夏の花火大会ー。
初めての彼女との、大切な思い出になるはずだったその日は、
絶望の思い出へと、変わっていく…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
花火の音が響き渡るー。
周囲は、そんな夏空を見つめながら笑顔を浮かべているー。
けれど、この場に浮かんでいるのは悪意に満ちた笑顔ー。
大好きな彼女の優しい笑顔は消えてしまったー。
「ーーどう?悔しいー?」
憑依された友美が笑みを浮かべながら言うー。
いつもは、眼鏡をかけている友美ー。
しかし、その眼鏡は先ほど、友美自身が地面に捨てて、
その足で踏みにじっているー。
眼鏡をしていないせいだろうかー。
それとも言動のせいだろうかー。
いつもの大人しいイメージは完全に失われて、
まるで別人のように見えるー。
「ーーー酷い…酷いよー」
彼氏の春雄が涙を流しながらそう言うと、
友美はゾクゾクしながら「あぁ…気持ちイイ」と、小声で呟くー。
隣にいる不良仲間の勝が、友美のほうを見つめるー。
「ーーー”この女の本心”だと思われて罵倒されるのー
ホント、興奮するぜー」
小声で囁く友美ー。
その表情は、今にもこの場で何かを始めてしまいそうなほどに
欲情していたー。
「ーーへへへーどうだ?こいつは酷い女だろ?
それがたまんねぇんだよ」
茶髪の勝が、笑みを浮かべながらそう言い放つと、
春雄は泣きながら友美のほうを見つめるー。
「ーー失望した?絶望した?
わたしのこと嫌いになっちゃったー?
ふふふー
言いたいことがあるなら言ってみなよ! ほら!」
友美がそう、挑発の言葉を口にすると、
春雄は、戸惑いながらも言葉を口にするー
「ーーー僕、ずっとずっとー…初めての彼女が出来て
嬉しいって思ってたのにー
それなのにー…こんなのーーー」
「ーーーえ」
友美が、急に穏やかな表情に戻って困惑するー。
「ーーこんなの…こんなの酷すぎるよー」
春雄は、友美に対してそう言い放つー
いつの間にか、勝たちは少し離れた場所に数歩、後ずさりしていて、
友美と春雄だけが近くにいる状態ー。
さっきまで”友美”に憑依していた金髪の男が、
レジャーシートで目を覚まし、ニヤニヤしているー。
「え…ど、どういうー…?」
花火の音が響き渡る中ー、
困惑する友美ー。
「ーーー…最低だよ…!友美はー…いいや、島内さんが
そんな人だとは思わなかったよ!」
散々挑発された春雄は泣きながらそう叫ぶー。
「ーーーえ… ど、どういうことー?
き、急に、どうしたのー?」
友美はそう言いながら、眼鏡がなくて、いつもより視界が
悪いことに戸惑うー。
「ーーえ…」
地面に叩きつけられて割れた眼鏡を見て困惑する友美ー。
”自分がやった”などとは夢にも思っていない友美が、
震えながら眼鏡を拾うとー、
「ーな、何があったのー?」と、目に涙を浮かべるー。
「ーーそういうの、もういいよ!
僕はどうせモテないし、僕はどうせ童貞だから!
