優雅な独身貴族ライフを送っていた男が、
見知らぬお母さんと入れ替わってしまった…。
そんな状況の中、子供嫌いの彼は、
元に戻れるまでの間、”お母さん”をやることになってしまうー
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帰宅した香織(修武)は、
うんざりした表情を浮かべながら
手を洗っていたー
「あぁ、汚いなぁ…もう…
ガキって平気でああいう風に泥まみれになるから嫌いなんだよー」
香織の息子・竜太から泥まみれの手で手を繋がれた
香織(修武)は必死に手を洗いながら、そんな愚痴を
口にするー。
「ねぇねぇお母さん~!おなかすいた~!」
手を洗っている最中にも、容赦なく竜太は
そんな言葉を口にするー
「チッ」
香織(修武)は小さく舌打ちをしながらも、
子供に対してはそういう態度を見せずに、
「ーちょっと待ってて~!」と、声を上げるー。
”あぁぁぁ クソクソクソ…なんで俺がこんなことをー”
見知らぬ母親と入れ替わってしまったこと自体、
彼にとっては災難だったが、
まだ”香織の身体で修武の家に帰宅”できた方が良かったー。
それなら、少なくとものんびりは出来たし、
何なら寝ることもできたー。
がー、子供がいるとそうはいかないー。
「ね~~!おなかすいた~!」
また竜太がそんな声を上げるー
「ーーーーーー」
手を洗い終えていた香織(修武)は、ふと鏡を見ると、
”クソガキが”と言わんばかりの物凄く怖い顔をしていて、
自分でも”いや、この顔はやべぇー。お母さんにさせる顔じゃねぇ”と、
鬼の形相の香織の顔を鏡で見て、ため息をつくー
「ーーーじゃあ、今からご飯作るからね~!」
香織として、そんな風に言いながら、
晩御飯を作り始める香織(修武)
そうー
社会人と同じだと思えばいいー。
どんなにクソな上司であろうと、社会では”社交辞令”というスキルが
役に立つー。
このクソガキも、上司だと思えばいいー
”そうだー。社交辞令だー。
嫌な客にも、イヤな上司にも笑顔で接するー
俺には、そんなスキルがあるじゃないか”
そんなことを思いながら、香織(修武)は、
冷蔵庫の食材を見つめながら
「よし!」と、笑みを浮かべたー。
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修武になった香織は、
修武からも”俺の家で過ごしていてもいいですよ”と
言われていたために、
修武の家にやってきていたー。
「ーーすごいー」
修武(香織)は、修武の部屋の中を見つめて感心するー。
綺麗に整理整頓されていてー、
それでいて、神経質すぎるという印象は与えない、
しっかりとした家の中。
音楽と漫画ー、旅行が趣味らしくー、
楽器が一つ置かれているほか、漫画本が並んだ本棚、
それに、旅行中に撮影したと思われる写真のようなものが
並んでいたー。
「あ、この漫画ー」
修武(香織)は、そんなことを口にしながら、
漫画本を一つ手に取るー。
がー、そういえば入れ替わってから一度もトイレに行っていなかったため、
トイレに行きたくなってきた、と思いながら
トイレのほうを見つめる修武(香織)ー。
「ーーーー……そ、そういえば男の人のトイレってー…」
”どうやってすればいいんだっけー?”と、
首を傾げながら、修武(香織)は、”と、とにかく漏らすわけにはいかないもんね”と、
そのまま足早にトイレの方に向かって行ったー。
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「ーーーまずっ」
竜太が、そんな言葉を口にするー
「ーーは?」
香織(修武)は思わず、反射的にそんな言葉を口にしたー
「まずっ!僕、これ嫌いー
他のがいいー」
そう呟く竜太は、
香織(修武)が作った”親子丼”を、一口食べただけで、
もうこれ以上食べる気がないー、という様子を見せ始めるー。
”はぁ???ったく、なら自分で作れよな!”
