”〇〇じゃないほう”
彼女はいつも、姉と比べられてそう言われ続けて来たー。
見た目は、”よく似ている”
そう言われる双子の姉妹なのにー…。
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聡美(さとみ)と、仁美(ひとみ)は、
双子の姉妹ー。
二人は、”そっくりな”顔の持ち主だったー。
だが、見分け方がないわけではなくー、
髪型も違うし、性格も違うし、服装の趣味も違うー。
双子の妹の・仁美の方は、
超がつくほどドジで、
奥手な大人しい性格でー
小さい頃から、何かと”完璧”な姉と比べられてきたー。
今も、昔も、その状況は変わらないー。
そんな彼女たちは今、同じ大学に通っているー。
二人は小学校から大学まで、全て同じ学校に通っているー。
特にこれと言って深い意味はないのだが、
気付いたらそうなっていたー。
そんな”仁美”には、彼氏がいるー。
同じ大学に通う、信夫(のぶお)という男だー。
だがーー
「ーーなぁなぁ、信夫ー
なんで”ハズレ”と、付き合ってんのー?」
信夫の友達が、そんなことを、
信夫に言っているのを、ある日、仁美は聞いてしまったー。
”聡美じゃないほう”
”優秀じゃないほう”
”おまけのほう”
”あたりじゃないほう”
ーそんなことを、仁美は小さい頃から
言われ続けて来たー。
姉の聡美は”超”がつくほど優秀だー。
優しくて、気配りもできて、頭も良くて、何でもできるー。
一方の”自分”はそんな聡美とは正反対ー。
優しくないと思うし、気配りできないし、頭は悪いし、ドジだー。
おまけに、性格も暗いー。
けれどー、仁美はそんな姉・聡美のことは尊敬していて、
姉とは仲良しでもあったー。
「ーーハズレなんて言うなよー」
彼氏の信夫が友達に対してそう言い返すのが聞こえたー。
「ーーーーー」
その言葉に、仁美は、物陰で少しだけ嬉しそうに微笑むー。
けれどー…
「ーー仕方ないだろ?
お姉ちゃんのほうは、彼氏とか作る気ないみたいだしー、
仁美の方で我慢するしかないんだからー」
信夫は、友達にそんな言葉を口にしていたー
「ーーー…」
仁美は、しょんぼりとした様子で
落ち込んで見せるー。
そのまま、彼氏の信夫には声を掛けることなく、
その場から立ち去ると、
「ーーあ、先輩!」と、見知らぬ男子から声を掛けられたー。
「ーーーえ… あ…… はい?」
仁美が戸惑いながら返事をするとー、
「え?あれー? あぁ…”聡美先輩じゃないほう”ですか」
と、男子がガッカリした様子で言うー。
「ーーすみませんー。用があるのはお姉さんの方なのでー
失礼しました」
その男子はそう言い放つと、
そのまま立ち去っていくー。
”ーーー聡美じゃないほう”
小さい頃から、ずっとずっとずっと、仁美は
そう比べられ続けて来たー。
”姉”が近くにいる限りー、
いいやー、もしかしたら、これから先、異なる仕事に進んだとしてもー、
”姉”と比べられる日々は、終わらないのかもしれないー。
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「ーー仁美~!今日もお疲れ様」
姉の聡美が手を振りながらやって来るー。
「あ…お姉ちゃんーおつかれさま」
仁美は顔を赤らめながらそう呟くー
”お姉ちゃん”のことは今でも好きだー。
尊敬しているし、仲良しだと思っているー。
けれど、同時に
自分からしてみれば”雲の上の存在”だとも思っているー。
何もかも、レベルが違いすぎるー、と、そう感じるー。
「ーーー今日、信夫くんに”仁美の方で我慢するしかない”って
言われちゃったー」
彼氏のことで、悲しそうな言葉を口にする仁美ー
「え~…そんなこと言われたの…?」
心配そうに呟く聡美ー。
「ーーーうん…友達と話しているの聞いただけなんだけどー…
そう、言ってた」
仁美がそう言うと、
聡美は「ーごめんね…わたしのせいで」
と、お詫びの言葉を口にするー
「ーーあ、ううんー…お、お姉ちゃんは別に悪くないよー。
わたしがこんなだから、いけないだけだしー」
仁美が自分を卑下するかのようにそう言うと、
聡美は「そんなこと言わないでー。仁美のいいところ、わたし
いっぱい知ってるからー」と、そんな言葉を口にするー。
「ーーーーーー」
それが本心なのか、それとも”上から”仁美を見た言葉なのか、
それは分からないー。
けれどー、聡美にそう言われると、仁美はたまらなく辛い気持ちになるー。
恐らくー…
姉の聡美に他意はないー。
本当に、”仁美のいいところ”を知ってるのだと思うし、
”本当は見下してるんじゃないか”などと感じてしまうのは、
”わたしの性根が腐っているから”だと、仁美は思っているー。
でも、どうしても、こういう考えを捨てられないー。
「ーーーあ、仁美、家の方は大丈夫?
