小さい頃から”変身能力”を持っていた彼は、
今日も”生きる”ためにその力を使っていたー。
そうすることでしか、生きていくことができないからー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー」
将司(まさし)は、ため息をついたー。
今さっき”貰った”お金を見つめながら、
はぁ、はぁ、と荒い息をすると、
将司は、それをポケットの中にぐしゃぐしゃにして
しまい込んだー。
彼はまだ、高校生ぐらいの年齢だー。
だが、学校には通っていないー。
親もいないー。
それどころか、住む家もないー。
そもそも”名前”も分からないー。
”将司”と名乗ってはいるものの、
それが正しい名前なのかも分からない。
小さい頃”まさし”と呼ばれていたような、
そんな気がするー。
それだけの理由で”将司”と名乗っているー。
漢字も当然知らない。
だから、適当に覚えた漢字で”将司”と名乗っている。
最も…
この名前を使うような機会はほとんどないのだけれど。
「ーーー…ーーー」
将司は街並みを歩く人々を見つめるー。
そしてー、
彼氏と歩いている女子大生らしき人物を見つけると
その相手をじっと見つめるー。
見つめること、5秒ぐらいだろうか。
将司の姿が、彼氏と歩いていた女子大生の姿に変わり、
服装も、その子の姿へと変わるー。
「ーーーーーー」
髪と胸を触ったあとに、ネイルが施された綺麗な指を見つめるー。
変身に成功したことを確信すると、将司は
女子大生の姿で「この姿、借りるよ」と、静かに呟くー。
当然、声も将司の声ではなく
その女子大生の声に変わっていて、
第3者から見れば、女子大生の姿に変身した将司のことを
将司であると認識することは困難だろう。
彼は、変身能力を持っていた。
その名の通り、”他人に変身することができる”力だ。
どうして、そんな力を持っているのかは分からない。
しかし、人間の中には”生まれつき”、
他の人とは違う部分を持ち、生まれて来る人間もいるー。
身体が不自由だったりする場合もあるが、
彼の場合はこの”変身能力”を持っていたー。
”同じ相手を5秒以上見つめると”
その姿に変身してしまう、という能力だー。
いや、”体質”と言っても良いのかもしれない。
そして、意識を失うと元の力に戻るー。
そんな、力だ。
「ーーねぇねぇ…わたしと遊ばない?」
街中で、彼氏とデート中だった女の姿を使い、
男を誘惑する将司ー。
全ては”金”を稼ぐためー。
彼には、こうせざるを得ない”事情”があったー。
将司の”母親”は、酷い親だったー。
母親は、高校生の頃から荒れた生活を送り、
夜には遊び歩いているような人物で、
好き放題遊びまくった挙句に、妊娠してしまいー、
どうすれば良いのか分からないまま、
将司を出産したー。
そもそも、”父親”は誰なのかも分からないー。
不特定多数の男と遊びまくっていた母親にとって
”心当たり”が多すぎて、将司の親が誰だか、分からないのだー。
しかも、母親は将司を”隠れて”育てたー。
”何の公的な手続き”も行われなかったため、
将司はこの世の中においては”存在”しないことになっているー。
子供が生まれた時の手続きが、何もなされていないからだー。
さらにー…
生まれ持った”変身”能力のことを知った母親は
将司のことを”化け物!”と、罵倒したー。
当時、遊び歩いていた母親が、アジトにしていた
廃墟のような場所に置き去りにされた将司は、
まだ、言葉もハッキリと喋ることができないような年齢から、
一人で必死に、必死に生き抜いてきたのだー。
高校生ぐらいの年齢まで生き抜いてこれたのは、
変身能力のおかげと、奇跡と言っても良い。
けれどー…
将司は”存在しない”人間ー。
ちゃんとした住所も存在しない。
学歴も、ない。
そのため、当然、将司を働かせてくれるようなところはないー。
だからーー…
「ーーふふふふ…♡ 今日はたっぷりわたしと遊ぼうね?」
こうして”女”を武器に、身体で金を稼いでいるー。
