離婚した”元妻”の身体と入れ替わってしまった男…
彼は”元妻の身体”で、
”新しい夫”と暮らすというとんでもない事態に
陥ってしまうー
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石本 秀平(いしもと しゅうへい)は、
学生時代から、気弱で奥手な性格ー、
優しい一面はあるけれど、
”石頭”と言われてしまうほどに真面目な性格で、
融通が利かないタイプの男だったー。
しかし、そんな彼は、高校時代に出会った相手と
大学卒業後に結婚ー、
”僕は一生、結婚なんてできないんだ”と思っていた秀平の人生に
ある意味で”奇跡”が起きたー。
きっかけはー、分からないー。
確かー、委員会活動で同じ委員会になったことが
きっかけだっただろうかー。
”石頭”と言われてしまうほどに、真面目な堅物だった
秀平が一生懸命仕事をしているのを見て、
”わたしも石本くんみたいに頑張らなくちゃ”みたいな感じで
彼女が声を掛けて来てー、
それなりに話す間柄になったー
それが、最初のきっかけだったように思えるー。
ただ、高校時代はそれ以上の間柄に発展することはなく、
そのまま卒業を迎えたー。
がー、その彼女…美姫(みき)との関係は
そこでは終わらなかったー。
「ーーーえ…?中里(なかざと)さんー?」
驚く秀平ー。
そうー
”偶然”
進学した大学が同じで、秀平は大学内で美姫と再会を果たしたのだったー。
”美姫がどこの大学に行くか”までは知らなかったために、
秀平は心底驚いたー。
そして、同じ高校からその大学に進学したのは
秀平と美姫だけだったことや、秀平も美姫も、ちょうど一人暮らしを
始めたばかりで、戸惑う部分が多く、秀平が美姫の手伝いをしてあげたことなどが
きっかけで、どんどんその距離感は縮まっていき、
美姫の”わたしたち、付き合っちゃう?”の言葉で、恋人同士になったー。
その後、大学卒業と同時に結婚ー、
秀平の周囲は”あんな可愛い子とお前が結婚するなんてー”と驚き、
美姫の周囲は”え~?美姫はもっと違うタイプの人と結婚すると思ってた”などと、
そんな言葉を口にしていたー。
けれどー
”奇跡”はそこまでだったー。
美姫と結婚すると、
”美姫の自由奔放で、勢いで行動するような部分”が
目につくようになり”無計画”だと、秀平はストレスを感じるようになったー。
一方の美姫も、”真面目すぎる”秀平に窮屈さを感じるようになって、
秀平同様にストレスを感じるようになり、
次第に学生時代の同性の友達と遊ぶ機会が増えるようになり、
家にいる時間が減ったー。
秀平の側は、美姫のことがそれでも好きではあったものの、
美姫の方が、秀平のあまりの真面目さに嫌気がさしてしまいー、
結婚生活は、およそ1年半で終了ー、
二人は、正式に離婚することになったー。
離婚したあとの”美姫”のことは
あまり良く知らないー。
秀平自身は、他に女友達なんていないに等しい状態だし、
まだ美姫のことが好きだったものの、
離婚したあとにもしつこくすれば、迷惑をかけてしまうと、
そう考えて、秀平は一切、美姫に連絡を取ることはなかったー。
だが、少し前に共通の知り合いから
”再婚するらしい”と聞かされていて、
”おめでとう”とだけ、メッセージを送り、
美姫からも”ありがとう”とだけ、メッセージが返って来ていたー。
”それにしても、1年で再婚とか、すごいよなー
僕にはとても無理だー”
秀平はそう思いながら、今日も会社に向かうー。
会社でも”石頭”なんて呼ばれてしまうぐらいの
真面目で融通の利かない性格を発揮ー。
ただ、仕事の能力自体はそれなりで、真面目に頑張るために
上司の評価は悪くはなかったー。
仕事を終えて「お疲れ様でした」と、頭を下げ、
オフィスを後にするー。
”まぁ、僕はもうこのままずっと独身だろうなー”
そんなことを考えながら、家に向かって歩くー。
”ーけど、1回でも結婚を経験できたし、
別にこれ以上結婚したいとも思わないけどー”
こうして、移動中に考え事をするのが秀平の日課だー。
どうでもいいことから、どうでもよくないことまで
色々なことをいつも、考えているー。
今でも、美姫のことを思い出すと寂しい気持ちになるー。
離婚しても、”好き”の感情が秀平の中から消えず、
ずっとそれを引きずっていたー。
もちろん、秀平は何もするつもりはない。
けれどー今でも美姫のことが好きだったー。
がーーー
家に向かって街の角を曲がったその時だったー。
”また”
奇跡が起きてしまったー。
今度はー
”あまり良くない方向の”奇跡がー
「ーーえっ!?」
「ーーー!!!!」
曲がり角を曲がった時ー、
ちょうどその曲がった先からー
見覚えのある人間が走って来ていてー、
そのまま二人は勢いよく、衝突してしまったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーま、まさか…こんなことになるなんてー」
秀平とぶつかった相手ー…
秀平の元妻である美姫がそう呟くー。
「ーそれは…こっちのセリフよ」
”秀平”がそんな言葉遣いで言葉を口から吐き出すー。
「ー街中で偶然、元夫と遭遇して、
しかも正面衝突して、
挙句の果てに身体が入れ替わるー…!
