”脳移植”
余命あとわずかな男は、
部下が持ってきたその話に乗り、
他人の身体で生きていくことを決意するー。
そしてー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー手術は無事に成功しました!ぱちぱちぱち!」
研究主任の姫梨が嬉しそうに笑うー。
零児は、そんな姫梨のほうを見ながら戸惑うー。
この”身体”は、まだ女子大生の年齢なのだと言うー
最初に見た時から”かなり若そうだな”と思っていたものの、
やはり、実際に若かったのだー。
しかしー
”孫娘に自分の脳を移植するなんてー…恐ろしい人だー”
零児は、そんなことを思いながら眼鏡を落ち着かない様子で触るー。
この”姫梨”という子は
おじいちゃんに同意して身体を差し出したのかー
それともー…
もしもー
”おじいちゃん”が強引に孫娘に脳移植をして身体を乗っ取ったのだとしたら
末恐ろしい研究者だー
マッドサイエンティストと言ってもいいだろうー。
そんなことを思いながら、零児は姫梨に案内されて、
”源三郎”が待つ部屋への向かうー。
そしてー、
病室に入ると、髪を揺らしながら
美少女が窓のほうを見つめていたー。
源三郎の移植先の、脳死状態だった”史奈”だー。
「ー髪もちゃ~んと、残して
傷も目立たない最新鋭の脳移植ー
そんなにかからずに退院もできますから、
安心してくださいね~」
姫梨が笑いながら言うー。
「ーー…会長ー」
零児は戸惑いながら声をかけるー。
”中身が会長”だと分かっていてもー、
やっぱり、この見た目だと、戸惑うー。
頭の中で理解はしていても、
感情的な理解が追い付かないー。
そう、表現すれば良いだろうかー。
「ーーおぅ、勝野ー…」
振り返った美少女ー…
史奈は、零児の顔を見ると同時にそう呟いたー
「ー俺、本当に女の子になっちまったー」
史奈になった源三郎が少し寂しそうにそんな言葉を口にするー。
「ーーぐぉっ!?」
零児の背後にいた若い舎弟の一人がそう叫ぶー。
「ーそ、そんな困り果てたような可愛い顔で見つめられると、
俺…俺!」
舎弟が一人でもがき苦しんでいるのを見て、
零児は「騒がしいぞ。外で待ってろ」と、だけ言うと、
そのまま史奈の方に近付いて行ったー。
「会長ー。お加減はどうですか?」
零児がそう言うと、
史奈は「ー体調は問題ないー。ただー」と、
言葉を口にするー
「ただ?」
零児が心配そうに首を傾げるー。
「ーーいやー、まだ、慣れないなー
この声にもー」
史奈が自分の口を指差しながら、
「この声が自分の口から出てるってこと自体ー…慣れるのに
相当時間が掛かりそうだー」と、苦笑いするー
「ー…確かに、それはそうですねー。」
零児はそこまで言うと、
”それでも”と、安心した様子で微笑んだー。
「ーー”紫獄会”は、これでまたー…
会長と共に歩んでいけますねー」
嬉しそうにする零児ー。
「ーーー…こんな小娘になった俺に、誰もついてこないだろう?」
史奈がそう言うと、
零児は「いえ、私たちには会長しかいません」と、
言葉を口にするー。
「ー若い者も含め、全員、会長に一生ついていくと、
今朝も誓い合いました」
零児はそう言うと、穏やかな表情で、
「ー我ら全員、会長のために尽くします」と、
言葉を口にしたー。
「ー勝野ー」
史奈はそれだけ言うと、再び窓の外を見つめたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
定期的な脳の状態の検査を終えると、
「ーー肉体的には問題なく、”脳”もちゃんと定着してますー。
これから、その身体で問題なく生きることができると思いますー」
主任の姫梨はそう言葉を口にしたー。
そしてー、淡々と説明をし始めるー。
「あとは、”女”として生活するためのリハビリとー、
社会復帰ー…
その身体は、女子高生ですから、色々大変なことはあると思いますがー
ご両親からは、手術前に説明した通り”脳移植”の同意を頂いてますのでー、
その身体の両親の元に戻る必要はありませんー。
基本的には自由に生活できますー。」
「ーなるほどー」
史奈はそう言葉を口にすると、
補足するように、姫梨は
「名前も、必要であれば変えていただいて構いませんー
もちろんー、公的な手続きとかは本名でしていただく必要がありますが」と、
真剣に説明したー。
「ーーー分かりました」
史奈は頷くー。
後は”女として生きるためのリハビリ”を終えたら退院、という段階だー。
説明を終えた姫梨は「ふふふふふふふ」と笑うとー
「やっぱ脳移植ってー…たまらないですよねー…!
