<憑依>憑依したやつらに会いに行く②~欲望の傷跡~(完)

1年前ー。
憑依薬を使って、散々憑依を楽しんだ彼。

そんな彼の、”憑依したやつらに会いに行く”旅は続く…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

病院にやってきた祐輔は、
”その名前”を見つけたー。

そして、”彩音”が入院している病室へと向かうー。

「ーーーぁ…」
彩音がビクッと震えるー。

「ーーーー俺だよ」
祐輔がそう言うと、彩音は表情を少しだけ緩めたー。

が、相変わらず怯えた表情を浮かべているー。

元カノの彩音に憑依して、バニーガール姿で徘徊していた祐輔ー。
徘徊するだけではなく、路上で自分の胸を揉んだりしていた彩音は、
やがて通報されて、警察に声を掛けられることになったー。

その時に、逃走した結果ーーー

「ーーあっ…!」
信号を無視して、バニーガール姿で交差点を走っていた最中に
彩音は横から来た車に跳ねられてしまったー。

一瞬、祐輔も”やべぇ”と、直感的にそう思ったー。

別に、彩音の心配をしたわけではないー。
”誰かに憑依した状態で、もしも死んだりしたらどうなるのか”
それが、分からなかったからだー。

がー、
奇跡的に車にぶつかる直前に、彩音の身体から抜け出すことに成功、
彩音は正気を取り戻した瞬間に車に轢かれてしまったー。

幸い、彩音は助かったものの、既に歩行困難な状況で、
入院しているー…

ーーと、いうことだけ聞いていた。

が、1年経過した今でも、やはり入院生活は続いている様子だったー。

「ーーゆ、祐輔ー…」
彩音は足を少しだけ動かすも、痛みが来たのか表情を歪めるー。

「ーー彩音がこんな状況だって聞いてさー…
 ちょうど今日、実家に帰って来たからお見舞いをしておこうと思ってー」
祐輔がそう言うと、
彩音は目に涙を浮かべながら「ーーありがとう」と、言葉を口にしたー。

大学生になり、彩音は”別の彼氏”を作って、祐輔と別れたー。
それなのに”こんな風に心配までしてくれている”ことに涙したのだー。

”自分自身をこんな目に遭わせたのが祐輔だとは”夢にも思わずにー。

「ーー足、良くなるといいなー」
祐輔はそれだけ言うと、
わざとらしく「でも、何でこんなことにー?」と、言葉を口にするー。

彩音は”自分がバニーガール姿で街を徘徊した結果、車に轢かれた”ということは
後から聞いて知っているー。
当然、動画を撮影していた通行人もいて、既にその映像は
ネットにも出回っているー。

「ーーー…そ…それはー…」
身体を震わせる彩音ー。

”わたしはそんなことしてないはずー”なのに、
実際に映像まで残っているー
そんな状況は彩音にとって恐怖でしかなかったー。

「ーーはは、言いたくないなら、無理にとは言わないよー。
 誰だっていやなことはあるだろうし」
祐輔はそう言いながらも”別に、答えを知りたいわけじゃない。俺がやったんだから
全部知ってるしな”と、心の中で呟くー。

「ーーじゃ、元気で。良くなることを祈ってるよ」
祐輔はそう思いながら、笑みを浮かべたー。

「ーーーーーついでに…」
祐輔はあの日、彩音が事故に遭った後、”無事かどうか確認するため”だけに
この病院の女医にも憑依したことを思い出し、
その女医の様子を見に行くー。

「ーー確か、皮膚科の先生だったな」
そう思いながら名簿を確認するー。

女医の身体では大したことはしていないが、彩音の無事を確認したあと、
診察を放棄して、女子トイレで一人、お楽しみをしたー。

もしかしたらクビになってるかもしれないー。

そう思いつつ、皮膚科の前にやってくると、
ちょうど、その先生が診察室の前で患者に何か
話をしていたー。

高齢のおじいちゃんに処方した薬の説明を
改めてしているようだー。

”あ~あの時はホント、気持ちよかったな”
そんなことを思い出しながらも、
”特にこの人の人生には影響はなかったみたいだなー”と、
そう判断すると、そのまま病院を後にしたー。

