優しくて穏やかだった彼女が、
最近、妙にイライラしているー
一体、どうしてー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー」
昼休みー。
男子高校生の塩原 勝馬(しおばら かつま)は、
困惑した表情で、廊下側の座席にいる女子生徒のほうを見つめていたー。
岩渕 優香(いわぶち ゆうか)ー。
名前の通りー…と、言ったら変だけれども、
とても優しい子で、穏やかな性格の持ち主だー。
授業態度も真面目で、先生や後輩からの信頼も厚いー。
彼が、そんな優香を見つめているのは、
別に勝馬が変質者だからではないー。
そして、片思いでもないー。
優香のことを”彼氏”として心配しているのだー。
勝馬と優香は、去年の文化祭の際にお互いに文化祭実行委員に
なったことから親しくなり、話す機会が増えー、
2年生になったばかりの春ー、同じクラスになったことで急接近、
こうして恋人同士になったー。
勝馬自身も、気配りのできる性格で、
穏やかな優香とは性格の相性も良く、
これまで、喧嘩もなく仲良くやってきたー。
がー、
今日の優香はなんだか”様子”がおかしいー。
だから、心配しているー。
朝から妙にイライラしていて、
さっきも、3時間目と4時間目の間に、
ロッカーの中に入れようとしたものが
なかなか入らなくて”キレて”いたのを見たー。
普段はそんなじゃないのにー。
そう思いながら、
優香の座席の方に近付いていくー。
”昼休みになったら声を掛けようー”
そう、思っていたからだー。
「ーーー優香ー…なんか今日、疲れてないか?」
勝馬がそう声を掛けると、優香は少しだけ微笑みながら
「え?うんーだ、大丈夫ー」と、笑ってみせたー。
だが、その笑顔もぎこちないー。
”無理に笑っている”のが、明らかに分かるー。
「ーーー何かあったなら、話だけでも聞くよ?」
勝馬がそう言うと、優香は「ないないー。大丈夫大丈夫」と、
そんな言葉を口にするー。
「ーーーそ、そっかー…でも、なんか今日ー、随分ー、そのー…
疲れてるように見えるからー」
本当は”イライラしているように”見えるのだがー、
それを言うと気分を害する可能性もあると考えて
”疲れているように見えた”と、表現したー。
がーーー
「ーーだ・か・らー大丈夫だって」
笑顔を浮かべながらも、少し強い口調で言う優香ー。
明らかに”キレそう”なのを我慢しているのが分かるー。
「ーー…そ、そ、そっかー。ならいいんだーごめんな」
勝馬がそれだけ言うと、優香は
「ーーうん」と、だけ返事をして、そのまま
4時間目の授業で使っていた教科書をロッカーに片付けようと
立ち上がったー。
「ーーーー」
そんな優香の姿を、不安そうに見つめながら勝馬は
「おっと、そろそろ飯を食わないとー」と、
昼食のための飲み物を自動販売機まで買いに行こうと、
そのまま教室の外へと出たー。
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つんつん、と後ろから触られて、
勝馬が振り返ると、
指が頬にめり込んだー。
「ーーおい、ガキかお前はー」
勝馬が呆れ顔でそう呟くと、
勝馬を振り返らせて、指を突き刺した少女ー、
同じクラスの笹嶺 麻衣(ささみね まい)が、
「ーガキじゃありませ~ん!女子高生です!」と、
ふざけた口調で言葉を口にしたー。
「ー高校生もガキみたいなもんだろー」
勝馬が苦笑いしながらそう言うと、
麻衣は「じゃあ、勝馬もガキだからね!」と、
笑いながら言うー。
小柄な麻衣はー、
勝馬の”幼馴染”ー。
近所に住んでいる子で、小さい頃からずっとこの調子の
いたずらっ子だー。
とにかく悪戯好きで、
人を驚かして笑っているような、そんなタイプの子ー。
「ーーーはぁ」
ふと、勝馬が買ったばかりのジュースを口に運びながら
ため息をつくと、
麻衣は「おや?」と、ニヤニヤしながら言うー。
「おやおやおやおやおやおやおや」
そんな麻衣の言葉に、
勝馬は「うるさいなぁ」と、笑うー。
憎まれ口を叩いてはいるが、
別に麻衣のことは嫌いではないしー、
今でも”大切な幼馴染”だー。
しかし、恋愛感情は全くなく、
彼女の優香にも”麻衣との関係性”はちゃんと理解してもらっているー。
「ーーなんか、悩みごとかなぁ???」
麻衣のそんな言葉に、
勝馬は少し迷ってから、
「いやぁ、ほら、優香がー」
と、言葉を口にするー
”露骨にイラついてる”感じの優香ー。
当然、麻衣も気づいているだろうー。
「あ~~~ 勝馬と喧嘩でもしたのかと思ってた!」
麻衣のそんな言葉に、
勝馬は「し、しねぇよ」と、咄嗟に否定すると、
「ーなんか今日、優香が機嫌悪くてさー」と、苦笑いするー。
「ーーなんか怒らせちゃったんじゃないの~?
