”朝が大の苦手な彼女”のために、
彼は今日も、
”モーニング憑依”を行っていたー。
朝、彼女を起こすための憑依の物語ー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
スマホのアラーム音が鳴り響き、目を覚ました
男子大学生ー。
スマホを手に、時計を確認すると、
「よし」と、呟いてから、スマホを近くの机の上に置くー。
少しひと息をつくと、
彼は”毎朝の日課”を始めたー。
イスに座ると、突然ガクッと、うなだれる男子大学生ー
別に”2度寝”することが日課なわけではないー。
彼はー…
とある目的のために”幽体離脱”をしたのだー。
池岡 誠吾(いけおか せいご)はー、
小さい頃に、インフルエンザで高熱を出した際に
”死にかけた”ー。
あまりの高熱に病院に緊急入院し、
その時、誠吾は”自分の身体から抜け出して”しまったことを
ハッキリと覚えているー。
そう、文字通り死にかけたのだー。
だが、彼は慌てて自分の身体の方に向かって
必死に自分の霊体を動かしー、
自分の身体に戻ったことでー
なんとか一命を取り留めたー。
それ以前の記憶は、小さい頃の出来事だったから
あまりハッキリはしないー。
がー…
不思議なことに、それ以降”幽体離脱”がいつでも
できるようになってしまったのだー。
死にかけたことによる後遺症ー…なのかもしれない。
そんな中で、彼は気づいたー。
幽体離脱した状態で、他人の身体に触れると、
”憑依”できることにー。
そして今ー、
彼は小さい頃に目覚めた”幽体離脱”の力で
自分の身体から抜け出しー、
”毎朝の日課”である憑依を行おうとしていたー。
「ーーーー」
誠吾の霊体が同じ大学に通う女子大生・川口 香奈(かわぐち かな)の家に
やってくると、そのまま家の中に侵入して、
香奈の寝顔を見つめたー。
「さて…と」
誠吾は、毎朝、加奈に憑依しているー。
昨日も、おとといも、その前の日も、だー。
「ーーうっ」
寝ていた香奈が、ビクンと震えて目を開くー。
「ーーー…っっ…」
誠吾に憑依された加奈が、ふらふらと頭を押さえながら
起き上がると、
「強引に身体を起こしてるからか、結構、ふわふわするんだよなー」と、
苦笑いしながら、ベッドに座りながら、少し休みつつー、
周囲を見渡すー。
”普通に起きる”のと”憑依されて起きる”のでは、
身体の反応が違うー。
”憑依”されて目を覚ますのはー、
いわば”強引に身体を起こしている”状態でー、
目覚まし時計などに叩き起こされるよりも
さらに、目覚めの感覚は悪いー。
だが、それでも誠吾は、こうして毎日、彼女である香奈に憑依しているー。
その、理由はーーー
「ーーー」
胸の方に視線を落とす香奈ー
そしてー、手を動かし始める香奈ー
がーー…
胸のほうを見たのはただ単に、足元を見ただけでー、
手も、胸を揉んだりはせずに、寝ている間に乱れた髪を
簡単に整えるために動かしただけだったー。
「ーーよしー…」
香奈はそう呟くと、よろよろと立ち上がって
そのまま洗面台に向かうー。
洗面台で何度も何度も顔を水でぬらすと、
「これで今日も大丈夫だろ」と、香奈は鏡を見つめながら笑うー。
”ーあぁ…やっぱ可愛いなぁ”
そんなことを思いながらも、鏡にキスをしたりはせずに、
香奈はそのまま自分の部屋に方に戻るー。
部屋に戻ると、しばらく腕を振ったりー、
軽いストレッチのような仕草を繰り返してからー、
イスに座って、ため息をついたー。
誠吾は、もう、香奈から出ていくつもりだー。
香奈に憑依したのに、したここと言えば、
起き上がって、顔を洗って、ストレッチをしただけー。
”何のための憑依”なのかー。
それはー…
「ぁ…」
座っていた香奈がうめき声を上げて、ガクッとその場に
髪をゆらしながらうなだれるー。
そんな様子を霊体に戻った状態で見つめていた誠吾ー。
やがて、香奈が目を開くと、
香奈は少し周囲をキョロキョロしてから、
天井を見上げるー。
「ーおはよ~~!」
香奈からは”見えない”誠吾の霊体に向かって
香奈が手を振るー。
「ーうん!今日もバッチリ!ありがとう!」
香奈からは”誰も見えない”が、
香奈は”誠吾”がいることを知っているー。
誠吾の霊体も、そんな香奈の言葉を聞くと
「どういたしまして」と、呟いたもののー
当然、香奈にはその言葉は届かないー。
誠吾は、香奈がちゃんと起きたことを確認すると、
そのまま自分の霊体を飛ばして、家の方に向かって戻っていくー。
家に戻り、”自分の身体”にまた入り込むと、
「うっ…」と、苦しそうに呻いてから、誠吾は起き上がったー。
すぐにスマホを手にすると
”香奈”から来たメッセージを確認するー
”今日も「モーニング憑依」ありがとう!