そうやって、僕みたいな男子を遊ぶなんてー
もう、もういいよ!」
泣き叫ぶ春雄ー。
花火がさらに派手に上がる中ー
”意味が分からない”友美は、不安そうに春雄に声を掛けるー。
「ー僕なんかに構わずに、彼氏と花火を見てればいいじゃないか!」
春雄のそんな言葉に、友美は「えっ………」と、混乱した様子で、
悲しそうな表情を浮かべるー。
「ーーーーはいはいはいはい、ほらほら、喧嘩はよくないぜ」
今後は、レジャーシートで横たわっていた金髪の男も含めて、
4人組が全員近付いてくると、
友美は怯えた様子でキョロキョロと周囲を見渡すー。
「ーーこの彼氏、酷いよな。お前の眼鏡を急に叩き割って」
金髪の男ー…友美に憑依していた和志(かずし)がそう言い放つとー、
友美は「え…」と、怯えた表情のまま、春雄を見つめるー。
「ーー…え… ぼ、僕がー?ち、ちがっ!友美が自分でー!」
春雄もだんだん訳が分からなくなって、そんな言葉を叫ぶとー、
「ーーーはははは…お前さぁ、バカだろ」
と、金髪の男ー、和志が笑いながら春雄を見つめたー。
そしてーーー
その場で、突然、友美にキスをすると、
友美は訳が分からないまま、再び憑依されてしまい、意識を完全に支配されてしまうー。
その場に倒れ込む金髪の男・和志ー。
春雄が困惑していると、友美は再び笑みを浮かべたー。
「ーー憑依」
友美の言葉に、春雄は表情を歪めるー。
「ーお前の彼女の身体を乗っ取って、こうして意のままに操ることができるんだー」
友美が笑いながらそう言い放つー。
「ーさっきー…急にこの女の様子がおかしくなっただろー?
あれの”種明かし”だー」
男口調で話す友美ー。
「ーー!」
倒れ込んだ金髪の男・和志を見つめながら、
春雄もようやくその言葉の意味を理解し始めるー。
「ーーま…まさかー」
春雄が言うと、
友美は「ピンポーン!彼女は信じてあげなきゃ、ダメだろ?」と
笑いながら自分の身体を触るー。
「ーそれなのにお前は、この女に裏切られたと思い込んで
罵声を浴びせちゃったなぁー
今頃、この女も傷ついてるだろうなぁ」
友美がニヤニヤと自分の心臓のあたりを指でつつくと、
茶髪の男・勝が笑みを浮かべるー。
「ー俺と、友美ちゃんは”今”初対面だよー。
ククー。 彼女に裏切られたと思って絶望するお前のツラ、最高だったぜ」
勝はそう言いながら、種明かしを終えて、春雄をあざ笑うー。
”どうしてわざわざそれを打ち明けるのか”
それも分からないまま、春雄が表情を歪めていると、
「ククー、憑依って最高だろー?心にもないことをやらせることが
できちゃうんだからー」と、友美は笑いながら言い放ったー
「あ~すみませんね~ こいつ、酔いつぶれちゃって」
「大丈夫ですから、ご心配なく~」
ピアスの男と、赤髪の男が”友美に憑依して抜け殻になった金髪の男”を
レジャーシートの方に運びながら、周囲には”酔いつぶれた”と説明しているー。
そんな光景を見ながら、春雄は叫ぶー
「と、と、友美を返せ!」
とー。
友美は笑いながら、春雄の前で両胸を揉むと、
「ーーうふふふふー 何でも、させることができちゃう♡」と、
嬉しそうに笑うー。
「ーや…や、やめろ!!!」
叫ぶ春雄ー。
花火のほうをチラッと見ながら、
友美は「ー花火会場で、男とヤリまくることもできちゃうしー、
この場でーーー」と、笑みを浮かべながら
勝からナイフを受け取ると、
「自分の首を切ることもできちゃう!」と、嬉しそうに笑うー。
「ーー…や、や、やめろ…!やめろってば!」
必死に叫ぶ春雄ー
憑依なんて現実にあるとは思えないー。
しかし、目の前で起きている恐ろしい出来事は
それが現実に起きるのだと実感せざるを得ないー。
「ははははー冗談だよ
