洗脳ライトにより、
丸ごと洗脳されてしまった街ー。
何も知らずに帰省した彼にも、
危機が迫りつつあったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーく、倉井さんー」
幸仁の前には、高校時代の同級生・雅美やー、
本屋のおじさんー
そして、先ほどの交番の警察官まで、
見覚えのある街の人たちが、集結していたー。
「ーーー…み、み、みんな!正気を取り戻してくれ!」
幸仁がそう叫ぶー。
だがー、上空のヘリコプターから、
国際犯罪組織ガルフ所属・ツカモトの声が響き渡るー。
”残念だがー
洗脳ライト”キ・ド・アイ・ラク”の力は完璧だー。
感情を操る4つのライトもー、
意のままに操る黒いライトもー、
その力から逃れることはできないー。
君のような例外を除いてねー。
例えばー
そうだなー”
ツカモトはそう呟くと、黒いライトを
ケーキ屋の店長に当てたー。
昨日、実家へのおみやげにケーキを買って行こうと、
立ち寄ったお店の女性店長だー。
”その手に持った包丁で、自殺しろ”
そんな無情な言葉に、幸仁は「はっ…!?」と、
思わず声を上げてしまうー
「はいー」
容赦なく、自分に包丁を刺そうとする店長を見て、
幸仁は飛び掛かって、包丁を突き飛ばすと、
それを蹴り飛ばすー。
「ば、バカなことしないでください!」
店長に向かってそう叫ぶも、
いつもの優しく、気さくな雰囲気はなくー、
また包丁を拾いに行こうとするー
”ククククー
これで分かっただろう?
その街の人間は、如何様にも操ることができるー
俺が命じれば、街の住人を一斉に自殺させることも、できるんだー”
ツカモトのそんな言葉に、幸仁はヘリコプターのほうを睨みつけるー。
「ふ、ふざけんなー…!」
幸仁はヘリコプターに向かって臆せず叫ぶー。
”無駄なあがきは止せー。
この街は俺の実験場ー
君みたいな”イレギュラー”がいると困るのだよー”
ツカモトはそう言い放つと、黒いライトの照射範囲を広げて、
笑みを浮かべるー
”さぁ、そいつは街の敵だー。
全力で仕留めろー”
外から、誰かがこの街に入って来ても、それは関係のないことー。
街に入れば、通常であれば、すぐに洗脳ライトの餌食になり、
支配下に落ちるー。
だが、幸仁のような”洗脳ライトの影響”を受けない人間は、
非常に厄介だー。
すぐにでも仕留めなければならないー
「く…くそっ!」
襲い掛かって来る本屋のおじさんを払いのけるー。
しかし、すぐに元同級生の雅美に首を絞められた幸仁は
「め…目を覚ましてくれ!」と、叫ぶー
がー、雅美の目は、本気で幸仁を殺す目で、
全く正気を取り戻す気配はないー
「ーーーぐ…ぐー…」
幸仁は、雅美のほうを見つめるー。
雅美とは、特別親しかったわけではないがー、
それでも、同じクラスにいた人間としては、
雅美のことを”人殺し”になんかさせたくないしー、
自分もまだ死ぬわけにはいかないー。
かと言って、雅美も、他の人たちも操られているだけで、
下手に反撃することもできないー
「ーーーー…ーーごめん」
歯を食いしばりながら、幸仁は足で雅美を蹴り飛ばすと、
雅美は「うっ」とうめき声を上げながらその場にしゃがみ込むー
雅美の手が離れた隙に、近くの路地に飛び込む幸仁ー。
母親が手を伸ばして来たのを払いのけて、
そのまま必死に路地裏の奥深くまで入り込むー
「はぁ…はぁ……はぁ…」
息を吐き出す幸仁ー。
雅美の妹・恵麻が、先ほど雅美に刺された傷も無視して、
足から血を流しながら
”どこにいるの~?出て来なさい~…”と、
ロボットのように言葉を吐き出しているのが見えるー。
息をひそめる幸仁ー。
「くそっ…どうすればいいー?
あいつらは、ヘリコプターに乗ってて手出しができないしー…」
幸仁は、街のみんなを救う方法を、頭を必死に
フル回転させながら考えるー。
だが、残念ながらそんな方法はすぐには浮かばないー。
「ーーーーーーーーー」
上空では、幸仁が路地裏の一角に隠れて、
街の人々が、幸仁を見失い、血眼になって探しているのを
見つめながら、ツカモトは笑みを浮かべるー。
「クククー。隠れたかー。
まぁ、それが最善手だろうなー」
そう呟くと、ツカモトはヘリに積んであった銃を手にすると、
それを地上に向けて放り投げたー。
「ークククー俺の人形ども!容赦はいらない!
