幼馴染の電話を偶然聞いてしまったことをきっかけに、
その姉と妹を含む、”憑依された三姉妹”と同居することに
なってしまった彼…
戸惑いの中、彼に待ち受ける運命は…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
憑依された三姉妹との生活は続いていたー。
「ーーは~~…うっぜぇ…あのジジイー」
ある日ー。
長女の麻梨奈が、そんな言葉を口にしながら帰宅するー。
「ーーど、どうかしたのかー?」
陽介が戸惑いながら、そう尋ねるー。
麻梨奈は「いや、会社の上司がさ~最近やたらと俺を触ってきたり、
飲みに誘ってきたりしてさぁ」と、ため息をつくー。
「ーーそ、それってセクハラじゃー?」
陽介がそう聞くと、麻梨奈は「ははー。だよなー」と、
疲れた様子で、スーツを脱ぎ始めるー。
「まぁ、でもさ、ほら、中身は男だしさー、
こういう場合、何て言えばいいのか、分かんねぇよなー」
平気で目の前で着替える麻梨奈から目を逸らすと、
「ーいや、俺はあのおっさんみたいにそういうことはしたことないけどさ、
気持ちは何となく分かっちまって、ちょっと複雑っていうかなー」
と、麻梨奈はお構いなしに言葉を続けたー
「ーーそー…そういえば、麻梨奈さんは外でも、そんな感じでー?」
陽介は少しだけ気になってそう言葉を口にするー。
「ーーん?あぁ、外でも男モード全開なのかって?」
着替えながら、麻梨奈はそう言うと、
「外では”わたし、頑張りますっ!”とか、そんな感じだよー」と、笑ったー。
「ーーはははー…麻梨奈さんは外でも家のままだと思ってたー」
陽介がそう言うと、麻梨奈は「ー流石に、会社じゃこんな喋り方はしねぇよー
目立ちすぎるだろ?」と、そう返して来たー。
「ーーー」
陽介は、麻梨奈の手が小刻みに震えているのに気づくー。
”会社の上司”にされたことに恐怖を感じているのだろうかー。
だが、彼女はそんなことを一切口にせず、いつものように気丈に
振る舞い続けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日ー。
”麻梨奈”から、上司と飲んでくると連絡が入ったー。
次女・彩夏は心配そうに
「また、例の上司の人かなー…?」と、そう言葉を口にするー。
「ーそういえば、この前も、麻梨奈さん、俺に愚痴ってたなぁ…」
陽介も少し心配そうにそう言うと、
彩夏は「大丈夫かな…」と、心底心配そうに言葉を口にしたー。
”憑依されている三姉妹”と一緒に暮らす時間が
長くなればなるほど、陽介の中でのイメージは
”ヤバい奴ら”から、だんだんと変化しつつあったー。
三人とも、普通に一生懸命生活しているし、
悪い人達ではない気がするー。
それに、幼馴染でもある彩夏のことは、
”憑依されている”という事実を知った今でも、
”好き”という気持ちが消せずにいたー。
「ーーあははー…麻梨奈お姉ちゃんのことだから、大丈夫でしょ!」
三女の天音がツインテールを揺らしながら笑うー。
「ーーあ、そうだー、わたし、ちょっと出かけて来るね!」
天音は、突然そんなことを口にすると、
そのまま家の外に向かって歩き出すー
「えぇっ!?こんな時間からー!?
一体どこにー!?」
陽介が、天音を心配しながらそんな言葉を口にすると、
天音は「ちょっとお散歩~!」と、笑いながら
そのまま玄関の扉を開き、外へと出て行くー。
そんな様子に、陽介が戸惑っていると、
彩夏は静かに言葉を口にしたー。
「ーきっと、お姉ちゃんを助けに行ったんだねー」
とー。
「えぇっ!?天音ちゃんがー?」
陽介はさらに戸惑うー。
三女・天音が、無理矢理飲み会に参加させられたと思われる
長女の麻梨奈を救いに行ったー…と、でも言うのだろうかー。
その言葉に、振り返る陽介ー。
「ーーーえ、えっ!? じ、じゃ、俺もー」
陽介が天音の後を追おうとするー。
が、彩夏は首を横に振ったー。
「ーー大丈夫ー。”兄貴”はこういう時、頼りになるからー」
そう言い放つ彩夏に対し、陽介は「えっ…?」と、
言葉を口にするー。
彩夏は少しだけ考えてからー、
「前に、”憑依した理由”を聞いたよねー?」と、そんな言葉を口にするー
「え…?あぁ、うんー」
陽介がそう答えると、彩夏は言葉を口にしたー。
「ーこの子たち、”死のうと”してたのー」
彩夏は自分を手で触りながら、そう言葉を口にするー
「え…」
陽介が表情を歪めると、
彩夏は目を閉じながら、当時のことを口にするー。
彩夏たち三姉妹に憑依している”男”たちは、
