<入れ替わり>お兄ちゃんの気持ちは分かるけど③~決断~(完)

美少女と入れ替わって、
奇跡のような人生を送り始めた”お兄ちゃん”

しかし、妹から
”前のお兄ちゃんの方が好きだった”と、泣かれてしまいー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーおはよ~~~!」
萌愛(達弘)は、今日も女子高生として
学校に登校して、友達と楽しそうに雑談していたー。

”今は”自分も女子とは言え、
こんな風に女子に囲まれて楽しく話を
することになるなんて、夢にも思わなかったー。

どちらかと言うと、達弘は下心よりも、
今、この状況を純粋に”女子高生”としてー
”可愛い自分”として楽しんでいることに
何よりも喜びを感じていたー。

それほどまでに、”イケメン”とは程遠い自分の容姿が
嫌いだったし、
中学生の頃に、初恋の相手に勇気を振り絞って告白したところ、
鼻で笑われて、
”霧島くんって面白いね”と、言われてしまったのが
酷くトラウマになっていたー

”その顔で告白とか、冗談でしょ?”と、
言われてしまったのだー。

しかもー、相手の女子は普段はとっても優しいタイプの子でー、
男女問わず、人気だった子だー。
少なくとも普段の振る舞いを見る限り、
性格も悪くはなかったー。

本当に”悪気なく”本人はそう言っただけなのかもしれないー。

だが、達弘はそのことで深く傷つき、ショックを受けていたー。

その自分が今はー、
”美少女”なのだー。
この手に入れた幸せを、手放すことは、できないー。

「ーあ、ごめんね~!ちょっと借りてる~!」
友達の女子が座る隣の座席ー…
男子生徒の座席を借りていた萌愛(達弘)が、
その男子が登校してきたことに気付き、
笑いながらそう言葉を口にするー。

戸惑いの表情を浮かべながら
「あ、うん」と恥ずかしそうに呟く男子ー。

大人しい性格の男子生徒からすれば
”萌愛”は可愛すぎてまぶしいのだろうー。

再び、友達と話を始める、萌愛(達弘)ー

だがー
その時だったー

「ーーー!!!」

”「ーーーー…前より、優しくなくなったー
 お兄ちゃんの、好きなところだったのにー」”

ふと、自分の行動を思い起こす萌愛(達弘)ー

今、自分は大人しい男子のイスに勝手に座り、
友達と楽しそうに話をしているー。

以前はー
”逆”の立場だったー。

勝手に女子に座られて、
”いいよ”とも言っていないのに、当たり前のように
”ごめんね~今使ってる”と言われて、
苦笑いしながら「はははー気にせず使ってていいよ」みたいなことを言って、
その場を立ち去るー。

そんな、立場だったことを思い出すー。

達弘自身は、性格は暗くはなかったが、
何となく悪い気がして、”本当は今すぐに、自分の座席に座りたいのに”
我慢したこともよくあったー。

そんな思いをーー
”モテない男子”の、立場を良く知っているはずなのにーーーー。

それなのにーー

”お兄ちゃん、変わっちゃったねー”
そんな、妹・尚美の言葉を思い出すー。

美少女になって、いつの間にか
周りに気配りできる自分を見失っていたー。
そんなことに気付いた萌愛(達弘)は立ち上がるー。

「ーご、ごめんねー。ここ、田代くんの席だもんねー
 座りたいでしょ?はい、どうぞー」

萌愛(達弘)がそう言うと、
田代くん、と呼ばれたその男子は、不安そうな表情を浮かべながらも
「あ、ありがとうー」と、言葉を口にしたー。

「ーーーーー…」
萌愛(達弘)は、気を使わせていたことに申し訳ない気持ちになって、
表情を歪めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーあ、ちょっと待って~!
 はい、いいよ~!」