何なのコレ!?!?」
大げさなリアクションで、秀平が叫ぶー。
そう、二人は出会い頭に正面衝突して
入れ替わってしまったのだー。
「ーーーそ…そ…それはー」
美姫になってしまった秀平が落ち着かない様子で
ソワソワしてみせると、
秀平(美姫)は「まぁ、元気そうでよかったけどー」と、だけ
呟くと、「ところでこれ、どうすれば元に戻れるのか、知ってる?」と、
美姫(秀平)に確認するー。
美姫(秀平)は”今でも好きな美姫の身体”にドキドキした様子で、
口がカラカラに乾くのを感じながら
「わ…分かるわけないだろー?」と、言葉を返したー。
「ーま、まぁ、それもそうよねー」
秀平(美姫)は、そう言うと
入れ替わったあとに二人で入ったファミレスの店内で
深々とため息をついたー。
「ーーーとりあえず、ひと息ついたら、もう1回ぶつかってみる?」
秀平(美姫)の提案に、美姫(秀平)は「う…うんー」と頷くー。
自分の口から”元妻”の声が出ていることに
ドキドキしてしまいながらー、
「そういえばー…」と、ドリンクを口に運びながら、
「ーけ、結婚おめでとうー」と、言葉を口にするー。
「あ~…うん。ありがとうー。
なんかー”わたし”に祝福されるのってすごい変な気分だけどー」
秀平(美姫)はそう笑うと、
ハンバーグに、ステーキに、ピザに、
どんどん色々なものを口に運んでいくー
「なんか、すごい食べるなぁ…」
美姫(秀平)が呆れ顔で言うと、
秀平(美姫)は、少し得意気な表情で笑ったー
「だって、今のうちなら、たくさん食べられるでしょ!」
とー。
「ーーえ」
美姫(秀平)が”どういうこと?”と言わんばかりに首を傾げると、
「今はわたしの身体じゃないから!カロリーとか気にしなくて大丈夫だもん!」と、
得意気に笑う秀平(美姫)ー
「い、いやいやいやいや、
僕の身体のカロリーも気にしてよ」
「いやだー」
「何で!?」
そんな会話をしながら、久しぶりに元妻とのひと時を過ごすと、
二人は店を出てー、
”さっきと同じように”あえて、正面衝突してみたー。
けれどー、元に戻ることは出来ず、
他にもいろいろと”元に戻れそうな方法”を実践しては見たものの、
元に戻ることはできなかったー。
「ーーどうしようー。そろそろ帰らないと、幸弘(ゆきひろ)が、
心配するー」
秀平(美咲)が時計を見ながらそんな言葉を口にするー。
”幸弘”とは、美咲の新しい夫だー。
聞けば、入籍したのは、ちょうど2週間前なのだというー。
”再婚するらしい”とは聞いていたものの、
いざ、こうして”再婚した”と聞かされると、
美姫(秀平)にとっては、複雑な気持ちだったー。
「ーーど、どうしようってー…
とにかく、事情を説明して分かってもらうしかないんじゃー…」
美姫(秀平)がそんな言葉を口にすると、
秀平(美姫)は「そ、そんなことできるわけないでしょ!」と、
困惑の表情を浮かべるー。
”自分”に叱られたような、そんな不思議な気持ちになりながら
「ど、どうしてー…?も、元に戻れないならそれしか方法はないじゃないかー」と、
美姫(秀平)が反論するー。
”自分の口から美姫の声が出る”という状態に、まだ慣れてはいなかったものの、
そんなことよりも、今、この状況に動揺している気持ちの方が強く、
”元妻の身体だ…えへへ”とか、そんなことを思う余裕は、
美姫(秀平)にはあまりなかったー。
「ーーーだって、急に”元夫と入れ替わっちゃったの!”なんて
言われて、普通、信じるー?」
秀平(美姫)が戸惑いの表情を浮かべながら
そんな言葉を口にするー。
そしてー、秀平(美姫)は、
「ーー秀平だったら、どう?」と、
問いかけて来たー。
「ーーえ…う、う~ん…」
秀平は、美姫と夫婦だった頃を思い出すー。
仮に、美姫と知らない男が家にやってきて
”わたし、この人と入れ替わっちゃったの!”なんて言われたらー…
信じるかどうか、と言われると
なかなか厳しいものがあるー。
「ーた、確かに信じないかもー…」
美姫(秀平)がそう言うと、
秀平(美姫)は少し安堵した様子で、
「でしょ?」と、微笑むと、