見つけ次第、その銃で撃ち殺せ!」
ヘリに積んであった銃、数十丁を地上に投下するツカモトー。
そして、ツカモトはトレードマークのサングラスを光らせながら
笑みを浮かべるー
「このサングラスはただのファッションじゃないー
我が組織の技術の結晶ー”スキャン・グラス”の力を見せてやるー」
そう呟くと、サングラス横のボタンをカチッと押すツカモトー。
街中の建物を透視し、人影を探知する機能を使いー、
幸仁が隠れている場所をいとも簡単に見つけたツカモトは
”ー奴は路地裏のごみ置き場付近の階段下だ!殺せ!”と
ヘリコプターの拡声装置を使って叫んだー。
洗脳された人々が一斉に、幸仁を殺そうとその場に向かっていくー
「ーー死ね…!」
元同級生の雅美が、銃を手に幸仁に狙いをつけるー。
幸仁は咄嗟にそれを避けると、
「ーそ、そんなもの持っちゃだめだ!」と、雅美に叫ぶー。
だが、雅美は正気を取り戻す様子はないー。
背後から、父親が、母親が迫って来るー。
「く、くそっ!!」
幸仁は背後の建物の扉を蹴り飛ばすと、
そのまま中に入って鍵を閉めるー。
中にあった棚や、使えそうなものをかき集めて扉を封鎖ー
窓のシャッターを全て閉めて、”籠城”を開始する幸仁ー。
「くそっ…くそっ…くそっ」
外からは、扉を叩く音が聞こえるー。
雅美がー、その妹の恵麻がー、
幸仁の両親が、街の人々が、
自分の身体が痛みを感じるなどお構いなしに
力づくで扉を叩いているー
「ーーはぁ…はぁ…逃げられると思うな!開けろ!」
雅美が手を真っ赤にしながら叫ぶー。
幸仁は、建物の2階部分に移動して、2階の窓から
下を見つめると、洗脳された人々が
まさにゾンビのように集結しているのが見えたー。
”ほぅー…籠城かー。賢いなー
これなら、俺が君の位置を把握しても、
手出しはできないー”
ツカモトがヘリコプターから幸仁に語り掛けるー。
”だがー…甘いなー
エガワ!”青”をレベル5で照射しろー”
その言葉に、パイロットのエガワは、ライトを青に切り替えて
それを照射するー。
洗脳ライト”キ・ド・アイ・ラク”の青は、
”哀”の感情を引き出すライトー。
それに晒された住人たちは、途端に”今まで自分がしていたこと”に
絶望するー
「ーわ、わたし、なんで、銃なんかー…?」
幸仁の元同級生の雅美が震えるー。
「ーわ、わたしはなんてことをー…」
母親も、自分のしてきたことに絶望の表情を浮かべるー。
”ククククー…
さぁ、どうするー?
その者たちは、自分の罪に耐えられず、自殺してしまうかもしれんぞ?”
レベル5ー…
限界まで悲しみの感情を引き出された常人は、
それに耐えることも難しいー
”君が、そこから大人しく出てくればー…
すぐに”青”のライトの効果を解いてやろうー。
親を、故郷の人々を、守りたいだろう?”
ツカモトがそう言い放つー。
だが、幸仁は窓から顔を出して叫んだー。
「ーーそんなことしたら、あんたの好きな”実験体”はこの街から
いなくなるぞ!それでいいのか!?」
とー。
「ーーーーー」
ツカモトはその言葉に、
”確かに、住人がいなくなっては困る”と、心の中で呟くー
「ーーチッ…クソガキがー…」
ツカモトは、舌打ちをすると、
苛立った様子でヘリコプターに積んであった”秘密兵器”を地上に向けて放り出そうと
笑みを浮かべるー。
”分かった、分かった、確かに君の言う通りだー”
そう言い放ちながら、青のライトを消して、再び黒のライトを照射し、
住人たちを操り人形にすると、
”ーだが、そんな建物に立てこもっても無駄だ!”と、
ヘリコプターから”ロケットランチャー”を地上に向かって放り込んだー
「ーー!!」
それを目で確認した幸仁は、青ざめるー。
”さぁ、そいつを殺せ!”
