<入れ替わり>ストーカーはお姉ちゃん~姉妹の未来編~中編

ストーカーと入れ替わってしまったお姉ちゃん…。

中身がストーカーと知りつつ、
そんな”お姉ちゃん”と暮らす道を選んだ妹…

その先に待つ運命は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー萌美ーー」
ストーカー男の和馬になってしまった絵梨香は、
”あの日”、妹の萌美から拒絶されて、
一度は狂ってしまいそうなほどに、絶望の淵に突き落とされたー。

あの日ー、
萌美は”わたしの姿をしたストーカー男”を選んだー。

最初は、そのことに怒りも感じたし、
その日ー、いいや、その後数日間は、
憎しみに支配されていたー。

”どうしてー?萌美ー?
 なんでー?
 わたしが、わたしだって、分かってるはずでしょー?”

とー。

怒りを感じずにはいられなかったー。

けれどー…
ストーカー男であった和馬の部屋に残されていた
萌美の写真を泣きながら引き裂いた時に、思ったー。

”それでも、わたしは萌美のことが好きー”
だとー。

そしてー、
鏡に映る自分の姿を見つめながらー、
和馬(絵梨香)は、改めて、自分が
”こんな醜い姿”になってしまったのだと実感させられたー

「ーーー…この姿じゃー……怖いよねー」
和馬(絵梨香)は寂しそうに呟いたー。

そうー。
萌美が怖がるのも分かるー。
萌美にとっては”和馬”の姿は嫌悪感の象徴ー。
中身が誰であっても、一緒にいたくないのだろうし、
この男を見るだけで”トラウマ”がよみがえるのだろうー。

「ーーーー」
和馬(絵梨香)は、怒りに任せて引き裂いてしまった
萌美の写真を見つめながら「ごめんねー…」と、
寂しそうにそう呟くと、
その日から”萌美のことを見守る”決意をしたー。

こうして、”お姉ちゃん”は、本当の意味で”ストーカー”に
なってしまったー。

だがー…
それでも”わたしの身体を奪ったアイツ”への憎しみは消えなかったー。
アイツを地獄に落としてやろうと、最初は何度も何度もそう考えたー

萌美を見守りつつ、
萌美が、絵梨香(和馬)と一緒にいる光景を見るだけで
激しい怒りが、身体中に広がるのが分かったー。

しかしー…

和馬の身体で、萌美のことを見守る日々を送るうちに、
和馬(絵梨香)は、あることに気付いたー。

”ーーーーー”

それはー、絵梨香になった和馬が、本当に萌美のことを大事にしていることー。
そして、萌美自身、絵梨香(和馬)と楽しそうに過ごしていることー
まるで、本当の姉妹のように、二人は絆を育んでいることを知ったー。

絵梨香(和馬)の”萌美を見る目”が、イヤらしい感じからー、
次第に”お姉ちゃんの目”になっていくのが、
和馬(絵梨香)には分かったー。

そんな二人を見ているうちに、
”和馬”に対する憎しみが、自分の中で次第に薄れていくのが
分かったー。

”憎い”気持ちは確かにあるー。
けれど、何だか安心感のようなー、そんな気持ちも同時に生まれてしまい、
どんどんどんどん、和馬(絵梨香)は複雑な気持ちになっていくー。

そしてーーーー

「ーーーーーー…!」
”萌美”の写真を自分の部屋で見つめていた和馬(絵梨香)は、
ふと、”鏡”に自分の顔が映って愕然としたー。

小太りで、お世辞にもイケメンとは言えない”和馬”の顔ー。
それには、もう慣れたし、今更驚くことではないー。

けれどー…

「ーーわたし…」
和馬(絵梨香)は震えるー。

”妹の写真を見る自分の顔”が、
とてつもなく、イヤらしい目つきだったー。

「ーーー…」
唖然として、写真を手放す和馬(絵梨香)ー。

「ーーー…こんな顔ーーー…」
和馬(絵梨香)は鏡を見つめながら涙目で呟くー。

妹を見る自分の”目”が、気持ち悪い目つきになっていたー。
まるで、ストーカー男そのもののようなー。

”同じ和馬の顔”でも、
入れ替わった直後の”わたし”はそうではなかった気がするー。

ずっとずっと、観察していたから分かるー。
”絵梨香”になったこの男は、だんだん”お姉ちゃんの目”になっているー。

でも、その逆で、自分はー…

ゾワッと悪寒のような感覚が全身を駆け巡るー。

”わたしが、ストーカーになってきてるー…?”
そんな、最悪の予感を覚えて、
和馬(絵梨香)は、鏡に映る”和馬”の顔に向かって叫ぶー

「そんな目で…そんな目で萌美を見ないで!」と、
そう叫びながら、鏡に拳を叩きつけると、
その場で一人、涙をこぼすー。

身体を奪われただけではなくー…
”心”まで踏みにじられているー。

そんな気持ちになって、和馬(絵梨香)は、
一人、部屋の中で涙をこぼしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」
和馬(絵梨香)は、その後も妹の萌美のことを
”影ながら”見守り続けていたー。

