彼は、突然の交通事故により、
命を落としてしまったー。
しかし、彼は目撃するー。
自分の事故現場に群がる”野次馬”たちをー。
その中には笑いながらスマホで動画を撮影している者や、
楽しそうにしている者もいたー。
それを見た彼は”野次馬たち”に怒りを燃やすー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
突然の出来事だったー。
確かに、車道は赤信号だったし、
横断歩道の信号は青信号だった。
そのことに間違いはないー。
横断歩道の信号が点滅していたわけでもなく、
曲がろうとしている車がいたわけでもないー。
ただ、普通に”停車していたはずの車”が、
突然走り出しーー
彼ー、久保山 幸成(くぼやま ゆきなり)は、
その車を避けることができず、
轢かれてしまったー。
見る限り、ほぼ即死だったのだろうー。
「ったくー…ふざけやがってー」
冷めた性格のサラリーマンである幸成は、
うんざりとした表情でそう呟いたー。
社会人4年目ー。
社会の歯車として会社に酷使され、
何の変哲もない人生を送る日々ー。
しかし、彼は今までの人生も”希望を持たない”
そして”期待しない”ことで、乗り切って来たー。
最初から夢など抱かずに、冷めた考えをしていれば
何かに失敗した時でも、堂々と構えていることができるー。
「ーーーーーはぁ、ありゃ死んだなー」
車に轢かれた自分は、
見るも無残な姿になっていたー。
確実に死んだー。
幸成はそう確信した。
だが、不思議なことに幸成は今、こうして
自分の事故現場の上でふわふわと浮遊しているー。
「死んだら終わりって思ってたけど、
ホントに漫画みたいなこともあるんだな」
幸成はそう呟くー。
横断歩道で自分が死んでいるのに、
自分がこうして浮いているということは
つまり、自分が幽霊になったということだ。
死んだら何もない無の世界に一瞬にして飛ばされるという
そんな冷めた考えを持っていた幸成からしてみれば
仮にこのあと、成仏したり、お迎えが来るのだとしても、
”死んだあとの時間”があることに驚きを感じていたー。
「あ~~あ~~~あ~~~…そういうことかー」
幸成はため息をつくー。
赤信号で停車していたはずなのに、
いきなり急発進して幸成を轢きー、
そのまま近くのガードレールに激突して停車した車から出て来たのはー
いかにも”おじいさん”という感じの運転手だったー。
70代ー、下手をすれば80代にも見えるー。
今まで、幸成自身もテレビで”高齢者の運転する車による事故”を何度も
目撃してきたが、
まさか、自分自身がこのような形でそれに
巻き込まれてしまうなどとは、夢にも思わなかったー
「ーーは~~~…俺の人生も、ここで終わりか」
幸成は冷めた様子でそう呟くー。
「まぁ、生きている間は生きて、死んだらそれまでだしー、
別にいいけどなー」
幸成は、そんな言葉を口にすると、
”成仏ってどうやってするんだ?”と、首を傾げながら
周囲を見渡したー。
がー…
ふと、自分の事故現場の周辺にたくさんの人だかりが
出来ていることに気が付くー。
「ーーーー」
幸成は最初、”野次馬か”などと思いつつ、
そんな光景を無感情で見つめていたものの、
やがて、カップルの女が、幸成の事故現場を
楽しそうにスマホで撮影しているのが目に入ったー
「ねぇねぇヤバくないー?
うわっ!血がすごいー!」
彼女の方が、そんな言葉を口にしながら
写真を撮り続けているー。
「ーあははは やめとけやめとけ~!
呪われるぞ~」
彼氏の方が面白そうに笑いながら
そんな言葉を口にするー
”やめとけ”などと言いながら
本気で止める気はないー。
そんな風に、見える。
少し腹立たしく思いながらも、
そんな光景を見つめていると、
やがて、他にも”同じような野次馬”がいることに気付いたー
スマホで写真を撮っている男ー。
「ーーこういうの撮影しておくと、お金になるんだから!」
などと、笑いながら同性の友達と一緒に写真を撮っている女子高生ー。
「ーーうぉぉぉ~いいねがたくさんついてる!」
などと、事故現場の写真で喜ぶ男ー。
そんな光景を見ていた幸成は思わず舌打ちをしたー。
”クソがー…俺の死に群がりやがってー”
幸成は、そんな風に思うー。
”俺が死んだのがそんなに楽しいかー?何笑ってやがるー
俺の死体は見世物じゃないぞ?”
