<憑依>救世主は悪魔だった②~本性~

生まれ故郷の街に本社を置き、
横暴な行いを繰り返した女社長ー。

しかし、そこに現れた男は彼女に憑依して
街を救うことを提案ー。

街には、平穏が訪れるー…
はずだったー

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「ーー今まで申し訳ありませんでしたー」
”赤城社長”に憑依された純恋は、豹変したー。

ブランド物ばかりを身に着けた派手な風貌から
ガラリと変わって、清楚な雰囲気の女社長に変貌を遂げたー。

街の人々は、そんな彼女を見て
”昔の純恋ちゃんに戻ってくれた”と、そんな風に思い、
その様子を歓迎していたー。

「ーー純恋…ーーよかったー」
両親も、そんな純恋の”豹変”に喜び、
「今まで迷惑かけてごめんね」と言い放つ純恋を見て、
心底、喜んでいたー。

唯一”憑依”のことを知る高本町長も、
そんな様子を聞きながら
”これで、街も平穏を取り戻すはずだー”と、
心の底から安堵していたー。

しかしー

「ーーーーー」
純恋は、パソコンをいじながら笑みを浮かべるー。

まだ、”純恋の指”でキーボードを入力することに慣れないのか、
時折、戸惑ったような表情を浮かべながらも、
その画面に表示されたものを見て、純恋は笑みを浮かべるー。

”この街”が欲しかったー。
ずっと、ずっとー。

しかし、この街を強引に乗っ取るようなことをすればー
当然、数々の企業を経営し、大富豪にまで上り詰めた”赤城 慶”の名に傷がつくー。
あくまでも、世間的に”穏やかな性格の大富豪”であり、
これまで買収してきた会社の数々も世間的には”友好的な買収”として、
そう受け止められているー。

だが、今回は”どうしても”この街が欲しかったー。
この街には金の香りがするー。
そして、純恋の会社”スミレ・ドリーム”の勢いも当然、見逃せないー。

もちろん、自分の資産にモノを言わせて、
この街を支配することはたやすかったー。
しかし”自分のイメージ”というものはなかなか金では買えないー。
世間に”嫌われる大富豪”になることを彼は恐れていたー。

だから、この身体を乗っ取ったのだー。

「ー”この女”はどうせ、嫌われ者ー」
純恋は自分のことをそう言いながら、笑みを浮かべるー。

「ーどんなに悪女だと思われようとー、
 僕には関係ないー」
純恋はそう言うと、にこっと笑いながらー、
”表向き”、住人に良い顔をしつつ、計画の準備を着々と進めたー。

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赤城社長に憑依された純恋ー。

彼女は、街で進めていた色々なプロジェクトを中断ー、
自分の直営のお店にもほとんど訪れなくなり、
店を訪れては各店舗の店長を叱りつけて、
横暴な振る舞いを繰り返していた純恋が来なくなったことに
店舗の責任者たちは安堵していたー。

さらには、街に対する無茶振りも無くなりー、
”この街はわたしのおかげで発展したのよ”みたいな振る舞いを
することも無くなりー、
街の住人たちには”平穏”が訪れていたー。

だがーー
それは、束の間の平和ー。

「ー社長ー」
”赤城社長”の側近である男が純恋の元にやって来るー。

純恋がパソコンの方に目を通しながら笑みを浮かべると、
「ーーどうだ?」と、言葉を口にしたー。

「ー例の”鉱山”ー、
 やはり、間違いはありません。
 この街の地下には、多数の資源が眠っていますー」

「ーーそうか」
純恋は、そう言うと笑みを浮かべたー。

赤城社長の狙いは
この田舎町の地下に眠る”豊富な資源”ー

街の住人は誰も気づいていない様子だったが
この街の地下には、世界中を探してもなかなか手に入らない
とある”資源”が眠っているー。
それを、独自の情報網で突き止めた赤城社長は、
どうしてもこの街を手に入れたかったのだー。

そのために、この街を牛耳る女社長の身体が必要だったー。

そしてー、”確証”を得て、準備を終えるまでは
街のやつらを安心させるために”改心した女社長”を装っていたー。

だがー、もう、それも十分だー。

「ーーーーしかしーその御姿だと、違和感がすごいですねー」
赤城社長の側近の男は、純恋の姿を見ながら
少し照れくさそうに笑うと、
「ーー中身は僕だー。いつも通りでいい」と、純恋は笑うー。

