<FANBOX試し読み>「僕とわたしの不思議な青春」①~⑤

☆こちらは「試し読み」コーナーデス
 本コーナー以外の憑依空間内の作品は、憑依空間内で”必ず”完結します
<試し読み>と明記していない作品で、(試し読みコーナー以外では絶対にやりません)
「続きはFANBOXで」は絶対にやらないのでご安心ください!

「試し読み」は↓を全てご納得の上でお読みください☆!
(料金が掛かったりすることはないので、安心してください~!)

※こちらの小説はFANBOXご案内用の「試し読み」です。
(試し読みが欲しいというご要望にお応えして、試し読みをご用意しました)

pixivFANBOXで連載している長編「僕とわたしの不思議な青春」の
第5話までを公開していきます!
※「試し読み」では、最後まで完結しません。ご注意下さい
(※FANBOXで現在連載中)

・試し読みコーナーでも、事前に<試し読み>と明記、どこまで読めるかを
明記した上で掲載しています。途中までであることをご納得の上でお読みください!

※1話あたりの長さは通常のと私の作品と同じで、
FANBOXでは1話ごとに公開していますが、
試し読み版では①~⑤を全部まとめてあります。

主要登場人物

遠藤 翔太(えんどう しょうた)
一人称…「僕」
物語の主人公(男)。
大人しくて奥手な性格の持ち主。
”僕のせいでこんなことにー…ごめんなさいー”

星村 綾(ほしむら あや)
一人称…「わたし」
物語の主人公(女)。
翔太とは正反対で、明るい性格の持ち主。誰にでも優しい。
”二人でなんとか頑張ろ!”

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★クラス名簿★(1ーC)

足立 幸也(あだち ゆきや)
一人称…「俺」
イケメンだけど、実は女子が苦手な男子生徒。
”おいおい、どうすりゃいんだー。俺、モテたくないのにー”

神田 哲真(かんだ てつま)
一人称…「俺」
主人公(男)の中学時代からの友人。女子は苦手。
”ほ、星村さんー…何で、俺なんかに構うんだー?”

栗原 誠一(くりはら せいいち)
一人称…「俺」
お調子者の男子生徒。先生にも同級生にも誰にでもうるさい。
”先生、先生、先生!さっきアイツが!”

敷島 郡司(しきしま ぐんじ)
一人称…「僕」
何かを知ってそうな素振りを見せる謎の男子生徒。
”君たち、最近よく一緒にいるよね?”

須藤 渉(すどう わたる)
一人称…「俺」
綾に好意を抱く男子。二人が入れ替わっていることは知らない。
”星村さんー…俺と付き合ってくれ!”

中尾 俊太(なかお しゅんた)
一人称…「僕」「俺」
中学時代は大人しい性格で、高校入学を機に自分を変えようと
金髪にして明るい振る舞いをするように心がけた。
しかし、逆に怖がられてしまい…?
”ーそ、そんなビビるなって!別に俺は何もしねぇよ!”

藤沢 孝弘(ふじさわ たかひろ)
一人称…「俺」
妙に達観した雰囲気の男子生徒。周囲と関わろうとしない。
”人生なんて、死ぬまでの暇つぶしだろ?”

丸岡 富雄(まるおか とみお)
一人称…「僕」
いじめられっ子。小さい頃はクラスの中心的人物だった模様。
”僕なんて、生きる価値のないウジ虫だよ”

柳沢 祐樹(やなぎさわ ゆうき)
一人称…「俺」
いじめっ子。富雄をターゲットにして嫌がらせを繰り返している。
”お前の顔、見るだけで不愉快だぜー。この顔面公害がー”

米沢 海斗(よねざわ かいと)
一人称…その都度変わる
中二病の男子生徒。
”俺の腕に宿る闇の力が…溢れて来たッ!”

渡辺 大樹(わたなべ だいき)
一人称…「僕」
学年一の成績を持つ男子生徒。性格は”人として終わっている”模様ー。
”君たちみたいなクズとは、違うのさー”

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

伊藤 菜々美(いとう ななみ)
一人称…「わたし」
主人公(男)が小さい頃よく遊んでいた相手。
高校で再会するも、心を閉ざしている。
”わたしのことは、放っておいて”

岡崎 香奈枝(おかざき かなえ)
一人称…「あたし」
噂好きのショートヘアーな女子。明るい性格。かなりのドジ。
”あの二人の面白~い噂、手に入れちゃった!”

桐崎 理子(きりさき りこ)
一人称…「あたし」
運動好きの女子で、誰に対してもフレンドリー。
とにかく積極的で、相手が男子でも平気でスキンシップをする。
”え?胸が当たってるー?あはは!そんなこと気にしてるの?”

倉守 詩音(くらもり しおん)
一人称…「ボク」
中性的な容姿のクールな女子生徒。
”ボク?ボクとはあまり関わらない方がいいと思うよー。

笹野 翔子(ささの しょうこ)
一人称…「ウチ」
世話好きの女子生徒。男女問わず友達は多い。
”ウチが相談に乗ってあげよっか?”

高倉 美咲(たかくら みさき)
一人称…「あたし」
気の強い女子生徒。いじめに加担している。
”あたし、あんたみたいなやつ、大っ嫌いー”

野坂 優菜(のさか ゆうな)
一人称…「わたし」
優等生。いつもにこにこしている。怒らせると怖いとの噂も。
”先生、それはわたしがやっておきます”

福井 寧々(ふくい ねね)
一人称…「ねね」
自分の可愛さに酔いしれている自分大好きっ娘。容姿は可愛い。
”寧々、あれが欲しいな~♡”

山井 穂乃果(やまい ほのか)
一人称…「わたし」
努力家。綾の親友。嫉妬深い性格であるものの、それを隠しているー
”綾はいいよねー ーー…あ、ううんー。なんでもない”

守屋 智花(もりや ともか)
一人称…「わたし」
物静かな真面目な生徒。内心では他者を出し抜くことばかり考えている。
”ーーーーーーーーー…”

湯川 梓(ゆかわ あずさ)
一人称…「わたし」
クラス一の美貌を誇る生徒。性格は超がつくほどネガティブ
”ーわたしが可愛い…?ご、ごめんなさいー…”

第1話「発端」

チャイムが鳴り響く中ー、
少しオドオドした様子で彼は周囲を見渡していたー。

正門を潜りー”自分のクラス”を確認するー。

”僕の名前は…どこかなー?”
そんな風に思いながら、名前という名の文字の羅列を、
見渡すー。

そしてー、”1年C組”の部分に
彼は自分の名前ー、”遠藤 翔太(えんどう しょうた)の名前を
確認すると、すぐに1年C組の他の名前を確認するー。

知っている名前は、一人。
いや、二人かー。

中学の頃までは、大体”知っている顔ぶれ”も多かったけれど、
高校となると、違うー。
みんな、色々な高校に分散しー、それぞれの未来へと旅立っていくー。

他のクラスにも何人か、知っている名前はあるけれどー
”自分と同じクラス”に知っている名前は二人だけだったー。

一人はー、”神田 哲真(かんだ てつま)”
中学時代からの友人で、”同じクラスになれるといいな!”などと、
3月にも話していた間柄だー。

そして、もう一人は、”伊藤 菜々美(いとう ななみ)”
小さい頃、近所に住んでいて、よく一緒に公園で遊んだりした間柄だー。
確か、低学年の頃に家庭の事情で引っ越し、転校することになり、
”またいつか、会えるといいねー”などと言われた記憶があるー。

その二人以外には、見覚えはないー

「ーあの~~~…わたしにも見せてもらっていいかなー?」
そんな声にドキッとして振り返ると、
そこにはとても可愛らしい雰囲気の女子生徒の姿があったー。

「ーーあ…!ご、ごめんなさいー」
翔太は慌てて、複数掲示されているクラス名簿のうちの一つを
独占していたことに気付き、申し訳なさそうにその場を避けると、
その子と一緒にいた女子生徒が「あ、綾(あや)と同じクラス!」と、
嬉しそうに声を上げるー。
”綾”と呼ばれたその子は、そんな言葉に、
「ホントだ!また穂乃果(ほのか)ちゃんといっしょだね」などと
笑っているー。

翔太は、そんな会話を背に、自分の教室に向かうと、
中学時代からの友人、哲真と合流して、緊張した様子で座席に座りー、
先生が来るまでの時間ー、哲真と会話をしながら過ごしたー。

「ーーまぁー当たり前っちゃ、当たり前だけどー…
 知らない顔ばかりだなー…」
哲真がそう言うと、翔太は斜め前の方の座席にいる
”伊藤 菜々美”のほうを見つめたー。

”ーーまた、遠藤くんと会えるよねー?”

小さい頃ー、
とても仲良しだった”伊藤さん”ー

けれどー…
さっき、目があった時、特に反応がなかったー。

”もう、随分昔だし、僕のこと、忘れちゃったのかなー”
そんな風に思っていると、
「お、先生来た!女の先生がいいなぁ~」などと、足音だけ聞きながら
哲真がそう言うと、哲真もそのまま自分の座席へと戻って行ったー。

やがてー、
先生が教室にやってくるー。

入ってきたのは、若めのスーツ姿の女性教師ー。

少しだけ緊張した様子で、
「みんな、入学おめでとうー」と声を発すると、
「ーーえ~っと、まずはー」と、少し不慣れな様子で
自己紹介を始めたー。

「ーあなたたちの担任の若松 晴美(わかまつ はるみ)ですー
 え~っと、とりあえずー、よろしくね」
と、ぎこちない様子であいさつの言葉を口にしたー。

哲真が”女の先生”だったからか、ガッツポーズしているのが見えるー。

「ーーー(でも神田くんー…女子苦手だよねー)」
と、心の中でツッコミを入れる翔太ー。

哲真は、いつもおしゃべりな男子だが、
女子の前では、挙動不審になってしまい、あまりうまくしゃべれないー。
そんなタイプの男子だー

”まぁー…僕も似たようなものかー”
そんなことを思いながら、若松先生の話を聞く翔太ー。

若松先生は”クラス”の担任を受け持つのは、どうやらこれが初めてとのことで、
それで少し緊張している様子だったー。

先生の話が終わり、入学式が行われる体育館に移動することになった翔太ー。

廊下に移動する際にー、
”伊藤 菜々美”と目が合った翔太は、
緊張しながらもー、「い、伊藤さんー…ぼ、僕ー」と、声をかけるー。

だがーーー
「ーーーわたしに、話しかけないでー」

「ーー!?」
翔太は思わず、ビクッとしてしまうー。

静かな声だったー。
しかし、睨みつけるような視線と、敵意に満ちた声に、
翔太は呆然として、それ以上、声をかけることができなかったー。

いつも笑っていた”伊藤さんー”
けどー…今はー…

表情を変えずに、顔を背けて歩いていく彼女を前に、
翔太は沈黙するー。

「ー知り合い?」
哲真のそんな言葉に、翔太は「あ、うんー…小さい頃のー」と
そう答えると、
「ーーー忘れられちゃったんじゃないのか?」と、
少し苦笑いして、そんな言葉を口にしたー。

入学式が終わるー。

1日目は、ドタバタしたまま、結局、哲真とぐらいしか話さずに終わりー、
帰宅した翔太は、クラス名簿を見つめたー。

そこには、ズラリと翔太の所属する”1年C組”の生徒、全24名の
名前が刻まれているー。

足立 幸也(あだち ゆきや)
遠藤 翔太(えんどう しょうた)
神田 哲真(かんだ てつま)
栗原 誠一(くりはら せいいち)
敷島 郡司(しきしま ぐんじ)
須藤 渉(すどう わたる)
中尾 俊太(なかお しゅんた)
藤沢 孝弘(ふじさわ たかひろ)
丸岡 富雄(まるおか とみお)
柳沢 祐樹(やなぎさわ ゆうき)
米沢 海斗(よねざわ かいと)
渡辺 大樹(わたなべ だいき)

伊藤 菜々美(いとう ななみ)
岡崎 香奈枝(おかざき かなえ)
桐崎 理子(きりさき りこ)
倉守 詩音(くらもり しおん)
笹野 翔子(ささの しょうこ)
高倉 美咲(たかくら みさき)
野坂 優菜(のさか ゆうな)
福井 寧々(ふくい ねね)
星村 綾(ほしむら あや)
山井 穂乃果(やまい ほのか)
守屋 智花(もりや ともか)
湯川 梓(ゆかわ あずさ)

「ーーーーーー」
しかしー、知らない子の名前を見ても、当然、ピンとは来ないー。

”この名前、可愛いな”とか、そう思うことはあってもー、
今のところ、”誰”が仲良くなれそうで、”誰”がイヤな奴なのかー
そんなことも、分からないー。

「ーまぁ…僕は女子とは縁はないだろうけどー」
翔太はそんなことを思いながら、静かにため息をついたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2日目ー。

学校にやってきて、自分の座席に着席するとー、
「遠藤くんー、おはよ~!」と、突然、隣の座席の女子に
声を掛けられたー

「えっ!?あ、あ、おはようー」
いきなり”遠藤くん”と呼ばれてびっくりする翔太ー。

「ーあ~?”お前誰だよ”って顔?」
笑う隣の座席の女子生徒ー。

「ーーあたしは”桐崎 理子(きりさき りこ)”ねー!
 よろしく!」

そう言いながら、サバサバとした雰囲気ながら可愛らしい顔立ちの
理子が、握手を求めて来るー。

”い、いきなり握手ー!?”と、思いながら困惑する翔太ー。
しかし、断る理由もなく、ドキドキしながら握手をすると、
「ーあ、気にしなくていいよ。普通、まだ顔と名前が一致しない
 時期だもんね?」
と、璃子が笑いながら言ったー。