幸成の中に憎しみが膨れ上がっていくー。
そしてー…成仏しようとしていた幸成は、
成仏せずに、宙に浮いている身体を動かし、地面まで
移動していくー。
「呪われたりしないよ~!大丈夫ー」
さっきのカップルの女が、そんな言葉を口にしながら、
幸成の死体の方に歩いていくー。
間もなく警察も到着するとは思うが、
まだ到着していないため、
幸成の死体に一般人も近づける状態ー。
「ーおいおいおいおい!真梨香(まりか)!
マジで呪われるぞ!?」
そんな言葉を口にする彼氏ー
今度はちょっとだけ真剣に見えるー
真梨香と呼ばれた女は
「うっわ~~~!ひっど~い!」と
面白そうに幸成の死体を見つめるー
無残な死体を見つめながら笑う真梨香ー
そんな態度を見て、ついに腹が立った幸成はー、
”幽霊ってことはー”と、真梨香の身体に、自分の霊体を
重ねてみたー。
するとーーー
「ーーうっ…!」
真梨香がうめき声を上げてー、
突然、自分に人間の身体の感触が戻って来たー。
事故が起きた上に、平気で遺体に近付いていく真梨香が
登場したことで、現場は騒然としている状態ー。
周囲をキョロキョロしながら”憑依”に成功したことを
確信した幸成は、
「みんな…俺の死を面白おかしく見やがってー…」と、
真梨香の身体で小声で呟くと、
野次馬たちを見つめながら笑みを浮かべたー
「あはっ♡」
真梨香は嬉しそうに笑うと、
突然、その場で自分の首を絞め始めるー。
「ーーーお、おいっ!?真梨香!?」
彼氏の男が慌てた様子で叫ぶー。
「ーうふふふふふ…♡ ふふっ…ふふふふふふふ♡」
真梨香は青ざめながらも笑みを浮かべて、
自分の手で自分の首を絞めているー。
真梨香に憑依している幸成自身にも、
真梨香の身体を通じて苦痛が伝わってくるー。
が、そんなことどうでもよかったー。
どうせもう自分は死んだのだー。
何もしてこない人に危害を加えるつもりはないがー、
こういう、人の死をあざ笑うやつは許せなかったー。
もちろん、自分が生きているうちにこんなことをしたら
罪に問われることになる。
しかし、既に”俺”は死んでいるー。
だから、幸成はその手を止めなかったー
「ぁ…… がっ…」
笑っていた真梨香の顔から生気がみるみる消え失せていくー。
「お、おいっ!やめろって!な、何だよこれ!おいっ!」
彼氏が真梨香に近付いて、真梨香に手を離させようとするー。
が、幸成に憑依されている真梨香は、
彼氏を振り払うと、苦しい表情のまま、少しだけニヤリと笑みを浮かべたー
”こいつの意識、戻すことできるのかな?”
幸成はそんなことを思いながら、
感覚的に、少しだけ”支配”を緩めてみるー
するとー
真梨香の意識が少しだけ表面に出て来たー
「ーー!?!?
た…… たすけ……」
真梨香はそれだけ呟くと、そのままその場に倒れ込むー
「ーーおっと…」
真梨香の身体から飛び出した幸成は、気を失って倒れ込んでいる真梨香を見て、
笑みを浮かべるー。
自分で自分の首を絞めても、恐らくは完全に死ぬ前に意識を失うー。
そう思ったからこそ、こうしたー。
ぐったり倒れ込んで意識を失っている真梨香の”手”からは力が抜けー、
もう、首を絞めるような動作はしていないー。
そのうち、意識は取り戻すだろうー。
命まで奪うつもりはないー。
だが、人の死を笑った真梨香にこうして腹いせをしてやりたかったー。
幸成は、霊体に戻ってその様子を見つめていると、
周囲からは悲鳴も上がっていたー
”呪われるー”
とー。
”はははー…
まぁ、でも、確かに死んだ俺のしわざだから
呪いって言うのかもなー”
幸成はそんな風に思いながら、
続けて”こういのを撮影するとお金になる”などと友達と
笑っていた女子高生のほうを見つめたー。
”次はお前だ”
そう、思いながら、霊体をその子に向かわせていくー
「ね…ねぇ…八恵(やえ)…早くいこっ…やばいよ」
一緒にいた友達がそう言い放つも、
八恵と呼ばれた子は、まだ、幸成の遺体の方にカメラを向けて
「わたしの…お小遣い!」と、そう叫んでいるー。
”俺の死をお前のお小遣いにしてやるつもりはねぇぞ”
幸成は不満そうにそう呟くと、