もうすぐわしのー…いや、失礼ー、わたしの研究が、
実用化できるところまでたどり着くと考えるとー
興奮しちゃうー…!」と、興奮を隠さない様子で言葉を発し始めるー
「ーーーー」
そんな姫梨を前に、史奈は険しい表情を浮かべながら何かを考えるー
「あぁ、自分の研究に興奮して濡れて来ちゃった!」
姫梨が一人、そんなことを叫んでいると、
史奈は「あ、あのー!」と、言葉を口にしたー
「ーはい?」
興奮していた姫梨が顔を赤らめながら史奈のほうを見つめると、
史奈は「お願いが、ありますー」と、真剣な表情で言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その数日後のことだったー
「なに!?会長が!?」
零児が叫ぶー。
舎弟二人に、”紫獄会”の本部のことを任せて
直ちに車で研究施設へと向かうー。
脳移植手術の経過観察とリハビリ中だった史奈ー…
つまり、源三郎が急変したというのだー。
病院に到着すると、
オペをするドクターのような格好をした姫梨が
職員に指示をしていたー
「そこ!安定剤持ってきて!」
「そっちは固定薬の投与!急いで!」
何を言っているのかは分からなかったがー
脳移植関連の薬品の投与をしているのだろうー。
苦しそうに呻く史奈ー。
姫梨の指示は、的確だったー。
かなりテキパキしていて、
”中身”が、かなり長い間生きた男だということも
頷けるようなー、そんな振る舞いに見えるー。
やがて、史奈は零児に気付くと、
「ーここ、薬剤の投与を続けて」と、隣にいた助手に指示をして
そのまま零児の方に近付いて来たー。
「ーーか、会長はー…」
零児が言うと、姫梨は「安定していたはずなのですが、
”強い拒否反応”が出ましたー」と、言葉を口にするー
「拒否反応?」
零児が聞き返すと、姫梨は早口で答えたー。
「ーー”外部から入り込んだもの”に対して
人間の免疫反応が過剰に働いてしまいー、
脳をー…
移植された柴田源三郎さんの脳を身体が
攻撃してしまっているー
そんな状態ですー。
今、それを落ち着かせるための処置を行ってますので」
いつもニコニコしている姫梨だったが、
今日は愛想もなく、かなり早口だったー。
零児はそんな姫梨の様子に、かなり切迫したものを感じ取り、
それ以上は聞かず、姫梨が処置に集中できるように配慮したー。
姫梨は頭を下げると、
そのまま史奈の処置に戻っていきー、
その30分後ー…
”史奈”の状態は安定したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
”あ、勝野さんですか~?
会長さんが意識を取り戻しましたよ~!”
