<入れ替わり>僕は元に戻りたくない③~姉の想い~(完)

虹色の石によって
入れ替わってしまった姉と弟。

ようやく、元に戻る方法を見つけることには
成功したものの、弟は元に戻ることを
拒み始めて…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー栄太…」
一人残された栄太(麗奈)は、戸惑いの表情を浮かべていたー。

”ね、姉さんは恵まれてるから、そんなこと言うんだ!
 け、結局、姉さんも僕なんかの身体はイヤなんだ!”

そんな、弟の言葉が何度も何度も頭の中で
繰り返されるー。

「ーーー…」
鏡で”栄太”になっている自分の姿を見つめる麗奈ー。

麗奈は、心の底から栄太のことを大切にしている。
栄太のことを見下したことも、少なくとも、自分の中では
一度たりともないし、
栄太と入れ替わったあとも、栄太の身体がイヤだと思ったことは
一度もないー。

ただ、このままだと栄太も困るだろうから、
と、一生懸命、元に戻る方法を探しながらここまで
やってきたー。

しかしー、それは栄太にとっては余計なことだったのだろうかー。

栄太を見下したつもりは今までに一度もなかったけれど、
栄太からしてみれば、そんな風に感じることがあったー、
ということなのだろうー。

そんなことを考えていると、やがて物音がして、
麗奈(栄太)が帰宅したー。

「ーー麗奈?どうしたの?大丈夫?」
急に家を飛び出したことを心配する母親の声が
1階から聞こえて来るー。

「ーーーうんー大丈夫」
麗奈(栄太)はそれだけ言うと、2階に上ってきて、
栄太(麗奈)のところに顔を出したー。

何か、口を開こうとする麗奈(栄太)ー。

だが、栄太(麗奈)はその言葉を遮って、
優しく微笑んだー

「おかえりー。無事で帰ってきて、よかったー。」
心底心配していた栄太(麗奈)は、
まず、そんな言葉を第1声として発するー。

麗奈(栄太)は、少し意外そうな表情を
浮かべながら
「姉さんー怒らないの?」と、そんな言葉を口にするー。

「ーわたし、栄太の身体がいやだ、なんて思ってないからー。
 だからー、栄太が”こうしたい”なら、
 わたしは別にこのままでも、大丈夫だよ?」

そんな栄太(麗奈)の言葉に、
麗奈(栄太)は瞳を震わせるー。

だがー、やがて、表情を歪めてそのまま
”今の自分の”麗奈の部屋に立ち去っていくー。

「栄太…」
栄太(麗奈)は、そう心配そうに呟きながらも、
今日はもう、そっとしておいてあげた方が良さそうー…と、
それ以上、声を掛けることなく、
自分も部屋でのんびりと過ごすのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「ーー僕、今日も姉さんとして学校に行くからー…」
麗奈(栄太)は少しだけ申し訳なさそうに
そんな言葉を口にするー。

その言葉を聞いて、栄太(麗奈)は、
「ーーうん 気を付けてね」と、文句ひとつ言わずに、
”わたしの身体”になった栄太を見送るー。

学校にやってきた麗奈(栄太)は、
”クラスの友達”に囲まれて今まで自分が一度も
感じたことのないような
”幸せな時間”を過ごすー。

”学校で笑う”なんてこと
記憶にある限りでは最近は、ほとんどしてこなかったー。

そんな自分が、楽しそうに笑っているー。

それだけでも、驚きだったー。

「ーーーー麗奈」
背後から、友達の麻耶に声を掛けられた
麗奈(栄太)は、麻耶に呼ばれて教室の外に出るー。

教室から少し離れた場所で立ち止まった麻耶は
麗奈(栄太)のほうを見ると、
「それで、どうだったー?」と、言葉を口したー。

「ーーーーー…お、お姉ちゃんにはーー… 
 か、身体を返したくないって…伝えましたー」
麗奈(栄太)がそう言い放つ。

麻耶は嬉しそうに微笑むと
「よかった~!これで麗奈の人生は栄太くんのものだよ!」
と、小さく拍手をしてみせたー。

「ーーあ、あの…」
麗奈(栄太)が言うと、
「初日に言ったでしょ?わたしは栄太くんの味方だってー」
と、麻耶が笑うー。

ー入れ替わってから学校に登校した初日ー
麗奈(栄太)に話しかけた麻耶は、
少し雑談を交わした後に、”麗奈じゃないでしょ?”と、
そう、麗奈(栄太)に言葉を掛けて来たー。

その際に、麗奈(栄太)は入れ替わりを白状してしまっていたのだー。

そして、その日以降、麻耶は”わたしは栄太くんの味方”と称して、
”麗奈として過ごせるように”色々なことを教えてくれたー。

麗奈の友達たちとのやり取りも、この麻耶が教えてくれたー。

”可愛い”と言われる喜びや、
おしゃれについてもー、
色々なことを、この麻耶は教えてくれたー。

だがーーー
麻耶が”教えてくれた”のは、それだけではなかったー。

栄太は入れ替わった当初、
”早くお姉ちゃんに身体を返したい”と、本当に心の底からそう思っていたー。

けれどー
麻耶は言ったー

”もしも、麗奈が元に戻る方法を見つけてくれたとしても
 元に戻っちゃダメだよー”

