<MC>改心させる男②~道の先~(完)

”人を洗脳する力”を用いて、
人々を改心させていく男ー。

彼に洗脳された人々は改心し、
正しい道を進んでいくー。

しかしー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「本当に、ありがとうございましたー」

疲れ果てた表情だった男が
頭を下げるー。

「ーーーわたしからも、お礼を言わせてくださいー」

いつも彼氏に”死にたい”を連呼して困らせていた女ー。
そんな女と、梅田 紀彦は対面ー、
最終的には”もう死にたいとは言わないように”と、洗脳することで、
問題を解決させたー。

どうやら、彼女は”人間不信気味”で、彼氏が本当に自分のことが好きなのかどうか
不安になる度に”死にたい”と言って、彼氏を困らせていたようだったー。

そのため、”死にたいと言わないように”という命令と、
”彼氏のことは常識的な範囲内でちゃんと信じてあげなさい”という命令を
”洗脳”して与えて置いたー。

その結果、”死にたい”とは言わなくなり、
彼氏との間柄も深まった様子だったー。

「ふぅー」
また、一仕事を終えて、ひと息つく紀彦。

今日は洗脳を用いた仕事が2件、通常のカウンセリングが数件ー、
という内容だったー。

「ーーーーーー」
紀彦がひと息ついていると、ふと”気配”を感じたー

「ーーーー!」
振り返ると、そこには派手な雰囲気の”美女”がいたー。

「ーーー…今日の相談時間は終わりましたが?」
紀彦がそう言うと、
「ーあなたが、”梅田先生”よね?」と、
女は言葉を口にするー。

「えぇ、そうですよ」
60代中盤ながら、まだそれほど衰えを感じさせない紀彦ー。

そんな紀彦を見て、女は
「ー”人を洗脳できる力”を持っているというのは、本当かしらー?」と、
そう、言葉を口にするー。

「さてー…何のことやら」
紀彦は少し驚きながらも、とぼける言葉を口にするー。

すると、その女は「わたしたちと組まない?」と
”交渉”を持ち掛けて来たー。

「ー悪いが、そんな力知らないし、
 そんな力が使えるとしても、僕は悪事に使うつもりはないんでね」

紀彦がそう言うと、
その女は「あら?」と、言葉を口にするー

「ーわたしが”悪党”なんて、いつ言ったかしらー?」
とー。

「ーーーカウンセリングは”相手を見る目”が何よりも大切だー。
 目の前にいる人間が、悪党か、そうじゃないかなんて
 すぐに分かるー」

その言葉に、女は少しだけ紀彦を睨んでいたが
やがて笑みを浮かべたー。

「ーーーまぁ、いいわー
 ご名答ってところねー。

 わたしは”国際犯罪組織ガルフ”のマツザワよー」

マツザワを名乗る女が、そう言葉を口にすると
「ーあなたの持つその力、素晴らしいわー」と、言いながら
妖艶な服装から太腿を見せ付けながら近づいてくるー。

色仕掛けで、紀彦を落とそうとしているのだろうー。

「それはどうも」
紀彦がそう言うと、
マツザワは、身体を夜のお店かのように密着させると、
笑みを浮かべながら言うー。

「ねぇ?あなたのその”人を洗脳する力”を使って
 一緒にやってみないー?

 あなたのその力があれば、怖いものなんてー」

”マツザワ”がそこまで言うと、
紀彦は笑みを浮かべたー。

「ーーー悪いことは言わない。まだ若いんだー。
 犯罪組織と何て、縁を切りなさい」

右目だけでマツザワを見て、そう言い放つ紀彦ー。

そう、マツザワを洗脳したのだー

「ーーー…ぁ……  え…?」
マツザワが戸惑いの表情で紀彦を見るー

「悪いことはやめて、まっとうに、普通の女性として生きなさいー。
 もう、犯罪は絶対にしないようにー」

さらに、”洗脳”を強めていくと、
マツザワは、表情を歪めるー

そしてー、しばらく戸惑ってからーー

「も、申し訳ありませんでしたー」
と、土下座を始めるー。

「ーこ、国際犯罪組織ガルフは、抜けますー。
 わ、わたしってば、なんで、こんなヤバい組織に加わってたんだろうー…」

マツザワはそう言うと、
紀彦の方を見つめながら「わ、悪いことももう絶対にしませんー。誓いますー」と、
慌てた様子で言葉を口にするー。

「ーー分かってくれればいいんだー」
紀彦は、穏やかな口調でそう言いながら
マツザワに対して「もしも、今まで罪を犯して来たのであれば、
あなたが巻き込んだ人たちに、罪滅ぼしをしながら、生きていきなさいー」と、
そう、優しく諭すように言い放ったー。