将司自身が、こんなことをしたって、金になりはしないー。
しかし、”美人”に変身して、男を誘惑すれば、
金になるー。
”他人の姿”で勝手にこんなことをするのは、
悪いことだということは分かっているー。
でも、将司にはどうすることもできない。
こうすることでしか、生きていくことができないのだからー。
「ーーーはぁ…♡ はぁ…♡ はぁ…♡」
男と散々、お楽しみをしたあとに、幸せそうに微笑む将司ー。
その姿は、とても妖艶でイヤらしさを溢れさせていたー。
将司が変身した”カップルらしき女子大生”本人は
今頃、”自分”の姿がこんなことに使われているなんて
夢にも思っていないだろうー。
過去には”将司のせいで”トラブルになったこともあるー。
しかし、それでも将司はこうして金を稼ぐしか
方法はなかったー。
相手の男を”凝視”しないように、視線を度々
動かしながら、相手からお金を受け取る将司ー。
”およそ5秒”ぐらい相手を見つめ続けると、
この場で相手に変身してしまうー。
そのため将司は
”相手と目を合わせずに”話すのが癖になっていたー。
もちろん、それだと相手に視線を逸らしているように
受け止められてしまい、トラブルになる可能性もあるため、
2秒視線を合わして、1秒逸らして、という
”自分なりのやり方”を身に着けてはいる。
”睡眠”も含めて、意識を失うと元の姿に戻ってしまうため、
男とホテルに足を運んだ際などには
”相手のことを見続けてしまわないようにすること”と、
”寝たり、意識を失うようなことのないようにすること”に、
注意しているー。
「ーーーなぁ、どうしても帰るのか?
3倍払うから、明日の朝までー」
相手の男が、ニヤニヤしながらそんな言葉を口にするー
”3倍のお金を貰うことができる”
それは確かに好都合だー。
しかしー
「ご、ごめんねー。わたし、この後も予定があって」
女の姿で、将司がそう呟くと、
男は「残念」と、言いながらも、それ以上は
何も言ってこなかったー。
どうしてもごねる相手とは
”次回もまた会う”と約束したり、色々な方法で
その場を乗り切っているー。
”変身”が解除されてしまったら大惨事になるー。
それ故に、朝までずっと、というわけには
行かないのだー。
「ーーふ~~~」
女子大生の姿で、将司が隠れ家にしている廃墟地帯に戻ってくると
将司は受け取ったお金を数えながら、笑みを浮かべたー
「それにしても可愛いなぁ…この”声”」
”今の自分”の声に少しドキドキしながらそんな言葉を口にすると、
将司は、廃墟地帯の一角に向かうー。
そこには”まるで自分の部屋”のような空間が広がっていたー。
ここは、何年も前に閉鎖された
”病院”の跡地だー。
心霊的な噂が広がっていて、行政的にも手つかずに放置されている
この場所に、将司は住みつき、生活しているー。
過去には”妻が家出して途方に暮れていた夫”の、妻に変身して
その家に妻のフリをして居候をしたりー、
美少女になって、男の家に泊めてもらったりしていたことも
あったが、今はこうして、廃墟地帯に住み着いているー。
過酷な世界を生き抜いてきた将司からすれば
一番怖いのは”人間”だー。
オバケではないー。
「ーーさて」
女子大生の姿のまま、将司は廃墟の中に保管していた
メイド服姿に着替えると、”自撮り”を始めるー。
”他人の姿”で勝手に自撮りをネットに流すのは
気が引けるがー、これも”生きる”ためー。
可愛い身体の自撮りは、金になるのだー。
「ーーこれでよし、とー」
メイド服姿で写真を撮り終えると、
”女子大生が元々着ていた服”を見つめるー。
変身する際には”相手が身に着けている服”も、
そのまま一緒に”得る”ことができるー。
がーー
プスッ…
”一瞬だけ意識を失うー”
特殊な注射器で、数秒、意識を失うと
将司は元の姿に戻るー。
それと同時に”変身”した時に得た服は消滅するー。
変身対象の服は”変身を解除する”と、消えるー。
そのため、ずっと使い続けたり、
そのまま服を自分のモノにすることは、できないー。
「ーーふぅ」