「う、うんー…まぁ」
翔太がそう言うと、璃子は「あたしは、すぐ人の顔覚えちゃうだけだからー」と
笑いながら言葉を口にするー。

翔太は、少しだけ”いきなり仲良くなれそうな子がー”
などと期待しながら、会話を続けようとするもー、
次の瞬間ー

「あ!野坂(のさか)さん!おはよ~~!」と、
後ろの座席の女子に話しかけ始めてー、

”あぁ、誰にでも距離感近いタイプかぁー”と、
心の中で納得するのだったー。

やがてー、若松先生がやってきて、
今日も説明や、簡単な行事のようなものが続くー。

本格的に授業が始まるのは、まだ”先”ー
それまでに、少しでもクラスに慣れておきたいー。

早速女子と楽しそうに話しているイケメンー
ガムを噛んで嫌な感じの男子ー、
本をひたすら読んで大人しそうな子ー

色々な子がいるが、まだ”誰がどんな感じ”かは分からないー。

そう思いながら、2日目も終わりー、
翔太は結局、中学時代からの友人である哲真と話をしながら、
そのまま帰宅するのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今日は身体測定に視力検査と、聴力検査かぁ」
翔太が、配布されたプリントを見つめながらそう言うと、
「俺、そろそろ視力やべぇんだよな」と、
哲真が笑いながら言うー。

「ホントに?去年は”俺、視力3.0なんだぜ”とか言ってなかったっけ?」
翔太が笑いながら言うとー、
「ーーあ~?そんなこと言ったっけな~」と、笑うー。

回る順番は自由のようでー、
翔太は”聴力検査は時間がかかるし、混みそうだから”と、
先に聴力検査に向かうことにして、移動を始めるー。

一方の哲真は”近いモノからぶっ潰す!”と、一番近くの視力検査に
向かって、別行動となったーーー

がーーーーー

「ーーやば…」
翔太は、人のいない廊下で呆然としながら、
キョロキョロするー。

「ーーー僕……”方向音痴”なんだったー」
翔太は汗をタラタラ流しながらー
「神田くんについていけばよかったー」と、トホホ、と思いながら
学校内をさ迷うー。

生徒手帳に書かれた構内図を見るが、正直あまり良く分からないー。
結構広い高校だしー、
こうしている間にも、無駄に時間がー、
と、焦りながらウロウロしているとー

「ーー!」

「ーーーあ!」

見覚えのある女子生徒と偶然鉢合わせをしたー。

「ーーー……もしかしてーー…君も迷子?」
その相手ー、星村 綾(ほしむら あや)が、
照れくさそうに言うと、
翔太も照れくさそうに「あ、う、うんー」と、答えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

二人で廊下を歩くー。

「ーーあ、そういえば、最初の日に、正門のところで会ったよね?」
綾がそんな風に微笑みながら言うー。

「ーーあ…う、うんーーあの時はジャマしてごめんなさいー」
翔太が照れくさそうにそう言うと、
綾は「ううんー。そんなこと全然気にしないしー」と、微笑むー。

「ーーえ~っとーー…」
綾が、何かを思い出したかのように翔太のほうを見るー。

翔太は”名前”のことだと思いー、
「あ、僕はー遠藤… 遠藤翔太ー」と、名乗ると、
綾は「遠藤くんね!」と、明るく頷きながらー、
「ーわたしは星村 綾ー。よろしくね!」と、笑顔で微笑んだー。

”可愛いしー、話しやすいしー…いい子だなぁ…”
そんな風に思いながら、一緒に校内を歩くー。

一緒に歩いている綾のことをどことなく”雲の上”の存在のような
感じを覚えつつもー、
とにかく今は協力して、迷子を脱しないとー、と、
二人で色々相談しながら、検査の場所を探すー。

そして、ようやくーーー

「あ!あった!聴力検査! この先だって!」
綾が嬉しそうに指を指すと、
翔太も、安堵のため息をつきながら「よかったぁ…」と、
言葉を口にするー

「ーーーあ、綾!」
そこにー、綾の友達と思われる子ー…
入学式の日も一緒に居た子がやってきて、綾と話し始めるー。

「ーーー”誰あの子ー?”」
小声で、相手の子ー…山井穂乃果がそんな言葉を口にするー

「え?ほら、同じクラスの遠藤くんー」
綾がそう小声で返すと、穂乃果は「まだ顔と名前が一致しなくてー」と、
小声で笑うー。

”聞こえてるよー”
と、翔太は思いながらも、あえて突っ込まずにいると、
綾の方が、「あ!遠藤くん!ありがとね!」と、笑いながら
手を振って来るー。

翔太は「こちらこそー」と、照れくさそうに言いながら、
そのまま検査が行われている教室に向かって歩き出すー。

「ーーーーーーー」
綾の友人・山井穂乃果は、
そんな翔太の様子を少しつまらなそうに、見つめていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

入学してから1週間とちょっとが経過したー。

身体測定の日に、一緒に行動した”綾”のことが
ちょっぴり気になってしまった翔太ー。

しかしー、恋愛ゲームとは違って
そんなに簡単に女子と親密になれるはずもなくー、
あの日以来、特に綾と特別な接点がないまま、
時間だけが経過していたー。

大分、クラスメイトの名前と顔が一致するようになってきてー、
それなりに生活にも慣れて来たー。

そろそろ、授業も本格的に始まる頃だー。

自転車で登校している翔太が、自転車置き場に自転車を止めて、
途中の自販機で購入した飲み物をカゴに一旦置くと、
自転車の鍵を抜いて、そのまま校舎に向かって歩き出すー。

だんだんと慣れて来た”教室への道ー。
それを通り、教室にたどり着くと、
友人の哲真が、”最近、翔太たちとよく話すようになった”
男子生徒・足立 幸也(あだち ゆきや)と、
話をしている姿が目に入ったー。

「へへへーお前、モテモテじゃねぇか」
何の話をしているのかは知らないが、哲真が幸也にそう言うと、
「いやいや、勘弁してくれよー。俺、女子苦手なんだけどー」と、
笑いながら幸也が返事をするー。

”足立幸也”は、超がつくほどイケメンーなのだが、
どうやら女子が苦手らしくー、いつも女子たちに話しかけられては
困っているー。

「ーーお!翔太!」
哲真が翔太に気付き、手を上げるー。

「ー神田くんー、足立くんーおはよう」
翔太がそんなことを言いながら、鞄から飲み物を取り出そうとした
その時だったー

「あ、やばっ」
翔太がそう言うと、哲真は「ん?どした?」と、笑うー。

「ーーあぁ、いやー、
 途中で飲み物買ったんだけどー、自転車のカゴに置いてきちゃってさ」

そんな言葉を口にすると、
翔太は「ちょっと取って来る!」と慌てて教室を飛び出すー。

「ーははは、あんま慌てて、途中でこけるなよ!」
哲真のそんな言葉に、翔太は「子供じゃないんだから転ばないよ!」と
叫び返して、そのまま教室を出たーーー

がーー
階段を急いで駆け下り始めてー
半分ほど過ぎたその時だったー。

階段を下りる途中ー、
向きを変えたタイミングでー
ちょうど階段を上って来ていた”綾”と、鉢合わせしてしまったー

「えっ!?」

「あっ!?!?」

翔太は、咄嗟に”急ブレーキ”とでも言えば良いのだろうかー。
自分の身体を止めようとしたもののー、
止まることが出来ずー、
綾とぶつかってしまうーーー

階段を上っている最中だった綾は、
降りて来た翔太と共に、そのまま階段から転倒してしまうーー

翔太は思ったー

”あぁ、最悪だー”
とー。

”いきなりやらかしたー。
 神田くんには笑われるしー、星村さんには嫌われちゃうー”

とー。

そんなことを思いながらー、
階段から転がり落ちる衝撃と痛みを感じながらー、
翔太の意識は途切れたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー!!!!」
翔太がガバッと起き上がるー。

身体を起こして、周囲を見渡すとー、
どうやらそこは”保健室”のようだったー。

保健室に足を踏み入れるのは今回が初めてー。
まさか、4月早々に保健室のお世話になるとは、
夢にも思わなかったー。

「ーーーーほ、星村さんはだいじょーーーー う…??」
”星村 綾”のことを心配して、そんな言葉を口にしようとした
翔太は言葉を止めるー。

「ーーえ…??? え…
 あ、、あ… あ~~~… え???」
困惑する翔太ー。

それも、そのはずーー…
”自分の声”がおかしいー。

いいや、おかしいどころの騒ぎではないー。
”自分の声が、自分の声じゃないー”

自分の口から出ているのはー、
男の声ではなく、女の声ー。

「ーーー!?!?!?」
ふと、自分の身体を見下ろした翔太は、
胸の膨らみとスカートが視界に入って、
顔を真っ赤にしながら、慌てて周囲を見渡すー

「えっ!?ぼ、僕ー、何で女装してるの!?」
女の声でそう叫ぶ翔太ー。

するとー、
”その声”を聞いてー

”先に目を覚ましていた”綾がーー

いいやーーー
”翔太の姿をした綾”が、
ベッドの方に顔を出したー

「ーーえっ…えっ…えっ!?!?」
しかしーーー
翔太からしてみればー
”僕が目の前にもう一人”という奇妙すぎる状況ー

思わず、「うわあああああああああ!?!?」と、
情けない悲鳴を上げてしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーぼ、ぼ、ぼ、僕とーー
 僕と、星村さんが、
 い、い、い、い、入れ替わったー!?」

綾になってしまった翔太が言うと、
翔太になった綾が「信じられないけどー…そうみたいー」と
困り果てた表情を浮かべたー。

綾が”翔太の身体”で先に目を覚ましー、
保健室の染谷(そめや)先生に怪我の事情を説明ー、
染谷先生は一旦、別の仕事のために、保健室を留守にしているようだったー

「ーえ…えっと、ぼ、僕たちが入れ替わってるってことはー…?」
綾(翔太)が言うと、
翔太(綾)は”髪を上げるような仕草”をしながらー、
髪がないことに気付き、戸惑うような素振りを見せると、
「ーーそれが…ちょっと、無理そうだったからー」と、
言葉を口にしたー。

翔太になった綾は”今の状態”のことを
保健室の染谷先生に話そうとしたもののー
”頭、強く打ったのー?”などと心配され、病院で診てもらった方がー、
などと言い出したため、伝えるのを諦めたー…
とのことだったー。

”入れ替わり”なんて普通は誰も信じないー。
たぶん、すぐに元に戻れるだろうから、このままお互いのフリをした方が
いいと思うー、と、翔太(綾)はそんな提案をしたー。

「ーーーーー」
顔を真っ赤にする綾(翔太)ー

「ぼ、ぼ、ぼ、僕がー…星村さんー」

そんなことを呟きながら
すぐに”変態”だと思われちゃうー、という恐怖感と、
階段から転落する原因を作ってしまった罪悪感からー、
その場で「ご、ごめんなさいー…僕のせいで」と、叫ぶー。

もう、泣きだしたい気分だったー。
入学早々の大失態だー。

そんな綾(翔太)を見て、翔太(綾)は少しだけ笑うー。

「ーそんなに謝らないでー。
 確かに、階段を走るのは危ないけどー…わたしも
 もっとよく前を見てればよかったしー…お互い様」と、
翔太(綾)は言うー。

”見た目も性格も完璧ー
 やっぱり、雲の上の存在だー”
と、綾(翔太)は思いながらもー、
「ーーで、でも…ど、どうすれば元に戻れるのかなー?」と、
言葉を口にするー。

「ーう~ん…」
翔太(綾)は戸惑いながらも、
ベッドの脇のイスに座るー。

イスに座る際に、スカートを整えるような仕草を”癖”でしてー、
今はズボンであることに気付き、恥ずかしそうに笑うー。

「ーちょっと、慣れないねー」
そんなことを口にすると、翔太(綾)は、
”もうすぐ授業も始まっちゃうしー、このままずっとここに
 居ても、サボってると思われちゃうかもだからー”と、
改めて”お互いのフリをして、今日1日を過ごす”提案をするー。

幸い、二人とも大きな怪我はないー。
意識を失ったのは、入れ替わったことが原因だろうかー。

「ーーー…う、うんー…わ、わかったー」
綾(翔太)はそう頷くとー、
髪が視界を遮って、困惑した表情を浮かべるー

「ーか…髪…ど、どかしてもいいー?」

女子の髪を勝手に触ってもいいのか分からずー、
綾(翔太)が恥ずかしそうにそう言葉を口にすると、
翔太(綾)は「ーーもちろんー。そのぐらい気にしないで」と、
優しく微笑んだー。

