離婚した元妻と入れ替わってしまった元夫。
再婚した”新しい夫”と、”元妻”の身体で暮らすことになってしまった上に、
その相手は小さい頃のいじめっ子ー。
戸惑いの生活の果てに待つ運命は…?
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”あ~、ごめんごめんー
夜の話、し忘れてたねー”
翌朝ー。
秀平(美姫)に電話をして、
昨晩のことを伝えると、
そんな言葉が返って来たー
「ーーい、い、いきなりだからびっくりしたよ!
後半、頭からっぽだったけどー」
美姫(秀平)がそう言うと、
”わたしも、幸弘も積極的だからー”と、秀平(美姫)が笑ったー
「ちぇっ、どうせ僕は消極的でつまらない男だよ」
美姫(秀平)が不貞腐れた様子でそう呟くと、
秀平(美姫)は”そ、そこまでは言ってないでしょ~!”と、笑ったー。
”でも、気持ちよかったでしょ?”
秀平(美姫)のそんな言葉に、
美姫(秀平)は、顔を赤らめながら戸惑うー。
美姫の身体で味わう快感は、男のソレとは全然違ったー。
当人たちが喜んでいるのかどうかはまた別の問題として、
男の身体とは、まるで別のあまり激しい湧き上がるような快感に、
溺れそうになったー。
病みつきになって、欲望に狂う女性がいるのも
分かるような気がするー。
けどー、
秀平にとっては”不快感”もあったー。
相手が”中学時代のいじめっ子”である幸弘である以上ー、
途中まではとても不愉快だったし、
気持ち良さでいっぱいになるまで”痛い”と感じるようなこともあったー。
「ーーーう~ん…どうかなぁ」
そんなこともあってか、曖昧な返事に留めておくと、
美姫(秀平)は「ーそれより、早く元に戻る方法を見つけないと」と、
言葉を口にしたー。
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秀平になった美姫と、
美姫になった秀平は、互いに”相手のフリ”をしながらの
生活を本格的にスタートさせていたー。
幸い、お互いに専門職…というほどの仕事ではなく、
互いの仕事のことも知っていたために
”ギリギリ”何とかなっている状態が続いていたー。
がーーー
しばらくして、美姫(秀平)は、体調を崩すことが多くなり、
夫の幸弘が心配そうに美姫(秀平)に声を掛けて来たー。
”僕をイジメてたくせにー”
そう思いながらも、美姫(秀平)は、自分の体調のことを
口にすると、幸弘は親身になって話を聞いてくれたー。
美姫になってから、半月ー。
”幸弘”は、想像以上に優しくー、
いじめっ子の面影など、感じないー。
まぁ、”美姫”相手だからだとは思うけれどー、
その優しさが美姫(秀平)からすれば、逆に腹立たしかったー。
「ーねぇ、なんでそんなに優しいのー」
つい、内心でイライラしていたからか、
そんな棘のある言葉を口にするー。
「ーーえ」
戸惑う幸弘ー。
「それは、美姫が大事だからだよ」
幸弘のそんな言葉に、
美姫(秀平)は、体調不良のイライラも重なって、
ついこんなことを言ってしまったー
「ー昔、クラスの子をいじめてたって、友達から聞いたけどー」
とー。
”友達”って誰だよー、と自分でも内心でツッコミを入れながら
そう言い放つと、幸弘は驚いた様子で美姫(秀平)のほうを見つめたー。
がー、幸弘は、あっさりとそれを認めたー。
その上で「”だから”だよー」と、言葉を口にしたー。
「ー高校の時さー、入学直後に仲良かったやつがさー、
不登校になったんだー。
何でかな、って思ってたら別のクラスの奴のいじめが原因だって分かってー。
その時、俺は気づいたんだー。
”俺が中学生の頃にしてたのは、こういうことだったんだー”って」
幸弘はそう言い放つと、
不機嫌そうな美姫(秀平)のほうを見て、苦笑いするー。
「ーだから俺は、その時から人に優しくするって決めたんだー。