最近、遊びに行けてないけどー」
聡美がそんな言葉を口にすると、仁美は「あ、うんー」と、静かに頷いたー。
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帰宅した仁美ー。
現在、聡美と仁美はそれぞれ別の場所で一人暮らしをしているー。
先に実家を出ていた姉・聡美に実家を出ることを伝えた際に、
”わたしのところ来る?一緒に暮らすのも楽しそうだし”と、
聡美の家にも誘われたのだが、
それは断り、一人で暮らすことを決め、
現在に至るー。
別に”お姉ちゃんと一緒に暮らしたくなかった”わけではない。
しかし、いつまでもお姉ちゃん頼みでは、
永遠に”聡美じゃないほう”から抜け出せない気がして
こうして、一人暮らしの道を選んでいたー。
「ーーー…え」
ふと、仁美は表情を歪めるー。
帰宅後、届いていた郵便物を一つ一つ確認していた仁美。
大抵は、あまり用のないチラシの類であったものの、
一つだけ、気になる少し大きめの封筒が入っていたー。
「ーーーー……これは?」
仁美がその封筒を開封すると、
そこには
”永遠の2番手から脱出するチャンスを、君にあげよう”と
そう書かれた手紙とー、
小さな錠剤が入っていたー。
「ーー憑依…薬?」
仁美は表情を歪めるー。
”ー君は、”聡美”になることができる”
紙にはそう書かれていて、
”憑依薬”とやらの説明書も同封されていたー。
「ーーー…わたしが…お姉ちゃんに…?」
いつもいつも、眩しいお姉ちゃんー
憧れの、お姉ちゃんー。
そのお姉ちゃんに、自分自身が、
なることができるー?
そう思っただけで、仁美の手は震えたー。
「ーーー……わたしが…わたしが…お姉ちゃんー?」
そう呟いた仁美は、憑依薬を手に、ある決意を固めていたー。
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翌日ー。
朝早く、大学に呼び出された姉の聡美は、
妹の仁美の前にやってきていたー。
「ーーーお姉ちゃん」
今日も”地味”な雰囲気の仁美ー。
対照的に、おしゃれな様子の聡美ー。
おしゃれ、と言っても派手すぎにならないようにも
意識しているのか、
純粋に”綺麗”な感じだー。
「ーわたし、ずっとずっと、”お姉ちゃんじゃないほう”ってー
言われ続けて来たー」
仁美のそんな言葉に、聡美は「き、急にどうしたのー?」と
言葉を口にするー。
「ーーでもーー……それも、もうおしまいー」
仁美はそれだけ言うと、何かを手に、聡美にそれを見せ付けたー。
「ーーー昨日、わたしの家にこんなものが届いたのー」
仁美がそう言いながら、手にしたのは”憑依薬”ー。
「ーーーーこれを使えば、わたしー… わたし、お姉ちゃんにー」
仁美はそこまで言うと、
憑依薬のことを説明するー。
驚いた様子の聡美ー。
「ーーお姉ちゃんー、その身体、ちょうだいー」
仁美のそんな言葉に、
聡美は一瞬、驚いた表情を浮かべたものの、
すぐに、諦めたのか穏やかな表情で笑みを浮かべるとー、
「ーいいよー。仁美が、そうしたいならー」と、
そう言葉を口にしたー。
仁美は少しだけムッとした表情を浮かべながらー
憑依薬を口にするとー、
その場で仁美は”霊体”になってー、
聡美の身体に向かっていくーーー
「ーーうっ…!」
ビクッと震える聡美ー。
「ーーー………ふふっ」
”お姉ちゃん”に憑依できたーーー
それを確信した仁美はー、いいや”聡美になった仁美”は、笑うー。
「ーふふふ…
こ、これがー…これが…人気者のお姉ちゃんの身体ーーー
”じゃないほう”じゃなくて、わたしが、本物…!」
憑依された聡美は、嬉しそうにそう言葉を口走ると、
その場で一人、笑い始めたー。
”ーーーーーー”
その様子を物陰から見つめている人間は、
少しだけ、笑みを浮かべたー。