「ーーーーじ、じゃあー…ご、ごめんなさいー」
そんな言葉を口にしながら、手で髪をどかすー。

それだけで、”自分じゃない他人”の身体になっていることを
強く、強く、実感させられるー。

「ーー立てる?」
翔太(綾)がそう言うと、綾(翔太)は頷いたー。

ひとまず、このまま授業を受けるー。
今日はまだお昼で学校は終わりのため、放課後になったら
何とか元に戻るー。

そんな計画を立てて、二人は教室に向かって歩き出すー。

「ーー…~~~~~~」
”スカート”で歩くことに、綾(翔太)は、物凄く落ち着かない気持ちになって
ソワソワとするー。

不安な気持ちがこみあげて来て、スカートを意味もなく押さえようとするもー、
”スカートを触っちゃいけないー”と思って、それを我慢するー。

翔太(綾)は、「遠藤くんの身体だと、いつもより視界が高いねー」などと
緊張をほぐすためか、そんな言葉を口にするー

「ーあ、そうだー。
 わたしといつも一緒に居る子ー
 穂乃果ちゃんが話しかけて来ると思うけど、上手く会話を合わせておいてねー」

翔太(綾)が思い出したかのようにそんなことを口にするー

「えぇっ!?」
綾(翔太)が、顔を真っ赤にするー。

翔太(綾)は教室に向かう途中ー、”山井穂乃果”との、普段の
間柄などを簡単に説明するー

「大丈夫かなぁ…」
綾(翔太)は不安になりながらも、
「僕のほうはー、神田くんとよく話すからー」と、
自分の親友・哲真のことを説明するー。

幸い、まだ他の顔ぶれとはそこまで親しくなってはおらずー、
何とかなるはずー、と、二人は結論づけながら、
そのまま教室へとたどり着いたー。

「ーーーーゴクリ…」
改めて”女子”として教室に戻ることに
「やっぱ無理…!」と、綾(翔太)は、弱音を吐くも、
翔太(綾)は「大丈夫ー。1時間目は終わっちゃったみたいだから、
あと3時間分だし、体育とかはないから!」と、励ます言葉を口にしたー。

観念して、教室に入る綾(翔太)ー

恥ずかしそうに、”綾”の座席の方に戻るー。

翔太(綾)も、戸惑った表情を浮かべつつ、
翔太の座席の方に歩いていくー。

「ーーー大変だったね~」
綾の親友・穂乃果が声をかけて来るー。

「ーーーーあ…う、うんーーー」
綾(翔太)がそう言うと、
穂乃果がチラッと、翔太(綾)のほうを見つめながら
言葉を口にしたー。

「ーでも、あの男子ー…
 遠藤くんだったっけー?
 階段でぶつかってくるとか、あり得ないよねー?
 綾、本当に大丈夫?怪我してない?」

”中身が、その遠藤くん”だと知らない穂乃果は、
そんな言葉を口にしてくるー

「え…ご…ご…ごめんなさいー…」
綾(翔太)が思わずそんな言葉を口にしてしまうと、
穂乃果は「えぇ?綾は何も悪くないよ~」と、笑いながら
綾(翔太)の肩をポンポンと叩いたー。

”放課後になれば、すぐに元に戻れるー。”

この時の翔太はー、
いいや、綾も含めて二人は、
そう思っていたー。

まさかー
高校生活3年間をこのまま過ごすことになるとは、
夢にも、思っていなかったー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★1-Cの日常★
他の生徒たちにスポットを当てたミニ劇場…★

「ーーーー」
金髪の男子生徒、中尾 俊太(なかお しゅんた)は
戸惑っていたー。

クラスメイトの”遠藤くん”とやらに挨拶をしてみたがー、
どう考えても、相手はビビッていたー。

クラスメイトの”丸岡くん”とやらに至っては、
話しかけただけで、
ビビッて逃げてしまったー

「ーーーくそっー…!」
最初の1週間を終えた彼、中尾俊太は戸惑っていたー。

”金髪なんかにするんじゃなかったーーーー!!!”

中学時代、大人しい性格だった彼は、
周囲のメンバーがガラリと変わる高校入学を機に、
大幅なイメチェンを図ろうとしたー。

その結果ーー
盛大に失敗して、周囲にビビられるヤバいやつに
なってしまったのだったーー…

②へ続く

第2話「戸惑い」

入学してから1週間ー。
そろそろ授業も本格的に始まりー、
生徒たちは”どんな先生かな?”などと、思いながら
授業を受けるー。

2時間目ー
”国語”の授業が始まりー、
神経質そうな眼鏡の先生・井上(いのうえ)先生が入って来るー。

何となく、歴史の教科書の肖像画に居そうな感じの顔立ちに見えるー。

だがーーー
翔太にとっては”先生たちとの出会い”に思いを巡らせる余裕はなかったー

”やばー…”
綾と入れ替わってしまった翔太は、”綾の身体”で綾の座席に
座り、授業を受けていたー。

”す、す、座り方ーこれでいいんだよなー?見えてないよねー?”
綾(翔太)は不安そうに、自分のスカートを気にするー。

スカートを履いて、イスに座ったことなど、当然ないー。
”ただ座っているだけ”なのに、ソワソワドキドキしてしまうー。

そうこうしているうちに、井上先生が自己紹介を終えて、
教科書に載っている最初のお話の授業が始まったー。

井上先生が、座席表と名前を照らし合わせながら
生徒をランダムで指名しー、1ページずつ、その物語を読んでいくー。

「ーじゃあ~次は、遠藤」
井上先生がそう言い放つー

「ーは、はいっ!」
「ーーはい」

「ーー?」
井上先生が、メガネをいじりながら首を傾げるー。

「ーーえ?」
綾(翔太)の隣の座席の男子生徒、須藤 渉(すどう わたる)も
思わず首を傾げたー。

”遠藤翔太”を呼んだのにー、
”二人”立ち上がったーー

そんな状況に、先生もクラスメイトも困惑しているー

「ーーー!」
翔太(綾)が、”自分の身体”も立ち上がったことに気付きー、
慌てて目で合図をするー。

だが、時すでに遅しー。
先生もクラスメイトも”遠藤”と呼ばれたのに、
立ち上がった”星村 綾”を見つめるー。

「ーーー星村さんー…呼ばれたのは”遠藤くん”だよー?」
後ろの座席にいる優しそうな女子生徒・野坂 優菜(のさか ゆうな)の
そんな言葉を聞いてー、
ようやく綾(翔太)は”やべっー”と、自分の犯したミスに気付いたー。

”今、僕は”遠藤くん”じゃないんだったー…!”
そんなことを思いながら、恥ずかしそうに綾(翔太)は
「す、す、すみませんー」と、頭を下げるー。

井上先生が、少し戸惑った様子で咳払いをすると
「じゃあ、改めてー…遠藤、頼むー」と、
翔太(綾)に教科書を読むように促したー。

翔太(綾)が国語の教科書を読むー。

「ーーーーー」
”僕”の声を、他人として聞くー。
なんだかとても違和感のある状態ー。

普段、”自分の声”は、自分の口から発されているのを聞くかー、
電話や動画で聞くかしかできないー。

が、こうして”別人”として自分の声を聞くと、
また何か、違った声に聞こえるー。

「ーーーーこうして彼は、家に急いで戻ることになったー」

翔太(綾)が、教科書の1ページを読み終えると、
笑顔を浮かべて、そのまま着席するー。

「ーーじゃあー、次は星村」

「ーーは、はひっ!?」
心の準備が出来ていないまま、指名された綾(翔太)は
変な声を出してしまうー。

恐らくー、さっき”間違えて立ってしまった”ことで、
井上先生に指名されてしまったのだろうー。
こういう時は、目立つと指名されやすいー。

「ーーー次のページを読んでくれー」
井上先生が眼鏡をいじりながら言うー。

「は、はいー」
綾(翔太)は、”綾の声”で教科書を読み始めるー

”な、なんだこの可愛い声ー…”
そう思っただけで心臓がバクバクしてくるー。

”星村さんの声”で、教科書を読んでいるだけで、
ドキドキしてしまうー。

「ーーーーー」
教科書を無心に読む綾(翔太)ー

ようやく1ページ読み終える頃には、
顔が真っ赤になっているのが、自分自身にも伝わってくるぐらいー、
綾(翔太)は赤面していたー。

「~~~~~~~…」
元に戻るまで、ずっとこの声で喋るのかー、と思いながら
恥ずかしそうに俯くとー、
井上先生は少しだけ失笑したような表情を浮かべながら、
「じゃあ、次はー渡辺(わたなべ)」と、
真面目そうな眼鏡の男子生徒を指名したー。

得意気な表情で立ち上がり、聞き取りやすい声で音読を始める彼ー。

その様子を見ながらも、綾(翔太)は、
まだ落ち着かない様子でソワソワと身体を動かしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」
ようやく、2時間目が終わったー。

入れ替わって受けた最初の授業ー。
1時間にも満たない時間のはずなのにー、
どっと疲れたー。

「ーーー」
緊張して、トイレも行きたくなってきたし、
トイレに行っておこうかな、と立ち上がる綾(翔太)ー

しかしー…
綾(翔太)は表情を歪めたー

「ーー…え… そ、そういえばーー」
自分の下半身のほうを見落とす綾(翔太)ー

”ほ、ほ、星村さんの身体でトイレー…!?!?”

絶対無理だー、と、綾(翔太)は思うー。

そもそも、女性がどうやってトイレを済ませるのかなんて
見たこともないし、知らないー
”座ってする”ぐらいしか翔太は知らないー。

それに、スカートをどうやって下ろせばいいのかも分からないしー、
そもそも綾の下着や、アソコを見るわけにもいかないー。
しかも、自分は男だから女子トイレに入るわけにもいかない上に、
身体だけは女子だから、男子トイレに入ることもできないー

「ど、ど、どうすればー」
頭を抱える綾(翔太)ー
そうこうしているうちに、翔太(綾)が近づいて来てー
「大丈夫だった?」と、小声で確認してくるー。

「ーう、うんー。な、なんとかー」
綾(翔太)はそう返事をすると、
「ーー…な、なんかー…その、色々ごめんなさいー」と、
”上手く綾に成り切れていない自分”に情けなさを感じながら
そんな言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3時間目ー
理科の授業が始まるー。

「ーーー松原(まつばら)ですー。
 ーーーまぁ、うんーその、よろしく」

髪を掻きながら笑う女性教師ー、
科学者のような白衣を着た、結構美人な顔立ちに見える
その先生が適当な挨拶を終えるー。

「”わたしは理科オタクだからー”」
などと豪語し、科学と結婚したー、などと、笑いながら話している
彼女は、とても話しやすそうな先生に見えるー。

「ーーーー…」
がー、やはり、綾(翔太)はそれどころではなかったー

”きったなー…!!!”

配布されたプリントに
”星村 綾”と名前を書く綾(翔太)ー

まさか、自分の名前以外の名前をプリントに書くことになるなんてー。

”星村 綾”と書いている事実にゾクゾクしてしまいながらもー、
理科の教科書の裏に書かれた”星村 綾”という字とまるで別人のような
汚さに、綾(翔太)は絶望していたー

”いや、そりゃー…星村さんが書いた字の方が綺麗なのは分かるけどー”

教科書に書かれた”星村 綾”は、入れ替わる前に本人が書いたものー。
そして今、プリントに書いた”星村 綾”は、綾(翔太)が書いたものー

”あぁ…星村さん、字まで綺麗すぎてー
 やっぱ、僕からしたら雲の上の存在だなぁー”

そんな風に思いながら、何とかプリントに名前を書き終えると、
”できるだけ綺麗にー、できるだけ綺麗にー”と、
心の中で唱えながら、3時間目の授業を乗り切ったー。

残る授業は”数学”
まだ今週の途中まで午前授業のため、数学を乗り越えれば
今日の授業は終了ー、
元に戻ることができるー。

そう思いながら、次の授業の準備をするため、
教室の外にあるロッカーの所に向かうー。

「ーーははは、何なら今日、このあと駅前のカード屋に行くか?」

ロッカーの前ではー、
翔太の親友ー、神田哲真が、入学してから仲良くなった
イケメン男子・足立幸也とそんな話をしていたー。

翔太と哲真は、中学時代から一緒にカードゲームでも遊んでいるー。
話を聞く限りー、どうやら”足立くん”も、そのカードゲームの
プレイヤーらしく、哲真と幸也で盛り上がっている様子だったー。

「ーーー」
”自分の好きなもの”の話になると、ついテンションが上がってしまう
”翔太”は、「ーー足立くんもー…そのカードゲーム、やるんだ」と、
嬉しそうに声をかけてしまうー。

「ーえっ?」
幸也と哲真が驚いた様子で言うー。

幸也が笑いながら
「えっ?星村さんもー?」と、言葉を口にしたのを聞いてー
「ーー!」と、綾(翔太)は表情を歪めるー

いー、いやいやいやー、
何考えてるんだ僕はー
こ、こういう話は元に戻ってからじゃないとー!