さらにこうも言葉を口にしたー。
「ーーー…それと、”元夫と入れ替わった”なんて言えば
わたしが秀平とこっそり会っているって、幸弘に誤解されるかもしれないしー、
秀平だって”俺の妻に手を出すな!”みたいな誤解されたら面倒でしょ?」
秀平(美姫)にそう言われて、
美姫(秀平)は「ま…まぁ、それは確かにー」と、頷くー。
しかしー、
入れかわりのことを言わないとするならば
一体どうするのかー。
美姫(秀平)は、そんなことを秀平(美姫)に確認するー。
「そんなの、決まってるでしょ」
当たり前、と言わんばかりに返答してくる秀平(美姫)ー
「き、き、決まってるー?」
美姫(秀平)が思わずそう聞き返すと、
秀平(美姫)は、笑いながら軽い口調で答えたー。
「ー秀平が、わたしの身体でわたしの家に帰って、
わたしが、秀平の身体で秀平の家に帰る!
それしかないじゃん!」
そう言いながら、秀平(美姫)が、
美姫(秀平)の肩をポンポンと叩いてくるー。
「えぇぇ…?そ、それ本気で言ってるー?」
美姫(秀平)は、青ざめながら言葉を口にするー。
「もちろん!
だって、仮にもわたしたち、夫婦だったんだし、
わたしがどんな性格で、普段どんな風に暮らしてるかも
知ってるでしょ?
幸弘と結婚してからも、秀平と暮らしてた頃と変わらないしー。
それに、わたしも秀平のことはよ~く知ってるから
秀平のフリもできると思うし!
あ、転職とかしてないよね?」
強引な様子の秀平(美姫)ー
もはや、選択肢が”はい”しか存在していないと
言わんばかりに、秀平は”元妻の身体で”、
”新しい夫と暮らしている家”に帰宅することになってしまったー
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思わず大きなため息をつく美姫(秀平)ー
家にたどり着くまでの間、
ようやく美姫の髪や服装、胸ー…
そういった部分にドキドキする余裕は
出来てはきたものの、やっぱり緊張するー
”だいたい、元夫の僕に、”新しい夫の待つ家に行って”とか、
配慮が足りないよなぁ…
僕からすれば地獄でしかないんだけどー”
美姫(秀平)は、そんな愚痴を心の中で
呟くと、ようやく”美姫”が今暮らしている家の前に
たどり着いたー。
”美姫”
”幸弘”
そう書かれた表札を見て、
複雑な表情を浮かべるー。
だが、こうなってしまった以上、
仕方がないー。
秀平になった美姫も、元に戻る方法を
色々探してみると言っていたし、
ここは二人で力を合わせるしかないー。
そう思いながら、
”今の美姫”が暮らす家の玄関の扉を開きー、
「ただいま!」と、自然な雰囲気で言葉を口にしたー。
”夫婦だった頃”の美姫が帰宅した時の雰囲気を
99%は再現できたと思うー。
「お~!美姫、おかえり~!」
がーーー
中から出て来た男ー、
おそらく、美姫の新しい”夫”である男を見て、
美姫(秀平)は表情を歪めたー。
美姫の新しい夫・幸弘はー、
中学時代、”秀平をいじめていた”男子ー
山岡 幸弘(やまおか ゆきひろ)だったのだー。
「ーーーー!!!!」
美姫(秀平)は、
”元妻”が”僕をいじめていた相手”と再婚したことにショックを受けると同時にー、
一時的に、とは言え”元いじめっ子”と一緒に暮らすことになったという現実に、
驚きの表情を浮かべたー。
”美姫”と出会ったのは高校時代ー。
秀平が幸弘にいじめられていたのは中学時代ー。
だから、美姫が知らないのは無理もないー。
がー、こんな形で”いじめっ子”と再会してしまったことに、
美姫(秀平)は、ただ呆然とすることしかできなかったー。
②へ続く
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コメント
元妻と入れ替わってしまって
新しい夫と暮らすことになってしまうお話デス~!
しかも、その”新しい夫”も因縁のある相手で
とっても大変そうですネ~!
続きはまた明日デス~!
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