「ーーーいえー…そ、そうは言われましてもー」
そう言いながら、つい胸やスカートのほうを見てしまう側近の男に、
純恋は笑いながらー
「ーーお前も、僕のためにいつも尽くしてくれているしー」と、
側近に近付いていくー。

「ーー”この件”が無事に終わったらー
 この身体で遊ばせてやってもいいー」
と、甘い声で囁くー。

「ーーー…はっ… はっ… あ、ありがとうございます!」
側近の男は、ドキドキして顔を真っ赤にしながらそう言うと、
「ははは、中身が僕だと分かっていても、興奮するのかい?」と、
純恋は笑いながら、イスの方に戻っていくー。

「ーーそ、それはもう、とてもー!」
側近の男は、照れくさそうにそう言うと、
「君は本当に面白いやつだなー」と、純恋は笑いながら、
「ー僕は、金になるものは何でも手に入れて、何でも金に換えるー。
 だから、”大富豪”と呼ばれるまでに上り詰めることができたんだー」と、
笑みを浮かべるー。

この街も”徹底的に”金に換えるー。
純恋は邪悪な笑みを浮かべると、
「ー”例の準備を”」と、側近の男にそう指示を下したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーえ…こ、これはどういうことですかー?」
後日ー

高本町長は困惑しながら声を発したー

「なにって?
 この街を、丸ごとアトラクションにするんですー」

純恋のそんな言葉に、町長は困惑するー。

「ーーだから、皆さんには、この街から立ち退いてもらおうと
 思いましてー」
純恋の言葉に、高本町長は「ちょ!?えっ!?待ってくださいー!」と、
純恋の方を見て叫ぶー。

「ーー僕はこの街の皆さんを救うために、ここに来たんですー。
 僕のおかげで、皆さんは”この女”の横暴から救われましたー」

 ”立ち退く”というと聞こえは悪いかもしれませんがー、
 この街の過疎化は年々進んでいます。
 
 この女の会社のおかげで、多少は回復しましたが
 それでも長い目で見れば未来はないー。
 
 ですので、皆さんにはこの街の外に出て、
 幸せに暮らしてもらおう、と、そう言っているわけですー」

純恋はそこまで言うと、
「皆さん一人一人に裕福な暮らしをお約束しますー。
 引っ越し費用も、新しい住処の費用も、僕の会社から出しますー」と、
笑みを浮かべるー。

”それでも”
十分に利益が出るほどの”金”がこの街には眠っているのだー。

この街をまるごと、
田舎の観光名所に仕立てー、
表向きはアトラクションで収益を上げるー。

ただ、この”アトラクション”には大して期待はしていないー。

大事なのはー…
”地下に眠る資源ー”

あれがあれば、莫大な金を得ることが出来るー。

アトラクション自体は、それを隠すためのカモフラージュー。

掘れば掘るほど資源が手に入るー
そんな、夢のようなこの場所を、誰にも取られるわけにはいかないー。

「ーわ、私たちは生まれ故郷を離れるつもりはー」
高本町長がそう叫ぶと、
純恋が顔を近づけて、脅すような口調で言ったー。

「ーーこの街は、もう僕のものー
 街の名前を変えることだって、何かを制限することだって、
 街のシンボルであるゆるキャラを変えることだって何だってできるー」

純恋のそんな言葉に震える高本町長ー。

「ーー大人しく、僕に従った方が身のためだー。
 ただで引っ越してくれと言ってるわけじゃないー。
 引っ越し費用も、新居の費用も、僕の会社が負担するー
 
 住人たちだって喜ぶかもしれないぞ?」

低い声で脅すように囁く純恋ー。

高本町長は、そんな純恋を見ると
「あ、あ、赤城社長ー…」と、呆然とするー。

純恋に憑依した赤城社長は
最初からこの街を手に入れることが目的だったのだと、
高本町長は、強く痛感したー。

最初は”救世主”の顔をして、
後から”悪魔のような本性”を現わしてー、
この街を喰らいつくすつもりなのだと、悟るー。

「ーーさぁ、あなたたち全員、この街から出て行きなさいー」
純恋がニヤリと笑うー。

「ーお…おーーーお断りしますー」
高本町長は震えながらそう言葉を口にするー

「この街は、我々の故郷ー
 どんな理由であれ、離れるわけにはいきませんー」

高本町長がそう言い放つと、
純恋は「ふ~~~~ん」と、恐ろしく冷たい声を発したー。

私利私欲に溺れた純恋よりも、さらに恐ろしい”純恋”の顔ー。

”悪女”をさらに上回る”悪魔”を招いてしまったのだと、
高本町長は、そう悟りながらー
「ーー…あ、赤城社長が…そ、そういうお考えならー
 私も街を守るためーそれなりのー…」
と、ボイスレコーダーを手にするー。