そう、自分に言い聞かせた翔太ー。

慌てて「う、うんー友達がー」と、誤魔化すー。

そんな話をしながら、ロッカーから荷物を取り出していた
綾(翔太)は、うっかりロッカーから取り出した教科書を
床に落としてしまうー。

親友の哲真の足元に落ちた綾の教科書ー。

「ー大丈夫か?」
哲真はそう言いながら、教科書を拾うと、
綾(翔太)に教科書を手渡すー。

がーーーー

「あ、ごめー…」

”綾の手”に哲真の手が触れて、哲真がビクッとすると、
申し訳なさそうにそんな言葉を口にしたー

「ーーーえ? あー、う、うんーありがとう」
教科書を拾ってくれたお礼の言葉を述べると、
綾(昌磨)は、哲真が顔を赤らめながら、
ソワソワしていることに気付いたー

”神田くん”はー、
”女子が苦手”だー。

「ーーーお、お礼なんてー…別にー」
とても恥ずかしそうにしながら、哲真は
逃げるようにして教室の方に戻っていくー

「ーか、神田くんー…」

いつも楽しく話をしている哲真とー
”いつものように楽しく話をすることができないー”

そんな状況に、綾(翔太)は、
悲しそうな表情を浮かべると、
「ーー…あ、あと1時間だしー」と、
”放課後になれば元に戻れる”と、自分に言い聞かせながら
座席に向かったー。

ついでに、そろそろトイレを我慢するのもキツイー。
今日が4時間で終わる日でよかったー、
と思わずにはいられなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4時間目の授業が始まるー。

翔太になってしまった綾は、翔太の座席に着席する際にー、
いつもの癖で、スカートを履いている時の座る仕草をしてしまうー。

「ーーあ…」
苦笑いする翔太(綾)ー。

綾も、ズボンを履く機会はもちろんあるからー、
”翔太が綾の身体になって、スカートを履いている”状態よりかは
違和感はないー。

けれど、学校では中学以降、ずっとスカートだったし、
どうしても”教室で自分の座席に座るとき”には、
それらしき仕草をしてしまうー。

”神田くんに変に思われてないかなー”
翔太(綾)は少し不安そうに翔太の親友である神田哲真のほうを
見かけるー

さっき、カードゲームの話を振られたがー、
正直、綾には全然分からないー。
愛想笑いを浮かべたり、相槌を打つのがやっとだったー。

”遠藤くんが、変な風に思われちゃわないように、気を付けないとー”
翔太(綾)はそんなことを思いながら
気を取り直して、授業に集中するー。

数学の教師は”西田(にしだ)先生ー。
気さくなおばさん、という感じの先生だー。

授業中に家族の話や世間話をし始めることが多くー、
とにかく”脱線”するー。

「ーーーこの問題をー… 
 じゃあ、”遠藤くん”にー」

西田先生が、翔太(綾)を指名するー。

「ーー!」
綾(翔太)は、うっかり”また”反応しそうになるもそれを耐えたー。

「ーーー」
翔太(綾)が黒板に向かうー。

歩幅が、違うー。
前に立った時の背の高さが、違うー。

背は翔太の方が大きいー。
急に数センチ伸びるだけで、こんなに見える光景が変わるんだー、
と思いながら、
黒板に問題の答えを書いていくー。

「~~~~…」
指の感覚がいつもと違うからか、いつもより上手く字が書けないー。

だが、なんとかそれなりに綺麗な字で答えを書くと、
西田先生は「はいー、ありがとうー 正解正解」と、
少し拍手しながら、そんな言葉を口にしたー。

「ーーー(身体が違うってー、ホント、大変ー)」
翔太(綾)は、そんなことを思いながら、
座席に着席するー。

今度は、スムーズに着席したものの、
着席してすぐ、”髪を触る”仕草をしてしまいー、
心の中で少しだけ笑うー。

翔太の髪は、”普通の男子”ぐらいの長さだし、
こんなことする必要はないのにー、と
内心で笑うー。

その後も、西田先生の息子の話を聞かされながら、
数学の授業は終わりを迎えたー。

「ーー井上の授業つまんなくねー?」
国語の井上先生のことを金髪の中尾俊太が口にするとー、
その近くの座席にいたお調子者の男子、栗原誠一が笑いながら
「確かにー!」と、頷くー。

初めての先生たちとの”感想”を言い合ってるようだー。

「あ~でも、俺、理科の松原先生は好きだなー
 あの科学オタクな感じでちょっとぶっ壊れ気味なところがー」
誠一がそう言うと、俊太は「しかも美人だしな~!」と笑うー。

そんなやり取りを見つめながらー、
綾(翔太)がため息をつくとー、
「ー今日、なんか変だったけどー、大丈夫?」と、
綾の親友、山井穂乃果が心配そうに声をかけて来たー。

「あ、う、うんー」
いつも綾と一緒にいる穂乃果から、変な印象を
抱かれるわけにはいかないー。

やがて、担任の若松先生がやってきて、帰りのホームルームが
終わると、そのままこの日は解散となったー。

「ーーーーーー」
誰とも会話せず、つまらなそうな顔をして
立ち去っていく”伊藤菜々美”の姿を見て、綾(翔太)は
心配そうな表情を浮かべるー。

菜々美は、小さい頃よく遊んだ子だー。
久しぶりに高校で再会したのにー、
以前とはまるで別人のように見えるー。

そんな、”伊藤さん”の様子にため息をついていると、
翔太(綾)が声をかけて来たー

「ーーじゃあ、元に戻る方法、探そっかー」
とー。

「ーうん」
綾(翔太)は、”そろそろトイレも限界だしー”と、
思いながら、翔太(綾)と共に、あまり生徒が来ない
廊下の端っこの部分まで移動したー。

「ーーーほ、本当に、今日は迷惑かけてごめんー」
綾(翔太)が改めてそう言葉を口にすると、
翔太(綾)は「そんなに気にしないでー」と、笑うー。

「ーー普段、男子になんてなれないんだし、貴重な経験だったからー」

そんな、前向きな考えに、
綾(翔太)は少しだけ笑うとー、
「ーぼ、僕も…貴重な経験だったかも」と、返事をしてからー
”な、なんか僕が言うと変態っぽく聞こえるー”と、
自分の口にした言葉を後悔して、
顔を赤らめるー。

「ーじゃあ、色々試してみよっかー」
翔太(綾)が笑うー。

”もしかしたらー、この件で星村さんとちょっと仲良くなれたりしてー”

そんな、年頃の男子らしき”希望”を抱きながらー、
綾(翔太)は、翔太(綾)と共に”元に戻る為”の色々なことを
試し始めたー

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

がーーーー

甘かったーーー

翔太だけではないー。
綾も、”甘く”考えていたー。

すぐに、元に戻れるだろう、とー。

しかしー。

手を繋いでもー、
頭をぶつけてみてもー、
お互いにぶつかってみてもー、
元に戻るように念じてみてもー
何をしてもー、
元には、戻らなかったー

「ーーー~~~あれれ…」
翔太(綾)は不安そうな表情を浮かべるー。

だが、それ以上に深刻だったのはー
綾(翔太)のほうー。

「ーーだ、大丈夫ー?」
露骨に”調子悪いオーラ”を出している綾(翔太)に
翔太(綾)が心配そうに声をかけるとー
「そ、そのーご、ごめんー… そのー」と、
もじもじしながら言葉を口にするー。

「ーーも…もしかしてー…と、トイレー?」
翔太(綾)が先に気付いてそう言葉を口にすると、
恥ずかしそうに綾(翔太)は頷くー。

「ーじ、じゃあー、わたし、ここで待ってるからー」
翔太(綾)がそう言い放つー

だがーー

「ーーぼ、ぼ、僕ー…
 ー星村さんの身体で、トイレできるかどうかー…」

綾(翔太)のそんな言葉に、
翔太(綾)は、戸惑うー

しかしー、
”あー…でも、遠藤くんからすればー…そうなのかなー”と、
内心で納得もするー。

スカートを履いた経験なんてないだろうしー、
男と女では、そもそも感覚も違うだろうー。

「ーーー…じ、じゃあ、わたしが一緒に行って
 手伝うから!」

”わたしの身体で漏らされちゃ流石に困るー”
そう思った翔太(綾)がそう言うと、
「い、一緒に!?」と、綾(翔太)が叫んだー。

二人でトイレの前まで移動してー
翔太(綾)は男子トイレと女子トイレを見つめるー

”二人で男子トイレに入るかー”
”二人で女子トイレに入るかー”

2つの選択肢で迷った挙句ー。
”女子が男子トイレで見つかる方が、まだ騒ぎにならないー”と、
判断して、「ーーだ、男子トイレの個室で!」と、
翔太(綾)が叫ぶー。

先に翔太(綾)が中に入りー、
はじめての男子トイレにドキッとしながらも、
誰もいないことを確認すると、綾(翔太)を手招いて、
男子トイレの個室に二人で入るー。

”ど、どう言う状況だよーこれ”

綾(翔太)が、困惑しながら内心でそんなことを思うー。

けれどー、もうトイレが限界だー。

翔太(綾)に色々教えて貰ったり、
手伝ってもらったりしながらー、
ついに、翔太は”綾”として初めてのトイレを済ませたのだったー。

トイレを済ませると、
翔太(綾)が先に個室から出て、誰もいないことを確認すると、
綾(翔太)も、そのままトイレから飛び出したー。

”放課後になれば元に戻ることができるー”
そんな、根拠のない希望は
簡単に打ち砕かれてしまったー。

話し合う二人ー。
そして、二人は”お互いのフリ”をしたまま、家に帰ることになるー。

”明日になれば、元に戻ってるかもー”
翔太(綾)のそんな言葉に希望を抱きー、
”放課後まで”が”明日まで”にー
少し延びただけだと、
そう、希望を抱きながらー。

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★1-Cの日常★
他の生徒たちにスポットを当てたミニ劇場…★

可愛い見た目の持ち主とは裏腹に、
超がつくほどネガティブな女子生徒・湯川 梓(ゆかわ あずさ)は
困惑していたー。

(こ…怖い…!)
その理由はー、隣の座席の男子生徒ー・藤沢 孝弘(ふじさわ たかひろ)ー。

”人生は、死ぬまでの暇つぶし”
そう豪語する彼は、
学校での1日が終わる度に、あることを口にしているー。

”これでまた一歩、死に近づいたー”
とー。

妙に嬉しそうにそう呟く孝弘を見て、
梓は毎日毎日、恐怖を感じていたー

「ーー大丈夫か?」
その背後から、声をかけて来たのは、
クールな雰囲気の女子生徒・倉守 詩音(くらもり しおん)ー。

男装していれば、美少年にも見えるような
そんな中性的な容姿の女子生徒だー。

「ーーあ、う、うんー…だ、大丈夫ー」
梓がそう言うと、「なら良かったー。じゃあ、僕はこれで」と、
詩音は荷物をまとめて立ち上がると、そのまま立ち去っていくー

”かっこいいなぁ…”
梓は心の中でそんな風に思いながら
”あ、わたしもそろそろ帰らなくちゃ”と、時計を見つめると、
そのまま下校する準備を始めるのだったー。

第3話「帰宅」

「はぁ~~~~~…」
ドキドキしながら”綾”の家の前にやってきた
綾(翔太)ー

周囲から見れば”自分の家の前で何をドキドキしているのか”と
思ってしまうような不思議な光景ー。

「ーーー……」
ゴクリ、と唾を飲み込むー。
女子の家に足を踏み入れたことなどー…
ほとんどないー。

小さい頃、近所に住んでいた”伊藤 菜々美”の家に
親同伴で行ったことがあるぐらいで、それ以外は
全くない、と言ってもいいー。
つまり、初めてに等しい状態だー。

「ーーー…は~~~…ダメだ…緊張するー」

下校する前にー、
”翔太になった綾”から、色々と話は聞いたー。

綾によれば、”お母さんもお父さんも優しい”とのことだったし、
部屋の場所だとか、家で過ごすための基本的なことは
お互いに教えあったー。

そうー。
”今日”さえ耐えれば良いのだー。

一晩寝ればー…
きっと、きっと元に戻れるはずー。

”ずっと、こうしているわけにもいかないしー”
綾(翔太)はついに意を決して、すぅっ、と息を吸い込むと、
「ただいま~!」と、元気よく家の扉を開けたー。

「あ、おかえりなさい~!」
綾の母親が、帰宅した綾を見て微笑むー。

なるほどー。
確かに、聞いている通り”優しそうなお母さん”に見えるー。

少しだけ雑談をして、洗面台の方に向かうと、手を洗う綾(翔太)ー

緊張からか、綾の手がかなり汗ばんでいるー。

”あぁ…星村さんーごめんー
 星村さんの手をこんなに汚くしちゃってー”
綾(翔太)はそんな風に思いながら、
いつもよりも念入りにごしごしと手を洗うー。

何となく、”星村さんのような可愛い子の手”は
”僕なんかが手を洗うよりももっときれいに洗わないといけない”
と、そう思ったのだー。

そして、うがいを済ませると、
綾から聞いていた通り、2階にある”綾の部屋”に向かって歩き出すー。

「ーーーおじゃましま~す…」
自分の部屋に入るのに、そんな言葉を呟く綾(翔太)ー。

綾の部屋はー
想像通りー、というべきだろうかー
可愛らしく、それでいて綺麗に整理整頓された様子の部屋だったー。

「ーーー~~~~~~」
綾(翔太)は、その部屋を見ただけでドキッとして、
そのままバックして、部屋から出てしまうー。

「ぼ、ぼ、僕なんかが入っていい部屋じゃないー!」
汗をタラタラと流しながらそう呟く綾(翔太)ー

「ぼ、僕なんかが入ったら、部屋が汚染されちゃうー!」
綾(翔太)がそんなことを呟くとー、
”誰かが”階段を上がって来る音が聞こえたー

ギクッとして振り返る綾(翔太)ー

”お母さん”だろうかー。
それとも”まだ見ぬお父さん”だろうかー。

いずれにしてもー、
いくら、綾から話を聞いたとは言え”100%”星村 綾として
振る舞うことなんて、できっこないー。

どうすればー…

そんなことを考えているとーー
階段を上って来たのはー
綾の母親でも、父親でもないーーー

ツインテールの可愛らしい子だったー

「え」

「!」

その子と目が合った瞬間ー、
反射的にそんな言葉を口にしてしまった綾(翔太)ー

しかし、”しまった”と考える間もなくーー

「あ~~~!お姉ちゃん~~~!
 おかえり~~~~!」
と、そのツインテールの子が突然、抱き着いてきて、
ツインテールの髪がー、その子の胸がー、
いいや、自分の胸もその子に当たってー
綾(翔太)は、頭がパンクしそうになるほどの衝撃を受けたー。