とー。

「ーえ…?ど、どうしてですか?」
麗奈(栄太)が不思議そうに聞き替えると、
麻耶は笑うー

”麗奈はすっごいお姉ちゃんでしょー?
 でも、内心では栄太くん、あなたのことを見下しているのー”

麻耶がそう言葉を呟くー

「ね、姉さんが僕のことをー…?
 そ、そんなことは、ないですー」
麗奈(栄太)が言うと、
麻耶は笑ったー

”あははー栄太くん、お人好しすぎるでしょー
 なんでも完璧な自分に、正反対の弟ー
 麗奈は、”出来の悪い弟に優しくするわたし”に酔ってるだけー
 それ以上でも、それ以下でもないー”

麻耶がそこまで言うと、さらに言葉を続けたー

”元に戻ったらおわりー
 栄太くんは、またみじめな人生を送り続けることになるー。

 そうはなりたくないでしょー?
 だったらー…
 勇気を出しなさいー

 これからさっきも、ずっとずっと、わたしが支えてあげるからー”

麻耶はそう言うと、
麗奈(栄太)にイヤらしい目つきで手を触れて来るー。

今は”お姉ちゃん”の身体だが、女子から触れられたことに
ドキッとしてしまう麗奈(栄太)ー。

「ーーあ…あの…」
麗奈(栄太)はドキドキしながらそんな麻耶のほうを見つめると、
質問を口にしたー

「ーど、どうして、姉さんは僕を見下してるって分かるんですかー?
 ど、どうしてー、僕なんかによくしてくれるんですかー?」

そう言葉を投げかけると、
麻耶は少しだけ微笑みながら答えたー

”わたしにも、すっごく優秀なお兄ちゃんがいるのー
 でも、お兄ちゃんは、心の中でわたしのことを見下していたー
 
 優秀すぎるお兄ちゃんとか、お姉ちゃんを持つと、大変だよねー。
 だから、わたしには栄太くんの気持ちが分かるのー”

麻耶はそれだけ言うと、
”麗奈に騙されちゃだめー。せっかく手に入れた身体ー
 大切にしないと、ねー?”
と、そんな言葉を口にしたー。

「ーー」
その時のことを思い出しながら
麗奈(栄太)が「ほ、本当にこれで良かったんでしょうかー?」
と、不安そうに言葉を口にするー。

その言葉に、麻耶は
「栄太くんは優しいんだねー。
 でも、麗奈が落ち込んでるように見えるのは、
 ”そう見せれば”あなたが同情して身体を元に戻してくれるって
 そう思ってるからー」と、言い放つー。

「だから、騙されちゃだめー。」
麻耶の言葉に、麗奈(栄太)は戸惑いながらも、
静かに頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日もー
翌日もー、
次の日もー

姉の麗奈は、栄太のことを責めなかったー。

「ーー元に戻るのは、栄太が元に戻りたいって思ったらでいいからねー?
 もしも、栄太がずっと、そう思わなかったらー、
 わたしは、このままでも大丈夫ー」

栄太(麗奈)が言うー。

麗奈(栄太)は、悲しそうな顔をしながら
「ーーな、なんでそんなに優しくしてくれるのー?」と言い放つとー、
「だって、わたしの身体になって、栄太が喜ぶならー
 わたしも、嬉しいからー…」と、栄太(麗奈)は笑ったー。

「ーーーーーーーー!!!」
麗奈(栄太)は、そんな姉の表情を見て、
目を逸らすー。

本当に、本当に、姉さんは僕を見下しているのだろうかー。

麗奈の親友・麻耶と、姉の姿が浮かぶー。

それでも、彼は姉・麗奈の身体を奪ったまま
日々を過ごしたー。

しかしーーー
入れ替わってから20日を超えたその日ー
ついに、麗奈(栄太)は、
栄太(麗奈)に向かって泣きながら
「ー姉さんーごめんなさいー」と、全てを打ち明けたー。

麻耶から”お姉ちゃんはあなたのことを見下している”と
言われて疑心暗鬼になっていたことやー、
”元の自分に戻ることの恐怖”を抱いていたことー
そして、何より、自分自身が弱くて、こんなことしてしまったことを
打ち明けてー、心の底から謝り続けたー

「ーーー本当に、本当にごめんなさいー」

麗奈(栄太)が泣きながら叫ぶー。

最初は、麻耶の言う通り身体を奪うつもりだったー。
だけど、どうしても、
栄太の身体で過ごす姉さんを見て居たらー、
姉さんは、麻耶の言うような、そんな人じゃない、と改めて思ったー。