高本町長は”常に”大事な話し合いをする際には
こっそりボイスレコーダーで”録音”しておく癖のある
用事深い人物ー。

赤城社長が、純恋に憑依する計画を口にした際の会話も
ここに録音されているのだー。

純恋は「ふっ…ふははははははははは」と笑うとー、
ニヤニヤと笑いながら、高本町長のほうを見るー。

「ーーー僕は、神永純恋さん以外にも憑依できる、ということをお忘れなく」

そう言い放つ純恋ー。

「ーーー!」
高本町長は表情を歪めるー

「それを、世間に晒したいのであれば結構ー。
 好きにするといいでしょう。
 それを僕に止める権利はありませんー

 ただーーー…
 先日見た、ツインテールの孫娘さんー
 可愛かったですね?」

邪悪な笑みを浮かべる純恋ー。

”直接的な表現”ではないー。
しかし、高本町長は、赤城社長が
”お前の行動次第では、孫娘に憑依する”と、
脅してきているー…と、いうことをすぐに理解したー。

「ーーーー……そ、そんな、それだけはー!」
高本町長がそう叫ぶと、
純恋がボイスレコーダーを渡すように手を伸ばしてくるー。

それを受け取ると同時に、乱暴にボイスレコーダーを踏みつぶすと、
「ーこの街は、僕のものだー
 この世界は、金が全てを制するー。
 金さえあれば、憑依薬だって作り出すことができるー」と、
そう笑みを浮かべたー。

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本性を現した”憑依された純恋”に、
高本町長ら、街の自治に関わる人間は全員解任されー、
純恋が用意したー、
いいや、”赤城社長が用意した”部下たちに
全て交換されたー。

さらには、”スミレ・ドリーム”の社員たちも
一部を残して一斉に解雇ー
”訴えたければ、訴えるがいいー”
という強気な態度を示す純恋ー。

「クククーどうせ評判が落ちるのはこの女だからなー」
純恋は笑みを浮かべるー。

”純恋”が何をしようとー、
純恋に憑依している赤城社長には”何の影響”もないのだー。

”スミレ・ドリーム”の評判が仮にがた落ちしても、
赤城社長が経営する数々の企業の資金で十分に支えることができるし、
何より、この街の地下に眠る資源を独占できればーーー

「ーーククククククー」
札束にキスをすると、純恋は歪んだ笑みを浮かべながら、
「ーさぁ、スミレ・ランドの建設に取り掛かりなさい!」と、
社員たちにそう宣言をしたー。

あっという間に、追い出されていく住人たちー
元々あった建物を破壊しつくしー、
あらゆる”街のシステム”を破壊していくー

良い部分を徹底的に壊しつくしー、
ここに元々住んでいた住人たちからすれば”改悪”と呼べるようなことを
容赦なくやってのけるー。

「ー純恋!!!なんでこんなことするのー!?」
立ち退きさせられそうになった母親が、泣きながら純恋のところにやってくるー。

だがー、
純恋は笑みを浮かべながら言い放ったー

「ーーわたし、お金が大好きなの♡」
とー。

それはーーー
”憑依された純恋”の言葉ー

けれどー、
もしかしたら”憑依される前の純恋”もー
そんな風に思っていたのかもしれないー。

いずれにせよ、娘が憑依されているなどとは
夢にも思っていない母親は、
絶望の表情のまま、純恋の配下に連れ出されてー、
そのまま街から追放されたー

「ーふふふ…
 ははははははっ!」

街の名前もー、
景観もー、
住人もー
何もかもを破壊しつくし、純恋はー
いいや、赤城社長はこの街を丸ごと支配してしまったのだったー

③へ続く

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コメント

元々の純恋のままだったとしても、
この街に明るい未来はありませんでしたが、
赤城社長を招いてしまったことで
さらに大変なことに……!

明日が最終回デス~~~!

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