ある日ー、
”パパ”が女体化してしまったー。
その結果、”ママ”が二人になってしまった
家族の物語…。
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矢島(やじま)家ー。
その家では、今日も穏やかな日常が流れていたー。
父・孝則(たかのり)と、母・恵美(めぐみ)、
そして長男の芳樹(よしき)の三人暮らしー。
夫婦仲も良好で、
5歳になった息子の芳樹も、
そんな両親に大切に育てられていたー。
「ーーあ、パパお帰り~」
父・孝則が仕事から帰って来ると、
嬉しそうに玄関まで走っていく芳樹ー。
「ーただいま芳樹ー。今日もいい子にしてたか~?」
孝則が、芳樹の頭を撫でながら、そんな言葉を掛けると、
「うん!僕、いい子にしてたよ!」と、
少し得意気な表情で言葉を口にするー。
芳樹は、父親とも母親とも大の仲良しー。
いつも、夜になって、父・孝則が帰宅する時間が
近付いてくると、ソワソワ嬉しそうにしているー。
「おかえりなさい」
恵美がそう言葉を掛けると、孝則は「あぁ、ただいまー」と、
カバンから、何かを取り出したー
「ーこれ、海外旅行に行ってた会社の同僚から貰ったおみやげー」
そう言いながら、クッキーのようなものを取り出すとー、
「わぁ~美味しそう」と、恵美は嬉しそうに笑うー
「ーなになに?」
芳樹も興味深そうに、まだ背が低いために
ぴょんぴょん飛び跳ねながら、そのお土産を見ようとするー。
そんな芳樹に気付いて、恵美がしゃがみながら、
お土産を見せると、芳樹も「おいしそう~!」と、声を上げていたー。
雑談を交わしながら、仕事の片づけをしつつ、
”今週の土曜日”の話題を口にし始めるー。
今週の土曜日には、家族で遊園地に行く約束になっているー。
「僕、最初はメリーゴーランドに乗りたい~!」
芳樹が嬉しそうに、遊園地のパンフレットを見つめながら
そう言葉を口にするー
「あ、でも車がいいかな~ あ、飛行機も! あ、船!」
子供らしく、遊園地の乗り物の写真を見て
次々と嬉しそうに騒ぐ芳樹を見て、
微笑ましそうに笑う父・孝則ー。
「ホントはわたしが運転できればよかったんだけどー…」
妻の恵美がそんな言葉を口にすると、
孝則は「いやいやー、全然構わないよー。」と、笑いながら
首を横に振るー。
恵美は運転免許証を持っていないー。
そのため、家族で遠出をするときには、孝則が必ず運転をしているー。
今週は、金曜日に残業を頼まれてしまったために、
前日の帰りが遅く、”疲れているのではないか”と、妻の恵美が
申し訳なさそうにしていたのだー。
「ーー家族と一緒に遊園地に行くのは、俺だって楽しいしー、
恵美と、芳樹が楽しそうにしてくれてれば、それで十分だからー。
そんなこと、気にしなくて大丈夫」
孝則が、恵美に気を遣わせないようにと、そんな言葉を口にすると、
恵美は「そういえば、孝則、デートで遊園地に行った時も
すっごく楽しそうだったもんねー」と、昔を思い出しながら
言葉を口にするー。
「ーははは、いつまでも心は少年だからなー」
孝則は笑いながらそう言うと、懐かしそうに
「初デートの時は、ホント緊張したなぁ…朝はお腹壊したぐらいだし」と、笑うー。
”子供に聞こえる場面”では、基本的にお互いのことを
パパとママで呼んでいる二人ー。
こうして、名前で呼ぶのは、二人で話をしている時が基本で、
前より相手の名前を呼ぶことは減ったような気がするー。
けれどー、
今は何よりも、自分たちの子供である芳樹のことを、
二人とも、とても大切に思っていたー。
がー…
その翌日のことだったー
「そういや、昨日のお土産、食べてみるかー」
朝、会社に行く前に孝則がふと思い出したかのように
そんな言葉を口にする。
「あのクッキー?」
恵美がそう言うと、
「ーそうそう。ほら、同僚に”どうでしたか~?”とか
聞かれるかもしれないし」と、孝則が苦笑いすると、
恵美は「ふふー、たしかにー」と、頷くー。
孝則がお土産のクッキーの箱を開けていると、
息子の芳樹が「え~!僕も食べる~!パパだけずるい~!」と、
そんな言葉を口にし始めるー。
芳樹には見られないように、と、そう思いつつ
気を付けていたつもりではあったものの、
運悪く、急に孝則の方にやってきたために、
バレてしまったー。
そんな芳樹の様子を見て、恵美が芳樹に声を掛けるー。
「ーー芳樹は帰ってきたらねー。
ほら、もう幼稚園に行く準備をしないとだし、
歯磨きも終わってるでしょ?」
しかし、それでも芳樹は少し拗ねた様子で、
「パパだけずるい~!」と言葉を繰り返すー。
「ーはは、ごめんな芳樹ー。
今、我慢できたら、パパが帰りにもっと美味しいお菓子
買ってきてあげるから」
孝則のそんな言葉に、芳樹はようやく納得したのか、
お菓子の名前をいくつか口にすると、
「ーチョコジュニアに、アポロビートに、ハイマスカットだなー。わかった」と、
孝則は静かに頷いたー。
「ーーあ、そろそろお迎えのバスが来る時間ー!