そしてー、
今まで自分をこんなに大事にしてくれた姉さんを疑い、
裏切ってしまった自分を恥じるとともに、
自分の醜さが、心底イヤになってしまったー

「ーーーーーーー」
震えながら、反応を待つ麗奈(栄太)ー

そんな麗奈(栄太)を見つめながら、
栄太(麗奈)は少しだけ笑うとー、
そっと手を置いたー。

「ー謝るなら、自分の身体で、ねー?」
そう言いながら優しく微笑む栄太(麗奈)ー

「ーーーーう、うんー」
麗奈(栄太)は、そんな”姉さん”の表情を見て
”まだ自分なんかのことを、大事にしてくれているんだー”と、
改めて姉の愛情を感じ、涙したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

虹色の石で元に戻った二人ー。

麗奈は学校に登校すると、麻耶を呼び出したー。

「ー栄太くん、どうしたの?」
呼び出された麻耶は、そう言いながら空き教室に入って来るー。

がーーー

「ーーー…も、元に戻ったのー?」
麻耶が、麗奈の表情から、すぐに”元に戻った”ことを悟り、
そんな言葉を口にするー。

「ーーあの石ー…麻耶が用意したんでしょ?」
麗奈が、そう言い放つー。

栄太から聞いた話を総合しー、
拾った時の状況を思い出すとー、
”麻耶”が、虹色の石をあの日、”偶然”見つけるように
先に置いておいたのではないかと、そう、推測したのだー

「ーーー…あは…あはははは!」
笑いだす麻耶ー。

「ーだってさ、あんたから弟くんの話聞いてたら、
 なんか可哀想になっちゃって!
 わたしと同じなんだもん!
 優秀すぎるお兄ちゃんとかお姉ちゃんを持つ人のつらさー!

 あんたには分からない!
 あんただって、わたしのお兄ちゃんみたく、
 弟のこと、内心で見下してるんでしょ!?

 だから、あんたの弟を助けてあげようと思ったのよ!」

麻耶が開き直った様子でそう言い放つとー、
麗奈は「ーーそう」と、静かに頷いたー。

「ーーーーー…それで、こんなことを?」
麗奈がそう言うと、麻耶は「そうよ!」と、叫ぶー。

「ーーーーわたしのお兄ちゃん、わたしにいつも優しくしてくれるのに
 友達とか彼女さんにはわたしのこと、バカ!バカ!っていっつも
 悪口言ってたの!

 あんただって、そうでしょ?
 弟のこと、バカにしてるんでしょ!?」

麻耶がなおもそう言い放つと、麗奈は大きくため息を吐き出して、
麻耶を睨みつけたー。

「ーーーわたしがいつ、栄太のこと馬鹿にするようなこと言ったの?」
麗奈がキツイ口調でそう言い放つと、麻耶は戸惑いの表情を浮かべるー

「ーそ、それはー」

「ーー麻耶のお兄ちゃんがどんな人から知らないー
 でも、わたしのこと勝手に決めつけて、弟まで巻き込むなんてー

 ーーーー許さない」

麗奈はそう言い放つと、麻耶は放心状態で座り込むー。

「ーーーれ、麗奈ー……」

麗奈が”怒る”などとは思っていなかったのか、
呆然とした表情を浮かべる麻耶ー。

「ーーーーー」
麗奈はそんな麻耶を見て、心底呆れた様子で、
「もう二度と、こういうことしないで」と、だけ言い放つと
そのまま立ち去って行ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー姉さん、お帰りー」

帰宅すると、栄太が穏やかな表情で
麗奈を出迎えたー。

「ーーただいまー」
麗奈が微笑むと、
栄太は申し訳なさそうにー、
「ーーー姉さんー、本当に、ごめんなさいー」と、
今度は”自分の身体”で、改めて謝罪の言葉を口にするー。

そんな栄太の様子を見ながら
麗奈は優しく、栄太の頭を撫でてあげるのだったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

最終回でした~!

まさかコロナ療養中に執筆することになるとは、
予定を組んだ時点では思いもしませんでしたが、
ちゃんと完結できてよかったデス~!

明日はいつも通り(土曜日はその日に書く時間がないので、予約投稿)の
時間に投稿されます~!

日曜日は、普通の時間に投稿できるぐらいに回復していることを
祈りつつ、今日も療養に努めます~!

ありがとうございました~!

入れ替わり<僕は元に戻りたくない>
憑依空間NEO

コメント

  1. 匿名 より:

    弟が望むなら、元の自分の身体に戻れなくてもいいと本気で言える麗奈は凄いですね。

    普通なら、いくら弟を可愛がっていたとしても、自分の身体を諦めるようなことは到底出来ないでしょうから。

    ところで、もしも、麻耶の思い込みが本当で、麗奈が弟を本心では見下していて、このままでもいいと言ったのも、自分の身体を取り返すための演技だったとしたら、それはそれで、また違う結末になりそうで、面白そうな気がしますよね?

    それにしても、麻耶は自分の行動で麗奈が怒ることも予想出来ないなんて、想像力なさすぎですよね。思い込みが酷いし、兄の言う通り、確かにバカな気がします。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!★

      もしも麻耶の言う通り、麗奈が実は弟を見下していて…
      だったとしたら、最後までそれを全く表に出さない
      恐ろしい策士ですネ~笑

      麻耶は… 思い込みが激しい子なのデス…!
      お兄ちゃんのことももしかすると…??

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