<皮>帰還した侵略者①~帰って来た彼女~

”人類が移住可能な惑星”を目指して、
宇宙探索を行っていた宇宙船。

その探索チームが1年振りに、地球へと帰還したー。

しかしー…人類は知らない。
帰還した人々は、全員”宇宙人”に皮にされて支配されていることをー。

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その日、地球では、お祝いムードが漂っていたー。

その理由は簡単だったー。
1年前、地球を飛び立った調査隊のひとつが、
地球に帰還する日だったからだー。

西暦2580年ー。
地球は”永遠”ではないー。
いずれは、太陽が膨張を始め、必ず滅びの運命を迎えるー。

もちろん、それは”今すぐ”という話ではないー。

しかし、人類が移住可能な星を早い段階から調査し、
見つけておくことこそが、人類存続の道であると、
この時代では、発展した技術を用い、
宇宙探査が頻繁に行われていたー。

人類は、2500年頃から、複数の宇宙船を定期的に宇宙に放ち、
”人類が移住可能な惑星”を探索しているー。

残念ながら、今の時点ではそういう
星は見つかってはいないものの、
宇宙での調査は、様々な発見や恩恵を、地球上にももたらしていたー。

そして、今日ー。
調査隊のひとつが地球へと帰還するー。

今回、帰還するのは、
日本の大企業が開発した調査船に乗る調査隊で、
8名の調査隊が搭乗しているー。

8名の家族や知り合いたちは、
”大切な人”の帰還を心待ちにしていたー。

「ーーーー文香(ふみか)」
その8名のうちの一人、医療スタッフとして調査隊に参加した、
山園 文香(やまぞの ふみか)の彼氏である
村越 秀太(むらこし しゅうた)も、
”調査隊”の帰還を心待ちにしている人間の一人ー。

文香は、小さい頃から、自然や宇宙に興味があって、
”調査隊”の医療スタッフを募集しているのを見て、
彼氏である秀太に相談した上で応募、
見事に数万の応募者の中から選ばれて、1年前、宇宙へと旅立って行ったー。

文香はまだ20代中盤だが、
”宇宙での調査”は身体に少なからず負担がかかるために、
基本的に20代~30代が推奨されており、
今回、帰還する調査隊の隊員も8名中7名が20~30代で構成されていたー。

「ーーー間もなく、調査船”FUJI”が帰還しますー」
そんな言葉と共に、秀太や、他の家族や関係者たちが湧き上がるー。

拍手をしている者もいるー。

「ーーー…」
秀太も、この日を心待ちにしていたー。

1年間、文香と別れることになるのは辛かったし、
文香自身、宇宙調査に参加するかどうかはかなり迷っていたー。

宇宙と地上では”気軽に電話”をすることもできないために、
基本的には”1年間”、通話やメッセージのやり取りもほとんどできないからだー。

だが、そんな文香を後押ししたのが秀太だったー。

「ー大丈夫。文香の夢でもあったんだろー?
 宇宙、見て来いよー。
 今を逃したら、永遠に宇宙に行けないかもしれないしー、
 それに、俺は”夢に向かって頑張る”文香が好きだからー」

秀太はそんな言葉を口にしながらー、

「ーーまぁ…ちょっとは寂しいけどー…
 でも、応援するー」

と、照れくさそうに、文香を後押ししたのだー。

そんな言葉を聞いた文香は、
嬉しそうに微笑んでから、
「ーーありがとうー。秀太のおかげで、宇宙に行く決心がついたー」と、
そんな言葉を口にしていたー。

そしてーーー

「ーーねぇ…宇宙から戻ってきたらー、わたしたちー…」
文香が、そんな言葉を切り出すー。

文香が何を言いたいのかは、すぐに理解した。

秀太は
「ーーーははー。分かったー。
 とびっきりのプロポーズ、考えておくよー」
と、笑顔で答えると、
文香は少しだけ恥ずかしそうに、
「ーあ!大勢の前でサプライズ~!とか、わたし苦手だから、
 それは控えめに…ね?」と、
冗談っぽく笑いながら言葉を口にしたー。