ロケットランチャーは、幸仁の母親の前に偶然落下しー、
母親が重たそうにそれを手にするー。
「ーーーーく、くそっ!」
ロケットランチャーが放たれ、必死に2階の窓から飛び出す幸仁ー。
”俺は、自分の手は汚さない、がモットーでね。
他人が他人を殺す様にこそ、芸術というものは存在するー”
ヘリからツカモトの声が響き渡るー。
洗脳された住人に囲まれる中、
幸仁は必死に、ロケットランチャーを持つ母親の方に向かって走るー。
撃たれたら最後ー
周りの住人たちも大量に死んでしまうー。
そう思った幸仁は、咄嗟に母親に飛び掛かりー、
何とかロケットランチャーの発射を阻止しようとするー。
「ーー死ね…死ね…死ね!」
母親がロボットのようにロケットランチャーを幸仁のほうに向けて来るー。
「くっ…や、やめろ…!」
幸仁は必死にそれを押さえる。
ここでロケットランチャーなど放たれてしまったら
幸仁はもちろん助からないだろうし、
至近距離でそれを放つ母親自身も、周囲に群がっている洗脳された人々も、死ぬー。
そんなこと、絶対にさせるわけにはいかないー。
「ーー邪魔は…させない」
元同級生の雅美が、乱れた髪を揺らしながら、
幸仁を取り押さえようとするー。
「ーーぐっ…く、くそっー」
どんどん群がって来る住人たちー。
”操られた”見知った顔を見ながら、
幸仁は、悔しそうに歯ぎしりをするー
”クククー
俺の実験場となったこの街に
運悪く、ノコノコと帰って来たことを悔やむんだなー
終わりだー、死ね”
ヘリコプターからツカモトの声が響き渡るー。
幸仁の母親が、ロケットランチャーを幸仁の方に向けるー。
”撃たれるー”
そう思った幸仁は、叫び声を上げながら
母親に突進したー。
間に合うかどうか分からないー。
それでもー、幸仁は必死に母親めがけて飛び込んだー。
そしてーー
幸仁が母親に向かって突進すると同時にー
ロケットランチャーは放たれたー。
突進した勢いで、そのまま地面に倒れ込む幸仁ー。
ロケットランチャーが放たれた音が聞こえて、
幸仁は死を覚悟したー。
がーーー
次の瞬間、上空から声が響き渡って来たー
”なっ…!避けろ!エガワ!避けろ!!!!”
ヘリコプターからの声ー。
「ーー!!!」
幸仁が顔を上げると、幸仁がロケットランチャーを持つ
母親に突進したことで、
発射の直前に、ロケットランチャーは上空を向きー…
その弾は、今、まさにツカモトらが乗るヘリコプターに
直撃しようとしていたー。
「ーま、間に合いません!」
パイロットのエガワが叫ぶー。
「ーーくっ…バ…バカなー…!」
ツカモトが、呆然とした表情でそう叫ぶと同時にー、
ロケットランチャーの弾丸がヘリコプターに直撃しー、
ヘリコプターは上空で爆発、そのまま炎上してー、
街外れにある林の方角に落下していったー。
「ーーーーー…!」
幸仁は、思わぬ奇跡的な逆転に、唖然としながら、
ハッとして周囲を見渡すー。
両親も、雅美も、”黒いライト”を浴びた状態で、
”指示を下す人物”がいなくなったためー、
人形のように、無表情でその場に立ち尽くしていたー。
「ーみ、みんなー…くそっ!」
元凶がいなくなっても、すぐに全員が元に戻ることはなかったー。
そんな状況に幸仁は、困惑の表情を浮かべながらも、
すぐに走り出したー。
この街の状況を、外に知らせるためにー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1か月後ー。
多くの犠牲を出した幸仁の故郷ー。
だがー、
あのあと、幸仁が外部に助けを求めたことで、
警察を中心に捜査が始まり、
国際犯罪組織ガルフの男に洗脳ライトを提供した商人風の男が所属していた
洗脳ライト”キ・ド・アイ・ラク”を流通させていたグループが
突き止められ、その組織は一網打尽にされたー。
押収されたライトを、街の人々に照射ー、
無事に人々は正気を取り戻していたー。
「ーーーーー」
1か月前ー、命を落とした人もいたし、
怪我をした人も、大切なものを壊された人もいたー。
だがー、それでも何とか復興は進み、
今、こうして街は再び平穏を取り戻しているー。
そしてー、今日、幸仁は再び休みを確保して、
こうして”改めて”帰省していたー。
「ーーーー…あ、鳥山くんー」
実家へのお土産を買いに来た幸仁を見て、
そこの店で働く元同級生の雅美が、声を掛けて来るー。
「ーーー酷いことしちゃって、本当にごめんねー。
わたし……」
雅美がそんな言葉を口にすると、
幸仁は「大丈夫ー分かってるよー。みんなは被害者なんだからー
謝る必要なんて、ないー」と、笑いながら答えるー。
「ーーーーうん。ありがとうー」
雅美は少しだけ微笑むと、
「ーー今日は、お礼にわたしが奢ってあげる…!
ほら、好きなケーキ、選んでー」と、お店の商品のほうを見て微笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・
実家へのお土産を買い終えた幸仁は、
そのまま実家へ向かうー。
そしてー、
玄関を開くと、無事だった両親に向かって
穏やかな表情で微笑んだー
「ーーただいまーー」
とー。
おわり
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コメント
最終回でした~!★
奇跡的な逆転…!
混乱の中で犠牲者も出てしまっているみたいですケド、
なんとか無事に街は平穏を取り戻しました~!
ここまでお読み下さり、ありがとうございました!
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