は、架純の身体で生きたいんじゃないー…
 架純に、生きててほしいんだ!」

とー。

「ー照樹ー…」
必死に叫ぶ照樹のほうを見て、架純は
嬉しそうに、そして寂しそうに呟くー。

「ーー何を言われても俺の気持ちは変わらないー
 俺の命を捧げれば、架純が生き返れるなら、
 それで構わないー
 さぁ、やってくれ!」

好青年風の男に向かって、照樹はそう叫ぶと、
架純のほうを見て笑ったー。

「ーごめんー。
 でも、”わたしのせいで照樹はー”とか、思わないでいいからー…
 
 架純が生きて、少しでも幸せそうにしていてくれればー
 俺は、それでいいからー」

照樹はそう言うと、
手の震えを隠しながら、架純のほうを見て笑ったー。

「照樹ー…ダメだよー…死んだのはわたしなんだからー…
 照樹ー…」

架純が悲しそうにそう言うと、
照樹は首を横に振ったー。

「ー急に心不全なんて悲しすぎるだろー…
 あんな一生懸命頑張ってた架純がー…

 だからー…」

「ーー…で、でも、照樹がわたしの代わりになる必要なんてないよ!」

「ー架純と出会えて本当に良かったー。
 架純を助けることができて、本当に良かったー」

二人のやり取りが続くー

それを見ていた好青年風の男は、少しだけ笑うと、
「ーー全くー…そろそろいいですか?
 僕も、他人のカップルの感動的なシーンをずっと見ている趣味は
 ないのでねー」
と、謎の光を手に纏いながら、言葉を発したー

「ーー俺の代わりに、架純をー!」
照樹が叫ぶー。

「ーーわたしは構いませんから、照樹を元に戻してあげてください!」
架純が照樹の言葉を遮って叫ぶー。

その言葉に、好青年風の男は
静かに頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーーー!!!」

照樹が目を覚ますー。

照樹は唖然とした表情で自分の姿を見つめるー。

”照樹”は”照樹”だったー。

「ー…く…」
照樹は表情を歪めながら、家を飛び出すー。

”架純”として入院していた病院にー。

「ーくそっ…何でだよー…」
”俺はいい”って言ったのにー…

目に涙を浮かべながら、照樹が病院に駆け付けるとー

そこにはーーー

「ーーー照樹ー…」
目に涙を浮かべた架純と、架純の両親の姿があったー

「ーーえ…架純ー…?」
照樹が震えながら言うと、
架純は少しだけ笑いながら、「ただいまー」と、そう呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

身体の腐敗が進んでいたはずの架純は、
急激に回復し、そして再び退院したー。

そして、照樹自身も普通に元通りになり、
照樹と架純、両方が無事に”この先の人生”も歩めるようになったー。

今度は”皮”じゃなくー、
架純自身が、ちゃんと”生き返って”いるー。

照樹が架純を着て、架純の中にいた間ー、
世間では”行方不明扱い”になっていたため、
その後、色々言い訳に苦労したけれどー、
それも何とかなった。

「ーーわたしが今、こうしてまた生きてられるのは
 きっと、照樹のおかげなんだよねー…」

架純が嬉しそうに言うと、
照樹は少し照れくさそうに笑いながら、
「ー帰ってきてくれて、ありがとうー」
と、そう言葉を投げかけたー。

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー”人間”にもまだ可能性はあるということですねー」

好青年風の男は、そう呟きながら
闇の中に姿を消していくー

”闇.net”は、人間に力を与えー、
その欲望を測るー。

だが、照樹は欲望に飲まれることなく、
彼女への愛を貫いたー。
そして、彼女の方もまた、照樹のことを何より案じていたー。

「ーーーー本来は”禁じ手”ですが、
 良いモノを見せていただいたお礼ですー。
 末永く、お幸せにー」

好青年風の男、闇.netの”ルーク”は、そう呟くと
そのまま静かに姿を消したー。

おわり

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コメント

彼女の死を受け入れられずに、
皮にしてしまうお話でした~!☆

でも、最終的にはハッピーエンドになったのデス…!

お読み下さりありがとうございました!

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