<憑依>”じゃないほう”の意地②~告白~(完)

いつも双子の姉と比べられる人生を送って来た彼女。

そんな彼女は、”憑依薬”を手に入れて、
憧れでもあったお姉ちゃんに憑依してしまう…。

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「ーーーーなんか、最近、”変”じゃないですか?」

”仁美”の彼氏である信夫が、
仁美の姉である聡美にそんな言葉を口にするー。

「ーーーーーえっ… え?そ、そ、そんなことないよ~!」

姉の聡美に憑依してから5日ー。
”仁美”の彼氏である信夫にそんなことを言われたー。

「ーーー…それにしてもさー”仁美”の彼氏だよね?
 信夫くんはー」

”信夫でいいです”と言われたため、結局、姉に憑依する前と同じ、
”信夫くん呼び”を続けている聡美ー。

妙に”聡美”に話しかけて来ることに、
少しムッとした聡美に憑依している仁美は、そんな言葉を口にしたー。

「ーえ、あ、あぁ、いやー、そ、そのー
 ひ、仁美が大学に来ないのでー、さ、寂しくてー」
信夫が慌てた様子で言うー。

「ーーーーふ~~~ん」
聡美は、少しカチンとしながら、頷くー。

”信夫くんも、お姉ちゃんのほうがいいってことでしょ?
 分かってるよー
 どうせ、わたしは”お姉ちゃんじゃないほう”だからー”

そんなことを内心で思いながらも、
聡美はにこっとしながら雑談を続けるー。

”ーーお姉ちゃんになった途端ー、みんな、これ”

聡美の身体で、仁美はうんざりとしながら
そう思うと、信夫との会話を終えて、
静かに立ち上がるー。

「ーーー」
”お姉ちゃん”になって過ごす大学生活は確かに楽しいー

でもー、”仁美”には分かっているー

”わたしには、お姉ちゃんにはなることはできない”
とー。

お姉ちゃんと比べられ続けて、嫉妬のような感情があるのも事実ー。
お姉ちゃんになれることに、喜びを感じているのも事実ー。
でも、同時に仁美は”愚か”ではないー。

”このままでは”いずれー、
”聡美”の人気を下げ、友達は減り、周囲から相手にされなくなりー、
”元の自分”と同じようになる、ということは理解しているー。

何故なら、”お姉ちゃん”が、人気者なのは”見た目”だけじゃないのだからー。

見た目で人気が出るのであれば
双子の妹である仁美も、姉の聡美と同じように周囲からチヤホヤされているはずなのだー。

でも、そうはなっていないー。

”見た目”と”中身”が揃って、
始めて”人気者のお姉ちゃん”でいることができるー。

”わたしなんかが、お姉ちゃんになったってー、
 どうせ、1か月もすれば、だんだんと輝きは失われていくー…
 そんなこと、分かってるもんー”

聡美に憑依した仁美は、そんなことを思いながら
自虐的に笑うー。

「でもーー…」
聡美はチラッと周囲を見渡すと、ぎゅっと拳を握りしめて、
静かに歩き出すー。

”わたしを、バカにしてー”
そんな風に思いながらー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の夜のことだったー。

また、封筒が届いたー。

その中には、
新しい錠剤と、こんなメッセージが添えられていたー

”お姉ちゃんの身体を手に入れても”記憶”がなければ
 いずれ君は、”輝き”を失うことになるー”

とー。

「ーーそんなこと、分かってるし!」
聡美は、怒りの形相を浮かべるー。

「どうせわたしはお姉ちゃんより性格も悪くて
 気配りもできないし、頭もお姉ちゃんより悪いですよーだ!」

そう言い放ち、ムキになって頬を膨らませる聡美ー。

”お姉ちゃん”だったら、こんな時でも感情的にならないんだろうな…
と、思うとさらに腹立たしくなるー。

そんな風に思いながら、メッセージの続きを読むと、
そこには、こんな言葉が刻まれていたー。

”今日送った錠剤は”乗っ取った身体の記憶を読み取るための薬”
 それを飲めば、君は完全にお姉ちゃんになることができるー。”

