<入れ替わり>姫と影武者①~そっくりな二人~

とある王国の
”姫”と、姫を守る”影武者”が入れ替わってしまったー。

似ているけど違うー。
そんな二人の入れ替わりがもたらす結末は…!?

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クローバー王国ー。
その王国では長年の平和を謳歌していたー。

遠い昔には”魔王”との戦いが繰り広げられー、
激闘の末に、その魔王を打ち倒すことに成功したー

ーなどという伝承が残っているものの、
ここ数百年は”戦乱”とは無縁の平和が続いていてー、
今日も、穏やかな時間が流れていたー。

「ーーーー女王様!女王様!女王様!」
民衆たちが、クローバー王国の現在の統治者である
女王・ユリアのほうを見つめながら、
歓声を上げているー。

民たちに手を振る女王・ユリア。

ユリアはまだ20代ー。
しかし、”先代国王”でもある父親が、
病により早くに世を去ってしまいー、
先代国王の妻は、既にこの世を去っているー。
その子供たちが、
ユリアと妹のセラフィーナ、そしてまだ子供の弟しかいないためー、
必然的に、ユリアが若くてして女王の座に就くことになったー。

当初は、まだ若いユリアを心配する声が、家臣の中にも
あったものの、
王族とは思えないぐらいの優しい性格にー、決断力も併せ持つ彼女は、
遠い昔ー、慈愛に満ちた女王であったと言われる”セレス姫”の再来だと
言われるほどに、民衆の信頼を勝ち得ていたー

「ーー姫様ー」
先代の代から、ユリアに仕えていて、
幼少期には教育係も務めていた男・マティアスがそう声をかけると、
ユリア姫は頷き、今一度民衆に手を振ると、そのまま城の方に引き返していくー。

今日は、城下町の視察を行いー、
民たちと触れ合ったー。

王宮にばかりいて、女王としての仕事ばかりをこなしていると、
どうしても、”浮世離れ”してしまうー。
だからこうして、城下町に顔を出したり、
時には辺境の村まで足を運び、民と直接触れ合うことを
ユリア姫は何よりも大切にしているー。

”女王”という立場は”常識外れ”になりやすいー。
”庶民”とのコミュニケーションを取ることで、
そんな常識外れの立場である自分が、少しでも世間離れしないように、
と、考えてのことだったー。

「ー姫様ー
 お疲れ様でしたー」

側近のマティアスと共に歩いていたユリア姫の前に
”もう一人のユリア姫”ーー
と、表現すれば良いのだろうかー。
ユリア姫そっくりの女が姿を現したー。

「ーーも~…姫様ってばー、 
 一人で歩かれるのは危ないんですからねー」
ユリア姫にそんな言葉をかける女ー。

「ーごめんなさいー。
 でも、街の人たちも”わたしが二人いたら”
 戸惑っちゃうと思うし、
 それにー、街の人たちとは、わたしが直接お話をしたいからー」

ユリア姫が少し申し訳なさそうにそう言うと、

「ーも~…真面目なんですからー」
と、ユリア姫そっくりの女は言葉を口にしたー。

「ーふふー…いつも心配かけてごめんねー。
 エレオノーラ」

ユリア姫がそう言うと、
ユリア姫そっくりの女・エレオノーラは
嬉しそうに微笑みながら
「まぁ、でも、それが姫様のいいところですからね!」
と、言葉を口にしたー。

「ーエレオノーラ、姫様を頼むぞ」
側近のマティアスがそう言葉を口にすると、
エレオノーラは「はいっ!マティアス様!」と、
元気よく返事をして、ユリア姫と共に歩き出すー。

”エレオノーラ”は、
ユリア姫の”影武者”ー。

”影武者”とは、権力者や重要な人物を守るために存在する
”本物そっくりの容姿”の人物のことー。

もしも、ユリア姫が命を狙われた際にはー
”ユリア姫の身代わりとなる”
そんな存在が、エレオノーラだったー。

もちろん、ユリア姫はエレオノーラを捨て駒にするつもりなんてないー。
けれど、エレオノーラは何かあれば、ユリア姫のために
命を捨てる覚悟をずっと、抱いていたー。

「ーもう、あなたと出会ってー2年になるわねー」
ユリア姫が歩きながらそう言うと、
エレオノーラは「この2年間ー、あっという間でしたねー」と、笑うー。

エレオノーラは”盗賊”に襲われていた村の生き残りー。
王宮の騎士団が盗賊を討伐した際にー、
同行していたユリア姫ー、
当時、まだ女王の座についていなかった彼女が、
影で蹲るエレオノーラを発見しー、保護したー。