そのまま八恵と呼ばれた女子高生に憑依したー。
「ーーぁ…」
スマホを手にしていた八恵がピクッと震えるー。
そんな様子に気付いた友達は、不安そうに「八恵…?」と
そんな言葉を口にするー
「ーーえへへへ…そんなにお小遣いが欲しいなら~…
もっと手っ取り早い方法があるよ~」
八恵が急にそんな言葉を口にすると、
突然、自撮りを繰り返し始めるー。
「や…八恵…な、何やってんの!?」
戸惑う友達ー。
しかし、憑依された八恵はそんな友達などお構いなしに
自分をスマホで撮影し続けるー。
さらには色々なポーズをしながら、可愛らしい写真を撮ったり、
ついには制服を少し着崩して、妖艶な笑みを浮かべた状態で
写真を撮ったりし始めるー
「ーちょ、ちょっと!?八恵ー!?」
戸惑う友達ー。
八恵はそれを無視して、
「ーこんなに可愛いんだから、事故現場なんか撮影するより
この方が儲かるに決まってるじゃ~ん!」と、笑いながら
次々と自分の写真を勝手にSNS上に上げていくー。
SNSに自分の写真を載せるだけでは
利益など発生しないが、
そんなことは幸成にとってどうでもよかったー。
「ーえへへへ…スカートの中も撮っちゃお」
自分で自分のスカートの中を撮影する異様な光景に、
まだ事故現場に残っていた人たちは困惑するー。
「ーや、八恵!やめなよ!」
友達が、八恵を止めようとするー。
「ーー邪魔すんな!」
八恵は声を荒げながら友達を突き飛ばすと、
「ーお前も”俺”の事故現場見て笑ってたよなー」と、笑みを浮かべるー
「ーーお…俺…?ど、どうしちゃったのー?」
震えながら、そんな言葉を口にする友達ー
「ー”次”は、お前の番だから、楽しみにしてな」
八恵のそんな言葉に、
友達は怯えた表情で後ずさっていくー。
「ーーー…」
そして、そのまま一目散に逃げ始めたー。
八恵の異変を察知し、
八恵を見捨てて一人、助かろうとしているようだー。
「あ~あ~あ、友達に見捨てられちゃったよ」
八恵はニヤニヤしながらそう言うと、
「ーーああいうやつ、ムカつくんだよなー」
と、笑みを消して、真顔で怒りを露わにしながら呟いたー。
「まぁ、まずはー…この金儲け女に金を稼がせてやらないとなぁ」
そう言いながら、たった今、自分で撮影した写真の
数々をネット上に載せていきながら
ニヤニヤと笑みを浮かべるー。
「ーくくくくく…ほらほら、早速たくさんの反応が来たぞー?
この状況を利用すれば、金も稼げるんじゃないかー?」
ニヤニヤしながら、独り言をつぶやく八恵ー。
やがて、八恵はその場で突然倒れ込んで意識を失うー。
「ーーーー」
八恵の身体から抜け出した幸成は周囲を見渡すー。
先程”いいねがたくさんついてる!”などと、
事故現場で騒いでいた男にも憑依すると、
”いっぱいいいねがつくこと、させてやるぜー”と、
小声で笑みを浮かべながら呟くー。
手短にその男への”お仕置き”を終えるとー、
自分の遺体に群がる野次馬たちを見つめながら、
幸成は静かに舌打ちをするー。
「ーしっかし、人が死んだってのに楽しそうだよなーこいつら」
そう呟くと、幸成は、八恵が意識を取り戻して
怯えた表情で周囲を見渡すのを見つめながら、
”さてさて、あの子の友達にもお仕置きしないとな”と、
静かに笑みを浮かべたー
<後編>へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
自分の事故現場で幽霊になってしまい、
そこに集まる人たちに怒りを覚える憑依モノ…というテーマで
生まれた作品デス~!
火曜日(前は土曜日でした)のみ予約投稿の都合上、
続きは来週になりますが、楽しみにしていて下さいネ~!
コメント
野次馬って、事故や火事とかにあった当事者からしたら、きっと死ぬ程、腹が立つ存在なんでしょうね。
今のところは、まだ手酷く、人生を破壊するレベルの報復はしていませんが、その内、エスカレートしていきそうで、結末がどうなるか怖いですね。
コメントありがとうございます~!★
確かに、当事者に意識があったら、イヤな気持になりそうですネ~…!
エスカレートするのか、このまま淡々と進むのか、
次回のお楽しみデス~!