料理は決して下手ではないが、
子供に向けた料理を作ることに関しては、超がつくほど苦手ー。
味付けも大人向けだし、
そもそも親子丼は、子供が喜ぶ可能性はそんなに高くはないー。
机の下で、イライラしながら足をトントンとさせる香織(修武)ー
だが、さっきの”鬼”のような香織の顔を思い出して
”子を持つ母親にそんな顔させちゃいけない”と、思い直して
笑顔を浮かべるー。
「ーじ、じゃあ、食べなくてもいいよ~ごめんね~」
そう言いながら香織(修武)が、無理に笑うと、
竜太は「え~!他のが食べたい~!」と駄々をこね始めるー
「ーーは!?他の!?」
香織(修武)が、思わず声を上げると、
竜太は「だってこれまずいんだもん!」と、親子丼を指差したー
”く、くそっ…”
そう思いながらイライラして親子丼をがつがつと香織(修武)が
食べ終えると、そのまま冷凍庫を見つめたー。
そこには、グラタンが入っているー。
「ーーじ、じゃあ、竜太~グラタン食べる~?」
グラタンが好きかどうかは知らないが、
何となく好きそうな気がしてそう確認すると、
竜太は「え!?グラタン!?食べる食べる!」と嬉しそうにはしゃぎだしたー
”ーやっぱガキは嫌いだー”
そんなことを思いながら、香織(修武)は冷凍食品の
グラタンを電子レンジで温め始めたー。
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晩御飯が終わり、ひと息つく香織(修武)ー。
家の中を見る限り、
”夫”はこの家にはいないようだー。
既に離婚しているか、あるいは元々シングルマザーなのかー
いや、単身赴任や死別、入院中の可能性も考えられるー。
そう思いながら、さりげなく息子の竜太に、
「ーあのさー、お父さんはー」というようなことを聞いてみると、
竜太は「おとうさんはー、どっか行っちゃった!」と、
そんな言葉を口にしたー。
「ふ~ん…」
そうこうしているうちに、修武(香織)から
スマホに連絡が入り、確認すると、
色々な連絡事項や、家に帰ってからの状況報告ー、
そして、”言い忘れちゃいましたが、夫とは離婚しているので、
家にはわたしと竜太しかいませんー”と、そう、書かれていたー。
「ーーあぁ、離婚かー…」
香織(修武)はそう呟くと、
スマホをいじりながら、
”そうだ、会社へのメール、送らないとなー”と、
元々、入れ替わる前からするつもりだった連絡事項の送信を行おうとするー。
がーーー
「お母さん~!おふろ~!」
竜太が、そんな言葉を口にしてくるー。
「ーーん?あ~お風呂は沸かしてあるよ~!
もう入る時間?」
香織(修武)が”うるせぇなー”と、思いながらも
”社交辞令モード”で笑顔を浮かべながらそう言うと、
竜太は
「ーーお母さんが先に入るんでしょ」
と、そう言葉を口にしたー
「ーーん?あぁ、そうだっけー?ごめんねー」
香織(修武)はそう呟くと、
”くそ、じゃあ、メールは後にするか”と思いながら
お風呂に向かうー。
流石に”女”としてお風呂に入るのは、
多少、ドキドキするー。
いくら興味がないとは言え、
いつもとは違う経験に、なんとなくドキドキするー。
「ーーあぁ、髪長いと洗うの面倒臭いなー」
髪をバッサリ切りたい衝動に駆られながらも
”まぁ、人の身体だしなー”と、我慢しながら、
身体も洗っていくー。
”ん~胸の洗い方はこれでいいのか?”
困惑した表情を浮かべて、ようやく身体を洗い終えると、
香織(修武)はようやく浴槽の中に入るー。
「は~~~~…ったくー」
疲れた表情を浮かべながら、
好きなバンドグループの曲の鼻歌を歌いつつ、
お風呂でのんびりする香織(修武)
”お母さんまだ~~?”
そんな竜太の声が聞こえて来てー
”あぁ、ガキがいるとのんびりもできねぇな!”と、
思いながら、適当に返事をして、そのままお風呂から出るー。
すると、そこに竜太が待っていたー。
「ーあ、もう入る?入るなら空いたよ」
香織(修武)がそう言うと、
竜太は「え?」と、声を上げるー。
「え?」
香織(修武)も首を傾げると、
竜太は、修武からしてみれば信じられない言葉を口にしたー。
「ーーー僕ー、一人じゃお風呂入れないよー」
とー。
「ーーーあ?なんだって?」
香織(修武)は思わず不機嫌そうにそんな言葉を口にするー。
「ーーいつも、僕、お母さんと一緒にお風呂に入ってるしー」
竜太のそんな言葉に、
香織(修武)は心の中で”あ~~~面倒くせぇ”と思いながらも
「ーり、り、竜太ももう1年生なんだし、そろそろ一人でお風呂に入らなくちゃ~」と、
ニコニコしながら言うー。
子供が何歳ぐらいから一人でお風呂に入るのかはあまり知らないが、
もう一人でも入れるだろう、と思いつつそう言葉を口にするー。
しかしー
「ーやだ!お母さんと入る!」
竜太が引く様子はないー。
”く、く、クソガキだなオイ!!”
香織(修武)は露骨にイライラしそうになりながらも、
「あ~もう、分かった!洗ってあげるから!」と、うんざりした様子で
お風呂の中に引き返して行ったー。
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「あ~ひどい目に遭ったー」
ぐったりする香織(修武)ー。
香織の家の中は一見すると、整ってはいるものの、
修武から見れば、”気になるところ”がそれなりにあるー。
「ーーんだよこれー…ここ壊れたままじゃんかー」
「ーーあ~…こういうの、大変なんだよなー」
「ーーーん~…扉がキーキー音を立ててるなー」
色々な部分を気にしながら、香織(修武)は
”やることもないし”と、出来る範囲内で家の気になる部分を
直していくー
「ーお母さん~~!」
”んだよ!今度は何だ!?”