「ーおかえりのぎゅ~~~!」
そう言いながら、ツインテールの子が、
綾(翔太)を抱きしめるー。

自分が、”美少女”になっているだけでも耐えられないぐらいに
緊張しているのに、さらに別の美少女から抱きしめられるー…
なんて状況に、綾(翔太)は、顔を真っ赤にしながら、
放心状態で、その場に座り込んだー

「ーえぇっ!?お、お姉ちゃん!?」
”妹”に抱きしめられて放心状態の綾(翔太)は、
顔を真っ赤にしたまま、呆然としているー

そんな様子を見て、この”妹”らしき子は、
「お姉ちゃん!?だ、大丈夫~? お姉ちゃん~?
 お~い!」
と、目の前で手をパタパタさせながら、ニコニコと
笑みを浮かべていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーた、ただいま~!」
一方、翔太(綾)も”翔太の家”に帰宅していたー。

もちろん、綾も、翔太同様に緊張しているー。

明るく、社交的な綾であっても
”他人の身体で他人の家に帰る”ということは
やはり緊張するものだー。

「ーあぁ、おかえりー」
キッチンにいた、翔太の母親がそう言葉をかけて来るー。

サバサバとした感じのおばさん、という雰囲気だー。

思わず、翔太(綾)は、
反射的に”お邪魔します”と言いそうになってしまいー、
ギリギリの所で口を止めると、
「ーーた、た、ただいま」と、もう一度、
帰宅の挨拶を繰り返して、手洗いを済ませると、
”翔太”から聞いていた通り、自分の部屋へと向かうー。

「ーーーー」
翔太(綾)が、翔太の部屋に到着すると、
興味深そうに周囲を見渡すー。

「わ…すっごい……」
翔太(綾)が特に興味を示したのはー
”大量のカードゲームのカード”ー。

そういえばー、翔太の友達の”神田くん”も、
カードゲームの話をしていたー。
翔太(綾)自身は、笑って誤魔化してしまったけれどー、
きっと、普段は二人でこのカードの話で盛り上がっているのだろうー。

「ーーわ~…こんなにたくさんあるんだ~」
興味深そうに、そんな光景を見つめると、
翔太(綾)は少しだけ表情を歪めたー。

「ーう~ん…ーー」
部屋を見渡す翔太(綾)ー

決してー”ゴミ屋敷”と言う感じの部屋ではないが、
それなりに散らかっているー。
”汚い”というほどではないけれど、散らかっているー。

「ーーーあ~~…片づけたい!」
少し笑いながらそう呟く翔太(綾)ー

けれど、”遠藤くん”の部屋を勝手に片づけるわけにはいかないー。
そんなことを思いながら、
”我慢我慢!”と、自分に言い聞かせながら、
ふと、部屋の棚の上に飾られている”ツインテールの美少女”の
フィギュアを見つめたー。

「ーーーあれ…」
翔太(綾)は、そんな言葉を呟きながら
そのフィギュアに近付くー。

何かのアニメー、あるいはゲームか何かのキャラクターだろうかー。
そんなフィギュアを見つめていると、「あ!!!」と、
翔太(綾)は声を上げたー。

”ツインテールのキャラ”を見て、翔太に”妹”のことを伝え忘れていたことに
気付いた翔太(綾)は「そうだー…遠藤くんに美桜(みお)のことも
伝えておかないとー」と、慌ててスマホを手にして、電話を掛けたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーそ、そ、そうなんだー…」
綾(翔太)が、翔太(綾)から電話で”妹・美桜”のことを
伝えられて、放心状態で言葉を口にしたー。

”ごめんねー…色々混乱してて、つい言い忘れちゃってー”
翔太(綾)のそんな言葉に、綾(翔太)は
「う、うんー別に大丈夫だけどー」と、言葉を口にするー。

綾によれば、妹の美桜は
いつも元気いっぱいで、あんな感じなのだというー。
姉妹仲もとても良いらしくー、
”わたしに抱き着いて来たら、とりあえずぎゅ~!ってしてあげて!”
などと言われてしまったー

「ーぎ…ぎゅ~って言ってもー…」
綾(翔太)は、さっき”美桜”から、抱き着かれたことを思い出して
またドキドキしてしまうー。

それと同時に、
”自分の声が電話の向こうから聞こえて来る”状況に、
何だか違和感を感じながらー、
「ーーあ…あの」と、言葉を口にするー。

「ーーぼ、僕、どこで今日1日過ごせばいいかなー?」

”え?”

翔太(綾)が、困惑の言葉を口にするー。

”ど、どこってー…?わたしの部屋にいればいいでしょ?”
翔太(綾)が、”当然”のことを答えるかのように、そう言い放つー。

「ーあ…う、うんー…そのーなんて言うか、僕なんかが
 入っちゃいけない領域な気がしてー」
綾(翔太)が、困り果てた表情で、廊下の端っこに体育座りしながら、
そう呟くと、
翔太(綾)は”あははー…遠藤くんってばー、何か面白いねー”と、
笑ったー。

”そんなこと、全然気にしないよー!
 わたしの部屋で、今日はゆっくり休んで!
 明日にはきっと、元に戻れるし!”

翔太(綾)の言葉に、綾(翔太)は「え…で、でも」と、
なおも食い下がるー。

”(う~ん…なんか過去にイヤなことでもあったのかなぁ)”
単に翔太は”女子慣れ”していないだけなのだけれどもー、
綾はそんな風に心配してしまうー。

そしてー、少し考えてから、
”ほら、身体はわたしの身体なんだし!全然気にせず、わたしの部屋に
 入って!ね?”
と、言葉を口にすると、
ようやく、綾(翔太)は「うー…うんー」と、納得の言葉を口にした。

綾(翔太)は、立ち上がると”綾の部屋”に再び入るー。

「ーうっ…やっぱりまぶしい!」
綾(翔太)がそう言うと、
”あはははー…大丈夫だってば~”と、翔太(綾)が笑うー。

そしてー、翔太の緊張をほぐそうと、翔太(綾)は言葉を続けたー。

”ねぇねぇ、遠藤くんって、このカードゲーム好きなの?
 いっぱいカードがあるけどー”

「ーーあ、う、うんー、なんか、ごめんー」

”え~?何で謝るの?好きなことあるっていいことでしょ?
 わたしの部屋だって、漫画とかぬいぐるみとか、色々あるしー”

その言葉に、綾(翔太)は改めて部屋を見渡すー。

可愛い系のキャラクターのぬいぐるみやー、
翔太からすれば”知らない”少女漫画ー、
それに、アイドルのグッズだろうかー。それがいくつかー。
色々なものが散見されるー。

”あとーこの、可愛い子のーー…フィギュアかな?
 なんか、髪型といい、ちょっと美桜に似てない?”

翔太(綾)が笑いながら妹の美桜のことを口にするー。

ドキッとする綾(翔太)ー

”やべっー…星村さんにフィギュアまで見られちゃうなんてー
 あ~もう…終わったー。
 気持ち悪いって思われるー”

そんなネガティブな考えに至った綾(翔太)は、慌てて
「そ、そ、そ、それは、貰ったものでー
 べ、別に僕はそういう趣味なんてーないし!」と、
早口で言葉を口にするとー、
”わたし、そんな風に喋れるんだねー”と、翔太(綾)は少しだけ笑うー。

”ー全然気にしないし、そんな風に言わないで”と、
優しく翔太(綾)が返事をするー。

その言葉を聞いても”やっぱり、内心ではなんか思われてそうー”と、
思いながらも「あ、ありがとうー」と、言葉を口にする
翔太(綾)ー

”あ~くそっ、こんなことになるんだったら
 部屋の整理ぐらいしておけばよかったー”

そう後悔しても、もう遅いー。

それにー…
綾の妹・”美桜”は、綾の言う通り、確かに
翔太が好きな”キャラクター”に、結構似ているー。
髪型もそうだし、雰囲気もだー。

そんな子と”同じ屋根の下”で過ごすのは
やっぱり心臓に悪いー。

「ーー…あ、そうだー…
 そういえば、着替えとか、お風呂ー…どうすればー?」

綾(翔太)が、不安そうに呟くー。

”え?あ~~~~…”
翔太になった綾もさすがに自分の身体でお風呂に入られるのは
躊躇いがあったのかー、
”明日、元に戻ったらお互い、お風呂に入ればいいんじゃないかな?”と、
言葉を口にしたー。

少しだけホッとする綾(翔太)ー

”お風呂も普通に入っちゃっていいよー”なんて言われたら
心臓が破裂するところだったー。

「ーーそ、そうだねー…じゃあ、着替えも明日の朝でー?」
綾(翔太)が、そう言うと、翔太(綾)は
”服はー…うんー…まぁ、それでいいと思う”と、
そう言葉を口にすると、二人はしばらく電話で話してから、
時間も遅くなっていることに気付き、
”おやすみ”と、言葉を口にして電話を切ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー」

家族と晩御飯も済ませて、
部屋に戻った綾(翔太)ー

「ふ~~~~~」
深くため息をつくと、綾(翔太)は、
”カードゲームの新商品”が、今日発売だったことを思い出すー

「あ~~~~僕も買いに行きたかったなぁ…!」
綾(翔太)は悔しそうにそう呟くと、
「神田くんは、今頃レアカード当ててニヤニヤしてるのかなぁ」
と、親友の神田哲真のことを思い浮かべるー。

「ーはぁ~…明日ボックス買いしちゃおうかな」
綾(翔太)はそんなことを呟くと、「もう今日は寝よう」と、
そのまま綾の身体でベッドに横たわったー。

「ーーーーー…」

「ーーーーー」

「ーーーーーーー!」

うつ伏せになると、胸が布団に当たるー。
手を動かすと、時々胸に当たるー。
身体を動かすと、髪が揺れるー

ガバッ、と起き上がった綾(翔太)は「ね、寝れない!」と、
思わず声を上げたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翔太(綾)は、好きなアイドルグループの動画をスマホで
見つめながら、嬉しそうに、小声でその歌を口ずさんでいたー。

「ーーー…」

動画の検索履歴に、”ちょっとHなもの”がたまに紛れていたのに
気付いてしまったけれど、翔太(綾)はニコニコしながら
それをスルーしたー。

大半は、カードゲームの動画や、ゲーム実況ー、
あと、”彼女を作る方法”みたいのも少しだけ紛れていたー。

がー、動画の履歴であれこれ言うつもりは、綾には全くないー。

「ーそうだ!美桜にも見せてあげよっと!」
妹の美桜の影響で、このアイドルグループのことが好きになった
綾は、そんな言葉を口にしながら、部屋を出るー。

がーーーー

翔太(綾)は、少し瞬きしてからー

「ーーーあ…美桜、いないんだったー」
と、ここが”翔太”の家であることを思い出して、
少ししょんぼりとするー。

「ーーーーー」
時計を見つめるー

いつもより、少し早いー。

けれどー、今日は1日、とっても疲れたし、
明日は朝、早めに起きてお風呂にも入りたいー。

そう、思いながら、翔太(綾)は寝る準備を始めると、
布団に潜りこんで「おやすみなさい」と、一人、
少しだけ寂しそうに言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そしてーーー…
朝を迎えたーーーー

「ーーーーーー!」
”寝れない”と思っていたものの、結局寝ていた翔太は、
ガバッと起き上がるとー、
早速、”アレがあるかどうか”を、確認するためー、
手を触れたー

がーーー

「ーす、スカート履いたままじゃん!?!?!?!?」
翔太は叫ぶー

”綾”の声でー。

”明日の朝、着替えよう”と、二人で約束した
綾(翔太)は、制服のまま寝ていたー。

そしてー
朝を迎えた今、まだスカートを履いているー。

それはつまりー…

「戻ってないぃぃ!?!?!?」
綾(翔太)は、絶望の表情を浮かべながらそう叫んだー。

「ーーーあれ……遠藤くんのままー…」
時を同じくして、翔太(綾)も、自分が”翔太”のままであることに気付いて
困惑していたー。

「ーーーー……」
いつものように、髪に触れるような仕草をしながら、
髪が短いことに気付いて、苦笑いしながら首を横に振るとー、
「どうしようー…」と、窓の外を見つめたー。

”放課後、元に戻れるはずー”
”明日の朝になれば、元に戻るはずー”