「ーーー!!!」
聡美は表情を歪めるー。

”お姉ちゃんの記憶”まで奪うことができればー
確かにー…
仁美は、完全に”お姉ちゃんそのもの”になることができるー。

それを見つめながら、聡美は静かに笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

聡美は、次第”聡美”らしい振る舞いをするようになっていったー。

そして、
1週間が経過したタイミングで、
”仁美”の彼氏である信夫がやってきたー。

「ーあの…聡美さんー
 今日は大事なお話がー」

信夫が聡美にそんな言葉を掛けて来るー。

「大事な、お話ー?」
聡美が、そう言いながら首を傾げると、
「はいー」と、信夫は頷くー。

聡美は、そんな信夫の誘いに応じると、
静かに笑みを浮かべながら、言葉を口にしたー。

「ーーー聡美さんー…
 俺ー…ーーーー 俺… 実は、ずっとー」

信夫がそんな言葉を口にするー。
聡美は、信夫を真っすぐ見つめながらその言葉を口にするー。

「俺、ずっと、聡美さんのことが好きでしたー。
 どうか、俺と付き合ってくださいー」

そんな言葉を口にする信夫ー。

「ーーーーー」
聡美は、あまり驚かずに、言葉を吐き出すー。

「ーーー”仁美”はどうするの?」
とー。

信夫は”わたし”の彼氏だー。
それなのに、お姉ちゃんに告白するなんてー。

そう思いながら、
聡美はそう言い放ったー。

「ーーあ、ははー、仁美は、ほらー、
 最近ずっと体調不良みたいですしー、
 体調が回復したら、ち、ちゃんと俺から説明するのでー

 あ、だ、大丈夫ですよー
 仁美は、必ず納得してくれますからー、
 それにー」

信夫がそこまで言うと、
聡美はため息をついてから、笑ったー

「ーーー”憑依薬”ーあなたなんでしょ?信夫くんー」
と、そう言いながらー。

「ーーー!!!」
信夫が表情を歪めるー。

「お姉ちゃんは誰とも付き合うつもりがないって公言してたからー、
 ーーわたしを、お姉ちゃんに憑依させてー、
 ”お姉ちゃん”になったわたしを彼女にしようとしたー…

 ーーー違う?」

聡美がそう言うと、
信夫は「さ、さ、さ、さ、聡美さん!?な、な、なんのことだ!?」と、
裏返った声で叫んだー。

明らかに動揺しているー。

「ーーーわたし、憑依薬が届いた時に思ったのー。
 ”こんな危ない薬を持っている人が、お姉ちゃんに歪んだ感情を持ってるなんて
 野放しにできない”ってー」

聡美はそう言葉を口にすると、
信夫が表情を歪めるー。

「ーーーくっ…で、でも、ひ、仁美!
 お前だって、いつも”聡美じゃないほう”って言われてー、
 嫌がってただろ!?
 そのお前を、聡美にしてやったんだ!
 そのお前をー、解放してやったんだ!
 だ、だから、その身体でー、いいや”聡美さん”として俺と付き合ってくれ!」

信夫がそう叫ぶー。

”記憶を読み取る薬”まで追加したのは、
仁美に”聡美”として振る舞ってもらうためー。

「ーーーーーわたしは、お姉ちゃんにはなれない」
聡美に憑依している仁美が言うー。

「確かに”じゃないほう”って言われるのはイヤだしー、
 お姉ちゃんには嫉妬もあるー。

 でもー、お姉ちゃんを傷つけるようなことはー
 わたしは、絶対にしないー」

聡美がそう言い放つと、
「ー憑依薬がわたしの家に届いた時、
 ”このまま放っておけば”これを送った人がお姉ちゃんに憑依するかも、って
 思ったのー

 だから、わたしはお姉ちゃんを守るために、お姉ちゃんに憑依して、
 それで、”わたしに憑依薬を送った人”を、突き止めようとしたのー。

 わたしに憑依薬を送って、お姉ちゃんに憑依させようとする人にはー
 なんか目的があるはずだからー、
 それでずっと”お姉ちゃんになれて嬉しい!”って態度を続けてー
 ”わたしに憑依薬を送った人”がボロを出すのを待ってたのー」
と、そう説明したー

「ーーチッーーー…」
信夫が舌打ちをする。

「記憶を読み取れる薬は飲んでないー。
 お姉ちゃんの記憶はお姉ちゃんのものだから、わたしには必要ないしー
 ”お姉ちゃんの記憶を読み取ってるフリ”をすれば、必ず”犯人”が出て来ると思ったからー」

聡美のそんな言葉に、
信夫は表情を歪めながら
「ーー聡美さんに憑依したのは、全部、俺をおびき出すためー?」
と、悔しそうに呟くー。

「ーーーー…うんー…。 まさか信夫とは思わなかったけどー…」
聡美のそんな言葉に、信夫はがっくりと膝をつくー。

「ーくそっーーーー…くそっーーー…
 お前が、お姉さんの方に憑依するように仕向ければ
 お前は喜んで姉の人生を奪うと思ったのにー…」

信夫が悔しそうにそんな言葉を言い放つー

「ーーー…バカにしないで。
 ”お姉ちゃんじゃないほう”って言われてもー、
 お姉ちゃんの身体を奪ってまで、お姉ちゃんになりたいなんて思わないからー」

少し控えめにー
けれども、ハッキリとした口調で、仁美はそう言い放つと、
信夫に対して、”まだ憑依薬を持っているなら、全部出してほしい”と、
そう、要求するー。

がー、信夫は自虐的に笑いながら首を横に振ったー

「ー憑依薬はもう持ってないし、入手したサイトも閉鎖されたからー
 もう、俺は憑依薬を使えないよー…
 それに、俺はお前のお姉さんと付き合いたかっただけで、
 お前のお姉さんそのものになる趣味はねぇ」

