<皮>受け入れることができなくて①~絶望~

ある日、急病で彼女が命を落としたー。

しかし、それを受け入れることができなかった彼は、
彼女を”皮”にして、そのまま乗っ取り、
”生き返った”というフリをして、彼女に成りきってしまうー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーえっ…?」

男子大学生の真原 照樹(まはら てるき)は、
スマホを手に、表情を歪めていたー。

「ーーおいおい、どうしたんだよ真原ー?」

今日は休日ー。
同じ大学に通う友人の定司(さだし)と共に
カラオケを楽しんでいた照樹ー。

しかし、照樹はかかってきた電話に出ると同時に、
深刻な表情を浮かべながら、何やら話をし始めたー。

親友の定司が言葉を掛けても、
照樹は少し反応するだけで、電話相手の話を聞くのに
精一杯、という反応だー。

「ーーー…分かりましたー」
やがて、深刻な表情を浮かべながら照樹が電話を終えると、
そのまま「ふぅ…」と、深い息を吐き出したー。

「ーーだ、大丈夫か?」
明らかに大丈夫じゃなさそうなその様子に、親友の定司は
戸惑いの表情を浮かべるー

「悪いーー。行かないとー」
照樹は動揺しているのか、詳しいことを語ることもなく
立ち去ろうとするー

「お、おいっー」
定司が”何があったんだ!?”と、そう叫ぶと、
照樹は少し焦りを見せながら言ったー。

「架純(かすみ)が倒れたー。ヤバい状態らしいー」
とー。

照樹の言葉に、
定司は驚きの表情を浮かべるー。

藤下 架純(ふじした かすみ)ー。
照樹の彼女で、
大学内でも”仲良しカップル”として知られている二人だー。

が、その架純が倒れたのだというー。

「ーわ、分かったーこっちは全部任せろー
 お前は早く架純ちゃんのところに行ってやれ」

事情を察した定司がそう言うと、
照樹は「すまない。ありがとうー」とだけ言葉を口にして
慌てて走り出したー。

”架純ー。頼むから無事でいてくれー”

大学のサークル活動の最中に、それまで元気だった架純が
いきなり倒れたらしいー。
そして、現在病院の集中治療室にいるー。

そう聞いた照樹は、呆然としていたー。

病院に駆けつけるまでの間、
どんなに架純の無事を祈っただろうかー。

ようやく病院にたどり着いた照樹は、
真っ青になりながら、既に病院にやってきていた架純の親、
そして架純の親友の涼音(すずね)の姿と見かけて、
照樹は、声を掛けようとしたー。

がーー…
架純の両親も、涼音も涙しているのを見てー、
”何が起きたのか”を悟ってしまったー。

「ーーう…嘘だろー…?」
架純の両親や、涼音に声をかけることもできないまま、
その場に膝をつく照樹ー。

架純は、照樹が病院に駆けつける前に死亡が確認されたー。
死因は、急性の心不全だったー。

何の前触れもなく、突然、架純は死んでしまったのだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」

それから数日間は、生きた心地がしなかったー。

あまりにも唐突な架純の死ー。

最後に話したのは、
その前日だっただろうかー。

いつもの日常的な雑談をしたのが
最後になってしまったー。
前の日まで、架純は全然体調も普通そうだったし、
まさか次の日に死ぬなんて、全く思わなかったー。

いいやー、それは照樹だけではなく
架純本人も同じだっただろうー

前日の架純に
”架純は明日死ぬ”と伝えても、
100パーセント、架純は冗談としか受け止めないー。

「ーーくそっー…」
架純のことを思い出しては、悲しむ日々。
心にぽっかりと穴が開いてしまった照樹は、
今日も大学を休み、一人、家の中でふさぎ込んでいたー。

もちろん、こんなことをしていても架純が
喜ばないのは分かっている。

けれどー…
それでも、すぐに立ち直るのは、無理な話だったー。

”大切な者の死を受け入れることができないー。
 その気持ちは、分かりますー”

ふと、声がしたー。

「ー!?誰だ!?」
照樹は慌てて立ち上がってそう声を上げると、
好青年風の男がそこに立っていたー。

「ーーまぁ、落ち着いて聞いて下さいー」
男は、照樹の言葉を無視してそう言葉を口にすると、
「ー…もう一度、彼女と”会う”ための方法があるのですー」
と、言葉を続けたー。