マツザワは頭を下げると、
そのまま、紀彦に感謝の意を述べるー。

紀彦はー
決して”洗脳”を悪事には使わないー。
そして、ついに、犯罪組織の女まで洗脳し、改心させてしまったのだったー。

”マツザワ”を名乗っていた女は、
その後、国際犯罪組織ガルフを脱退し、
組織から身を隠すために、名前を変え、
人を助ける活動を続け続けたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

来る日も、来る日も、”洗脳”で人を助けていくー。

詐欺を働いていた女を洗脳し、改心させー、
DVを繰り返していた男を洗脳し、妻に謝罪させたうえで離婚させたー。
駅で暴れていた男を見つけ、洗脳してその場で自首させたこともあったー。

紀彦は、洗脳で人を改心させ、改心させ、改心させ続けたー。

がー
そんな彼は、2年後ー。
体調を崩して入院したー。

彼も”理解”はしていたー。

5年ほど前から、少しずつ体調が悪くなっていることをー。

そして、彼は余命宣告を受けたー。
もう、取り返しのつかない病気だ。

どんな人間相手であっても、
洗脳を用いて、悪の道から救い出し、
正しい道へと導いてきた。

が、この力があったとしても、
流石に、余命宣告を受けるような病気を
どうにかすることはできない。

「ーーー…僕も、ここまでのようだー」
紀彦は、少しだけ寂しそうに、けれども穏やかに笑うー。

生涯独身であった紀彦には、家族がいない。
とにかく、人を救うことだけに全力を捧げてきたー。

”人を洗脳することができる力”を持っている人間なんて
世界中を探しても自分ぐらいしかいない。
だからこそ、”自分がやらなくちゃいけない”
そう思って、悪の道に進んだ人間を
自分のできる範囲内で助けて来た。

彼に救われた人間は
数百、いや、数千にも及ぶかもしれない。

「ーーー先生ー」

その時だったー。
かつて助けた不良少女・千里ー…
今は大学生になって、立派になった千里が、
病室に駆け込んできた。

「ー君は確かー、千里ちゃんだったねー」
紀彦が苦しそうにしながらも、そう呟くと、
千里は「はいー…」と、嬉しそうに頷く。

紀彦は”洗脳”に関わった人の名前を
確実に覚えるようにしている。
相手が、どんな相手であっても、だー。

千里を洗脳してから数年経過しているものの、
それでも、紀彦はちゃんと、千里のことを覚えていたー。

千里は、それから暇があれば、紀彦のお見舞いに来てくれたー。

いいや、千里だけではない。
他の”救った人たち”も、度々顔を出してくれた。

天涯孤独ではあったけれど、
たくさんの人々が、紀彦の病室を毎日のように訪れた。

全員ー、”紀彦が命令しているわけではない”
ちゃんと、自分の意思で、紀彦のところにやってきているー。

毎日、毎日ー
紀彦は懐かしい顔ぶれに励まされながら、
そして、ついに”その日”がやってきた。

「ーーーみんな……ありがとうー」
紀彦が目から涙をこぼしながらそう呟くー。

この日は、
千里とかつて万引きを繰り返していた少女・美優が、
その場にやってきていたー。

「ーー先生!」
千里が悲しそうに叫ぶー。

しかし、紀彦は穏やかに目を閉じると、
そのまま眠るようにして息を引き取ったー

”洗脳”という恐ろしい力を手にしながら、
たくさんの人々を救おうと尽力し、
それをやり遂げた梅田紀彦は、享年67で、
その人生を終えたのだったー

「ーーーーーーーーーー!!!!」

「ーーーーー!!!」

病室にいた千里と美優が表情を歪めるー

「ーーは…?」
千里が紀彦のほうを見つめるー。

「ーーえ…なんで、わたし…ー
 なんでこんなジジイに感謝してたのー?」
美優が呟くー。

「ーーー…家族と仲良くなれたーーって…
 全然嬉しくないし!
 