そう思いながら、声のした方に向かうと、
竜太が「トイレ我慢してたら漏れちゃったー」と、
濡れたズボンを恥ずかしそうに触りながら言うー。
「ーーーえぇぇ!?トイレちゃんと行きなよー
なんで我慢すんの?」
ついつい苛立った香織(修武)がそんなことを言うと、
竜太は、「ごめんなさい」と言いながら
泣き出してしまうー。
「あ~~くそっ…俺が悪者にされてる気分だー」
小声でそう呟きながら、香織(修武)は
「あ~あ~ごめん、ごめんね~」と、言いながら、
不愉快そうにそのズボンの処理をして、
もう一度お風呂に引き返し、
そして、新しいズボンを履かせたー。
「ーーくっそ…疲れたー…」
香織(修武)が、そう呟いていると、
スマホに修武(香織)から電話が掛かって来たー。
”色々すみませんー”
状況を報告すると、修武(香織)は申し訳なさそうに
そんな言葉を口にするー。
「ーいや、別にいいですけどー
あ、そういえば家の中に色々気になるところが
あったので直しておきましたー」
香織(修武)が、元に戻った時に急に驚かれると
それはそれで面倒だと思い、
扉の音を直したことなどを伝えていくー。
”あ、ありがとうございますー”
修武(香織)のそんな言葉に、
冗談めいた口調で、香織(修武)が愚痴を呟くと、
修武(香織)は”ごめんなさいー”と、申し訳なさそうに言葉を口にしたー
”わたし、昔からどこか抜けててー
頑張ってるつもりではあるんですけどー…
竜太もそんなやんちゃな子になっちゃいましたしー
夫には”お前はマヌケすぎる”なんて言われて浮気されちゃいましたしー”
そんな風に自分のことを語る修武(香織)ー
「ーーーー……」
その言葉を聞いて、香織(修武)は何だか少し申し訳ない気持ちに
なりながら、
「ーーいやぁ、まぁ、竜太くんはやんちゃではありますけどー
ちゃんと、育ってると思いますよー。」
と、そんな言葉を口にするー。
「ーーーそれと、妻がマヌケだからって、浮気していい、なんてことには
なりませんからねー。
それは、あなたは悪くないんじゃないですか?
浮気するようなやつは、俺みたいに独身貴族でいればいいんですー。
まぁ、俺はそもそも興味がないので浮気もしませんけどね」
香織(修武)は、下手ながらも、そんな慰めの言葉を口にすると、
修武(香織)は少し嬉しそうに”ありがとうございますー”と、
そんな言葉を口にしたー
その時だったー
「ーお母さん~!ゲームやろ~!」
と、竜太がそんな声を掛けて来たー。
家にあったゲーム機がいつの間にか用意されていて、
竜太は寝る前にいつも少しだけゲームで遊んでいるのだというー。
”すみませんー色々付き合わせちゃって”
電話の向こうの修武(香織)がそう言うと、
「ーあはは、俺はゲーム得意ですから、ま、対戦するぐらいいいですよ」
と、香織(修武)はそう言い放ったー
”明日には元に戻ってるといいですねー”などという会話をして
”おやすみなさい”と二人で挨拶を交わすと、
そのまま電話を切って、香織(修武)は
にやりと笑みを浮かべたー
”へへーちょっとこのクソガキを懲らしめてやるかー”
そう思いながら笑う香織(修武)ー
懲らしめる、と言っても悪いことをするわけではなく、
ゲームの対戦でコテンパンにやっつけるだけだー。
ちょっとした、香織(修武)の仕返しー。
対戦が始まり、香織の息子、竜太が張り切る中ー、
香織(修武)は圧倒的腕前で、竜太に何度も何度も買って見せるー
「あははは!竜太、よわ~い!」
調子に乗ってつい、そんなことを口にしてしまう香織(修武)ー
がーー
そんな香織(修武)を見て、竜太は頬を膨らませながら言葉を口にしたー
「ーお母さんがこんなに強いはずない!」
とー。
「え?」
香織(修武)が表情を歪めるー
「ーお前、お母さんじゃないな!お母さんはどこ?お母さんを返せ!」
突然、そう叫び出した竜太に、
香織(修武)は、困惑の表情を浮かべながら、
やっとの思いで笑顔を浮かべると、
「お、お母さんだよ~♡」
と、竜太に対して笑顔を振りまいたー
「嘘だ!お母さんを返せ!」
竜太は、なおもそう言い放つー。
その言葉に、香織(修武)は
”く、くそっ!何でそんなところだけ勘が鋭いんだよ!?ホントクソガキだな!”と、
思いながら、表情を歪めたー。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!
独身貴族男と、見知らぬお母さんの入れ替わりの結末を、
ぜひ見届けて下さいネ~!
今日もありがとうございました~!
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