翌日ー。
ちょうど”萌愛”の誕生日だったらしくー
友達からお祝いされる萌愛(達弘)ー。

達弘自身は元々コミュニケーションは苦手ではなく、
その上、美少女になった、ということもあり、
”萌愛として”の友達もたくさんできたー。

友達からお祝いされて、一緒にスマホで記念撮影する
萌愛(達弘)ー

だがー。
写真を撮っているうちに、”あること”に気付くー。

”どうすれば可愛く見えるのかー”
どんな角度で、どんな表情で写ればいいのかー

撮影の前に、髪をいじりながら、そんなことばっかり考えているー。

”達弘が達弘であったころ”には、
そんなことは考えずー、自然体で写真に写っていたー。

いやー…
写真に写るときだけじゃないー。
日頃から”可愛い”ばかりを意識しているようなー
そんな、気がするー。

”萌愛”になるまでは、そんなこと思わなかったー。

もちろんー
”自分がどう見えているか”を意識しながら
生活するのも悪いことではないし、
個人の自由だー。

だが、少なくとも”達弘”はそんなこと、しなかったー。

妹の尚美は、萌愛になった達弘と一緒にいて、
そんな変化を敏感に感じ取り、
寂しい思いをしているのかもしれないー。

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「ーあ、ごめんー」

「ーーううん、別に大丈夫ー 気にしないで」
萌愛(達弘)は、そんなことを言いながら
”汗臭い太ったクラスメイト”が、机にぶつかってきて、
落してしまった筆箱を拾おうとするー。

別に、わざとぶつかってきたわけではないから、
萌愛(達弘)としても、怒るつもりは全くないー。

だがー。

「ーごめんーはい、これ」
その男子が、筆箱を拾って萌愛(達弘)に手渡してくるー。

「ありがとう」
萌愛(達弘)はそう言いながらも
”無意識のうちに”その男子が触れていた部分を
拭きとっていることに気付いたー。

”汚い”
無意識のうちに、そう思ってしまったのだー。

誰かを汚い、なんて思うことは今までなかったのにー。

そんなことが積み重なりー
妹・尚美の”お兄ちゃん、変わっちゃったー”という言葉の意味を
イヤでも、萌愛(達弘)は実感したー。

イケメンとは程遠い存在から、美少女になってー、
確かに”俺”は変わってしまったのかもしれないー。

誰かをいじめたり、極端に嫌味な性格になったりー、
そういうことはしていないー。

でもー…
妹の尚美からは、目につくぐらいにー、
”大好きなお兄ちゃん”ではなくなってしまったのかもしれないー。

「ーーーーー……」
鏡を見つめる萌愛(達弘)ー

「確かに可愛いけどー…でも…確かに”俺”じゃないかもなー」
萌愛(達弘)は、そう悲しそうに呟くと、
大きくため息をついたー。

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週末ー。

尚美を呼び出した萌愛(達弘)は、
おしゃれもあまりせずに、尚美と会ったー。

「あれ?今日はなんだか地味だねー?」
尚美が苦笑いすると萌愛(達弘)は、言葉を口にしたー。

「ー尚美ー…
 やっぱーー俺、”元に戻る”よー」
萌愛(達弘)が言うー。

「ーーえ?」
尚美が少し驚くと、
萌愛(達弘)は「俺、尚美に言われて気付いたんだー…
俺にとって大切なことは、イケメンになることでも、美少女になることでも
なかったーって」と、言葉を口にするー。

「尚美とか、友達とか…モテなくても側にいてくれる人たちが
 何よりも大切だったのにー。
 そんなことを忘れて、俺ー
 自分がみるみる可愛くなっていくのに酔ってー
 俺じゃなくなってたー」

萌愛(達弘)がそう言うと、
尚美は「お兄ちゃんー」と、複雑そうな表情を浮かべるー。

「ーーでも、お兄ちゃんは”自分”が嫌いだったんでしょー?
 確かにこの前はあんなこと言っちゃったけどー、
 お兄ちゃんの気持ちも、分かるからー」

尚美が申し訳なさそうに言葉を口にするー。

「ーーーいや、尚美ー
 俺は、もう決めたんだー
 やっぱり俺ー、尚美に尊敬されるお兄ちゃんでいたいー。」

萌愛(達弘)がそう言うと、
「ーどんなに美少女だって、どんなに可愛くたって、
 妹にあんな顔させちゃうなんて、お兄ちゃん失格だー」
と、悔しそうに言葉を吐き出すー。

「ーごめんな、尚美ー
 妹を泣かせるような悪いお兄ちゃんでー」
萌愛(達弘)がそう言うと、
尚美は、戸惑いながらも、
「ーーーーやっぱりーー…お兄ちゃんはお兄ちゃんだねー…
 なんだか、安心したー」と、少しだけ嬉しそうに、そう言葉を口にしたー。

「ーーーーでも、無理はしないでねー。
 お互い納得してるんだしー、お兄ちゃんが悪いってことじゃないからー」

尚美はそんな言葉も口にはしてくれたものの、
萌愛(達弘)の決意はもう固まっていたー。

「いや、元に戻るよー。気を遣わせて、ごめんな」

確かに”美少女ライフ”は捨てがたいー。

けれどー、もう、迷わないー。

萌愛(達弘)は、決意を固めて、
達弘(萌愛)に連絡を取ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー無理です」