元の姿に戻った将司ー。
将司は”自分の姿”自体のことは別に嫌いじゃない。
でも、身分も何も持たない彼には、
こうするしか、生きていく方法はないー。
今日も罪悪感を感じながら
生きるための”変身”を終えると、
帰りにコンビニで買ってきた弁当を口に運びながら、
「ん~~~…うまい」と、笑顔を浮かべたー。
小さい頃は、雑草だって食べたし、
雨水だって飲んだー。
だから、将司は何でもおいしく感じるー。
弁当はごちそうだし、
どんなに安い冷凍食品だって、彼にとってはごちそうだー。
今日も、誰かの姿を無断で使って
誰かを騙して金を稼いだー。
「ーー僕は、こうするしか生きていく道はないんだー」
こうして生き抜いた先に、
何があるのかー。
それは将司自身にも分からないー。
いつかー…
”勝手に他人の姿を使って金を稼ぐ”ー
そんな日々に終わりが訪れるかもしれないー。
だが、その日までー、
将司は死ぬつもりはない。
奇跡なんて、信じない。
だからこそー、将司は”死後の世界”なんて
信じていない。
死ねば、全てが終わる。
だからこそ、泥水を飲んででも、
地べたを這いつくばってでも、1秒でも長く生きるのだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
将司は”いつものように”
通行人を物色していたー
できるだけ可愛い子ー、
あるいは美人を見つけて変身するー。
別に将司自身は”女になりたい”という願望もなくー、
以前はイケメンに変身して金を稼いだこともあったが、
何度も何度も変身して金を稼いでいるうちに
”短時間のうちに見た目で金で稼ぐ”なら、イケメンより女の方が効率が良いことに、
将司は気づいた。
もっと”悪用”すれば、
金を稼ぐ方法はいくらでもあるのだがー、
少なくとも将司は”変身した姿で法律を犯す”つもりはなかったー。
例えば、将司が大悪党なら、
大企業の社長にでも変身して、お金を持ちだすことだって
やろうと思えばできてしまうかもしれないー。
だが、それは完全に犯罪だー。
小さい頃、母親から”化け物”と言われたことを覚えているー。
例え、この能力が化け物であっても、心までは化け物になりたくないー。
「ーーーよし」
可愛らしいポニーテールの子を見つけると、
将司はその姿に変身するー。
「ーー」
ポニーテールがふわりと揺れー、
”変身”が成功したことを実感すると、
将司は、ポニーテールの美少女の姿で街を歩き始めるー。
だがー
その時だったー。
「ーーいたいた」
背後から女の声がしたー。
「ー!」
美少女の姿のまま、将司が振り返るとー、
そこには、見知らぬ女性の姿があったー。
これまでにも”変身した相手”の知り合いと
偶然遭遇してしまったことは
何度かあったー。
だから、その対処にもある程度は慣れているー
「ーーーあ、こんなところで会うなんて、偶然~!」
美少女のフリをしながら、将司が言うと、
相手の女は「そういうのいいから」と、笑うー。
それなりに歳を重ねた中年の女ー。
何だか、あまり”良い感じ”はしないー。
その女が、少し間を置いてから、
笑みを浮かべて、こう呟いたー
「ーー久しぶりー」
とー。
「ーーーえ…?えっとー」
美少女の姿のまま、将司がそう呟くと、
相手の女は笑みを浮かべたー。
「ーー将司でしょ?
わたしよー。 お母さん」
そんな言葉に、
将司は驚きの表情を浮かべると同時に、
”自分を化け物と言い放ち、自分を捨てた母親”との再会に、
憎しみのような不思議な感情を抱くのだったー
②へ続く
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コメント
人生のどん底にいる彼が、
変身能力を使って何とか生き永らえているお話…★!
母親と再会…!
どうなってしまうのかは、また明日のお楽しみデス~!!
今日もありがとうございました~~!
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