生まれつき、他人に変身する能力を持っていた彼は、
母親から”化け物”と罵倒された挙句、捨てられたー。
それ以降、変身能力だけを武器に、
生き抜いてきたー。
そんな彼の前に”母親”を名乗る人物が姿を現しー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーか、母さんー…?」
ポニーテールの美少女の姿のまま、将司がそう言うと、
「そうよー…久しぶり」と、
笑みを浮かべる母親ー。
茶色がかった髪は少し痛みー、
その表情はやつれているー。
夜の商売でもしているのだろうかー、
少し派手な服装だが、
髪にも表情にも、疲れの色が強く出ているー。
「ーーー…本当に、母さんなのか?」
可愛らしい声のまま、将司がそう言うと、
母親は「”まさし”って名前を知ってるのは、世の中にわたしだけでしょ?」と、
言葉を口にするー。
確かに、そうかもしれないー。
この母親は、将司のことを隠れて育てた挙句、
最後には、捨てたー。
父親は、若い頃遊びまくっていた母親は”誰が父親”なのかも分からないぐらいに
男と関係を持っていたー。
実の父が誰なのか分からないし、父親は、将司のことを
そもそも知らない可能性が高いー
「ーーそれで、何の用ー?」
まるで”不機嫌な彼女”のような雰囲気で、美少女の姿のまま
将司が言うと、
「お金に困ってるんでしょー?いい仕事があるの」と、
母親は言葉を口にしたー。
「ーーーーいい仕事?」
将司が不愉快そうに声を発するー。
「えぇ。子供が困ってたら、助けるのは
母親として当然の務めでしょ?
少し前にネットで
”身に覚えがないのに、ホテルで男と寝てたことにされてる!”
って騒いでた子がいてー、
そう言う情報を辿って、あなたにたどり着いたのー」
母親の言葉に、美少女の姿の将司は「あぁ…そうー」と、頷くー。
恐らく、”将司に勝手に姿を使われた子”が、
彼氏か何かとトラブルになって、ネットに書き込んだのだろうー。
普通の人は何とも思わないだろうけれどー
将司の能力を知る母が、”将司の仕業ではないか”と
考えるのは別に不思議なことではない。
「ーーあなたに損はさせないー」
正直、”怪しい”と思ったー。
だが、将司は”母”のことが嫌いではなかったー
いつか、会いたいとも思っていたー。
憎いけど、嫌いにはなれないー
こんな奴でも、母親なのだからー。
そう思いながら、将司は頷くと、
そのまま母親についていくー。
母親に連れられてきたのは、とある雑居ビルの中に
入っている事務所だったー。
”紫炎工業(しえんこうぎょう)”
そう書かれている事務所の中に入った
母親と将司ー。
将司は、”念のため”
自分の姿を明かさず、先ほど変身した
美少女の姿のまま、周囲を見渡すー。
当然、母親とも、紫炎工業の人間とも
”5秒以上目を向けないように”
気を付けつつー、だ。
5秒以上相手を見続ければ、将司の意思とは関係なく
その相手に変身してしまう。
「ーーそいつが、お前の息子か?」
少し派手なスーツを着た男がそう呟くー。
「ーはい。そうです」
母親がそう言うと、
「ほら、挨拶して」と、将司に言葉をかけたー。
「ーーーー将司ですー」
将司は短く、それだけ自己紹介するー。
そもそも、苗字は自分でも知らないー。
「ーーははは、君が化けもー…いや、将司くんかー。
君のことはこの女ーいや、母親から聞いているよー。」
失言を隠そうともしないー
いや、あるいはただのバカなのだろうか。
”化け物”だとか”この女”だとか、そんな言葉が
見え隠れするー。
「俺は、紫炎工業の火村(ひむら)だー。
歓迎するよ」
この会社の社長だという火村は
そう言いながら、握手を求めて来たー。
手を握り返す将司ー。
「いやぁ、しかしすごいもんだー
その姿も他人の姿なのだろう?
本当に女にしか見えないしー
何なら抱きたいぐらいだー。
…いや、失礼。
君の母親にはいつもお世話になっていてねー
生活にも困っているようだから
こうして今日、ここに来てもらったんだー」
火村社長の言葉に、将司は「失礼ですが、ここは何の会社ですか?」と、
聞き返すー。
「ーあ?」
火村社長の表情から笑顔が消えるー。
明らかにヤバいやつだー。
「ーーーーーこら!将司」
母親の言葉に、
「ーちゃんと教育しとけよ、バカ女が」
と、火村社長は言うと、
「ーーいや、失礼。」と、将司のほうを見つめながら
「ちょっとした、ビジネスをね」
と、言葉を口にするー。
「ー返事になっていない」
将司がそう言うと、火村社長は舌打ちしてから、
美少女姿の将司のポニーテールをぎゅっと引っ張ったー
「いっ!?」
痛みをかんじながら、将司が火村社長を睨むー。
「ーいいさいいさ、教えてやるよ
うちは金貸しさー。
金を貸して、儲けてるー
でも、お前の母親、このクソ女は
俺たちから金を借りておきながら返せなくてな?