わたし、芳樹を下まで送って来るね」
マンションに住んでいる矢島家ー。
恵美が、そんな言葉を口にすると、
孝則は「あぁ、気を付けてー」と、そう言葉を口にしながら、
お土産のクッキーを箱から一つ取り出し、封を開けたー。
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「ーいってらっしゃ~い!」
幼稚園の送迎バスに乗った芳樹に向かって、手を振ると
恵美は、同じマンションに住むおばさあんと
少し雑談をするー。
「ーー矢島さんの旦那さんはいいわよねぇー。
うちの旦那なんて、飲んで寝て、飲んで寝て、
リビングに寝っ転がってテレビを見て、
また飲んで寝て、だからー」
おばさんのそんな愚痴にも、イヤな顔をせずに
笑みを浮かべる恵美ー。
やがて、おばさんと別れると、
恵美は自分たちの部屋のある3階まで階段を上りー、
家の扉を開いたー。
がーー
「ーーー…め、恵美ー…」
その中にいたのは、夫の孝則ではなくー、
”見知らぬ美人”だったー。
恵美自身も自分では特に気にしたことはないけれど、
それなりに、”美人”と言われる部類ー。
が、そんな恵美よりもさらに美人な女が、
部屋の中にいたー。
「ーーえ…ど、どちら様ですかー?」
恵美は困惑しながら、そう声を上げるー。
「ーーえ… め、恵美ー おちついて聞いてくれー」
部屋の中にいた女は、そんな言葉を口にするー。
「ーーえ…な、何でわたしの名前をー…?」
恵美は、不安そうにそう言い放ちながら、
”浮気”という文字が頭の中に浮かんでくるー。
これまで、孝則は浮気なんかしたことないし、
孝則が浮気をするのではないか、と疑ったことも一度もないー。
だが、こうして家の中に、”見知らぬ女”がいて、
しかも恵美の名前を知っていてー、
かつ、”さっきまで夫である孝則が着ていた服”を身に着けているー。
そんな状況を前に、”孝則は絶対にそんなことしないはず”と、
思いながらも、わずかにそんな不安が膨れだすー。
「ーーお、俺だー恵美ー…
こんな姿だけど、俺なんだー」
女は、そう言ったー。
「ど、どういうことー…?」
混乱する恵美ー。
当たり前の反応と言えるー。
「ーこのクッキーを食べたら、急に胸が苦しくなってー
それでー」
可愛らしい声で、女はそう説明するー。
「ーーー…ま、まさか、孝則なのー?」
恵美が混乱しながらそう言うと、
女は頷いたー。
「ーーほ、ほら、さっきまで着てた服だしー、
俺が急にいなくなって、知らない女が入って来るなんて
あり得ないことだろー?
信じられないと思うけど、頼むー…信じてくれ」
女のそんな言葉に、
恵美は、女の目をじっと見つめるー。
とても、嘘をついているようには見えないしー、
何よりその目はー、”孝則が恵美を見る目”に
よく似ていたー。
「ーーほ、ホントにー…?