あ、もしかしてわたしが勝馬の周りをチョロチョロしてるから?!」
麻衣が、そんなリアクションをすると、
勝馬は「麻衣のことは、優香も分かってるしー、恋愛感情は0だから」と、
断言するー。
「ーーあ、ひど~い!0とかわざわざ言わなくてもいいじゃん~!
せめて1ぐらいは!ね?」
麻衣の言葉に、”騒がしいやつだな”と、思いながらも、
「それが、怒らせるようなことした覚えもー」
と、戸惑いの表情を浮かべる勝馬ー
「ーーふ~ん…
勝馬が自覚してないだけだったりして?」
麻衣の揶揄うような口調に、
「ーーあ~はいはい、俺はもう教室に戻るからなー」と、
足早に立ち去ろうとするー。
そんな勝馬を見て、麻衣は
「まぁまぁ、ほら、家で何かあったのかもしれないし、
体調が優れないのかもしれないしー、
しばらくそっとしておいてあげたら?」と、言葉を口にするー。
「ーーははー、まぁ、話を聞いてくれてありがとな」
勝馬はそう返事を返して、そのまま教室へと戻って行ったー。
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やっぱり、その日は終始、優香は”不機嫌”な様子だったー。
何にイライラしているのかは分からないー。
昼休みに声を掛けた時の様子から
”聞いても答えてくれるような感じではなかった”し、
”とりあえず今日はそっとしておこう”と、
それ以上、その日は優香に声を掛けることはなかったー。
帰宅後もー
LINEで、一言だけ心配するようなメッセージを送ったものの、
返事がそっけなかったために、勝馬は
”何か、気に障ることしちゃったならごめんな”とだけ伝えて、
そのまま会話を切り上げたー。
”別に、そういうわけじゃないから”
とだけ、返事が返ってきて、
ひとまず優香は”俺に怒っているわけではない”ということに、
安心はしたもののー、
やっぱり、普段の優香とはまるで違う、どことなくイライラした様子に
強い不安を感じずにはいられなかったー。
だがーーー
勝馬は知らないー。
優香がイライラしているのは、”単なる”不機嫌などではない、
ということをー。
前日ー
「ーえ~?そうなんだ~!」
優香がクラスメイトの一人、美也子(みやこ)と話をしながら
そう言葉を口にするー。
どうやら美也子が”好きな男子”の話を優香にしたようだったー。
「ーねぇねぇ勝馬ー
C組の滝本(たきもと)くんって、同じ中学出身って言ってたよねー?」
優香は、彼氏の勝馬に声を掛けると、
勝馬は「ん?あ~、滝本なら同じクラスだったけど?」と、
言葉を口にするー。
「ーー美也子が、滝本くんに今度、告白しようと思ってるらしくてー」
優香が優しく笑いながらそう言うと、
「へ~」と、勝馬は、美也子のほうを見つめるー。
美也子と優香は友達同士ー。
”彼女”の優香を通じて、勝馬も、それなりに接点があるー。
どうやら、美也子は”同じ中学出身”の勝馬に
その”滝本くん”のことを聞きたいようだー。
「ーーー滝本くんの趣味とか、そういうの、全然分からなくてー」
美也子が少し恥ずかしそうにそう言うと、
勝馬は「あ~なるほどなるほど」と、納得した様子で、
「ー俺もそんなに詳しいわけじゃないけどー…知ってる範囲内で良ければ」と、
美也子に対して、言葉を口にしながら
同じ中学出身の”滝本くん”の話をし始めたー。
「ーーーさっきはありがとう」
放課後ー
優香が嬉しそうにお礼の言葉を口にするー。
「ーーえ?な、何かしたっけ?」
勝馬が少し戸惑いながら言うと、
「ほら、美也子に滝本くんのこと、教えてくれたでしょ?」と
優香が微笑むーー。
「あ、あぁ~そのことかぁ、ただ教えただけだし、全然お礼を
言われるほどじゃー」
照れくさそうに勝馬が言うと、
優香は笑いながら「そういえば、もうすぐ文化祭だね~」と、