そのまま始末しようと思ってたら
息子がモンスターだって言うじゃねぇか。
だから、こうしてここに連れて来てもらったってわけよ」
火村社長の言葉に、将司は表情を歪めるー
「おいおい、可愛い顔でそんなツラすんなよー。
美少女が台無しだぜ?」
火村社長はそれだけ言うと、
「ー俺たちのために変身能力を使って、働けー。
でなければ、お前の母親は食肉にしちまうぞ?」
と、脅すような口調で言葉を口にしたー。
母親は涙目で「将司ー…ごめんねー」と、言葉を口にするー。
母親は、将司を捨てたあとも遊び歩きー、
やがて、夜の仕事をしながら、ホストに溺れ、借金を作ったー。
何軒も借金を踏み倒していたが
ついに悪運がつき、この紫炎工業に捕まってしまったーー
母は、そう説明したー。
「ーーーーーーわかったよー…働けば、いいんだろ」
将司がそう言うと、
火村社長は「そう!そうだよモンスター!いい返事だ!」と、
嬉しそうに笑ったー。
「ーーーー…僕はモンスターでも化け物でもないー。
人間だー」
将司がそう言うと、
火村社長は「はは、分かった分かった!頑張れよ!人間!」と、
バカにした口調で言葉を口にしたー。
その日からー、将司は”紫炎工業”のために働き始めたー。
可愛い女の姿に変身して、男を騙したりー…
女の姿を使って、借金の回収をさせられたりー、
敵対組織の男を色仕掛けではめて、破滅させたりー、
美少女の姿で、紫炎工業の広告塔にされたりー、
さらにはー…
”何かを運ぶ”仕事までさせられたー。
”見ず知らずの人間の姿なら、おまえの罪にはならない”
と、そう言われてー。
「ーーー…」
鏡で、顔を洗いながら、今日は
美人OLの姿をした将司が、表情を歪めるー。
「ーー僕ー…」
元々、人を騙していたことには変わりはないー。
だがーーー…
それでもー…
ここまで酷いことはしてこなかったつもりだー。
今の自分は、完全な犯罪者ー。
でもー…
”将司、あなたの力が必要なの”
母親は、そう言ったー。
唯一の肉親を守りたいー。
助けたいー。
そんな想いから、将司は紫炎工業の一員として、
働き続けていたー。
そしてーーー
「ー明日は”取引”を行うー。
このアタッシュケースと、相手のアタッシュケースを交換するー。
それだけの、仕事だー。
なに、俺たちも近くで見ているから、心配するなー。
交換が終わったら、すぐに俺たちと合流して、
そのまま撤収すればいい」
その言葉に、将司は”中身は何ですか?”と聞こうと思ったが
聞かなかったー。
取引場所は”動物園の内部”ー。
相手組織が指定してきた場所らしいー。
将司は指示通り、動物園に来るまでに、
他人の姿に変身して、動物園にやってきたー。
今日は、ショートパンツ姿の生足の綺麗な女だー。
どうやら、彼氏と海に行こうとしているようなー
そんな会話が聞こえたー。
まさか、”自分の姿”を勝手に犯罪の取引に
使われるとは夢にも思っていなかっただろうー。
「ーーーー」
相手組織の男がアタッシュケースを手に、姿を現すー。
ショートパンツ姿の女の姿で、将司が近くに歩んでいくー。
そしてー
アタッシュケースの交換を行うー。
がーー
その時だったー。
「ーーー!!!」
動物園内に隠れていた警察官が、複数、一斉に姿を現したー。
”紫炎工業”と、相手組織の取引は、
警察に事前に察知されてしまっていたのだー。
「ーーーしまった!」
慌ててアタッシュケースを放り投げて逃亡する将司ー。
動物園のすぐ外で、待機している
火村社長と母親の乗った車の元まで逃げていくー。
だがー、
警察官たちは動物園の入口付近でも待ち構えていたー。
「ーーーけ、警察がー!」
将司がそう叫びながら車の扉を開けると、
「あん!?」と、火村社長が驚くー。
「チィッ!取引がバレてやがったか!」
火村社長がそう言うと、
将司が車に乗り込む前に、車を発進させようとするー。
「ーーま、待って!」
将司が美少女の姿のままそう叫ぶと、
火村社長は言うー。
「うるせぇ!失敗したならお前はもう用済みだ!