こんな可愛い子を死なせるなんてもったいないことはしないし、
男とヤリまくったら、この女が社会的に死ぬだろ?」
と、自分を指差しながら笑う友美ー。
「ーーちゃんと、この女は”俺たちのもの”にするから心配すんな」
邪悪な笑みを浮かべる友美ー
「え……」
春雄が呆然としていると、友美はニヤリと笑うー。
「ー今からこの女を”俺たちの女”に作り替えるー。
言わば、カスタマイズだー」
そう言うと、春雄は呆然としながら「な…何をするつもりなんだー!」と、叫ぶー。
すると、茶髪の男・勝がニヤニヤと笑いながら言葉を口にしたー。
「ー落ち込んだ人間とか、病んでる人間ー
ネガティブな状態の人間の方が”染めやすい”んだよー。
だからさっき、一度この女を解放して、お前に罵倒してもらったのさー。」
その言葉に続けて、友美が笑うー。
「ー”わたし”何も分からないまま春雄に”酷い”って言われて
今、すっごく落ち込んじゃってるのー
だからーーー 簡単に染まっちゃうー ふふ」
友美はそう言うと、
笑みを浮かべながら勝のほうを見つめたー
「ーわたしは勝が好きー
わたしは勝が好きー
わたしは勝のことが好きー
わたしは勝が大好きー」
連続する花火の音と交じり合いながら、友美が勝之ほうを見て
うっとりとした表情で呟くー。
なんだか、”恐ろしいこと”が起きるが気がして、
春雄は「やめろおおお!!」と、叫びながら友美の方に向かうー。
しかし、友美は春雄のほうを見ると
「わたしは、あんたが嫌いー」と、鋭い目つきで言葉を口にするー
「わたしは、春雄が嫌いー」
「春雄のことが大っ嫌いー」
「ー嫌い 嫌い 嫌い 嫌いー」
何度も何度も、友美がそう言葉を口にするとー、
最後に友美は春雄を乱暴に押し飛ばしてニヤリと笑ったー。
「ーーククククーこれでカスタマイズは完了だ」
友美のそんな言葉に、春雄は”このままじゃいけないー”と思いながら、
友美に憑依した男を、なんとか追い出そうとするー。
「ーへへ…まぁまぁそう怒るなってー
花火、見たくてここに来たんだろ?
ほら、綺麗な花火が打ちあがってるじゃねぇか」
友美は、普段の友美とはまるで別人のような口調でそう言い放つと、
夏の空に舞い上がる話のほうを指さして、ニヤニヤと笑うー。
「ーふ、ふ、ふざけるな…!と、友美をか、返せ!」
震えながらそう叫ぶ春雄ー。
元々大人しい性格の春雄がー、
人生で一番、怒りを感じている瞬間ー、
と言ってもいいかもしれないー。
「ひゃはははは!」
ピアスの男が笑うー。
「ーーと、ともみをか、かえせー!」
赤髪の男が、茶化すように春雄の言葉を繰り返すー。
「ーへへへ…まぁ、返してやるよー」
友美はそう言うと、ニヤニヤしたまま、突然「うっ…」とうめいて
その場に倒れ込むー。
「ーーーーと、友美ー!」
すぐに春雄が駆け寄るー。
しかしーーー
目を覚ました友美はー…
春雄の手を振り払ったー
「ー触らないで」
友美の言葉に、春雄はビクッとしてしまうー。
そうこうしているうちに、金髪の男…和志が意識を取り戻して
再び近くにやって来るー
「ーーーーえ?わ、わたしー なんでー
なんで、あんたなんかと付き合ってるのー?」
”信じられない”という様子で、春雄を見つめながら友美が言うー。
「ーと、と、友美!し、しっかりー、しっかりして!」
春雄が必死に呼びかけるー。
けれどーーー
「ーーーしっかり? なにが?
意味分かんないー。
ーー何であんたと付き合ってたのか、分かんないけどー
もう、終わりー。
さよなら」
友美は冷たい口調でそれだけ言うと
振り返って、茶髪の男・勝のほうを見て
「あ、まさる~♡」と、嬉しそうに”甘えた声”を出すー。
その光景に強いショックを受ける春雄ー
「ーーーねぇねぇ勝!わたし、ずっと勝のことが好きだったの!