そう、思っていた二人はー、
”そう簡単に元には戻れない”ことを、この時、初めて
強く実感したのだったー

「ーーってーー…学校ー…!」
翔太(綾)は困惑するー。

今日も”学校”があるー。
元に戻っていない以上ーーー

「ーーー」
慌ててスマホを手にした翔太(綾)は、
「え、遠藤くん!おはようー…!」と、
慌てて”お風呂”や”着替え”をどうするかを相談し始めたー。

結局ー、
二人はお互いの身体で”お風呂”に入ることにー。

翔太(綾)は、ドキドキしながら”男子”としてー、
綾(翔太)は、失神しそうになりながら”女子”として
何とか身体を洗い終えると、慌てて学校に行く準備を終えてー、
そのまま学校へと向かうー。

”僕たち、いつ、元に戻れるんだー!?”
そんな答えが見つからぬままー、
入れ替わり生活2日目が、幕を開けてしまうのだったー。

④へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★1-Cの日常★

「ただいま~」
翔太と綾が入れ替わった初日ー。

帰宅したクラスメイトの守屋 智花(もりや ともか)は、
そんな言葉を口にしながら、家の中に入っていくー

とても真面目そうで、物静かそうな美少女ー。
そんな感じの雰囲気の智花ー。
学校でも、静かに読書していたりすることが多くー
見た目通り、物静かな印象だー。

「ーーーお、智花、おかえり!」
妹の帰宅に気付いた智花の兄が、そう言葉をかけると、
「あ、お兄ちゃん!ただいま!」
と、智花が嬉しそうに笑うー。

「ーーどうだ?学校は?もう慣れたか?」
兄のそんな言葉に、智花は「うん」と、頷くー。

「ははは、さすが智花。
 ホントに俺の妹なのかって思うぐらい頭もいいしー、
 俺の誇りだよー」

兄がそう言うと、智花は笑いながら
「ーそんなに褒めても何も出ないよ~」と、照れくさそうに言うー。

そして、少し雑談をしてから、自分の部屋に向かって
歩き出した智花の表情からはー、
”数秒前までの笑顔”が嘘のように消え失せていたー

”あんたみたいな”無能”は
 せいぜい、わたしの引き立て役ぐらいにしか、
 役立たないんだからー。
 せいぜいこれからも、わたしを褒めてよねー”

智花がそう内心で囁くー。

見た目も、振る舞いも真面目ー
けれども、内心では他人を出し抜くことしか考えていないー。

そんな、智花の
”恐ろしさ”を翔太や綾たちが知るのは、まだ、先の話だー。

第4話「部活と委員会」

「ーーーーーー」
学校に”少し早め”にやってきた綾(翔太)は
戸惑いの表情を浮かべながら、
自分の下駄箱の所に向かうー。

校内で履く上履きを手に、それを履いて歩き出そうとしたところで
「あーーー」と、口を開くー。

上履きのサイズがぶかぶかで、まともに歩けないー。

「ーー間違えたー…」
綾(翔太)が苦笑いするー。

”翔太の上履き”の方がサイズが大きくて、綾の足では
サイズが合っていないのだー。

「ー慣れないなぁ…」
”遠藤”と自分の名前が書かれた上履きを履くことができないなんて、と
思わず笑ってしまうー。

翔太の上履きを元の場所に戻し、綾の上履きを履こうとした
その時だったー

「え」

「ーーあ」

翔太の親友・神田哲真が偶然登校してきて、
少し困惑した表情を浮かべていたー

「あ、か、神田くんー…お、おはようー」
顔を赤らめながらそう声を発する綾(翔太)ー

今ー、
”間違えて僕の上履きを履いたところを見られたかも?”と、
不安に思う綾(翔太)

「ーーーあ、え、えっと…おはようー」
哲真は目を逸らしながらそう言うと、
綾(翔太)は気まずそうに自分のー”綾”の上履きを履いて
そのまま歩き出すー。

親友の哲真と一緒に歩く綾(翔太)ー

だが、会話はなく、哲真はソワソワしているー。

「ーーー…そういえば、昨日、カードの発売日だったよね?」
綾(翔太)が、沈黙が気まずくなってそう言うと、
「え…あ、あぁ、そ、そうー。よく知ってるなー」と、
哲真は恥ずかしそうに笑うー。

だがー、会話が続かないー。
”いつもならー”
翔太と哲真なら、会話が途切れないのにー、
今日はすぐに会話が途切れてしまうー

哲真は、女子があまり得意ではないー。
理由は分からないが、中学時代も男子とばかり騒いでいたー。

”星村さんになった僕”は、今までのように
神田くんと仲良くすることはできないのだろうかー。

そんな、寂しい気持ちが一気に膨れ上がって来るー。

”神田くんー実は、僕なんだー”
そんな言葉が喉まで出かかるー。

けれどー…
”これは、僕だけの問題じゃないんだー”と、必死に
それを抑え込んでいると、そのうち、教室に到着したー。

「ーー綾!おはよ~!」
綾の友人・山井穂乃果が声をかけてくるー。

しかし、”穂乃果”からすれば”綾”は親友だがー、
綾(翔太)にとっては、まだ”ほとんど何も知らない”クラスメイトだー。

「お、おはよ~」
綾(翔太)が、そう言いながら手を振ると、
「あれ…?今日、綾、髪型違くない?」と、穂乃果が言葉を発したー

「ギクッ…!」
心の声が、思わず表に出てしまったー。

”綾”がー、
いいや、普段、女子が朝、どんな風に準備をしているのか、
正直、知らないー。

”学校で見る星村さん”を真似てみたつもりではあったけれどー…
やはり、何かが違うのかもしれないー。

「ーあ~~~もしかして綾、寝坊した?」
穂乃果が笑いながら言うー。

綾(翔太)は内心、”助かったぁ…”と思いながら
「う、うん…ちょっと…!」と、苦笑いするとー、
ちょうど、教室の中に入って来た翔太(綾)の姿が目に入ったー。

「あーー、穂乃果ちゃん、ちょっと、ごめんね」
綾(翔太)はそう言って立ち上がると、翔太(綾)に声をかけて
そのまま二人で教室から出て行ったー。

「ーーーー」
穂乃果はそんな様子を見つめながら、
不快そうに、”翔太”の後ろ姿を見つめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー昨日は大丈夫だったー?」
翔太(綾)が困惑した様子で言うー。

「ーーうんー。なんとかー…」
綾(翔太)がそんな返事をすると、
「でも、朝になれば元に戻れると思ってたけどー…
 戻ってないね…」
と、翔太(綾)は、戸惑いの言葉を口にするー。

「ーーー」
沈黙する二人ー。
どうすれば、元に戻れるのだろうかー。

「ーー今日は…どうしようー?」
綾(翔太)が、確認するかのような口ぶりでそう言うと、
「ー昨日と同じように、乗り切るしかないよね…」と、
翔太(綾)は言葉を口にしたー。

「ーなんか、ごめんねーーー」
翔太(綾)が、”わたしのフリするの、辛いよね…?”と、
心配そうに言葉を口にするー

「え…いやいやいやー
 僕の方こそごめんー
 星村さんに、僕なんかのフリさせちゃってー」
綾(翔太)がそう言うと、
翔太(綾)は「”僕なんかのー”って…
それはお互い様だし、気にしなくて大丈夫ー」と、
少しだけ微笑むー。

そうこうしているうちに、朝の学活5分前を知らせるチャイムが
鳴り響き、綾と翔太の二人は、そのまま意を決して
教室へと向かったー。

教室に到着して程なくすると、
少しして担任の若松 晴美先生がやってきたー。

クラスを持つのはこれが初めて、とのことで、
入学式から少し経過した今でも張り切っているように見えるー。

「ーーそれじゃあー、1時間目のHRの時間ではー…
 みんなが楽しみにしている部活とーー
 あと、これは楽しみじゃないかもしれないけどー、
 委員会活動!

 そのお話をしていきますー」

若松先生のそんな言葉に、
綾(翔太)は「ぶ…部活!?」と、思わず声を上げてしまうー。

「ー?」
隣の座席の男子・須藤 渉がそんな綾(翔太)の反応に
少し驚いた様子で顔を向けるー。

「ーーあ、いやー…」
綾(翔太)は誤魔化すー

”ぶ、部活ー…ど、どうすればいんだー?”
綾(翔太)は困惑するー。

今、翔太は綾の身体だー。
勝手に入る部活を決めることはできないー。
それは、翔太も同じことー。

しかし、入部の期限もあるだろうしー、
かと言って、”相手に合わせて自分の入りたくない部活”に
入るのも難しいー。

そんなことを考えているうちに、
「あの~~~~…」と、前の座席の女子生徒から声をかけられたー。

「あ?え?あ、ごめん!」
綾(翔太)は咄嗟にプリントを受け取るー。

先生が配ったプリントが、前から回ってきたようだー。

前の座席のー
確か、笹野(ささの)さんだっただろうかー。
一人称が”ウチ”の気さくな感じの子で、
少なくとも、今のところ、悪い印象はないー。

そんな、笹野翔子から慌ててプリントを受け取ると、
後ろの座席のいかにも優等生な感じの野坂優菜にプリントを回すー。

そのプリントには、部活の一覧が記載されていたー。

「ーーー!!!!」
綾(翔太)はそれを見て目を見開くー。

”カードゲーム部…”ーーー

綾(翔太)はそれを見ながら
「は…入りたいー」と、まるで少年のように目をキラキラと輝かせたー

「ーはい どうぞ」
翔太(綾)も、プリントを受け取り、後ろの座席の男子ー
敷島 郡司(しきしま ぐんじ)に、プリントを渡すー。

「どうも」
郡司は、プリントを受け取ると、そう返事をしながら
そのプリントに目を通すー。
敷島郡司は”普通な感じ”の男子ではあるものの、
どこか含みがあるような、独特な雰囲気があるー。

翔太(綾)はプリントを見つめると、
前の方の座席の哲真が「翔太ー…へへ、カードゲーム部があるぜ」
と、ニヤニヤしながら声を掛けて来るー。

「俺も足立もカードゲーム部入るし、
 お前も入るだろ?」

”当然”と言わんばかりの哲真ー。
”翔太”ならそうなのだろうー。

けれどー

「あー…う、うんー」
翔太(綾)が、そんな風に戸惑いながら言うと、
先生が、部活について説明し始めたー。

「ー部活は今日、この場で決めなくてもいいんだけどー、
 一応、今日から体験入部とかもできるからー
 みんな、気になる部活があったら、色々と足を運んでみてねー。

 入りたい部活があったら、え~っと、
 そう、4月末までに入部届を出してくれれば、入部できるから、
 それまではゆっくり考えて!」

若松先生が、そう説明すると
「次は委員会だけどー」と、言葉を口にするー。

学級委員ー
図書委員ー
美化委員ー
保健委員ー
生活委員ー
などなど、色々な委員会の名前が並ぶー。

「これは今、決めてもらおうかなって思ってるんだけどー」
委員会の名前を黒板に全て書き終えると、若松先生がそう口にしながら、
”やりたい委員会”を生徒たちに確認し始めるー

「ーー」
翔太(綾)が、チラッと綾(翔太)のほうを見つめるー。

「ーーー……」
そしてー、翔太(綾)が再び黒板のほうを見つめるとー
委員会の名前の羅列を見てー
”図書委員”が目に入ったー。

”図書委員”であれば、二人で行動する機会も増えるかもしれないしー、
入れ替わった状態がもしも続くとすればー…
色々やりやすいかもしれないー。

そう判断して、翔太(綾)は”図書委員”と、口とジェスチャーで
綾(翔太)に向かって示すー。

”えっ!?図書!?”
綾(翔太)は、翔太(綾)の仕草を見て、
そう受け取るとー
”まぁ、僕も本は嫌いじゃないしー”と、
黒板を見つめるー。

「学級委員をやりたい人~!」
若松先生の言葉に、
優等生風の野坂優菜と、物静かな真面目そうな生徒・守屋智花が
手を上げるー。

「あ~…男女一人ずつだからー…
 野坂さんと守屋さんは、どっちか一人でー…
 どうする?ジャンケンする?」
先生がそんな言葉を言うと、
優菜と智花の二人は、お互いに穏やかな笑みを浮かべながら
「どうする?」と、話し合いを始めるー。

そんな話し合いが進む中ー、
他の委員会をやりたい人の確認を進める若松先生ー。

そしてーー

「図書委員をやりたい人!」

「ーはい」
「ーーーは、はいー」

綾(翔太)と、翔太(綾)が手を上げるー。

「ーーー!」
綾の親友・山井穂乃果が”翔太と綾”が手を挙げたことに表情を歪めるとー、
「ーあ、先生、わたしも」
と、手を挙げる

「ーー…!」
翔太(綾)は、”親友”である穂乃果が手を挙げたことに
少し驚くー。

「じゃあ、ジャンケンしてー」
若松先生が、綾(翔太)と、穂乃果にジャンケンを促すー。

男子の希望者はいなかったため、翔太(綾)は図書委員に決まるー。

「ーーー…行くよ…綾」
穂乃果のそんな言葉と共に、綾(翔太)は戸惑いながら、
”チョキ”を出したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーごめん。負けちゃったー」