翌日ー
姫梨からそんな連絡が入ったー。
昨日とは違い、いつもの調子の”主任”に戻っていたことに
少し安堵しながら、零児は「会長の容態はどうですか?」と、確認するー
すると姫梨は
”健康状態にはもう問題ありませんしー
拒否反応ももう起きないと思います”と、した上で
”ただー”と、言葉を続けたー
「ただ?」
零児が聞き返すと、
姫梨は”記憶がー”と、言葉を口にしたー。
研究所に駆け付けた零児ー。
史奈のいる部屋に駆け付けると、
零児を見た史奈が少し戸惑ったような表情を浮かべたー
「ーーーー……あ…あのー…」
そんな史奈の言葉に、零児はー
「ー…私のことが、分かりませんかー…?」と、史奈に確認するー
「ーーーー…」
史奈は零児の顔を少し見つめてからー
「ーーは…はい…ごめんなさいー」と、恥ずかしそうに言葉を口にするー。
「ーーー……」
背後で見ていた姫梨が、「勝野さん」と、零児に声をかけると、
別室で史奈の状況を説明したー。
強い拒否反応を抑えることには成功したものの、
”記憶”に障害が起きてしまいー、
今の史奈は記憶喪失の状態にある、とー。
移植前の史奈でもなく、移植後の源三郎でもないー。
今の史奈はそんな状態なのだとー。
「ーーーーそんなー」
困惑する零児ー。
そんな彼を見て、史奈は「実は前日にー」と、言葉を切り出すー。
「前日に、柴田さんから
”もしものことがあったら、俺が死んだときと同じようにー、
解散して、新たな道へ進むんだーと、そう伝えてほしい、と
言われていましたー」
姫梨がそう言うと、
零児は「会長…」と、震えながら呟くー
「もしかしたら、あなたたちの会長さんはー
何か、こうなることを悟っていたのかもしれませんねー」
姫梨がそう言うと、零児はしばらく悲しそうな表情を
浮かべていたものの、
「会長が、”元通り”になる見込みはありますか?」と、
姫梨に確認したー。
姫梨は少し寂しそうにー、けれどもハッキリと答えたー
「残念ながらー…それは難しいかとー」
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー」
零児は寂しそうに、もう一度、会長ー…
史奈の元を訪れるー。
「ーーあ…」
史奈が零児に気付くと、
少しだけ表情を歪めるー。
「ー怖がらせていたらすみません」
零児はため息をつくと、ふぅ、と息を吐き出してから
史奈のほうをまっすぐと見つめたー。
「ーあなたは覚えていないと思いますが
私はー、いいえ、”私たちは”あなたに一生をかけても
返しきれないほどの恩を受けましたー」
零児がそう言うと、史奈は不思議そうに零児を見つめ返したー。
「ーーーーーーーだからこそー
私たちは、あなたに言われたことを、
しっかりとやり遂げようと、そう思いますー。
私も、仲間たちも、”前を向いて進む”ー。
そう、約束します」
零児は、No2である自分と舎弟たちは
”紫獄会”を解散し、それぞれ新たな道へ進む、ということを
記憶を失ってしまった史奈ー…源三郎に対してそう言い放ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
研究施設から去っていく零児ー。
零児は寂しそうに眼鏡をかけ直すと、
姫梨に頭を下げて、そのまま歩き出すー。
寂しそうー
けれども、どこか前向きなそんな零児の表情を見て、
研究所所長の姫梨は少しだけ笑みを浮かべるー。
そしてー
病室にいる史奈の元を訪れると、
姫梨は小さくため息を吐きだしたー
「本当に、良かったんですか?」
とー。
史奈は少しだけ笑うと、
目に涙を浮かべたまま言葉を口にしたー
「ーあぁ、これで、いいんだー」
史奈の言葉に、姫梨は「親心、ですかー」と、
少し笑いながら言葉を口にしたー。
”「お願いが、ありますー」”
あの時ー、
史奈になった源三郎から言われた言葉ー、
それはー
”俺を、記憶喪失になった、ということにしてもらいたいー…”