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”周囲の反応”がガラリと変わったー。
顔もそっくりな”双子の姉”の身体になるだけでー、
”周囲の世界”が変わったー。
”お姉ちゃんになるだけでー
こんなに回りが優しくなるなんてー…
癖になりそうー”
思わず、笑みがこぼれてしまう
聡美になった仁美ー。
だが、鏡でその顔が写ると、
聡美はイヤそうに表情を歪めたー。
「ーーー”嫌な顔”ー」
そんな風に呟くと、聡美はチラッと周囲を見渡すー。
”この状況で過ごしていくならー…
”わたし”のこと、どうにかしないとー”
聡美は、心の中でそんな風に思うー。
”仁美”は、聡美に憑依したことで、
現在”どこにもいない”状態ー。
憑依薬を飲んだ時に、仁美は”霊体”になっているために、
仁美の身体自体が、今はどこにも存在しないー。
憑依薬の説明書によれば、憑依から抜け出して少しすると、
また、”霊体”から”人間”の状態に戻ることもできるらしいから、
その点は心配はないけれど、
”お姉ちゃん”に憑依している間”わたし”は行方不明になってしまうー。
だから、その対策は取らなくてはいけないー
”とりあえず…体調不良ってことにしておけばいいかなー…
”お姉ちゃん”がそう言えば、みんなすぐに信じると思うし”
そんなことを考えながら、
大学の構内を歩いていると、
「あ、あのー!」と、背後から声がしたー。
「ーー…?」
聡美が振り返ると、
そこには”仁美”の彼氏である、信夫の姿があったー
「あ、信夫くーーー…」
いつもの癖で”信夫くん”と呼びそうになってしまいー、
すぐに言葉を止める聡美ー。
「ーー…あーー…お、お姉さんー
ちょうどよかったー…
”仁美”、どこにいるか知りませんか?」
はぁ、はぁ、と言いながら言葉を口にする信夫ー。
仁美のことを相当探し回ったのだろうかー。
しかし、”聡美に憑依している仁美”は、
聡美として、
「仁美ー?仁美は今日ー…体調不良って言ってたけどー」と、
そう言葉を口にするー
「た、た、体調不良ー
そ、そうですかー
連絡しても出ないので、どうしたのかと」
信夫のそんな言葉に、聡美は、
「すぐに回復すると思うから、心配しないで」と、
そんな言葉を口にするー。
信夫は”心底嬉しそうに”していたー。
でも、”仁美”には分かってしまったー。
それは、彼女である”仁美”がどうしているか分かって
嬉しそうにしているわけではないー、と、いうことを。
信夫が嬉しそうにしているのはー
”じゃないほう”ではなく”聡美”とー、話が出来たからー。
信夫はいつも、仁美とのデート中も
”聡美のこと”ばかり聞いてきていたー。
仁美は、それがイヤだったー。
”聡美じゃないほう”と、仕方がなく付き合っているー。
そんなことが、伝わって来てしまうからだったー。
「ーーさ、聡美さんと話が出来て良かったです」
”同い年”のはずなのに、デレデレと敬語を使う信夫。
そんな信夫を見て、”わたし、仁美だけど?”と、
言ってやりたい気持ちに押しつぶされそうになるー。
けれど、聡美に憑依した仁美は、それを言うことなくー、
そのまま会話を終えたー。
ゆっくり大学内を歩き出す聡美ー。
チラッと周囲を見渡すー。
やっぱり、周囲の反応が全然違うー。
”ふんー”
仁美は思わず不機嫌そうになってそんなことを、心の中で呟く。
でもー…
”ーじゃないほう”にも、意地があるからー…
聡美になった仁美は、
そんなことを思いながら、静かにため息をついたー。
②へ続く
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コメント
姉と比べられ続ける双子の妹…
お姉ちゃんの身体を乗っ取って、
そのまま人生も奪ってしまうのかどうか、
続きは明日のお楽しみデス~!
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