生まれてすぐに捨てられて、とある孤児院で育った三人なのだというー。
特に、三人はその孤児院の中でも仲が良く、
三人の中で一番年上の男は”兄貴”と呼ばれて、慕われていたのだというー。
そんなある日、もうすぐ成人を迎え、
その孤児院の外に出なくてはいけない日が近付いていたある日ー、
”兄貴”と呼ばれる人物が”憑依薬”なるものを偶然、手に入れて
それを残りの二人に自慢するようにして、見せ付けて来たー。
「ーちょっと、遊んでみようぜー」
”兄貴”と慕われる男はそう言ったー。
残りの二人も、それに賛同するー。
と、言っても、憑依で他人の人生を壊すつもりはなかったー。
本当にちょっとー…遊ぶだけのつもりだったー。
が、三人が憑依する相手を探して、夜の街を歩いている最中だったー。
夜の埠頭で、海に身を投げようとしている三人の女を偶然見かけたー。
それがー、麻梨奈と、彩夏と、天音の三姉妹ー。
「ーーー憑依薬を使って遊ぼうとしていたちょうどその時ー、
自殺しようとしているこの子たちを見つけたのー」
彩夏は、そう言葉を口にするー。
「ーそ、そんなことがー」
陽介は戸惑うー。
時期的には、彩夏が中学を卒業して、高校生だった頃の話だー。
中学まで一緒で、高校は別、大学で再会した陽介にとっては
一時的に彩夏と縁が切れている時期となるー。
「ーーわたしたちは、この子たちに声をかけて説得したー。
でも、ダメだったー」
以前、三姉妹の両親は”事故で死んだ”と、
陽介は説明されているー
その際に、三姉妹が”憑依される前”に両親は死んだのか
それとも”後”に死んだのかを不安に思ったことは今でも覚えているー。
三姉妹が憑依された”あと”に、両親が死んだなら、
この、三姉妹に憑依している男たちが邪魔な両親を消した可能性も
否定はできないからだー。
がー…
「ーーこの子たちの親が、ちょうど事故で死んでしまってー
三人とも、親の後を追おうとしてたみたいでー
それでー、わたしたちは、この子たちの自殺を止めるために、
咄嗟に憑依薬を使って、この子たちに憑依したー」
彩夏はそう説明したー。
そう、三姉妹の両親が”事故で死んだ”のは、
三姉妹が憑依されるよりも前。
つまり、憑依している男たちは無関係ー。
そして、偶然、憑依薬を手に入れてそれで遊ぼうと
街を歩いていた三人が、
両親の死に絶望し、自ら命を絶とうとしていた三姉妹を見かけ、
説得したものの失敗ー。
自殺を止めるには憑依するしかないと男三人は判断して、
そのまま麻梨奈・彩夏・天音の三人に憑依したのだったー。
「ーーただ、
この子たちの意識は、身体から抜けても戻らなくてー…
だからー…今もこうしてわたしたちは、三姉妹として暮らしてるのー」
彩夏によれば”生きる気力を失っている子たちに”憑依したことで、
その意識が消えてしまったようー、とのことだったー。
「ーーそ、そっかー…」
陽介は頷くー。
「ーー話してくれて、ありがとうー」
陽介がそう言うと、彩夏は少し照れくさそうに「う、うんー」と、頷くー。
憑依薬を使って、イタズラをしようとしていたとは言え、
話を聞く限り、彩夏たちに憑依している三人の男は、
悪人ではなさそうな気がしてー、
陽介は安堵するー。
もちろん、彩夏が嘘をついている可能性はあるー。
けれど、これまで一緒に暮らして、
その可能性は低い、とそう思っていたー
「ーーーって、それより、天音ちゃんを止めに行かないとー」
陽介がそう言うと、
彩夏は「ー大丈夫よー。天音の中身は”兄貴”だからー」と、
そう言葉を口にしたー。
三姉妹に憑依している三人の男ー。
そのうちの一人は孤児院時代”兄貴”と呼ばれ、
慕われていた年上の男だと、彩夏はさっき言っていたー。
「ーーー……え…」
陽介が不思議そうに彩夏を見ると、
「ー天音の中身が”兄貴”ー。
だからー、身体は一番年下だけどー…実は中身は一番、年上なのー」と、
彩夏は苦笑いしたー。
いつも男として振る舞っている長女の麻梨奈の”中身”が実は一番年下で、
彩夏の”中身”が中間、そして、天音が”一番年上の兄貴”なのだというー。
「ーえぇぇぇっ!?な、なんで」
陽介がそう言うと、
「自殺しようとしてるこの子たちに慌てて憑依したからー
年齢順に憑依する余裕なんてなかったしー」と、彩夏はそう笑うー。
「ーー…じ、じゃあなんでいつも天音ちゃんは”妹”みたいな振る舞いしてるんだよー?」
陽介が困惑しながらそう言うと、
「ーあ~それは…”兄貴”の趣味だね」
と、彩夏は笑いながらそう答えたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結局ー、