おかげで目覚めスッキリ!
またあとで、大学で!”
と、書かれているー。
”どういたしまして”
誠吾が、そうメッセージを送ると、スマホを置いて
「さて、とー。俺も支度するか」と、立ち上がったー。
そう、彼はー
毎朝、”モーニング憑依”を行っているー。
彼女の香奈は”朝”が大の苦手ー。
基本的に真面目な性格なのだが、
朝が苦手すぎて、どうしても大学やバイトに遅刻してしまうことがあるー。
その、朝の苦手ぶりはかなり重症で、
目覚まし時計を10個セットしても全部止めて寝てしまうし、
朝、電話して起こしても電話中に寝てしまって話にならないー。
”どうにかできないかなー”
と、悩む彼女の香奈を見て、
思いついたのが、”自分の憑依能力を使うこと”だったー。
誠吾は、自分が幽体離脱できるようになっていることに気付きー、
他人に憑依できることに気付いたあとも、
それを”悪用”するようなことはしなかったー。
人を助けるためだったりー、
一度、中学生の頃に怪しいお姉さんに声を掛けられた際に、
そのお姉さんから逃げるため、憑依能力を使ったことは
あったけれど、それ以外に使うことはなく、
どちらかと言うと”幽体離脱して空を飛んだり”だとか、
そんなことに使うことがほとんだったー。
幽体離脱も1回1時間まで、と自分の中で決めているー。
身体が抜け殻になっている以上、ずっと放置しておくと危険な気がするし、
実家で暮らしていた頃は、親を心配させてしまう可能性も
あったため、だー。
誠吾自身、中学生、高校生になっても不思議とあまり異性に対する
興味というのは沸かず、下心的なものはほぼ”皆無”であったと言ってもよかったー。
今、香奈と付き合っているのも、
どちらかと言うと”話が合う” ”一緒にいて居心地が良い”ということで
異性として見ているというよりかは、別の感情のような気もするー。
そんな、状態ー。
そのため、これまでに憑依能力を欲望のために使うようなことはなく、
”憑依能力を欲しがっている人たち”から見れば、
宝の持ち腐れかのような、そんな使い方を誠吾は
続けていたー。
がー、香奈が”朝が極度に苦手”だと聞き、
誠吾は香奈に自分の”力”を打ち明けた上で、
憑依して香奈の身体を起こすー…
”モーニング憑依”を始めたのだったー。
「ーおはよ~」
大学で香奈が誠吾に声をかけて来るー。
「お!今日もちゃんと起きれたみたいでよかった」
誠吾がそう言うと、香奈は「誠吾のおかげ!いつもありがとう!」と、
笑いながら誠吾に向かって感謝の気持ちを述べたー。
「ーでもまぁ、こんな起こされ方してるの、わたしぐらいだろうなぁ…」
香奈が笑いながら言うと、
誠吾は「はははー確かに」と、頷くー。
「でもさ、前から気になってるんだけどー
俺に憑依されるとか、怖くないの?」
誠吾がそう言うと、香奈は「なんで?」と首を傾げるー
「いや、だってさー、俺に限らず
”他の人に身体を操られてる状態”なんだしさー。
例えば俺がその気になれば、香奈の身体で自殺だって
できちゃうわけだし」
誠吾がそんなことを口にするー。
しかし、香奈は「誠吾だから、大丈夫ー」と、笑うー。
「ー相手が知らない人だったらともかく、
誠吾はそんなことしないでしょ?」
香奈と誠吾はお互いに強い信頼で結ばれているー。
だからこそ、誠吾は香奈に”誰にも話したことのない”憑依の力の
ことを話したし、
香奈は誠吾に”憑依で起こしてもらう”ということを
お願いしているー。
「ま、まぁ、確かにしないけどー」
誠吾がそう言うと、
「そこまで信頼されると、何だか照れくさいな」と、笑うー。
そんな会話をしながら、香奈は「でも、憑依ってすごいよねー
あんなに起きれなかったわたしがすぐに起きれちゃう」と、笑うと、
「ー俺が無理矢理、香奈の身体を起こしているようなもんだしなー」と、
言葉を口にするー。
以前の香奈は本当に”全然”起きなかったー。
大量の目覚まし時計でも、大音量のアラームでも、モーニングコールでも、
何をしても起きなかったり、2度寝してしまったり、
大変だったのだが、今は誠吾が憑依して、香奈の身体で”起きてしまう”ため
そんな心配はなくなったー。
「ーーでも、誠吾、面倒だったりしない?