1時間目が終わり、空き教室で話す綾(翔太)ー

結局、綾(翔太)は、穂乃果とのジャンケンに負けて
保健委員になったー。
隣の座席の須藤渉と一緒だー。

「ーーううん。ジャンケンは仕方ないよー。
 一緒の委員会なら、もし元に戻れなくてもやりやすいかなー
 って思っただけだしー」

翔太(綾)がそう言うと、
「ーそれに、穂乃果ちゃんはよく知ってるからー」と、
”身体は違っても、あまり知らない子よりやりやすい”と、
翔太(綾)は笑ったー

「ーーーーーー…」
綾(翔太)は、少し不安に思うー。

これまでの言動から”穂乃果”には、”翔太”は、あまり良く思われていないようなー
そんな、気がするのだー。
入れ替わりを知らない穂乃果からすれば、
”綾”は”翔太”でしかないー。

「ーーー…それより、部活はどうする?」
翔太(綾)が言うと、
「ぼ、僕はカードゲーム部に入りたいけど…」
と、綾(翔太)が言うー。

「ーふふ、やっぱりー」
翔太(綾)がそんな風に笑うと、
綾(翔太)は
「でも、星村さんの身体で入部するわけにはいかないよねー」
と、悲しそうに言うー。

一方、翔太(綾)は、美術部か演劇部か手芸部に入りたいのだというー。
しかし、やはり翔太(綾)も、どうすればいいか迷ってる様子だったー

「ーしゅ、手芸部とかー…僕、手、不器用だしー」
苦笑いする綾(翔太)ー

「とりあえず、先生が4月末までって言ってたしー
 体験入部とかだけしておいてー
 元に戻ったら入部届を出す感じで、いいんじゃないかなー?」

翔太(綾)が言うー。

”ギリギリまで伸ばして”
そして、元に戻る方法を探し、元に戻れたら入部届を出すー。
そういうことだー。

「ーーうん。わかったー。そうしよう」
綾(翔太)がそう言うと、
2時間目の時間が近付いていることに気付き、
二人は教室へと戻っていくー。

2時間目は英語ー。
担当は室松(むろまつ)という男性教師で、
かなりフレンドリーで面白い授業の先生だー。

”でも僕ー英語苦手だけどー…”
綾(翔太)は内心で苦笑いしながら、
2時間目の授業の場所へと向かったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーえ…?星村さんー?」

ほとんどが男子のカードゲーム部を見学しにきた
綾(翔太)ー。

同じく見学しに来ていた翔太の親友・哲真と、
クラスメイトの足立幸也が驚きの表情を浮かべるー。

「ーー星村さん、カードゲームやりそうには見えないけどなぁ」
幸也が、哲真にそう小声で話をすると、
哲真も「あぁ…」と、戸惑いの表情を浮かべているー。

がーーーー
当の綾(翔太)はーー

「ーすごい!うわぁ…これもレアカード…!すごい!」
とー、部室に飾られたカードを、完全に
カードゲーム大好き少年のまなざしで見つめていたー。

「ーなんか、星村さん、イメージと違うなー」
「ー意外と俺たちと気が合うかもなー」
幸也と哲真がそんな言葉を口にしながら、
カードを嬉しそうに見つめる綾(翔太)の方を、
少し戸惑いの目線で見つめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー!
 ーーー遠藤くんの手だと、手が震えちゃうー…!」

”手が不器用”
そうは聞いていたけれどー…

手芸部の体験入部にやってきていた翔太(綾)は戸惑うー。

針に糸を通そうとするだけで、手がぷるぷると震えるー
”不器用”は、身体が持つ性質なのだろうかー。
そう思いながら、女子だらけの周囲を見て、
翔太(綾)は少しだけ視線を感じながら戸惑いの表情を浮かべるー。

別の日に、演劇部や美術部にも顔を出すー。

「ーーへぇ、君も美術部に興味があるんだー」

ふと、声を掛けられて振り返ると、
そこには中性的な雰囲気でクールなクラスメイトー、
倉守詩音の姿があったー

「あ、倉守さんー」
翔太(綾)が言うと、
「ーー僕も美術部に入ろうかな、って思ってー」
詩音がそう言いながら、少しだけ笑うー。

一見すると美少年にも見えるようなそんな風貌の詩音ー。
クラスで唯一、一人称が”僕”の女子生徒だー。

「ーーーまぁ、もし君も美術部に入るなら、よろしくー」
詩音はそんなことを口にすると、そのまま、美術室に飾られている
絵の方に向かって歩いて行ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

戻れないままーーー

”入部届”を出す期日が近づいてきてしまったー。

「ーーーえっとー……
 星村さんは”美術部”に入ることにしたんだよねー」

綾(翔太)がそう言うと、
「ーーじゃあ…僕が美術部に入部すればいいのかな?」
と、言葉を口にしたー。

翔太はカードゲーム部に入りたいー。
だが、今、翔太は”綾の身体”を使っているー。
だから、自分は美術部に入らないといけないー。

そう思って言葉を口にしたー。

だがーーー

「ーーううんー。
 いいよー。遠藤くんは”カードゲーム部”に入りたいんでしょ?」
翔太(綾)が微笑みながら言うー。

「ーーえ? で…でも、それじゃ、星村さんが
 カードゲーム部に入るってことになっちゃうよ?」

綾(翔太)が不安そうに言うと、
翔太(綾)は笑いながら、
「ーせっかくの高校生活なんだし、やりたいことをやった方がいいよ」
と、言葉を口にするー

「ーーもう半月以上、元に戻れていないしー
 急に元に戻れる可能性なんてー……
 低いと思うから」

翔太(綾)が少しだけ寂しそうに言うー。

「ーそ、そんなことないよー
 き、きっと、じきに戻れるよ!」
綾(翔太)が、綾を励ますために、そんな根拠のない言葉を口にするー

「ーーーーふふ…うんー。そうだね、ありがとうー」
翔太(綾)はそう言うと、
「でも、部活はお互い、”好きな部活”に入った方がいいと思うー。
 もちろん、遠藤くんが”美術部”になっちゃうのがイヤなら
 わたしは我慢するけどー、
 遠藤くんは、わたしの身体でカードゲーム部、入っていいよー」と、
言葉を口にしたー。

「も、もしも元に戻ったらー?」

「そのときはそのとき!またいくらでも色々方法はあるでしょ?」

微笑む翔太(綾)ー。

綾(翔太)は「ーーありがとうー」と、
そんな言葉を口にすると、
翔太は綾の身体でカードゲーム部に、
綾は、翔太の身体で美術部に、それぞれ入部することを決めてー、
入部届を提出したー。

いつ、元に戻れるかは分からないー。
だからこそー、今はこうしようー、
二人で、そう決めたー。

その選択が正しいのか、間違っているのかは、まだ、二人には分からないー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★1-Cの日常★

野球部ー

「おい…なんか変なのが来たぞ」
「あいつ…大丈夫かー?」

野球部の先輩部員たちが戸惑っているー

「ふふふふふー
 俺の右腕に宿る闇の力を、この野球部で存分に発揮してやるぜ!」

そう叫ぶのはー
翔太や綾と同じクラスの男子生徒・米沢 海斗(よねざわ かいと)ー

”闇の力”だの、”魔王”だの、そんな言葉を多用する、
ちょっと変わった生徒だー

野球部の先輩たちは、そんな海斗を見ながら困惑しているー。

だがー、そんな困惑を他所に、海斗は笑いながら
先輩たちに向かって言い放ったー

「封印された魔王の力を、解き放つ時が来たッ…!」
とー。

先輩も、顧問も、呆然として、そんな彼のほうを見つめることしか
できなかったー…

⑤へ続く

第5話「春の日常」

カードゲーム部に入部した綾(翔太)は、
部長である2年生の石島 恭一(いしじま きょういち)との対戦に
勝利して、笑顔を浮かべていたー。

「やった!!」
綾(翔太)が、嬉しそうに笑うー。

「ーーはははー、星村さんー。すごいじゃんー。
 それにしてもー…星村さんみたいな可愛い子が
 カードやる上に、こんなに強いなんてなぁ」

クラスメイトで、同じくカードゲーム部に入部した
足立 幸也が笑いながら言うー。

イケメンの男子生徒だが、どうやら女子はあまり得意ではないようで、
いつも女子に話しかけられては戸惑いの表情を浮かべているー。

がー、同じ趣味を持つ子が相手の場合はそうではないようで、
今日もカードの”デッキ”について、綾(翔太)と熱いトークを
繰り広げているー。

「ーでも、まさかうちの部に星村さんみたいな子が
 入部してくれるとは思わなかったよー」

石島部長が笑いながら言うと、
綾(翔太)は、「幼馴染の子の影響で、始めたんですー」と、
適当に嘘の理由を口にするー。

「はははー、そっかー。その子にも会ってみたいもんだな」
石島部長がそんなことを口にしながら笑うー。

「ーーーーーー」
その光景を見ながら、翔太の親友で、同じくカードゲーム部に入部した
神田哲真は、少し考え込むような表情を浮かべていたー。

「ーどうしたんだ?神田?」
幸也が不思議そうに聞くと、哲真は「いやー」と、言いながら
首を横に振るー。

「ーーーーーーー」
哲真は、綾(翔太)の方に視線を向けるとー

”なんかーー似てるなー。翔太のやつに、戦い方がー”
と、心の中でそう呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー今日は、連休明けに予定されている遠足の
 行動班を決めます」

担任の若い女性教師・若松先生がそう言いながら、
教え子たちのほうを見つめるー。

「おっ!遠足!」
「ーーふん、くだらないー」
「ねぇねぇ、璃子、いっしょにどう?」

クラスメイトたちが盛り上がる中、
グループ決めが始まるー。

ちょうどクラスは24人ー。
4人ごとの行動班を作ると、全部で6班になるー。

「ーは~い、じゃあ男子二人、女子二人ずつで、
 好きなグループを決めてね」
若松先生はそう言いながら、
内心で”こういう時ってー、余っちゃう子、いるんだよねー…”と、
少しだけ戸惑いながら周囲を見渡すー。

まだ、担任になるのは初めての若い先生ー。
”余った子への配慮も欠かさないようにしなくちゃ!”と、
自分の中で意気込みながら、周囲を見渡すー。

「ーーー翔太!いっしょにどうだ?」
翔太の親友・哲真が手招きするー。

「ーーあ、うんー…じ、じゃあ」
翔太(綾)は戸惑いながらも、哲真の誘いに乗るー。

”遠藤くんと同じ班のほうが色々やりやすいと思うけどー…”
そう思いながら、翔太(綾)は、綾(翔太)に声を掛けようとするー。

だがーー

「ーーねぇねぇ、綾!一緒に行こ!」
まるで”邪魔”するかのように、綾の親友・山井穂乃果が割って入って、
翔太(綾)が、綾(翔太)に声を掛けるのを”妨害”したー。

「ー!」
翔太(綾)が少し驚くと、
穂乃果が露骨に、睨むような視線を一瞬、送って来たー。

「え、うーうん…じ、じゃあやまーー…穂乃果ちゃんと」
綾(翔太)がそう返事をしながら、翔太(綾)のほうを見つめるー。

そして、タイミングを見計らって、
翔太(綾)に近付くと、

”ーーごめんー。山井さん”僕のこと”嫌いみたいだからー…”
と、小声で言葉を口にしたー。

綾の親友・穂乃果は、なんだか当初から”翔太”のことを
嫌っているような素振りを見せているー。
あの健康診断の時、一緒に行動していたのが気に入らなかったのかもしれないー。

”ーえ…そ、そうなのー…?”
翔太(綾)が戸惑いの言葉を口にするー。

”ーうんー…僕にも理由は分からないんだけどー…
 だから、一緒の行動班じゃない方がいいと思う”
綾(翔太)のそんな言葉に、
翔太(綾)は”わかったー”と、頷くと、
”当日の服装、私服だから、あとで色々相談しよ”と、だけ
言葉を掛けて来たー

「ーーあ…そ、そうだったー」
綾(翔太)はドキッとするー。

入れ替わってから今までー、
”学校に来る日”は、必ず高校の制服だったー。

しかしーー…
遠足は”私服”ー。
はじめて綾の身体で、私服を着て、クラスメイト達の前に姿を見せるー。

それはもちろん、翔太(綾)にとっても同じことで、
二人とも、戸惑いの表情を浮かべていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

明日からはゴールデンウィークの連休ー。

綾(翔太)は、未だに”慣れない”という様子で、
学校にやってきていたー。

(もう、女子の制服着てる時間の方が長くなっちゃったなー…)
入学してから、この学校では、もう”女子”として過ごした時間の方が
長くなってしまったー。

そんなことを自虐的に思いながら、
座席に着席するー。

「ー星村さんおはよ~!」
前の座席に座る笹野 翔子から声を掛けられて、
「あ、笹野さん おはようー」と、いつものように
返事を返すー。

”綾”になってみてー、翔太は女子と話す機会が多くなったー。
今まで、こんなに女子と話す機会はなかったし、
親友の哲真と同じく、女子を前にすると照れてしまって、
どこか挙動不審になってしまうようなー、そんな感じだったー。

がー、綾になって、少し”慣れた”ようなそんな気もするー

いいやー、”ドキドキ”が前より少なくなったようなー…。

”星村さんの身体になったから、あまりそういうこと感じなくなったのかなー?”