「ーーあの時から、わたしの命は姫様に捧げると決めているんです」
エレオノーラが言うー。

貧しい村で、貧しい生活を送りー、挙句の果てに盗賊によって
殺されるー
そう思っていた彼女を、ユリアは救い、
そして、保護までしてくれたー。

そんなユリアに恩返しするために、
ちょうど同じ年頃で、何となく雰囲気も似ていた
エレオノーラは、自ら申し出て”ユリアの影武者”となったー。

髪型もメイクも、何もかも、
ユリア姫に似せてー、今では”親しいもの以外”では
見分けがつかないような、そんな状態だー。

”ユリア姫”と”エレオノーラ”が一緒にいれば、
その振る舞いからどっちがどっちだかは分かるー。

だが、別々の場所にいた場合ー、
どっちがどっちだか、見た目だけで判断するのはー
妹のセラフィーナなど、ごく一部の人間にしかできない芸当だったー。

「ーふふ、ありがとうー。
 でも、あまり無理はしすぎないでねー?
 わたしは、あなたにこういうことしてもらうために
 助けたわけじゃないんだしー」

ユリア姫が少し申し訳なさそうに言うと、
エレオノーラは微笑みながら「ーはい!無理はしません!」と、
嬉しそうに答えたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

王宮内の、姫の居住区がある区画に向かって
ユリア姫とエレオノーラが歩いていたその時だったー

「ーーー!?」
ユリア姫が気配を察知して立ち止まるー。

すぐにエレオノーラもそれに気づくー。

忍のような男が、
突然、ユリア姫に向かって天井から落下してきたー

「ーーあなたは!」
”エレオノーラ”が、咄嗟にユリア姫のような振る舞いを
しながら謎の忍に向かって叫ぶー。

これが”影武者”の役割ー。

「ーーユリア姫ー
 お命頂戴するー」

忍がそう言い放ちながら、エレオノーラの方に向かうー。

もちろん、ただでは死ぬ気はないー。
けれど、もしー、
もしも、わたしが死ぬときはー
姫様だけでも助かればー

そう思いつつ、エレオノーラが、”ユリア姫”として
振る舞い、忍のほうをまっすぐ見つめるとー、
「エレオノーラ!危ない!」と、ユリア姫が
エレオノーラを突き飛ばしたー

「ー!?!?」
突き飛ばされたエレオノーラが驚くー。

その行動に、忍は”本物”のほうを見つめるー。
「何だ?本物はそっちだったか」

「ーーあなたは逃げて!」
そう叫ぶユリア姫ー。

エレオノーラは戸惑うー。

「ーだ、ダメですよ!姫様!何のためにわたしがいると思ってるんですか!」
エレオノーラがそう叫ぶと、
「ーわたしはわたしの身代わりにするためにあなたを保護したんじゃないの!」と、
ユリア姫が声を上げるー

「ーーひ、姫様ー」
エレオノーラは困惑しながらも、忍からユリア姫を救おうとするー。

だがー、
その時だったー。

忍ともみ合いの状態になっていたユリア姫が
突き飛ばされて、階段から転落しそうになるー。

「姫様っ!」
慌てて姫の手を掴むエレオノーラ。

しかしー、姫の身体を支え切ることはできずー、
そのまま、姫に引っ張られる形で、
エレオノーラ共々、ユリア姫は階段から転がり落ちてしまったー

「ーーチィッ」
騒ぎが大きくなり始めー、
暗殺に失敗した忍は、舌打ちしながらそのまま姿を消したー。

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「ー失敗した?」

派手な装飾のドレスに、派手な扇子を手にした女ー
ユリア姫の妹であるセラフィーナが不機嫌そうに言葉を口にした。

「はっ…申し訳ございません」
先程の忍がそう呟くと、
「ーーこの役立たず!」と、激しく罵りながら
セラフィーナは扇子をがりがりと齧り始めたー

「お姉さまがいる限りーーー…
 わたしが女王になることはできないー」

悔しそうにそう呟くセラフィーナ。

「ーわたしの方が優れているのにー、
 先に生まれていたというだけで女王になるなんてー
 不公平ですわ…」

ガリガリと扇子をかじり、怒りを露わにした
セラフィーナは、配下の忍のほうを見つめながら、
「ー二人の様子をしっかりと見張りなさい」と、
苛立ちを隠さずにそう叫んだー