そんな文香が、今日、帰還するー。

地上に着陸した宇宙船”FUJI”から、
調査隊の隊長である、倉本 勝義(くらもと かつよし)が降りたつー。

久しぶりの地上だからだろうか、勝義は少し眩しそうに
周囲を見渡してから、ゆっくりと地上を歩き出すー。

その後に、数名の調査隊員が続きー、
ついに、秀太の彼女である文香も姿を現したー。

1年前と変わらぬ姿ー。
綺麗な黒髪を揺らしながら、文香は少し緊張した様子で、
周囲を見渡しているー。

「ーーー文香ーよかったー」
”調査隊8名”全員無事に帰還、という情報は事前に入ってはいたものの、
こうして実際に大切な人の姿をこの目で目撃すると、
やっぱりまた、安心感のようなものが込み上げて来る。

調査隊8名は、メディカルチェックなどを経て、
その後、調査報告などを行ってから
”解散”となるー。
完全に自由になるのは数日後だが、
地球上に帰還したことで、電話などをする時間も確保されており、
久しぶりに、文香と話をすることができるー。

「ーーーまずは、お疲れ様、だなー」
秀太は、そんなことを思いながら、歩いていく文香の姿を
少し離れた場所から見つめー、安堵の表情を浮かべたー。

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調査隊のメディカルチェックを終えて、
控室に入った8人ーーーー

「ーーーーー」
だが、その8人は、全員無表情だったー。

「ーーー”感情”と言うものは理解できぬな」
隊長の勝義がそんな言葉を口にするー。

「ーーーでも、”感情”はちゃんと利用しないとー、ね?」
調査隊の一員で、最年少の現役女子大生・梓(あずさ)が
そんな言葉を口にするー。

帰還した調査隊員たちの様子が、何やらおかしいー。

「ーーーしかし、”人間”は愚かなものだなー…
 ”身体”さえ健康であればメディカルチェックとやらも
 簡単に通過してしまうー」

そんな言葉を口にしたのはー、
秀太の彼女、文香ー。

「ーーークククー
 ”侵略者”を歓迎するとは、愚かな下等生物たちだー」

文香はそう呟くと、邪悪な笑みを浮かべるー。

「ー”自由”になったら、手はず通りにー」

文香はそんな言葉を口にしながらー、
後頭部のあたりに手を触れるーーー

そしてーー
文香はその手で”自分”を引き裂くようにして、
”脱ぐ”とー、
中から銀色の不気味な人型のー…
一見サイボーグにも見えるような得体の知れない
生命体が首だけ姿を現したー。

「ーー”皮”にした人間を使い、侵略の第1段階を始めるー」
文香を首元あたりまで”脱いだ”謎の生命体は
そう言い放つと、何の感情も感じさせない顔を少しだけ
動かしながらー再び”文香”の皮を着るのだったー。

人類は、知らないー
調査隊員8名は、宇宙に旅立ってから半年ほどのタイミングで
”未知の惑星”を発見したー。

知的生命体の存在していたその惑星でー、
文香たち8人は、一人残らず”皮”にされて、
その星の宇宙人に乗っ取られてしまったのだー。

そうとも知らずにー、
人類は”同胞”ではなく、”侵略者”になり果てた8人を
”歓迎”してしまったー。

この先に起きる、恐怖も知らずにー。

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「ーー調査、お疲れ様ー」

”1年振り”の電話ー。
秀太は穏やかな口調でそう言い放つと、
文香は”ありがとう”だけ、言葉を口にしたー。

話をすれば、それに乗っては来るものの、
心なしか、口数が少ない気がするー。

そんな風に思いながら、秀太は
「今日は疲れているみたいだし、このぐらいにしておこうかー」と、
提案すると、
文香は”そうね”と、答えるー。

「ーーー…」
秀太は、思ったより文香の反応が”薄い”感じであることに
少し心配そうにしながらも、
「ーじゃあ、来週、会えるのを楽しみにしてるよ」と、そう伝えると、
文香は”わたしもー。おやすみなさい”と、そんな言葉を返して来たー。

電話を終えて、安堵のため息を吐きだす秀太ー。

ただ、文香がちょっとまだ、元気じゃないような、そんな風にも思えたー。

とは言え、一通りの報告などを終えて、
週明けには解散となるようだったから、そうすれば存分に話は出来るー。

今はゆっくり休ませてあげよう、と、そんなことを思いながら
秀太は、”宇宙に調査に行く前”の、文香と一緒に
撮影した写真を見つめながら笑みを浮かべるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー

予定通り、文香はメディカルチェックや
報告などを一通り終えて、
晴れて、自由となったー

「ーー文香ー…おかえり」
宇宙センターの外で待っていた秀太がそう言うと、
文香はにこっと微笑みながら「ただいまー」と、だけ
そう呟いたー

”ーーククク…この星の住人は、随分と愚かなものだなー
 8人の人間がどのような状態かも知らずにー”