で、でもどうしてそんなことー?」
困惑する恵美ー。
その女ー、女体化してしまった夫の孝則は、
お土産にもらったクッキーを食べたら女体化してしまったことを
改めて説明するー。
「ーー……」
恵美は、クッキーのほうを見つめるー。
しかし、恵美の考えを察知したのか、孝則は
「や、やめとけ…!恵美が食べたら今度は恵美が
男になっちゃうかもしれないしー」と、
そんな言葉を口にするー
「ーそ、それもそうねー」
恵美は女体化した孝則の言葉に、納得すると
静かに頷くー。
「ーーー……しかし、参ったなー」
孝則はサイズの合わない服を気にしながら、
そう呟くと、
恵美は「ーーえ?」と、不安そうに言葉を口にするー
「ーこの状況じゃ、会社に行けないしー…
なによりー……」
孝則は、恵美のほうを見つめながら言うー。
「ーー芳樹にどう説明すればいいかー」
孝則の表情は、とても不安そうだったー。
「ーーーーーーそれはー…」
恵美も言葉を詰まらせるー。
恵美でさえ、まだ”目の前にいるのが本当に夫なのかどうか”
困惑しているー。
しかし、状況と話している感じ、その表情や仕草から、
8割ぐらいは信じ始めているー。
けれどー、
それは恵美だからこそー。
まだ、幼稚園に通っている年齢の芳樹に
”パパは今日からもう一人のママになっちゃったんだよー”
なんて説明しても、なかなか理解して貰えないと思うし、
会社に”急に女になってしまってー”なんて言っても、
信じてもらえるとは思えないー。
実際、もしも恵美のパート先の男性の社員が
”お土産で貰ったクッキーを食べたら女になってしまってー”
なんてことを言いながら女性の姿でやってきたら、
恵美は100%信じないと思うー。
「ーーーとりあえず、このクッキーは食べない方がいいー」
孝則はそう言いながら、クッキーの箱を閉じて
”いざと言う時のために”そのクッキーを芳樹の手の
届かない場所へと移動させるー。
「ーそうだー、雪代(ゆきしろ)に聞いてみようー」
孝則は、そう言いながら女体化したことで袖のサイズも
合わなくなってしまったシャツを気にする素振りを見せると、
「ーーそのお土産をくれた人?」と、恵美が確認の言葉を口にする。
「あぁ、何か知ってるかもしれないしー…
こんなこと考えたくはないけど、雪代が俺をはめたのかも…」
孝則がそう呟きながらスマホを手にするー。
しかし、既に職場に向かう時間ー…
同僚の雪代には電話が繋がらず、
とりあえず”声は変だけど、俺は矢島だー。頼む最後まで聞いてくれ”と、
言い放ってから、お土産のクッキーを食べたら女体化してしまった旨を、
雪代のスマホに伝言として残したー。
「ーー雪代から、連絡があればいいけどー」
孝則はそれだけ言うと、
少し顔を赤らめた様子の恵美を見て、
「ん?」と、首を傾げたー
「ーあ、うんー…
そのーね… 服のサイズも合ってないし、
そのー……孝則、何もつけてないからー
見えててー」
と、胸がチラチラと見えてしまっていることを
恥ずかしそうに指摘したー。
急な女体化という緊急事態に、どう信じてもらおうかとか、
これからどうすればいいのかとか、そういうことばかりを
考えていた孝則ー。
が、妻・恵美のそんな言葉に、
急に”自分が女になった”という実感を持たされて
恥ずかしそうに顔を赤らめたー
「ーーえ… えっと…服、どうしようー?
下着とか…つけた方がいいのかー?
あ、いや、恵美のをつけるとかそういう意味じゃなくてー
そのー」
孝則は、想定外の出来事を前に、
戸惑った様子で、そう言葉を口にしたー。
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送迎のバスがやってくる時間になり、
マンションの前にバスがやってくるー
「ママ~!」
息子の芳樹が元気よく戻ってきて、
恵美がそれを笑顔で出迎えるー。
がー、恵美はそんな笑顔とは裏腹に
強い不安を感じていたー。
”芳樹に、パパのことどう説明しようー?”
その答えが、未だに見つかっていなかったー
芳樹が、家の中に入るー。
恵美は、結局話を切り出すことができないまま、
芳樹と共に部屋に戻ってきてしまったー
そしてー…
部屋の中にいる”女体化したパパ”を見て、
芳樹は何度も瞬きを繰り返したー。
「ーママ…この人だれ?
知らない人がいるー…」
不思議そうに”女体化した孝則”を指差す芳樹ー。
そんな息子の言葉に、
女体化した孝則は困惑しながらも、口を開いたー
②へ続く
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コメント
ツイッターでフォロワー様とお話している際に、
「パパがママになっちゃった」みたいな話題が出て来て、面白そうなので
それを物語として、私が実際に書いてみることにした作品デス~!
(相手のフォロワー様にもお伝えしてあります~!★)
女体化してしまったパパを前に、
家族がどんな風に生活していくことになるのか、
この先もぜひ楽しんでくださいネ~!
今日もありがとうございました~!
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