最初の頃は、過激な服装が多かった絵梨香(和馬)も、
最近は何だか”もと通り”の服装に戻ってきているような、
そんな印象も受けるー。

”どんどん、自分じゃない誰かがが、自分になっていっているー”
そんな光景を、和馬(絵梨香)は見せ付けられている気持ちになるー。

”絵梨香”はわたしなのに、
あのストーカー男は、”完璧な絵梨香”になりつつあるー。
身体だけではなく、存在そのものを奪われているような、
そんな感覚に陥るー。

”身体”だけではなく、
その”立場”・”人生”ー。
”絵梨香”という存在全てを奪われているようなー
そんな、感覚に陥るー。

「ーーーー…」
ギリッと歯ぎしりをする和馬(絵梨香)ー。

”あの雨の日”以降ー、
和馬になった絵梨香は、一度も二人の前に姿を現していないー。

妹の萌美が”それ”を望んでいる以上ー、
これ以上、萌美の前に姿を現して”わたしが絵梨香なの!”と、叫んでも
萌美を困らせてしまうだけであり、
事態が解決することはない、という”絵梨香”の判断ー。

だからこそ、ずっと”わたしになったストーカー男”が、
萌美に変なことをしないかどうかを見守り続けて来たー。

”もしも、萌美に手を出したら”
その時は”ほら!やっぱりこうなった!”と言わんばかりに
あのストーカー男を懲らしめて、
自分が”お姉ちゃん”として返り咲くー、そんなつもりでいたー。

けれどー、
絵梨香(和馬)は、”何も”しなかったー。
時折怪しい行動はあるけれど、
決して、萌美を傷つけるようなことはしなかったー。

時間だけが過ぎて行きー、
やがて、”お姉ちゃん”という立場も、何もかも奪われ、失っていくのを、
日に日に実感させられたー。

もう、我慢の限界だったー。

「ーーお姉ちゃん、
 ちょっとお手洗いに行ってくるね~!」

休日のショッピングモールで買い物を楽しんでいた二人ー。
萌美がそんな言葉を口にしたことに気付き、
和馬(絵梨香)は、”今しかない”と、そう判断したー。

そしてーーー

「ーーー!」
和馬(絵梨香)は、”半年ぶり”に、
”元自分”の前に姿を現したー。

「ーーーーーーあ、あなたはー」
絵梨香(和馬)も、驚きの表情を浮かべるー。

そしてーー
”元・自分”を見て、強い嫌悪と、恐怖を感じたことに
絵梨香(和馬)は気づくー。

「ーーー…い、今更何の用ー?」
絵梨香(和馬)がそう言い放つと、和馬(絵梨香)は
表情を歪めたー。

”元・わたし”を見て、
イヤらしい気持ちになるー。
”H”な気持ちになるー。

自分が”絵梨香”だったときのことを思い出して
興奮してきていることに気付くー。

そんな感情を、イヤでも理解した
和馬(絵梨香)は、思うー

”あぁ、もうわたしはー”萌美のお姉ちゃん”じゃないんだー”
とー。

この半年間で
絵梨香になった和馬が、どんどん”絵梨香”になっていったようにー、
和馬になった絵梨香も、いつの間にか”和馬”になってしまっているー。

それを、実感させられたー。

もちろん、”元の自分”を忘れることはないー。
でも、もう、元に戻ることは、できないー。

半年ぶりに”元・わたし”に話しかけて、それを実感したー。

”わたしの手を握っていることにドキドキしているー”
それは、もうー
”わたしがわたしでなくなってしまった証ー”

「ーーーー…」
和馬(絵梨香)が、そんなことをイヤでも実感させられて
表情を曇らせていると、
絵梨香(和馬)が先に口を開いたー。

「ーーふ…ふふふふー
 今の僕は、すっごく幸せだよー…
 萌美ちゃんの”お姉ちゃん”としてー、ずぅっと、ずっと、
 一緒にいられるんだー」

絵梨香(和馬)がニヤリと笑みを浮かべるー。
和馬(絵梨香)がすぐに言い返そうとするー。

しかしーーーー

「ーーーーーうんーー…ダメだ。キモいなー」
と、絵梨香(和馬)が、突然そう呟くと、
そのまま和馬(絵梨香)を押すようにして、
モール内の近くの別の通路に移動させてきたー。