負担になってたら、無理しないでねー。
毎日毎日、わたしに憑依するの面倒だろうし」
香奈が心配そうにそう言うと、
「いやいや、そんなことないよ」と、誠吾は笑うー。
「ー幽霊みたいな状態になって、空を飛ぶのって、
結構、楽しいんだぜ?」
誠吾がそう言うと、
香奈は「え~…ちょっと、それ、やってみたい」と、笑うー。
「ーはははー…まぁ、何十年か先に死んだあと、きっと体験できるさ」
と、誠吾は苦笑いしながら言うー。
「ーでもさー、そういう力があって
”誰かの人生奪っちゃおう”とかそんなこと、思ったことないの?」
香奈が不思議そうに、改めてそんな疑問を口にすると、
誠吾は、少し考えるような表情を浮かべてから「ないな~」と、呟くー。
「だってさ、自分が奪われる側になったら?を、想像したら
そんなことできないじゃん?
身体を奪われるとか、死ぬようなもんだしー。
今まで、香奈に憑依する前にやった憑依も
知らずにやったのと、後はどうしても人助けとか、
そういう時に使っただけだし、
相手が悪いやつでも、必ず身体は返してるしー」
誠吾がそう言うと、香奈は微笑みながら
「ー”憑依”の力を手に入れたのが誠吾みたいな人でよかった!」と、
安心した様子で言葉を口にするー。
「ーだな。ヤバい奴がこの力を手に入れてたら、ヤバかったー」
誠吾も笑いながら、そんな言葉を口にすると、
「ー明日は土曜日だから、起こさなくていいかな?
それとも起きる?」と、香奈に、いつものように
”モーニング憑依”が必要かどうか、
そんな言葉を口にしたー。
”人の人生を奪うなんてありえないー”
”憑依”の力に目覚めたのが
憑依能力を持ちながらにして、そんな風に考えられる
誠吾だったことは、
確かに、世の中にとっては幸運と言えたのかもしれないー。
この世のどこかには、
”憑依”で他人を滅茶苦茶にすることも厭わない
人間が、いくらでもいるのだからー…。
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”う~ん、今日はちょっと、調子が悪くて”
電話の向こうの香奈が、そんな言葉を口にするー。
「ー大丈夫か?風邪?」
誠吾がそう言うと、香奈は”そうかも。友達も風邪ひいてたし”と、
言葉を口にするー。
「ーそっか。じゃあ、気を付けろよー
で、明日はどうする?」
”明日の朝には、熱も引いてるかもしれないし、
朝起きてから様子を見る感じかなー
ダメそうなら病院行ってくるしー”
香奈がそう言うと、誠吾は「じゃ、朝の憑依は必要ってことだな」と、
笑いながら言うー。
”うんー。いつも本当にありがとう”
「いやいや、問題ないよ。じゃ、また明日ー」
誠吾はそう言うと電話を切ったー。
「ーーさて、とー。
俺が寝坊しちゃったら本末転倒だからなー。
そろそろ寝る準備をするか」
誠吾は、そんな言葉を口にしながら、
明日の朝、彼女を起こすために寝る支度を始めるのだったー。
②へ続く
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コメント
ある日の朝、起きた時に思いついたお話デス~笑
(起きてすぐにお話を思いつく狂気…★笑)
人を起こすための憑依…!
そんな、珍しい憑依がどんな結末を迎えるのか、
ぜひ見届けて下さいネ~!
今日もありがとうございました~~!
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