「ーどういう意味だ?」
照樹は、”オカルト商法とか、そういう話なら、今はそういう気分じゃないー”と、
好青年風の男を睨みつけながら言うー。

ふざけた話をするのであれば、
この場で喉元に飛び掛かってやるぞ、と言わんばかりの
怒りの形相ー。

だがー、好青年風の男は臆することなく、
電気をつける気力もなく、薄暗い部屋にいた照樹を見つめながら
言葉を続けるー。

「ー安心してください。見返りは一切不要です」
それだけ言うと、男は右手に不気味な紫色の光を輝かせながら
言葉を続けたー。

「ーーあなたが望むのであれば”力”を与えましょうー」
好青年風の男の言葉に、照樹は表情を歪めるー。

「ーもう一度、”大切な人”と向き合うことができるー、
 その力をー」

そこまで聞いた照樹は意を決したように、
「ーー…だったら、その力をさっさとくれー」と、
そう言い放ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー。

架純の葬儀が執り行われたー。

架純の両親とも面識がある照樹は、
彼氏としてその葬儀に参加するー。

火葬は、明日ー。

謎の男から貰った”力”を使うタイミングは
この場しかないー。

「ーーーー」
照樹は、予定されていたことが一通り終わると、
親族や、架純の知人たちが揃って、食事を始めたタイミングで
少し間を置いてから立ち上がったー。

「少し、お手洗いをお借りしますー」
それだけ伝えて、食事をしている会場を後にした照樹は、
別室の、先ほどまで全員が集まっていた
架純の棺がある部屋へと向かうー。

そしてーーー
好青年風の男から言われた通り、”力”を込めると、
自分の手が紫色に輝きはじめたー。

”この力があれば、架純ともう一度ー…”

そう信じて、紫色の手を棺の中の架純にかざすー…

するとーーー…
架純の身体にすぐに変化が現れたー…

「ーー!?!?!?」
照樹は驚くー。
架純の身体が急速にしぼんでいき、
”人間”というよりも”着ぐるみ”のようなー、
そんな感じの形状に変わっていくー

「ーーか、架純ー…!?」
”何が起こるのか”までは詳しく聞かされていなかった照樹は
驚きながらも、”ここまで来たら引き返せない”と、さらに架純に手をかざすと、
”皮”になった架純が、突然棺の中から飛び出したー

「ひっ!?」
思わず尻餅をついてしまう照樹ー。

棺から飛び出し、紫の光に包まれた状態の
”架純の皮”に、チャックのようなものが出現すると、
それが”勝手に”開いて、”中”が見える状態になったー。

「ーな、な、なんだこれは…?」
照樹はそう戸惑いながら、逃げようとすると
宙に浮いていた”架純の皮”が、まるで照樹を食べるかのように、
照樹に近付きー、そして、照樹を包み込んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どよめく声が聞こえるー。

その騒がしさに目を覚ました照樹は、困惑の表情を浮かべながらも
周囲を見渡すー。

照樹が目を覚ますと
同時に、どよめきはさらに大きくなり、
周囲の困惑が照樹にも伝わって来たー

「嘘だろー…?」
「ーーそんな…?確かに死んでいたはずなのにー」
「奇跡だー」
「ーーよかった…よかったー」

集まっている人々が、そんな言葉を口にするー。

「ーえ…あ、あのー…」
照樹はそこまで言葉を口にして、言葉を止めたー

”な、なんだー、今のー?”
困惑する照樹ー。
それもそのはずー。
自分の口から出た”声”は、自分の声ではなかったのだー。

”女”の声ー。
しかも、その声は照樹が忘れるはずもない、
よく知った声ー。

”か、架純の声ー?”

「ーか、架純ー…よかった。よかったーー」
架純の母親が突然、照樹を抱きしめるー。

「ー…!?」
照樹は困惑しながら、”まさかー”と、心の中で叫ぶー。

彼女である架純の母親に抱きしめられながら、
「ーち、ちょっと、ごめんー」とだけ声を発して
どよめく周囲の人々をかき分け、女子トイレに入ると、
鏡にはー…

「か…架純…?」
鏡には、確かに”架純”の姿が映っているー。

「ーーう、嘘だろ…?」
思わず顔を触り、髪を触りー、胸を触ろうとして躊躇するー。

「お、俺が、架純にー?」
架純になった照樹は、表情を歪めるー。

そして、”さっき見た光景”を頭の中に思い浮かべるー。

さっき、確かに棺の中にいた架純がまるで着ぐるみのような
”人間ではない”
そんな状態になっていたー。

その架純が突然棺から飛び出して、
まるで、照樹を飲み込むかのように襲い掛かって来たー。
そこで意識は途切れ、目が覚めたらこの状態ー。

困惑しながら女子トイレから顔を出すと、
架純の葬儀に参列していた人たちから
「ーーほ、本当に架純ちゃんなのかー?」と言われて、
架純は戸惑いながらも頷くー。

”こ、この状況、なんて説明すればー…?”