病院から出た祐輔は、近くのコンビニに立ち寄るー。

このコンビニにいた、当時女子大生のバイト・梨花(りか)ー。

祐輔は彼女に憑依してコンビニを”破壊”したー。
店の中で暴れ回り、梨花の身体が擦り傷や打撲で悲鳴を上げるのも
無視して破壊しつくしたー。

コンビニを可愛い子の身体で破壊するという快感を味わいー、
滅茶苦茶になったコンビニの店内で大笑いしながら、
そのまま憑依から抜け出したー。

あれから、1年ー。

コンビニは普通に営業していたー。
が、当然、”梨花”という子の姿は見受けられないー。

今でも”深夜に立ち寄ったコンビニがヤバかったー”
などと、ネット上ではよくその時の動画が拡散されているー。

「ーーあの子は、どうなったんだろうな」
そんなことを思いながら、壁の1か所を見つめると、
まだ、当時、梨花の身体で殴りつけて、穴をあけた壁には
補修のあとが残っていたー。

「ーまぁ、あの子はまともな生活できてないだろうなぁ」
そんなことを呟きつつ、コンビニでガムとコーヒーを購入して
そのまま外に出るー。

街中では”適当に”憑依した子もいるー。
そういった子たちの現在を調べるのは難しいー。

人生破滅したものもいるかもしれないし、
妹の純恋や、女医のように人生に影響がなかった人間もいるかもしれないー。

「ーーーよし、今日はそろそろ帰るか」
そう思いながら実家に戻る途中ー、
高校時代の憧れの子だった美乃梨の実家である洋菓子店の前をもう一度
通ったが、やはり美乃梨の姿や、美乃梨の母親の姿がなく、
祐輔は首を横に振ったー。

”せっかくだから、星山さんがどうなったのかも知りたいけどー”
祐輔はそう思いながら、その場を後にすると、実家に戻って
一晩を過ごしたー。

そして、翌朝ー。

祐輔は”憑依した人々”の様子を再び観察しに行くー。

一人は、母校の女性教師ー。
1年前は、まだ同じ学校にいたため、憑依して
生徒たちの前で”性の教育”をしてやったー。

その後、どうなったのかは知らないがー、
少なくとも今はもう学校に在籍しておらず、
確認することが出来なかったー。

近所に住んでいる一人暮らしのOLにも憑依したことを思い出し、
OLの様子を探るー。
OLの身体では確か、彼女のスマホが指紋認証だったことをいいことに、
友達や恋人らしき人に、おかしなメッセージを送りまくった記憶があるー。

「ーーー…(確かいつもこの時間にー)」
そう思いながら、OLが住んでいるアパートの前を
ふらふらしていると、そのOLが出て来たー。

「おっ…」
見た目は何も変わっていないー。
当時と同じく綺麗で仕事が出来そうな雰囲気だー。

”あの感じだとー、憑依のこともあまり気にして無さそうかなー”
祐輔はそう思いながらも、まさかいきなり
”どうも”などと、声をかけるわけにもいかず、それ以上は探らなかったー。

その後ー、書店で働く店員の現状やー、
他の同級生の現状などを確認しー、
最後にもう一度、高校時代好きだった子・美乃梨の実家である
洋菓子店を訪れたー。

するとー
そこには、学生時代、よくこのお店で買い物をしていた際に
面識のできた”美乃梨の母親”が店の中で
接客をしているのが見えたー。

「ーいらっしゃいませ~ あっ…!」
美乃梨の母親がそんな言葉を口にすると、
祐輔は「あ…どうも、お久しぶりですー」と、
いつものような”外面の良さ”を発揮して、
穏やかな口調で挨拶をしたー

「ーーえっと、く、草尾くん、よねー?」
美乃梨の母親の言葉に、祐輔は「あ、はいー、お久しぶりです」と、
そう言葉を口にすると、
美乃梨の母親は少し戸惑ったような表情を浮かべながら、
「ーー何をしに来たの?」と、
そんな言葉を口にしたー。