もちろんー、小さいころ、いじめてた罪は消えないしー
俺がいじめてしまった子たちは、今も俺のことを恨んでると思うー。
当然だー。
恨まれても仕方ないし、もしもう一度会う機会があったらー、
全力で謝りたいー
まぁ、謝っても許してもらえないとは思うけど、
でも、謝らないといけないー。」
幸弘はそこまで言うと、
「なんで、ガキの頃の俺、あんなバカなことしたんだろうなー」と、
心底後悔するような言葉を口にしたー。
「ーーーーーー」
美姫(秀平)は思うー。
”そうだよー。許さないよー。いじめられた側は一生恨むんだー”
とー。
けれどー
少なくとも”今”の幸弘は過去の自分を悔い改めているー
そんな、気はしたー。
許さないけれどー、
”美姫”に危害が及ぶ可能性は低いことに、
少しだけ安心すると、
「ーーー美姫ー…じゃない、わたしのこと大切にしてよね」と、
言葉を口にしたー。
「ーもちろんだよ」
幸弘の言葉に、美姫(秀平)は少しだけ微笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”妊娠”ー
最近の体調不良の原因は”妊娠”だったー。
美姫(秀平)は驚き、秀平(美姫)に相談するー
”そ、そっかぁ~…”
秀平(美姫)は驚きながらも
”ー早く元に戻らないと、だねー”
と、言葉を口にするー。
美姫(秀平)は、複雑な表情を浮かべながら
「ーー産む方向でいいんだよね?」と、確認するー。
”ーもちろん! ごめんね、迷惑かけてー”
そんな言葉に、美姫(秀平)は戸惑いながらも、
「分かったー…じ、じゃあ、元に戻れるまではー
ちゃんとお腹の赤ちゃんを守るからー」と、
そんな言葉を口にしたー。
がー、内心は穏やかではないー。
”今でも好きな元妻の身体で、他の男の子供を宿している”のだからー。
「ーーーは~~~……
なんか、やっぱり、地獄だなー」
美姫(秀平)は、そう呟きながらも
”早く元に戻る方法、見つからないかなー”と、
自分自身もパソコンで色々と”元に戻る方法”を探り始めたー。
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「迷惑かけて、本当にごめんねー」
秀平(美姫)が、申し訳なさそうに言葉を口にするー。
すっかりお腹の大きくなった美姫(秀平)ー
既に、いつ産まれてもおかしくない段階にまで、
時は流れてしまっていたー。
「ーーいいよー…まぁ…経験ないから怖いしー……
そのーーー
僕以外の男との子供を産むとか、結構気持ち的には辛いけどー」
美姫(秀平)が言うー。
「ごめんー。本当にごめんねー。
元に戻る方法も一生懸命探してるんだけど、
やっぱりなかなかー」
秀平(美姫)の申し訳なさそうな言葉に、
美姫(秀平)は「まぁ…僕も見つけられなかったからー」と、
複雑そうに呟くー。
”入れ替わり”などということは、普通は起こらないー。
美姫になった秀平も、秀平になった美姫も、互いに
元に戻る方法を探してはいたけれど、
ネット上にもそんなものは存在せず
”どうすれば入れ替わりから元に戻れますか?”なんてことが
書かれた本も存在しなかったー。
「ーー大丈夫ー。僕は複雑だけどー、
生まれて来る子供には何の罪もないんだしー
僕がお腹の中の子を憎む理由なんて、何もないからー」
美姫(秀平)はそう言うと、
「秀平は、やっぱり優しいねー」と、
秀平(美姫)は穏やかに微笑んだー。
そしてー
その日はやってきたー
”想像以上”の苦痛ー。
みんながみんな、そうではないのかもしれないー。
けれど、不安・恐怖・痛みー、
色々な感情が混ざり合い、その痛みにひたすら耐えたー。
”母さんも、こんな風に僕を生んでくれたのかー”と
思いながら、必死に、必死に耐えてー、
ついにー、
元気な赤ちゃんが、無事に生まれたー。
”よかったー、本当によかったー”
美姫の新しい夫の幸弘は、涙を流しながら喜びー、