この能無しモンスター野郎!」
火村社長の言葉に、将司は目を見開くー。
「ーか、母さん!」
将司が縋るようにして言うと、
母親は冷たい言葉を口にしたー。
「ー使えない、化け物ねー」
とー。
「ーーー!!!!!」
将司は、その場に座り込んだー。
車に乗り込む気も失せて、
去っていく車を見つめるー。
「ーーーーーー」
”「ー使えない、化け物ねー」”
そんな、母の言葉が何度も何度も脳裏に
響き渡るー。
母が紫炎工業に借金があるー…という話は
本当かどうかは分からないー。
だが、今の態度を見る限り、母と火村社長は
きっかけはどうであったにせよ、”グル”のように思えたー。
最初から、火村社長も母親も、
”将司の変身能力”を悪事に使うためだけに、
声をかけたのだー。
母にとっても、紫炎工業にとっても、
将司は”人間”ではなく”道具”でしかなかったのだー
「ははー…はははー」
そもそも、あの母親は、本当に”将司”の母親なのだろうかー。
母親を名乗る偽物かもしれないー。
もちろん、最初からその可能性も考えていたー。
でも、心のどこかで母との再会を望んでいた将司は、
その考えを心の奥底に封じ、ここまでやってきたー。
警察官が、美少女の姿をした将司の方に向かって
走って来るのが見えるー。
「ーーーーーー
そうさそうさー、僕は化け物さー。
どうせ僕はモンスターさ」
将司はクスクスと笑いながらそう呟くとー…
動物園の入口付近から、少しだけ見える
”ライオン”の展示スペースのほうを見つめたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーくそっ!まさか警察に待ち伏せされてたとはー!
でも、いいのかよ?
お前のガキ、ポイ捨てしちまって」
火村社長が運転しながら言うと、
将司の母は笑みを浮かべながらー、
「もちろんー」と頷くー。
”紫炎工業”に借金をして、捕らわれていたのは本当だー。
だが、将司の母は、いつしか紫炎工業に力を貸すようになり、
火村社長と共に、数々の罪に手を染めて来たー。
将司の母は、昔からそういう女だー。
すぐに人を裏切りー、その時その時、都合の良い相手の側にいるー。
そんな、人間なのだー
「ーーーちょっ…!?」
将司の母が声を上げるー。
火村社長が「あん?」と声を出すと、
車のすぐ背後に”ライオン”が迫っていたー。
「なっ…!?」
ライオンの突進されて、急ハンドルを切った車が、近くのガードレールに激突するー。
「ーチィ…な、なんだー!?何でライオンがここにー!?」
火村社長がそう叫びながら、車のドアを開けて、
隠し持っていた銃を取り出すー。
しかしー、
ライオンは、火村社長に飛び掛かりー、
鋭い牙で火村社長に襲い掛かったー。
「ーぐっ…ぐぎゃああああああああっ!
なんで、なんでライオンがー ひぃっ!?
ぎゃああああ!」
火村社長の断末魔を聞きながら、将司の母親が車から飛び出して逃げ出すー。
だがーーー
ライオンは、将司の母親にあっという間に追いつくとーー
母親のほうを睨みつけたー。
「ーま…ま…まさか…将司なの?」
将司の母親が言うー。
そう、”ライオン”は、
将司がその能力で変身した姿だー。
「ーーーーー」
グルルルル…と、獣の声を出しながら、
母親に迫るライオンの姿をした将司ー。
「ーば…化け物!!!!
化け物!!!!!!!!」
母親が涙目でそう連呼するー。
ライオンの姿をした将司は、
そんな母の姿を見ながら悟ったー。
”偽物だったら、よかったのになー”
とー。
目の前にいる”母”は、やっぱり本物だと、そう確信したー。
紫炎工業などという怪しい団体に手を貸し、
将司を道具のように扱ったこの女は、
やっぱり、本物の母親だったのだー
偽物だったら、どんなに楽だっただろうー。
だってー、この女が、偽物であればー、
”本物の母親”は、”もしかしたら僕のことを気にしているかも”と、
希望を持てたからー。
「ーーー化け物ー!」
母のそんな言葉にー、
ライオンの姿をした将司は、心の中で思ったー
”あぁ、そうさー。
僕は、化け物さー”
そしてー
目から涙を流しながら、その牙で母親を噛み砕いたー。
この母親は、ここで放置すれば、また”悪さ”をするー。
この人は、そういう人なのだー。
”親を止めるのは、子の務めー”
だと、そう思いながらー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
半月後ー。
動物園の前でライオンに変身するところを見られた将司はー、
”変身能力”を駆使して、身を隠していたー。
世間はそんな将司のことを”化け物”と呼んでいるー。
けれどー
「ー化け物と言われようと、僕はこの力を使うのをやめないー。
僕は、生きるために変身するんだー。
今までも、今日も、そしてこれからもー」
”僕は、これからも生きるために変身し続けるー
最後の時が訪れる、その瞬間までー”
OLの姿に変身している将司は、そんなことを考えながら
少しだけ笑みを浮かべるとー、
「生き抜いてやるさー。
化け物にだって、命はあるんだー」
と、そう呟いて、
そのまま夜の闇に姿を消したー。
おわり
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コメント
過酷な人生を生きる変身能力を持つ少年の物語でした~!☆
誰か、救いの手を差し伸べる人間が現れれば
彼の人生も大きく変わるのかもしれませんネ~!
お読み下さりありがとうございました~~!!
コメント
その力を困っているを助ける為にも使ってほしいな
コメントありがとうございます~!☆
人助けに使うのも良さそうですネ~!
ただ、この主人公の場合はそこまで心に余裕がないのかもデス~~!