「えっ!?あ、はいー。久しぶりに実家に帰って来たのでー、
 懐かしいな、と思いましてー」
祐輔は少し戸惑いながらも、そう返事をするー。

美乃梨の実家の洋菓子店の店内には、今は他のお客さんはいないー。

「ーー彼女は…お元気ですか?」
祐輔が美乃梨のことを確認するとー、美乃梨の母親は、
突然、険しい表情を浮かべたー。

「ーーー美乃梨は、元気よー」
と、そう答えるー。

だがーーー

「ーー…”また”美乃梨に何かするつもりなの?」
と、美乃梨の母親はそんな言葉を口にしたー。

「ーーーー…え?」
祐輔が表情を歪めるー。

「ーーー…そ、それはどういう意味でー?」
祐輔がさらに確認すると、
美乃梨の母親は吐き出すように言葉を口にしたー。

「ーーーーあなたなら、知ってるんじゃないのー?」
とー。

「ーーえ…??え…?
 すみませんー…ぼ、僕は何もー」

祐輔が申し訳なさそうにそう呟くー。
”僕”と”俺”は、相手によって使い分けているー。

「ーーー…そうかしらー…」
美乃梨の母親はそう言うと、
「ーーーちょうど、去年ぐらいだったかしらー
 美乃梨、ほぼ丸1日記憶が飛んでる日があってー…」
と、言葉を口にし始めるー。

祐輔は心の中で”あぁ、それは俺だなー”と、そう呟きながらも
「えぇ…それは大変ですねー」と、穏やかな口調で返事をするー。

「ーーーーその記憶が飛んでる日ねー…
 美乃梨が、自分の部屋で男の人みたいな言葉遣いで喋ったり、
 一人で変な声を出したりしてたの」
美乃梨の母親の言葉に、祐輔は黙ってその言葉を聞くー。

「ーーーそれでね…変だと思って部屋をこっそり覗いたら
 美乃梨が、普段絶対に見せないような顔で笑ってたの」

美乃梨の母親がそこまで言うと
祐輔は「そ、それは大変でしたね」と、苦笑いするー。
あくまでも”自分は関係ない”という態度だー。

「ーーその日の美乃梨はすごくおかしくてー
 まるで、別人みたいだったわ」

美乃梨の母親はそこまで言うと、次の日には美乃梨は元に戻っていたけれど、
前日の記憶が飛んでいて、美乃梨は当時は深く悩んでいたのだというー。

「ーーー…不思議なこともあるものですね」
祐輔はそう言うと、少し気まずくなって、店内の洋菓子を適当に選んで
購入しようとするー。

がー…

「ーーー”わたしは草尾くんのことが好き”
 ”わたしは草尾 美乃梨”ー」

美乃梨の母親がそう言葉を口にしたー

「ーー!?」
祐輔が少し驚くと、
美乃梨の母親は「ーあの日、美乃梨はそう言ってたー。」
と、そう呟くー。

「ーー”草尾”って名前の同級生は、小学時代から高校時代まで、
 あなた一人しかいなかった」

美乃梨の母親の言葉に、祐輔は掴んでいた洋菓子を思わず
ポトリと落とすー。

「ーーあなたが、美乃梨に何かしたんじゃないの?」
美乃梨の母親の言葉に、祐輔は「ち、ちがっ…そんなこと」と、
笑いながら反論しようとするとー、
背後から「ーーーーここで何してるの?」と、
美乃梨本人の声が聞こえたー。

祐輔が振り返ると、そこには高校時代の意中の相手である
美乃梨本人の姿があったー

「ーーーーー!!!… ほ、ほ、星山さんー…」
祐輔がそう言うと、美乃梨は敵意を剥き出しにして
祐輔を見つめて来たー

「ーー”憑依って最高だぜー”」
背後から、美乃梨の母親の言葉が響き渡るー

「美乃梨はあの日、そう言ってたのー。
 ”憑依”ってなに?」
美乃梨の母親の責めるような口調ー。

美乃梨と母親は、”美乃梨が祐輔に憑依されたのではないか”と
疑っていたー。
憑依なんてあるとは思えないー。
でも、あの日”憑依された美乃梨”の言葉を母親が聞いていたこと、
実際にその日の美乃梨が取った行動ー、
翌日の美乃梨にはその日の記憶がなかったことから、
二人は”祐輔に何かされた”と、そう思っていたー。