仕事の合間は、ずっと美姫の側にいてくれたー。
”改心したいじめっ子”ー。
しかし、それでもやっぱり、秀平からすれば
”許す”ことはできなかったー。
本人も言っていた通り、”罪”は消えないしー
それにー”傷”も消えないのだからー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーえ!?元に戻る方法が見つかった!?」
出産して、退院を間近に控えたタイミングで、
美姫(秀平)が驚いた様子でそう言うと、
「ーうん。色々調べてようやく見つけたんだけどねー」と、
秀平(美姫)が”入れ替わり薬”なるものの存在を教えてくれたー。
「お互いにその薬を塗った状態で相手と接触すれば
入れ替わることができるみたい」
秀平(美姫)のそんな言葉に、
美姫(秀平)は「ーそんな怪しいもので本当に戻れるのかな?」と、
心配そうに言葉を口にするー。
「あははー確かにー。
でも、ちゃんと調べたし、ほぼ確実に元に戻れるはずだから大丈夫ー。
ちょうど明後日到着予定だから、
”わたしの身体”が退院するタイミングだね」
秀平(美姫)のそんな言葉に、
美姫(秀平)は安堵の表情を浮かべると共に、
少しだけ”寂しいような”そんな感情も覚えながら微笑んだー。
出産を自分で経験してみて、何となく生まれて来た赤ちゃんに
愛着が沸いてしまったのとー、
夫の幸弘との生活も、許せないけど、何となく”美姫として”ならば、
心地よいような、そんな感じも覚えてしまっていたー。
「ーーーーじゃあ、退院後に、元に戻ろう」
それでも、秀平(美姫)はそう言い放つー。
真面目で几帳面すぎる秀平に”元に戻らない”という選択肢は、なかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
無事に退院した美姫(秀平)は、
一度帰宅して夫の幸弘と話をするー。
結局”元に戻る”のは、”明日”ということになったー。
ちょうど、幸弘は明日、仕事があるために
タイミング的にもぴったりなのだー。
「ーーー今日でこの生活も終わりかー」
元に戻れてうれしいようなー
少し、寂しいようなー。
そんなことを思いながら、美姫(秀平)は眠りについたー。
そしてー、翌日。
幸弘が仕事に向かった少しあとに、
美姫(秀平)は秀平(美姫)と合流したー。
秀平(美姫)が用意していた
入れ替わり薬なるものを早速、お互いの手に塗るー。
「ーー準備はいい?」
秀平(美姫)の言葉に、
美姫(秀平)は少し緊張した様子で頷くー。
意を決してお互いに相手の手を握るとー、
その直後、意識が遠のくような、今まであまり経験のない、
言い表しがたい感覚を感じーーー
次の瞬間ーー
「ーー!!!!」
秀平が自分の手を見つめるー。
その目には”美姫の手”ではなく、”秀平自身の手”が
映っていたー
「も、も、も、戻ったー!本当に戻ってる!!!」
寂しい気持ちはあれど、
やっぱり自分の身体に戻って来れたという安心感は、
何者にも代えがたいー。
「ーーふふふー無事に戻れてよかった!」
美姫もそんな風に言葉を口にすると、
お互いに入れ替わっていた間の状況を報告し合ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれから半月が経過したー。
元の生活に戻った秀平は、
何の問題もなく職場に通うことができているー。
美姫が”ちゃんと秀平として振る舞ってくれていた”証拠だろうー。
だが、あの後、美姫とは連絡を取り合うようなこともほぼなく、
元に戻った翌日に少しメッセージのやり取りをしたぐらいで、
あとは、何もなかったー。
美姫からのメッセージもなかったし、
秀平も”赤ちゃんが生まれたばかりだから大変だろうし”と、
自分から
メッセージを送るようなことはしなかったためだー。
「ーーーー」
”元妻”である美姫にはまだ未練があるー。