”星村 綾”の身体からすれば、女子は”同性”だー。
だから、あまりそういうドキドキがなくなったのかもしれないー。

1時間目の国語の授業が始まるー。
神経質そうな眼鏡の先生・井上先生の授業が始まりー、
既に、不真面目そうな男子生徒・柳沢 祐樹(やなぎさわ ゆうき)は
面倒臭そうにあくびをしているー。

入学してから1か月ー。
クラスの顔ぶれもだいぶ覚えたし、誰がどんな性格なのかも
それなりに理解してきたー。

けどー、苦手意識が芽生えてくるクラスメイトも、
同時に増えて来たー。

一人は、たった今、眠そうにしている柳沢 祐樹ー。
”素行の悪い”男子生徒で、体格もいいー。
同じくクラスの丸岡(まるおか)という子を敵視していて、
直接的に巻き込まれているわけではないけれど、何だか嫌なムードだ。

女子ではーーー…
高倉 美咲(たかくら みさき)という子が、正直、苦手だー。
妙におしゃれで、プライドが高くー、
いつも刺々しい雰囲気の女子生徒ー。

”翔太”からすれば最も苦手なタイプだしー、
今は”同性”でも、やっぱりああいう子は、苦手だー。

1時間目の国語が終わるー。

「ーーは~~~疲れたー」
翔太(綾)の隣の座席の女子・霧崎 璃子がそう呟くー。

璃子は妙にスキンシップが激しい運動好きの子で、
細かいことは何も気にしないタイプー。

入れ替わる前に、翔太も璃子に積極的に絡まれて困惑していたー。

”翔太”の中身が綾になってからも、
そのスキンシップは止まらないー
とーー…いうか、相手が誰であろうと、全く関係ないー、
そんな感じすら見受けられるー。

この日も2時間目ー、3時間目ー、4時間目ー、と、時は過ぎていき、
放課後の時間に突入するー。

美術室で、美術部の活動をしていた翔太(綾)は、
少しだけ笑うー。

「(遠藤くんの身体だとー、やっぱりちょっと手の感じが違うよねー)」

大分、慣れてはきたー。
けれど、”翔太の手”だと、”モノを掴むとき”もそうだし、
”絵を描くとき”もそうだしー、色々と違和感を感じるー

「ーーー(わたしたち、元に戻れないのかなー…?)」
そんな不安を感じていると、
「ーへぇ…絵、上手だねー。すごいじゃんー」と、
中性的な雰囲気のクラスメイト・倉守詩音が声を掛けて来たー。

”美少年”みたいな雰囲気もあるそんな子でー、
結局、彼女も美術部に入部した様子だったー。

「ーう、うんー。わたー、…ぼ、僕には似合わないかなー」
翔太(綾)がそんなことを言うと、
「そんなことないさー」と、詩音は笑いながら絵を見つめるー

「ーここをこうすると、もっといいかもしれないー」
そんな風に言いながら、翔太(綾)の手を少しだけ掴むと、
翔太(綾)の手を動かしながら、お手本を見せたー

「ーーー!!」
”詩音”に手を触られて、少しドキッとしてしまう翔太(綾)ー

”え…”
一瞬、女子同士であるはずの詩音にドキッとしたことに戸惑いながらも、
お手本を見せてもらった翔太(綾)は、
「ーわぁ…すごいー」と、感心した表情を浮かべるー。

つい、”綾”の素が出てしまうー。
だが、翔太でもそこまで違和感のない振る舞いだったためか、
詩音は特に反応せずに、言葉を続けるー。

「ーあ、ごめんごめんー。ついつい熱くなっちゃった」
詩音が照れくさそうに笑うー。

「ー僕、昔から絵が好きでさー。
 つい、色々余計なことまで言っちゃってー」
詩音がそう言うと、翔太(綾)は「ううんー。ありがとう」と、
詩音にお礼の言葉を口にするー。

「ーはは、君とは仲良くやれそうだー」
詩音はそれだけ言うと、「おっと、僕も自分の絵を完成させないとー」と、
そのままショートヘアーの髪を揺らしながら立ち去っていくー。

「ーーーーー」

”いま、わたしー…”

詩音にドキッとしたのはーーー
どうしてー?

”倉守さんは、わたしと同じ女子なのにー…”
翔太(綾)はそう思いながら、詩音のほうを見つめるー。

詩音が、中性的な雰囲気だからだろうかー。

それともーーー

”今のわたしはー、”遠藤くん”だからー?”

翔太(綾)は、そんなことを考えながら、少しだけ首を傾げたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゴールデンウィークに突入し、
翔太(綾)は、綾(翔太)と共に、
”綾の家”の前にやってきていたー。

綾(翔太)が連休明けの遠足を前に
”学校のみんなと会うとき、どの私服を着て行けばいいのか分からない”と、
翔太(綾)に相談してー、
「家に来て直接教えてほしい」と言ったことから、
翔太(綾)は”入れかわる前の自分の家”の前にやってきていたのだー

「ーあ~~…懐かしい~」
翔太(綾)が、目を輝かせるー。

「ー1か月ぶりぐらいの帰宅~」
笑いながら翔太(綾)が言うー。

「ーー…(星村さんが、喜んでくれてよかった)」
綾(翔太)は、横目で翔太(綾)を見つめながらそう思うー。

入れ替わった後はお互いに”自分の家”には帰れていない状態だったー。
翔太は気を利かせて、今日、綾が自分の家に久しぶりに帰ることが
できるようにー…と、こうして翔太(綾)を家に呼んだのだったー。

「ーーーーーー」
緊張した様子で、家の中に入る翔太(綾)ー

「ーーただぃ…じゃなくて、お邪魔します~」
翔太(綾)は、
”わたしの家に帰るのに、お邪魔しますなんて不思議な気分ー”と、
心の中で思いながら、綾(翔太)は、「じゃあ、僕ーー…
じゃなくて、星村さんの部屋にー」と、翔太(綾)を、
”綾の部屋”に連れていくー。

がー、
その時だったー

「ーーあ!お姉ちゃん!おかえり~~~!」
ツインテールの妹・美桜が、綾(翔太)を見て、嬉しそうにそう叫ぶと、
「え!?え!?男子連れて来たのー!?」
と、驚いた様子で言うー。

「ーーーあ…ー」
久しぶりの”妹”を前に、翔太(綾)は、思わず感極まる気持ちに
なってしまうー。

直接会うまでは、そんな感情はなかったのにー、
いざ、妹の顔を見るとー、
なんだか、こみあげて来るものがあるー。

「ーーーもしかして~お姉ちゃんの彼氏!?」
美桜がいつも通り、騒がしい様子でそう叫ぶー。

「ーぶっ!?!?!?」
綾(翔太)は、思わず吹き出してしまうー

「ーーち、ち、ち、ちがうちがうちがうちがう!!
 ぼ、僕が彼氏だなんてー
 あ、いや、わ、わたし!?わたしが彼女だなんてー

 こ、この人は、クラスの男子でー、
 そ、その、今日は、遠足の相談!!!」

綾(翔太)は、顔を真っ赤にしながら
半分意味不明な言葉を口にするー。

”僕が星村さんの彼氏とか、あり得ないー
 星村さんが月なら、僕はすっぽんだー!”

そんなことを心の中で思いながら
慌てて顔を真っ赤にして、否定を続けるー

「ーお、お姉ちゃん~…そんなに慌てなくてもー」
妹の美桜が、あまりの”綾”の慌てっぷりに苦笑いするとー、
「あ、はじめましてー。妹の美桜です!」と、
翔太(綾)に改めて挨拶をしたー

「ーは、はじめましてー」

ズキッ、と心が痛むー。
入れ替わりを受け入れて過ごして来たー
つもりだったけれどー

”妹からのはじめまして”は、
想像していた以上にーーーー

心が抉られるー。

美桜と話し終えて、
綾の部屋に入った二人ー。

翔太(綾)が、寂しそうに少し涙ぐんでいるのを見て、
綾(翔太)は咄嗟に、
「ご、ごめんー僕が彼氏と勘違いされちゃってー」と、
謝罪の言葉を口にするー。

しかしー、翔太(綾)が涙ぐんでいるのは
それが理由ではなかったー

「ーううんーそうじゃなくてー…
 美桜にー、妹に”他人”として接されるのー…
 思ってたより、辛くてー」

翔太(綾)のそんな言葉に、
綾(翔太)は「そ…そっかー…なんか…ごめん」と、
申し訳なさそうに言葉を口にするー。

”星村さんを一時的にでも家に帰らせてあげようー”
そんな風に思って、今日家に連れて来た綾(翔太)ー

がー、何だか逆に苦しめる結果になってしまったのかもしれないー。

そう思いながら、綾(翔太)が、落ち込んだような表情を浮かべると、
それに気づいたのか翔太(綾)が「ところでさー」と、
涙を拭きながら言葉を口にしたー

「ーあんなに、否定しなくてもよくない?」
笑いながら、翔太(綾)が言うー。

「え」
綾(翔太)は困惑しながら、
「だ、だ、だって、僕なんかが彼氏とかー、
 星村さんを汚すようなもんだし!」と、
慌てて否定の言葉を口にするー。

「ーー遠藤くん、もうちょっと自分に自信を持ってもいいと
 思うのになぁ~…

 確かにそういう関係じゃないけどー
 あそこまで必死に否定されると、なんか複雑ー」

翔太(綾)が、少し笑いながらそう言うと、
「え~… え~~~」
と、綾(翔太)は戸惑いの表情を浮かべながらー
「ぼ、僕、そういう経験ないから、どう反応すればいいのか分からなくて!」と、
顔を真っ赤にしながら言葉を口にしたー。

「ーーふふー」
顔を真っ赤にしている”わたし”を見ながら、
なんだかおかしい気分になりながら
「ーあ、じゃあ、遠足の時に着ていく服の話だけどー」と、
本題を切り出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

遠足当日ー

「~~~~~~~~…」
思ったよりおしゃれな格好に、恥ずかしそうにしながら
綾(翔太)が、同じ班のメンバーと合流するー。

”綾”の親友の山井穂乃果が「わ~!綾の私服~!」と、
嬉しそうに、綾(翔太)のほうを見つめているー。

”綾”の隣の座席の男子・須藤渉と、お調子者の栗原誠一、
合わせて4人の行動班だー。

自由行動が始まり、綾(翔太)と穂乃果たちは、
そのまま事前に決めていたルートを歩き始めるー。

「ーー」
一方、翔太(綾)は、
隣の座席の霧崎璃子、親友の神田哲真、
いつも穏やかに笑っている野坂優菜の4人で
行動していたー。

「ーーーー」
前を歩く翔太(綾)を見つめながら哲真は思うー。

どうして”翔太”は、カードゲーム部に入らなかったのかー。
しかもー、どう考えてもカードをやりそうにない”星村さん”が
カードゲーム部に入部して”まるで翔太のような”
プレイングを見せているー。

「ーーーーーーーーー」
哲真は、ふと、「星村さん」と、言葉を口にするー。

「ーーーえ?」
前を歩いていた翔太(綾)が、”つい”振り返ってしまうー。

「ーーーーえ」
何となくー、発した言葉だったー。

がー、
前を歩く”遠藤翔太”が、”星村さん”と呼ばれて振り返ったことに、
翔太の親友・哲真は驚きの表情を浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★1-Cの日常★

「ーーね~ね~~~、湯川さんと、寧々、どっちが可愛い~?」

福井 寧々(ふくい ねね)ー
自分のことを”寧々”と呼び、自分を可愛いと思い込んでいるクラスメイトだー。
見た目は確かに可愛いが、それ以上に自惚れた性格が目立つー。

「ーーーわ、わ、わたしは…別にー」
同じ行動班のもう一人の女子生徒・湯川梓が戸惑いの表情を浮かべるー。
梓は、”見た目はかなり可愛い”のに反して”滅茶苦茶ネガティブ”な
性格の持ち主ー。

そんな梓が、”自分を可愛い”と思い込んでいる寧々に絡まれていたー

”ーーーなんだこの展開…地獄か!?”

イケメン男子生徒・足立幸也ー。
哲真と共にカードゲーム部に所属する幸也は
”イケメンだけど、女子が得意ではないー”
そんな男子生徒ー。

彼は今、究極の選択を強いられていたー

「寧々と、湯川さん! 可愛いのは、どっち?」
寧々が笑いながら言うー。

”福井さん”と答えればー、湯川さんを傷つけるだろうしー、
かと言って、”湯川さん”と答えれば”え~~?寧々でしょ~?”とか言われそうだー。
かと言って”両方”なんて答えは、きっと寧々は許さないー。

「ーーーーーーー~~~~」
班のもう一人のメンバー・敷島郡司に助けを求めようとするも、
郡司はニヤニヤと楽しそうにしていて、助けてくれる様子はないー。

”くそーーやっぱ、ここは地獄かー”
足立幸也はそんな風に思いながら、寧々に絡まれてしまった
己の不運を呪ったー…。

⑥へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

入れ替わり高校生活を3年間描くので、
かなり長い話数、じっくりと描いていく予定デス~!

クラスメイトたちも先に全員デザインして、
作中の時間で3年間、ゆっくりと主人公たちと
付き合っていくことになります~!★

入れ替わり長編はこれで3回目ですが、
今までのお話とは違うスタイル(日常的な部分に特化)で書いている作品なので
私自身も高校生活を思い出しながら楽しく書いています~笑

お読み下さりありがとうございました~!

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