彩夏の言う通り、三女の天音が、長女の麻梨奈を連れて帰って来たー。
麻梨奈の会社の上司は、天音の中身の”兄貴”によって、
あっけなく撃退された様子だったー。
そんな光景を見つめながら、
陽介は笑うー
「ー俺、みんなのこと勘違いしてたー
もっと、極悪人だと思ってたー」
陽介が隣にいる彩夏にそんな言葉を口にすると、
彩夏は少しだけ笑いながら、
「まぁ…みんなを騙し続けてるのは事実だしー、
死のうとしてた子たちが相手とは言え、
こうして、身体も人生も奪っちゃったわけだからー…
極悪人かもよ?」
と、言葉を口にするー。
「ーーー…」
陽介は、そんな言葉を聞きながらも笑うと、
「まぁ、捕まった時は殺されるって思ったけどー…
確かに”憑依”のことを俺に言いふらされたら困るって気持ちは分かるしー、
今なら、それも納得かなー」
と、穏やかな口調で言葉を口にしたー。
「ーーーふふ…そう思ってくれてるなら良かったー」
彩夏が、少しだけ嬉しそうに笑うのを見て、
「でも」と、陽介は言葉を続けたー。
「ーーー人が普段来ない場所とは言え、
あんな普通に”憑依の話題”、電話で話してたら
誰に聞かれてるか分からないし、気を付けた方がいいと思うけどー」
陽介が少し笑いながらそう言うと、
彩夏は「ーーうんー。お姉ちゃんにもそれ、言われたー」と、
申し訳なさそうに言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数か月後ー。
陽介は、”憑依された三姉妹”との同居生活を続けていたー。
長女の麻梨奈から
「お前、別に誰にも言わなそうだし、もう帰ってもいいけど?」と、
言われたものの
「最初は帰りたかったけど、今は、この生活も気に入っているしー」と、
そのまま同居生活を続けているー。
三女の天音からは「下心丸出しじゃ~ん!」などと散々揶揄われたー。
がー、そういう目的ではなく、
今の生活が、何となく居心地が良かったー。
”同居する”と、自分の意思で決めてからは、
三姉妹に対し”家賃も払うから!”と、現在は女子高生の天音を除く
三人で家賃を3分の1ずつ出している状態だー。
そしてーー
「ーほらほら!早く早く!」
「ーーへへへ、大丈夫だって!行って来いよ!」
今日ー、
陽介は、次女の彩夏の部屋の前で
長女の麻梨奈と三女の天音から揶揄われるように
そんな言葉を掛けられていたー
「で、で、で、でもー」
陽介が顔を赤らめながら言うと、
「も~~!じれったい!ほら!早く!」と、天音に
無理矢理部屋の中に押し込まれてしまうー
「ーーわっ!?き、北本くんー!?」
部屋に急に陽介が入ってきて、びっくりした様子の彩夏ー。
そんな彩夏に対して、陽介は照れくさそうな笑みを浮かべると、
「ーーそ、そ、そのー…」
と、言葉を詰まらせるー。
「ーーーえ…??え…?」
戸惑う彩夏ー。
「ーーーーー」
陽介はようやく心の中で意を決すると、
勇気を振り絞って言葉を口にしたー
「ーそ、ーーーその、平井さんのことが、
俺、す、す、好きですー」
緊張のあまり中途半端に敬語になってしまった陽介ー。
顔を真っ赤にしながら
”絶対、”わたしの中身、男だよ?”とか笑われるやつー”と、
内心で思う陽介ー。
がー、陽介から告白された彩夏は驚いた表情を浮かべながらもー
優しい笑顔を浮かべたー
「ーーわたしも、好きだよー」
とー。
その返事に、嬉しそうに顔を上げる陽介ー。
「ーやるじゃん!へへへ!おめでとな!」
「ーーさすが!おめでと~~!」
部屋の外から見ていた長女の麻梨奈と三女の天音が
笑いながら部屋の中に入って来るー。
「ーーちょ!?みんなも見てたの!?」
恥ずかしそうに声を上げる彩夏ー。
そんな様子を微笑ましそうに見つめる陽介ー。
最初は、強引に始まった”憑依された三姉妹”との同居生活ー
けれど、今は
自らの意思でここにいるー。
そして、これから先もー。
「ーー改めて、よろしくねー」
そんな言葉を口にする彩夏ー。
陽介は穏やかな表情で答えたー
「あぁ、こちらこそー」
とー。
おわり
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コメント
最終回でした~!☆
色々ドタバタすることはあっても、
この先も、上手く三姉妹との同居生活を
続けることができそうですネ~!
お読み下さり、ありがとうございました!!☆
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