「ーー奇跡だ!」
「ー藤下さんが生き返った!!」
「確かに、死んでたはずなのにー!」

親族や友人ー、架純の関係者らが一斉に沸き立つー。

それはそうだー。
死んだはずの大切な人がこうして今、ここで立っているのだからー。

「ーー照樹くんにも知らせてあげないと!」
架純の親族の一人がそう叫ぶー。

しかしー
照樹の姿が見当たるはずもない。
照樹は今、”架純”を、いやー…架純の遺体を着ている状態なのだからー。

「ーーー……あ、あのー」
架純になった照樹は、起きたことを素直に話そうとするー。
けれど、喜ぶ親族や友達の姿を見ているうちに、
それもできなくなってしまったー。

”言えないー”
直感的に、そう思ったー。

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結局、そのまま”架純”として過ごし、
しんみりとした空気だった葬儀は一転、
架純が生き返ったことをお祝いする会場となったー。

架純の両親が、すぐに”生き返った架純”を病院へと
連れて行くも、少なくとも病院で分かる”異常”見当たらなかったー。

”どうなってるんだー…これはー”

そう思いながら、困惑した様子の架純ー。
そんな架純の背後から、声がしたー。

「ーどうです?僕の与えた力はー」
照樹に”大切な人ともう一度向き合うことのできる力”を
与えた好青年風の男が姿を現すー。

「ーー…こ、これはー…どういうことなんだー?」
架純がそう言うと、
”架純の声”で少し乱暴な言葉を発してしまったことに
少し戸惑いの表情を浮かべるー。

「ーあなたは今、藤下架純を”皮”にして”着ている”状態ー。」
そう言いながら、好青年風の男が架純の後頭部に手をかざすと、
チャックのようなものが出現しー、
男がそれを引っ張ると、架純の顔がパクリと割れて、
中から照樹の顔だけが外に出て来るー。

「ーー!!!」
照樹が驚きの表情を浮かべると、
「ー藤下架純の遺体を着て、藤下架純になっているー
 そう理解していただければ、とー」
と、好青年風の男が説明を続けたー。

そして、再び架純のチャックを上に引き上げてー、
それが見えないようにすると、
好青年風の男は「ー普通の人には分かりません。ご安心を」と、
そう言葉を付け加えるー。

「ーー…か、架純が生き返るんじゃなかったのかー?」
照樹がそう言うと、
「ー僕は、藤下架純が生き返るとは一言も言っていない
 もう一度会える、とそう言っただけです」と
好青年風の男はそう説明したー。

反論しようとする照樹ー。
だが、確かに”生き返る”とまでは言われていないー。

「ー約束通り、見返りは不要です。
 これ以上、僕はあなたの前に姿を現すことはしませんー。
 後は、あなたの好きなように生きればいいー。

 もちろんー
 このことを言うのも自由ですー
 まぁ、誰も信じないでしょうけどねー」

男はそれだけ言うと、
まるでホログラム映像かのように、突然その姿にノイズのようなものが
走って、そのまま姿を消したー

「ーま、待ってくれ!くっ…」
架純は困惑した表情を浮かべながら、
呆然と、自分の手を見つめるー

”まさか、俺が架純になってしまうなんてー…
 俺はー…俺は、どうすればいいんだー?”

困惑しながら、架純になってしまった照樹は、
そんなことを考えるのだったー。

②へ続く

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コメント

死んだ彼女になってしまった照樹くん…★!
このあとはどんな風に過ごしていくのでしょうか~?

続きはまた明日デス~!

なんだか少し前から急に冬本番に近付いた感じがしますネ~!
寒いのが好きな私は喜んで(?)いますが、
皆様も体調を崩さないように気を付けて下さいネ~!

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