話題を変えるー。
二人が親しくなったきっかけは去年の文化祭ー。
だからこそ、二人にとって文化祭は特に思い出深い学校行事だったー。
「ー付き合い始めたばかりの頃は、お互いに恥ずかしがってばかりいたよなぁ~」
懐かしそうに笑う勝馬ー。
「ーーうんうん。たしかにー。
わたしも彼氏とか初めてだったし、ぎこちない感じだったよねー」
優香が笑うー。
優香は穏やか性格の持ち主で、騒ぐようなタイプではないー。
それ故に、お互い付き合い初めの頃は、
かなりぎこちないというかー、恥ずかしがっているようなそんな感じだったー。
あれから約1年ー。
流石に今は慣れて来てはいるけれどー。
「ーーーあ、今日は優香、部活だったよな?」
勝馬が言うと、優香は「うんー。勝馬は今日はそのまま帰りだったよね?」と、
確認の言葉を口にするー。
「あぁ、今日は部活ないしな」
勝馬がそう返事をすると、優香は「じゃ、今日もお疲れ様」と、
昇降口付近の廊下でそう言葉を口にするー。
「ー優香も頑張って。また明日」
勝馬はそう言いながら、優香と別れるー。
そうー
勝馬からすれば”昨日も普通に”別れたはずだったのだー。
特に、思い当たることは、何もないー。
”彼女の優香が妙にイライラしている”
そんな状況に勝馬に心当たりがないのはー、
当然と言えば当然だー。
何故なら、このあとーー…
手芸部の部室に向かう優香の前にー、
3年生の男性生徒が姿を現すー。
「ーーーやぁ」
優香を見て、微笑む男子生徒ー。
「ーーあ、ど、どうもー…」
優香が戸惑いながら”先輩”に対して頭を下げると、
その先輩は笑みを浮かべながら、ポケットから
何かを取り出したー。
「ーー?」
不思議そうな表情を浮かべる優香ー。
すると、次の瞬間ー
小さなライトを、優香の方に
その先輩は向けて来たー。
「ーーーえっ…!?」
一瞬、眩しそうにする優香ー。
しかしー、
次の瞬間ー、
優香は目を見開いたまま、
光が目に当たっても微動だにせず、
とろんとした表情を浮かべたー。
そんな優香の様子を見て、
その先輩は笑みを浮かべながら優香のほうを見つめたー。
そしてーーー、
しばらくすると、先輩は優香に向けたライトをしまうー。
すると、優香の目が輝きを取り戻し、先輩のほうを見つめるー。
「ーあのーー
わたし、急いでるんでー、どいてもらっていいですか?」
急に刺々しい態度を見せる優香ー。
この瞬間から優香は”洗脳”されてしまったー。
その事実と、
優香を洗脳した意図を知る人間は、
まだ、当事者たち以外には、存在しないー。
そしてー、
その翌日にあたる今日ー、
そんな優香の姿を見て、何も知らない勝馬は
戸惑うことしかできなかったー。
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勝馬が優香の”イライラ”に不安を覚えた翌日ー。
勝馬が学校にやってくるとー、
優香は”まだ”イライラした様子を振りまいている状態だったー。
「ーーお、おはようー」
それでも、勝馬は優香に声を掛けるー。
しかし、優香は微笑むこともなく、
「おはよう」と、そっけなく返事をしてくるだけだったー。
”やっぱりいつもと違うー…
いったい、何があったんだー…?”
妙にイライラしている彼女を前に、
勝馬は強い不安を覚えることしかできなかったー。
②へ続く
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コメント
相手の感情をコントロールする系統の洗脳が登場する
洗脳モノデス~!
いつもと違って妙にイライラしている彼女…!
彼氏はどう対応していくのでしょうか~?
続きはまた明日デス~!
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