「はっー!」
忍が、慌てた様子でセラフィーナの命に従い、
そのまま姿を消すー。

ガリッと扇子を感じるとー、
セラフィーナは不満そうに呟いたー

「女王にふさわしいのはわたしの方ですわ…」
とー。

ユリアの妹・セラフィーナは、
あの手この手で姉のユリアを失脚させようと目論んでは、
そのたびに失敗していたー。
そしてついに、その命まで狙おうとしていたのだー。

エレオノーラがユリアの影武者として行動している理由の一つが、
このセラフィーナの存在ー。

しかし、ユリアは”妹を傷つけたくない”と、
警戒はしつつも、セラフィーナに厳しい処罰を与えることは
現時点ではしていないー、
そんな、状態だったー。

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「ーーしかし、ご無事で何よりー」

側近のマティアスが、自室に運び込まれたユリア姫にそう声をかけると、
ユリア姫は「あ、ありがとうー…マティアス」と、
安堵したような表情を浮かべるー。

幸い、階段から転落したユリア姫とエレオノーラに大きな怪我はなかったー。

二人とも自力で自室の方に戻りー、
その騒ぎを聞きつけたマティアスが、ユリア姫たちの元に駆け付けていたー。

「ーーー…しかし、セラフィーナ様にも困りましたなー。
 ーー姫様のお気持ちも分かりますが、しかしー、このままでは」

心配そうにするマティアスに対して、
近くにいた影武者のエレオノーラが
「ーーー姫様のたった一人の家族ですからー…」と、口を挟むー。

母も、父も、もういないー。
そんなユリア姫にとって、妹のセラフィーナは、たとえ自分の存在を
疎んじていたとしても、大事な存在なのだろうー。

マティアスは「ーーそうだなー」と、
エレオノーラのほうを見ながら複雑そうに頷くと、
「では、姫様、私はこれで」と、頭を下げて
そのまま立ち去って行ったー。

「ーーーーー」
しばらく沈黙する二人ー。

そしてーーー

「ーーふ~~~~~…緊張しましたよーーー
 姫様ー…」

突然、ユリア姫がそんな言葉を口にするー

「ーふふふー…
 本当の姫みたいだったわー…」
横にいたエレオノーラがそう言うと、
ユリア姫が、困惑した表情で言い放ったー

「でもまさか、”わたしと姫様が”入れ替わってしまうなんてー」
とー。

「ーー…階段から降りた時ー
 それか、あの忍の術のせいねー…」
エレオノーラがそう呟くー。

二人はー…
階段から転落したあとー、
気付いた時には身体が入れ替わってしまっていたー。

最初はー、すぐには分からなかったー。

しかし、見た目がそっくりとは言え、
コピーではない以上”違う場所”は存在するー。

エレオノーラになったユリア姫が先に異変に気付きー、
ユリア姫になったエレオノーラも、すぐに
”これ、姫様の身体ー…!?”と、困惑しながら
入れ替わったことに気付いたー。

そしてー、
部屋に戻ったあとー、
マティアスが駆け付けたことを知り、
咄嗟にユリア姫(エレオノーラ)に、”姫のフリ”をしてもらったのだー。

側近のマティアスは”二人を見分けること”ができる数少ない人間の一人。
だから”ユリア姫の身体になったエレオノーラ”にとりあえず
姫のフリをしてもらう必要があったー。

「ーこれから、どうしますかー…?」
ユリア姫(エレオノーラ)が言うと、
エレオノーラ(ユリア姫)は、少し考えながら呟いたー。

「ーわたしと、エレオノーラの見分けをすぐにつけられるのは
 セラフィーナとマティアス…他に何人かしかいないわー…
 だからー、あまり大きな問題はないとは思うけどー…」

”ユリアの身体になったエレオノーラが姫として振る舞うか”

それとも、

”ユリア姫がエレオノーラの身体で姫として振る舞うか”

どちらが、良いのかー。

そんな判断を迫られるー。

がーー

「ーとりあえず、元に戻ることができないか、
 色々試してみましょ?」

エレオノーラ(ユリア姫)がそう言うと、
ユリア姫(エレオノーラ)は、少し照れくさそうにしながら
「えっ…?あ、は、はいっ!」と、
姫の方を見て頷いたー。

姫と影武者の入れ替わりー。
そっくりな二人ー。
しかし、この入れ替わりが、クローバー王国に暗雲をもたらそうとしていたー。

②へ続く

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コメント

姫と影武者、そっくりな二人の入れ替わりデス~!☆
似た見た目の二人ならではの入れ替わりをぜひ楽しんでくださいネ~!

続きはまた明日デス~!!

コメント

  1. 匿名 より:

    クローバー王国、なつかしいです
    カミーラに憑依した魔王がどうなったのか、いまだに暗躍しているのか楽しみにしています!

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆★

      よくお気づきになりましたネ~!嬉しいデス~★笑

      遠い時代の出来事なので”その間”に解決している可能性もありますネ~!
      いつか”その間”も描けるときが来るかもしれません~!!

  2. TSマニア より:

    単純そうで難しい入れ替わりですよネ!★

    権力を奪おうとする妹もいるし…

    どんな展開になっていくのか…楽しみです♪