 は?何、わたし真面目になっちゃってんの?」

千里がそう呟くと、千里と美優の二人は、
さっきまであんなに紀彦のことを心配していたのに、
紀彦が死んだ途端、態度を豹変させてそのまま立ち去っていくー。

そしてーー
帰宅した千里は、両親に対して罵声を浴びせると、
”仲直り”していたはずの妹に対して、
「あんたばっかりーーー…!」と、”また”憎しみを露わにしたー。

「ーーち…千里、急に…急にどうしちゃったの!?」
千里の親が叫ぶー。

”梅田先生のおかげで、改心したはず”の娘が、
また、前のように戻ってしまったー。

「ーうるさい!どうもしてない!」
千里は、ここ数年の優しい雰囲気が嘘かのように
荒れ果てて、そのまま家を飛び出しー、
”また”悪い男たちと仲良くつるむようになってしまったー。

かつて盗みを繰り返していた美優も、
”また”盗みを繰り返すようになってしまったー。

「ーーふふ…やっぱこのスリルがたまらないー」
ニヤリと笑みを浮かべる美優ー。

”もう絶対にそういうことはしない”
そう誓っていたはずの美優なのに、
もはや、どこにもそんな面影はなくー、
再び盗みに手を染めてしまった美優ー。

やがて、美優は数か月後に、
盗みを働いた際に万引きGメンによって確保され、
そのまま警察の世話になることになってしまったー。

数千にも及ぶ”道を踏み外した人々”を洗脳しー、
そして、その本人を正しい方向に導き、
その周囲の人々の笑顔を取り戻して来た紀彦ー。

だがー、彼自身にも大きな誤算があったー。

それはーー…
”洗脳した人間が死亡すると、洗脳の効果が無くなること”

つまりー、
術者が死ねば、術は解ける、と、
そういうことだー。

しかし、紀彦は自分の能力が、
”死んだら解けてしまう”ものだとは思ってもいなかったし、
まさか、”死んでそれを試す”ことはできないため、
今まで、そのことに気付くこともできなかったー。

紀彦が死んだことにより、
紀彦の洗脳によって”正しい道”へと導かれた
恐らく数千にも及ぶ人たちは、正気を取り戻してしまったー。

数千の人間が、一気に”間違った道”へと転落していくー。

千里の、優愛の、他の大勢の人たちの周囲の人々が
その豹変に、再び、悲しむー。

詐欺を繰り返し、洗脳により改心していた女は、
再び”詐欺”に走ったー。
改心後に親しくなっていたはずの人々を騙し、欺いたー。

DVを繰り返していた男は、洗脳により改心していたものの、
紀彦が死亡したことにより、再びDVに手を染めたー。
今度こそ、取り返しのつかない夫婦仲に戻ってしまうと、
そう思いながらも、己の行為をやめることはできなかったー。

駅で暴れていて、洗脳により自首した男は、
刑務所での態度を豹変させ、
他の服役囚に殴りかかり、再び拘束されたー…

彼氏に対して、何かと”わたし、死んじゃうよ?”と
繰り返していた女は、再び”死んでもいいの?”を繰り返しはじめ、
彼氏を追い込んだー。

国際犯罪組織ガルフのメンバーだった
マツザワは、正気を取り戻し、自分が所属していた
ボランティア団体のメンバーを皆殺しにし、
国際犯罪組織ガルフへと慌てて戻って行ったー。
だが、理由はどうあれ、ガルフは”裏切り者”を許さないー。
マツザワは、血祭に上げられて、そのまま処刑されてしまったー。

一気に、地獄へと突き落とされる関係者の人々ー。
しかし、既にもう、”梅田先生”はいないー。
彼は、自分の死後に起きる悲劇が、どんな悲劇であるかを
知ることなく、
満足そうにこの世を去ってしまったー。

彼は、本当に”洗脳”で、人々の役に立ちたいと願っていたー。

そして、確かに、彼が生きている間は、人々の役に立っていたー。

がー
このような結果をもたらすとは、彼自身も全く想像していなかったー。

彼が生み出してしまった”地獄”を、
彼自身が知ることは、もう、ないー。

おわり

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コメント

洗脳で人々を改心させていくけど、
自分自身が命を落とした時に全部台無しになってしまう…
と、いうところから思いついたお話でした~!☆

彼自身がそれを知ることがないのは、
彼にとっては救いかもしれませんネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

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MC<改心させる男>
憑依空間NEO

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