文香を着ている宇宙人は、
思わず文香の口元に、邪悪な笑みが浮かんでいることに気付き、
手でそれを隠すー。

「ーー文香ー、今日はお祝いも用意してあるからー
 ほら、宇宙に行く前に文香が食べたいって言ってたやつー」

秀太がそんな言葉を口にするー。
近所にあるケーキ屋の”新商品”を、宇宙に行く前の文香は
食べたがっていたー。

しかし、発売が文香が宇宙に飛び立つ予定の日の後だったために、
調査に向かう直前の文香が
「あ~…1年後までお預けかぁ~…」などと、よく愚痴を言っていたー。

そのことをちゃんと覚えていた秀太は、
そのケーキをしっかりと予約しておいたのだー。

そしてー…
”プロポーズ”のための婚約指輪も用意したー。

宇宙から帰ってきたら結婚したいー、と、
そんな話を文香の方からされたー。

その時に、戻ってきたら文香に
とびっきりのプロポーズをすると、そう約束したのだー。

”大げさなサプライズとかは苦手だから、やめてね?”などと
1年前、文香から言われていた秀太は、
結局、自宅でシンプルにプロポーズをすることに決めていたー。

文香の性格を考えても、
その方が文香も楽だと思うし、変に気を遣わずに済むと思う、と
判断してのことだー。

「ーーーーーあ、ちょっと電話ー」
文香がそんなことを言いながら、
秀太から少し離れた場所に移動するー。

「ーーー…あぁ、こっちは問題ないー。
 話し合いの通り、俺はこの人間の身体で、
 ターゲットを誘惑して手駒にするー」

文香がそんな言葉を口にするー。

調査隊8人を皮にして乗っ取った宇宙人たちー。
彼らは、それぞれ”役割”を事前に決めていたー。

文香を乗っ取った宇宙人は、
文香の美貌を利用して、重要人物たちを誘惑して
手駒にすることー。

同じく、調査隊最年少で現役女子大生だった梓も、
文香と同じ役割を担うことになっているー。

他に、手当たり次第人間を皮にしていく役割や、
総合的なコントロールを行う役割など、
8人がそれぞれ、地球を侵略するための役割を
担っているー。

「ーーお待たせ」
文香が戻ってくると、秀太は「ーー大変そうだなぁ」と
笑いながら言葉を口にするー。

「ー別にー。そうでもないけど…
 それにーー」

”地球を手に入れるためなら、この程度の苦労、たやすいものだー”

文香は内心で邪悪なことを考えながら
秀太のほうを見つめるー。

「ーーー車、あそこに停めてあるからー」
そう言いながら、宇宙センターの駐車場のほうを指さす秀太。

秀太と一緒に歩きながら、
文香は秀太の後ろ姿を見つめるー。

”こういう人間は使いやすいー
 万が一、俺の正体がバレそうになってもー
 俺の色仕掛けが人間たちに気付かれそうになってもー

 ”文香はそんなことしない”みたいに
 守ってくれるからな…”

文香や、他の調査隊員を支配して半年ー。
宇宙人たちは、8人の調査隊員の記憶を完璧に読み取り、
人間たちの生活というものも学んでいたー。

そこから、こうして侵略する計画を企てたのだー。

そしてー、夜ー。
秀太は何も知らないまま文香にプロポーズをしたー

「ーーわ~~!うれしい~!!」
顔は笑っているが、目は笑っていないー。

今の文香にとって、
”秀太からのプロポーズ”など、どうでもいいことー。

内心では全く興味を示していない、今の文香は
適当なリアクションを繰り返すと、
何も気付かないまま、満足そうに、久しぶりの文香との1日を過ごし、
先に眠りについたー。

「ーーーーー」
文香は、”睡眠薬”を混ぜた飲み物のおかげでぐっすり
眠っている秀太を見つめると、笑みを浮かべながら、
そのまま外へと歩いていくー。

”最初のターゲット”を、
文香の身体で誘惑し、手駒にするためにー…

②へ続く

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コメント

帰還した調査隊のメンバーたちが、宇宙人に
既に皮にされてしまっているお話デス~!

彼氏の秀太は、気付くことはできるのでしょうか~?

続きはまた明日デス~!

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皮<帰還した侵略者>

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