「ーーーーーお願いだー…萌美に近付かないでほしいー」
絵梨香(和馬)がそんな言葉を口にするー。

「ーーー…ど…どういうことー…?」
和馬(絵梨香)が不満そうに反論しようとすると、
絵梨香(和馬)は言葉を続けたー。

「ーー…分かるだろー…
 僕も、君もー……”変わってるー”」

絵梨香(和馬)の言葉に、和馬(絵梨香)は表情を歪めるー。

”自分が自分であること”を忘れることはないー。
が、入れ替わってから、だんだんと相手の身体の影響を受けているのは
イヤと言うほど、理解できるー。

「ーーー…さっきの僕、キモかっただろー?」
絵梨香(和馬)は、”萌美ちゃんのお姉ちゃんになれて最高だよ”と
さっき自分で言い放った言葉を思い出しながら言うー。

「ーー僕もー…キモかったー」
絵梨香(和馬)は、過去の自分を否定するかのような言葉を
自ら吐き出すと、少しだけ複雑そうな表情を浮かべるー。

「ー今は、萌美に本当に幸せになって欲しいと思ってるしー、
 本当に、萌美のこと、守りたいー。
 
 でもー君がー、いいや”僕”かー?
 僕が姿を現わせば、萌美は苦しむー…
 
 だから、どうかー…」

絵梨香(和馬)は、心底頼み込むような形で、
声を発するー

「どうかー、このまま…何もせずに立ち去って欲しいー」
と、そう言いながらー。

「ーーー…勝手なことをー…」
和馬(絵梨香)はギリッと歯ぎしりをするー。

「ーーーー…勝手なことをー…絶対に…絶対に許せないー…!」
和馬(絵梨香)のそんな言葉に、
絵梨香(和馬)は「そりゃ、そうだよなー」と、呟くー。

「ーーぼ…僕は何でもするー…
 き、君が望むならー
 そ、そうー、”僕の身体”を満足させることだって、なんでもー…!」
絵梨香(和馬)はそう叫ぶー。

正直、”今の絵梨香(和馬)”からしてみれば、
”元・自分の身体を満足させること”は身の毛がよだつほどの
恐ろしい行為だー。

入れ替わった直後は、そんなこと絶対思わなかったのに、
今は嫌悪感を感じているー。
それを想像しただけで、”絵梨香の身体”がゾワゾワと悪寒を感じー、
鳥肌すら立ってくるー。

”もう、僕は僕ではなくなっている”と、
ストーカーだった和馬は、そう感じざるを得ないほどにー。

自分自身がやっていた、ストーカーでいう行為ですら、
今は嫌悪を感じるー。

「ーーー…お願いしますー…お願いしますー…
 萌美のためにも、どうかー、今はーこのまま立ち去って欲しいー」

絵梨香(和馬)が必死に叫ぶー。

”例えどんなにイヤでも、”お姉ちゃん”として萌美を守るために”
するんだー、と、自分に言い聞かせながらー。

すると、和馬(絵梨香)は笑みを浮かべながら、
言葉を静かに囁いたー。

「ーじゃあ、お願い、聞いてもらえるー…?」
とー。

「ーーー!!!」
和馬(絵梨香)が、絵梨香(和馬)に何かを耳打ちするー。

そしてーーー…
絵梨香(和馬)は驚く表情を浮かべー、
和馬(絵梨香)はそのまま立ち去って行ったー。

”やっぱり、わたしはお姉ちゃんー”
和馬(絵梨香)は、立ち去りながらそんなことを思うー。

気付いたのは”わたし”だけー。

だったらー…。

和馬(絵梨香)は、そんなことを思いながら
そのまま、その場を後にしたー。

「ーーあ、お姉ちゃん!どこ行ってたの!」
トイレから出てきていた萌美が少し不貞腐れたように言うー。

別の通路で、”元自分”と話をしていた絵梨香(和馬)は
「ごめんごめんー…」と、申し訳なさそうにしながら
「怒った顔も可愛いよねー」と、笑いながらそう言葉を口にしたー。

”ーーーー”
絵梨香(和馬)は、和馬(絵梨香)との会話を思い出しながら
少しだけ表情を曇らせつつもー、
”受け入れるしかない”と、そう思いつつ、
萌美と共に歩き出したー。

<後編>へ続く

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コメント

「ストーカーはお姉ちゃん」の後日談も
いよいよ次回で最終回デス~!

どんな結末が待ち受けているのか、
ぜひ見届けて下さいネ~!

(※現在は火曜日のみ、予約投稿の都合上、
 続きは来週の火曜日になります~!)

コメント

  1. 匿名 より:

    こういうお互いの精神が身体に汚染されていくタイプの話を見る度、思うのですが、いくら精神が変わってしまったとしても、再度入れ替われば、また時間の経過で元の身体に馴染んでいって、元通りになる気がしませんか?

    まあ、再度入れ替わることが出来ればの話なんですが。

    次回の結末を楽しみにしてます!

    • 無名 より:

      再度入れ替わることができれば
      確かに元に戻るかもしれませんネ~!

      でも、このお話の場合は、落雷の直撃で入れ替わってるので、
      入れ替わり薬をもう一度飲めば~!みたいな感じにはいかないのデス…
      次、直撃したら命を落とすかもしれませんからネ…!