そんな、言葉だったー
”史奈の容態が急変した”というのは嘘ー。
零児の目の前で行った”緊急処置”はただの”フリ”で、
史奈の容態はずっと安定していたー。
「ーー親心、かー…
まぁ、そうなのかもなー」
源三郎には家族がいないー。
だから、紫獄会の構成員たちが家族のようなものだったのかもしれないー。
「ー俺がいれば、あいつらはいつまでも”紫獄会”に囚われたままだー。
俺がこんな姿ー…女子高生になっても、あいつらは俺の元から
羽ばたくことが出来ないー…
助かる方法を見つけてくれたあいつらには感謝してるー
けどー…
元々”俺が死んだら”あいつらは、自由に生きて欲しいってそう思ってたー。
だから、ちょうどいい機会なんだー」
史奈は寂しそうにそう呟いたー
”記憶喪失”になったフリをしー、
紫獄会を解散させー、零児や他の若い者たちをー、
それぞれの道に進ませたいー。
そう願って、史奈となった源三郎は姫梨に協力をお願いしたのだー。
「ー最初から、そのつもりだったのですか?」
姫梨が笑いながら聞くと、史奈は「いやー」と、首を振ると
「ー勝野がお見舞いに来た時です」と、言葉を口にしたー。
零児が史奈になった源三郎のお見舞いに来た時ー、
零児は言ったー
”いえ、私たちには会長しかいません”
”ー若い者も含め、全員、会長に一生ついていくと、
今朝も誓い合いました”
”ー我ら全員、会長のために尽くします”
とー。
紫獄会に現在所属していたのは
身寄りのないものや、元々は荒れていた若者たちー。
しかし、今はいずれもしっかりと社会に出ていけるぐらいに
”まっとうな”人間になったのだー。
がー、あのままでは
”いつまでも”零児たちは自立できないー。
そう思い、源三郎は”記憶喪失”になったフリをして、
零児たちを前に進ませる決意をしたのだったー。
「なるほどー」
姫梨はそう言うと、史奈は「少しー…寂しさもあるけど」と、
言葉を口にしたー。
「ーーーー」
姫梨はそんな史奈を見つめながらニヤッと笑うとー、
「とか言って、実はただ単に”女子高生ライフ”楽しみたいだけだったり?」と、
冗談めいた口調で言葉を口にしたー
「そ、そ、そ、そんなこと、あるわけーーー!」
史奈は顔を赤くしながらそう言うとー
「ーそれもーー5%ぐらいはあるかも…」と、
笑いながら冗談を返したー。
「ーふふ、若い娘の身体はいいですよ」
姫梨はそれだけ言うと、
「まぁ」と、研究室の窓から、外を見つめながら
言葉を口にしたー
「あなたのところにいた人たちは、
みんなー、ちゃんとやっていけるー。
わたしも、そう思いますよー。
こんな見た目でも、わたし、もう”80年以上”生きてるんですからー」
姫梨が悪戯っぽく笑うと、
史奈は少しため息をついてからー、
「そうだと、いいなー」と、
自分の組織に所属していた者たちの未来に幸がありますようにー、と
そう願いながら少しだけ微笑んだー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
久しぶりの脳移植モノでした~!☆
今回は、バッドエンドにならないような、
スッキリ(?)したタイプの結末にしてみました!
また間は空くと思いますが
脳移植モノはたま~に書くので楽しみにしていて下さいネ~!
ありがとうございました~!
コメント
源三郎さんいい人ですよネ☆
ヤクザでもヤンキーでも筋通ってちゃんとしてる人はいますからネ!
中途半端なヤツが厄介デス!
皆さん健全に社会復帰できるといいですネ(*´・ω・`)b☆
姫梨さん恐ろしいですネ笑
他のパターンの脳移植の話しも楽しみにしてますネ(^o^)
あとリクエストでは無いですが
源三郎が史奈として女子高生ライフ送ってて偶然、社会復帰してる勝野とか零児を見掛けて温かい眼差しで少し見てるのもいいですネ♪♪
姫梨さんは、別の意味で頭のネジが飛んじゃってる
感じですネ~~!
移植先は~…の後日談で書けそうな気がするのデス!