でも、これから先もその道が交わることはやっぱりないのだろうー。
少しだけ寂しそうな表情を浮かべると、
秀平は「ーとにかく、僕は僕で頑張らないとな」と、
言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ありがとうー”
美姫は、一人微笑んだー。
”妊娠”を知ったときー、美姫が最初に感じたのは”恐怖”だったー。
もちろん幸弘のー、好きな人の子供を産みたい気持ちはあったー
でも、怖かったー。
感じ方は人それぞれ。
妊娠・出産を怖いと思う人も当然いるー。
けれどー、そんな中、偶然”入れ替わり薬”の存在を知ったー。
美姫は、考えたー。
”元夫のお人好しな秀平”なら利用できるかもしれないー、と。
”出産するまでのわたしの身体を預けても、信用できる存在”ー
だとー。
だから、美姫は偶然を装い、入れ替わり薬を塗った状態で、
さりげなく、秀平と接触した。
接触した瞬間に入れ替わったのではなく、その時に
ベタベタと自分の手に塗りたくった入れ替わり薬を
秀平に塗りー、そして入れ替わったー。
全ては、計画通りー。
出産までの苦しみを秀平に”肩代わり”してもらいー、
出産が終わったら、元に戻るー。
おかげでー、何の苦しみもなく、美姫は子供を出産できたー。
美姫は、赤ちゃんのほうを見つめながら微笑むー。
もう、元の夫の秀平に用はないー。
この先、連絡を取ることもないだろうー。
彼は、彼の人生を生きればいいー。
美姫はそう思いながら、
今一度、静かに言葉を口にしたー。
”ありがとう秀平ー。
そして、さようならー”
とー。
おわり
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コメント
「新婚の元妻」の最終回でした~!☆
ちなみに、美姫の計画を、新しい夫(幸弘)は
何も知らない設定デス~!☆
入れ替わっていたことにも気づいていません~!
お読み下さりありがとうございました~~!
コメント
美姫は凄まじく、自分勝手な性格ですね。
自分の都合だけで何もかも計算づくで元夫を利用とか。
もしまた妊娠したらどうするんでしょう?
また同じ手を使うつもりですかね?
それにしても、もし、秀平が元に戻るつもりがなくなったり、美姫にとって、予想外の暴走をしていたら、どうなったんでしょうね?
そういう展開も見てみたかった気もします。
コメントありがとうございます~!☆
美姫の予想外の展開…!
確かに、それも面白そうでしたネ~!
一緒にいて、美姫は秀平の性格をよく知っているので、
100%戻れると信じて疑わない状態でした~!☆
ちょっと疑問なんですけど、
美姫は出産するまで、自分の身体を預けても、信用できる存在だと、元夫の秀平の事を認識して、入れ替わってますけど、現夫の幸弘は、自分の身体を預けられる程には、美姫は信用出来なかったんですかね?
本来なら、元夫よりは、現夫の幸弘と入れ替わる方が筋(?)な気がしますが。
あるいは、信用云々ではなく、最愛の夫を出産で苦しませたくないからとか、そういう理由で元夫なんですかね?
逆に言えば、元夫なら、もう愛してないから、苦しませても平気ということなんでしょうか?
あと、もし、出産で美姫(秀平)が命を落としたり、あるいは秀平の身体の美姫が事故死してたりしたなら、どうなったんでしょうね?
どっちの場合にしろ、そうなったら、もう自分の身体には戻れず永久に元夫(元妻)として生きていくしかなくなりそうなので、大変なことになりそうですよね?
ありがとうございます~!☆
今の夫の幸弘のことは、美姫も信頼しているのですが、
”入れ替わった経験をした状態で”ずっと一緒に過ごすことになるので、
入れ替わり終わったらバイバイできる+性格上信用できる秀平のほうを選びました~!☆
出産の過程で命を落とすことは、
確率的にないはずだと、美姫は思っていた設定ですネ~~!