達弘(萌愛)があっさりと即答したー。

「ーーそ、そこを何とかー」
萌愛(達弘)が、申し訳なさそうにお願いすると、
「ーーあのぉ…自分から”クーリングオフがどうこう”言い出したのは、
 そっちですよねー?
 で、その期限を過ぎたー。
 今更、そんなこと言われても、困るんですけど…」
と、達弘(萌愛)が言うー。

「もう、俺ー…ーーー いや、わたしー…
 いやいや、…もういいかー。
 すっかり”男”として馴染んだんですから、
 今更”わたし”に戻れなんて言われても、困るんですよね」

達弘(萌愛)のそんな言葉に、
萌愛(達弘)は「ご、ごめんー…け、けどー」と、言葉を口にするー。

「ー大体、そんなに”可愛く”なれたのに、何が不満なんですか?
 モテないモテない、っていつも言ってたんですよね?」

達弘(萌愛)にキツイ口調で言われて、
萌愛(達弘)は、しょんぼりとしてしまうー。

「ーーそうやって、約束、破るからモテないんですよ。
 身体は、返しませんからー。
 もう、この話は終わりです。
 それじゃ」

達弘(萌愛)はそれだけ言うと、立ち去って行こうとするー。

”約束破るからモテない”
なんて、きつく言われてしまった萌愛(達弘)は、
その場で膝をついたー。

そしてー、ふと、
”そういえば、何であの子ー、俺がモテないモテない言ってたこと、知ってるんだー?”
と、首を傾げたー。

入れ替わった後に、そう言う話はしたかもしれないが、
そんなにしつこくは言っていないー。

それなのに
”モテないモテないっていつも言っていたんですよね?”というのは、おかしいー。

そう思いつつも、萌愛(達弘)に、もはやできることなどなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

達弘(萌愛)は、帰宅すると笑みを浮かべたー。

”入れ替わったのは偶然”ではないー。
男の身体が欲しかった萌愛は、
ネットで”入れ替わり薬”を手に入れて
”意図的に”達弘を狙って偶然を装い、入れ替わったのだー。

達弘を狙った理由は
”モテない男を狙えば”入れ替わったまま生活しましょう、と提案した時に
受け入れられやすいと思ったからー。

達弘の妹・尚美と同じ高校に通っていた萌愛は、
後輩で、直接接点は少なかったものの、
萌愛が友達と会話している内容や、文化祭の時に遊びに来た兄・達弘との
会話内容を聞いて
”萌愛の兄はモテないといつも嘆いている”ということを把握していたー。

それで、達弘を狙ったのだったー。

「ーーー…何で今更ー」
”元に戻りたい”と、急に言われたことに不満を感じる
達弘(萌愛)ー

「でも、もう、俺はすっかり”男”になれたしー…
 返しませんから」

達弘(萌愛)は、”俺”と言うのにも、すっかり慣れた様子で
静かにそう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー身体、返してもらえなかったー」

数日後ー
萌愛(達弘)がそう言うとー、
妹の尚美は苦笑いしながら「そっかー」と、優しく言葉を口にしたー。

「ごめんなー…”お兄ちゃん”に戻れなくてー」
萌愛(達弘)が、申し訳なさそうにそう言うと、
横を歩きながら、尚美は首を横に振ったー。

「ーううんー。お兄ちゃんは、ちゃんとお兄ちゃんに戻ってるよー」
尚美のそんな言葉に、萌愛(達弘)は、少し戸惑うー。

「ーだって、最近また”優しく”なったもんー」
尚美が、嬉しそうにそう言葉を口にするー。

「わたしにも、みんなにもー」

身体は元には戻れなかったけれどー、
”中身”はーー…気持ちの面では”元のお兄ちゃん”に戻ることができたー

あの日、妹の涙を見た萌愛(達弘)は、
身体を返してもらうことはできなかったけれどー、
中身はー、ちゃんと”元にお兄ちゃん”に戻ったのだー。

「ーーーーそっかー」
萌愛(達弘)は、少し安堵した様子で微笑むとー、
「ーこんな兄だけどー、これからも頑張るよ」と、
萌愛の身体で生きていくことを受け入れて、そう、決意の言葉を口にしたー。

おわり

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コメント

元に戻ることはできないエンドでした~!☆

でも、優しさも思い出して、
身体も美少女のままで、妹とも和解できて、
入れ替わった相手も満足してるので、
きっと、ハッピーエンド…☆デス~!

お読み下さりありがとうございました~~!!

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