信夫は悔しそうにそう言い放つー。

聡美に憑依した仁美は、そんな信夫を見つめながら
その言葉は本当だと確信すると、
その場で信夫に”お別れ”を告げたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー…ぁ」

姉の聡美から仁美が抜け出すと、
数分後に、聡美は目を覚ましたー

「ーーーお姉ちゃん…」
仁美が、申し訳なさそうに聡美のほうを見ると、
聡美は「ー仁美…」と、表情を曇らせたー。

「ーーー…わたし…ごめんなさいー
 お姉ちゃんの身体をー」
仁美がそこまで言うと、
聡美は首を横に振ったー。

「ーー大丈夫ー…仁美は、わたしのために、わたしに憑依したんでしょ?」
聡美のそんな言葉に、仁美は少しだけ驚くー。

聞けば、”その身体ちょうだい”と言われた時に、
何か理由があると確信して、
聡美は大人しく、仁美に憑依されることを受け入れたのだというー。

”「ーいいよー。仁美が、そうしたいならー」”

確かに、憑依される直前も、”お姉ちゃん”は、ほぼ無抵抗だったー

「ーーー…お姉ちゃんー…何でもお見通しでやっぱすごいなぁ…」
仁美が少しだけ悔しそうに言うと、
聡美は笑いながら、
「ーー何でもお見通しなんてことないよー…
 それにーーわたしは、いつでも仁美のことを信じてるからー」と、
そう、言葉を口にしたー。

そして、少し間を置いてから聡美は笑う。

「ー仁美だって、十分凄いよー。
 わたしだったら、仁美みたいに、わたしに憑依して
 犯人をあぶり出そうなんて考えないしー…」

聡美がそう言うと、仁美は少し照れくさそうに笑うー。

憑依薬を送りつけた犯人をおびき出すために、
仁美は、”お姉ちゃんに憑依出来て心底喜んでいる”そんな素振りまで
あえてしていたー。

その結果、こうして犯人が信夫であることを突き止めることができたのだー。

「ーーでも、お姉ちゃんー。
 もしもわたしが本気で、お姉ちゃんの身体を奪おうとしてたら
 どうするつもりだったの?

 永遠に、お姉ちゃん、身体奪われたままになっちゃったかもしれないのにー」

仁美が不思議そうに、そんな言葉を口にすると、
姉の聡美は少しだけ笑ったー。

「もちろんー、憑依される直前に
 ”ほんの少しだけ”そんなことも思ったけどー…

 でもー…もし、そうなっちゃったらー…
 仁美が幸せなら、それでもいいかなってー。」

聡美はそこまで言うと、
「でも、こうしてちゃんと身体を返してくれたし」と、
嬉しそうに言葉を口にするー。

「ーーーえへへ…
 お姉ちゃんにそこまで信頼されてると嬉しいー…」

仁美は、そう言いながら、
姉の聡美に憑依して過ごしている時のことを思い出すー。

”ほんの少しだけー、このままお姉ちゃんになりたい”と
思った瞬間があったのも、事実と言えば事実ー。

でも…、それでも仁美は、”お姉ちゃん”の身体を奪うことはしなかったー。

だってー、自分は”憧れのお姉ちゃん”にはなれないから。

身体を、名前を、立場を手に入れても、
”わたしには”それは、無理ー。

”聡美”は、身体と中身が揃って初めて”聡美”なのだと、
実際に聡美の身体を乗っ取ってみて、改めて実感したー。

”わたしは、これから先も”聡美じゃないほう”ー
 でも、それでいいのー”

”じゃないほう”だからこそー、
こんなに近くで、お姉ちゃんと一緒にいられるのだからー。

それにー、”じゃないほう”は、コピー品でもなければ、
劣化品でもないー。
きっと、自分ではわからないけれど、自分にもどこかにいいところは、あるはずなのだからー。

仁美はそんなことを思いながら、
「あ!お姉ちゃん!今日は久しぶりにわたしがお姉ちゃんに
 何か奢ってあげる~!」と、嬉しそうに、言葉を口にするのだったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

仲違いせずに、仲良しのまま終わるエンドでした~!★

皆様が、”姉と比べられる妹の立場”で憑依薬を
手にしたらどんな選択をしましたか~?

お読み下さりありがとうございました~~!★

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