わたしと付き合って!」
嬉しそうにそう言い放つ友美ー
「ーへへへへへー」
勝はニヤッと春雄のほうを一瞬見ると、
「喜んでー」と、”友美の告白”を受け入れて
春雄の目の前で”友美の新しい彼氏”となったー。
勝に抱き寄せられて嬉しそうに微笑む友美ー。
「ーーーと、友美ー…
そ、そいつらに!そいつらに憑依されて、友美は!」
春雄は必死に、”憑依されて何かされた”と、説明するー。
しかし、勝も、憑依していた和志も笑いながら、
春雄のほうを見つめるだけー。
「ーーー”本人”がこうしたいって言ってるんだぜ?」
和志がニヤリと笑うー。
目の前で勝と友美がキスを始めるー。
さっきも見せられた絶望の光景ー。
春雄は泣き叫びながら、勝の方に突進しようとするー。
がーーー
「ーおいおいおいおい!乱暴はやめようぜ!」
ピアスの男が、春雄の手を掴むー。
「ーーくそっ!離せ!離せ!!友美を返せ!」
叫ぶ春雄ー。
そんな春雄をあざ笑うかのように、
勝と友美は手をつなぎながら微笑んでいるー。
「ーへへへ…こんな奴放っておいて、行こうぜ」
勝がそう言うと、友美は「うん!」と、嬉しそうに笑うー。
「ーーー…友美!」
叫ぶ春雄ー。
振り返った友美は、冷たい目を春雄に向けて
「ーーいつまでもしつこいー。 あんたなんて、大っ嫌い」と、
恐ろしく敵意に満ち溢れた声で言い放ったー。
「ーーへへへへーあんな奴放っておけって」
勝がそう言うと、友美はにこっと微笑んで、勝を見つめるー
そして、そのまま歩き出すーーー
なおも叫ぶ春雄ー。
そんな春雄を見て、友美に憑依して、友美の思考を書き換えた和志は
ニヤニヤしながら言葉を口にしたー。
「ーそいつ、一人じゃ寂しいってよ。
内田(うちだ)、お前が一緒にデートしてやれ」
和志の言葉に、赤髪の男は「はいよ」と、笑うと、
そのまま春雄の手を握り、まるで恋人のように手をつないだー。
「ーへへへ…悪いな
友美ちゃんの代わりに俺がデートに付き合ってやるよ」
揶揄うような口調の赤髪の男・内田。
手をがっちりと握られて、春雄はもがくもー、
和志とピアスの男も立ち去りー、
友美の姿も人ごみの中に紛れて消えてしまったー
「ーなんでこんなひどいことするんだ!!!
おい!!!やめろってば!!」
春雄が必死に友美たちが立ち去った方向に向かって叫ぶーーー
がーーー
「ーはるお~ きれいだね♡」
赤髪の男・内田が、春雄の手を握りながら花火のほうを見つめて、
揶揄うような言葉を口にするー。
「ーーーーーーーー…」
絶望の表情で、花火を見つめる春雄ー。
友美の穏やかな笑顔が、浮かんでくるー。
消えてしまった、その笑顔ー。
春雄は、夏の夜空を見上げながら
いつまでもいつまでも涙を流し続けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夏休み明けーーー
学校にやってきた友美は
金髪になっていて、まるでギャルのようになっていたーーー
まるでーーー
”この女は俺たちのものだー”と、
春雄に見せつけるかのようにーーー
「ーーーー邪魔」
廊下で友美にそう声を掛けられた春雄は、
もう、何も言い返すことができなかったー…。
”僕に、彼女なんてできるわけがなかったんだー”
現実を受け入れられない春雄は、
いつしかそう思うようになったー。
あの笑顔はー、
あの幸せな日々は、
きっと全部、幻だったのだとー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ダーク一直線な憑依モノでした~!
花火大会にお出かけする際は
憑依に注意(?)デス~!
お読み下さりありがとうございました~!
コメント