しかし、”憑依されたかもしれないです”なんて警察に言っても
相手にしてもらえないのは目に見えているし、
祐輔の連絡先も知らなかったうえに、確証も持てなかったために
二人が具体的な行動を起こすことはこれまでなかったー。

がー、今日、祐輔が自らこの場に足を踏み入れてしまったー

「ーーわたしに何をしたの!?」
美乃梨が涙目で叫ぶー。

「ーち、ちがっ!待てよ!落ち着け!
 これは罠だー!
 ひ、憑依とか、知らないしー
 もしも憑依があったとしても、ほら、俺に疑いを向けさせるために
 あえて”草尾”って名乗ってたのかもしれないだろ?」

祐輔がそう説明するー。

が、あまりの慌てように”自分が犯人です”と、白状しているような
ものだったー。

「ーーー…許せないー」
美乃梨のそんな言葉に、祐輔は真っ青になるー。

普段は”穏やか”に振る舞っている彼はー、
自分の本性がバレそうになると、途端に慌てる小物だったー。

「ーーーーーち、違う!俺は憑依なんてしてない!
 憑依薬なんて買ってない!」

「ーー憑依薬?」
美乃梨の母親がその言葉に反応するー

「ーーやっぱり、あんたが美乃梨に!」
美乃梨の母親が怒りの言葉を吐き出すー。

二人とも、一度も憑依薬なんて言っていないのに、
自らその言葉を口にして墓穴を掘る祐輔ー。

「ーち、違う!……ご、誤解ですー…
 し、し、失礼します」

祐輔は、震えながらそのまま店から飛び出すー

「ーだ、だ、大丈夫だー
 ひ、憑依なんて、誰も信じやしないー。
 大丈夫だー」

青ざめながら実家に帰ると、
祐輔は突然「急用を思い出した」と、
そのまま狂ったように荷物をまとめて帰る準備をし始めるー。

戸惑う祐輔の母親ー

妹の純恋も「え?いきなりどうしたの?」と声をかけて来るー

「ーうるさい!邪魔だ!」
想定外の出来事があるとすぐに取り乱す祐輔は
純恋を突き飛ばしてそのまま玄関から飛び出すー。

慌てて駅に向かい、そのまま故郷の街から逃げ出そうとする祐輔ー。

がーーー

「ーーはっ…!」
信号も無視して慌てて駅に向かっていた祐輔はー、
横から来たトラックにも気づくことが出来ずにー…

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーえ」
祐輔が表情を歪めるー。

気付けば、自分は空を漂っていたー。

「ーーーーえ…」

祐輔は、眼下に広がる光景を見つめると、
何が起きたのかを理解して、
悲鳴を上げたー

「ー…う…うわあああああああああああ!!!」

車に跳ねられて、ボロボロになった自分の身体ー。

かつて、”憑依した元カノ・彩音”の身体で、
車に轢かれて、彩音に一生モノの後遺症を残してしまった祐輔ー。

因果応報だろうかー。
今度は、自分自身が車に轢かれてー…
その身体は、彩音の時以上に、酷い状態だったー

「いやだ!いやだ!死にたくない!いやだ!」

自分の身体に向かって必死に叫ぶ祐輔ー。

だがーー
弱弱しく呼吸をしていた自分の身体は、ゆっくりと呼吸を停止するー

「いやだ!いやだ!いやだああああああああああああ!!」
祐輔は、その場で悲鳴を上げながら
”自分の死”を見届けることになってしまったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

因果応報な最後を迎えてしまうお話でした~!☆

賢い憑依人なら、
洋菓子店で問い詰められた時も
上手く言い訳して切り抜けられたかもしれませんネ~!

お読み下さり感謝デス~!☆!

コメント

  1. 匿名 より:

    ああ、やっぱり予想通り、因果応報な結末になりましたね。

    憑依中の言動には気を付けないといけませんね。
    でないと、この話みたいに追い詰められることになりかねませんし。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      やっぱりこうなってしまいました~!☆!
      一人暮らしの子の方が、憑依しやすいかもしれませんネ~!

  2. 柊 菜緒 より:

    でもこれからは好きなように憑依できそう