豹変した”ママ”の身に何が起こっているのかー。
それを突き止めた夫の彰浩は、
妻を救い出すための機会を伺うー。
その先に待ち受ける運命はー…!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”くそっー…美由紀ー”
清掃スタッフとしての仕事をこなしながら、
美由紀の様子をチラッと確認する夫の彰浩ー。
眼鏡や髪型で変装しているからか、
美由紀には気付かれていないようだー。
充血した目でパソコンを操作しー、
眠そうにしながら、自分の顔を叩いたりしている美由紀を見て
”絶対に許さない”と、西田社長への憎しみを募らせるー。
しかしー
ここで”美由紀に何をしたぁ!!!”などと飛び出せば、終わりだー。
美由紀が本当に洗脳されているならー
美由紀は自分のことを助けてくれないだろうし、
他の社員たちも同様だー。
最悪の場合、自分もあの”洗脳音声”とやらの餌食になる可能性もあるー。
怒りはあるー。
だが、彰浩は冷静だったー。
”絶対に美由紀を助け出すんだー”
そんな想いが、彰浩を冷静にさせたー。
自分が冷静さを失えば、終わりだー
”ーー麻梨ー、誕生日おめでとう~!”
半年前ー、娘の麻梨の誕生日を迎えた時の
美由紀の優しい笑顔を思い出すー。
”ーこれからもずっと一緒に、頑張っていこうねー”
美由紀の優しい言葉を思い出すー。
洗脳された美由紀のほうを見つめるー。
”あんなの、美由紀じゃないー
絶対に助けるからー、もう少しだけ待っててくれー”
彰浩は心の中でそんな言葉を口にするとー、
他の社員たちの名前を、社員の会話や、こっそりとタイミングを
見計らって名簿などを確認しながらー調べていくー。
焦ってはだめだー。
コツコツ、コツコツとー。
流石に”西田社長”も、社外の人間を洗脳するつもりはないようでー、
社員たちを、外部からの来客に対応させる際は、”普通”を装わせているー。
確かに、”洗脳”の使い方を間違えれば墓穴を掘るー。
なりふり構わず洗脳する、というわけにも行かないのだろうー。
特に、会社の外の人間ともなれば、怪しまれるリスクも高まるー。
「(俺が無謀なことをしなければー、あのクソ野郎に俺が洗脳されることはないー)」
彰浩はそう確信して、”準備”を進めたー。
そしてーーー
2週間が経過したー。
彰浩の清掃バイトの最終日ー。
短期バイトであったため、
今日でバイトは終わりだー。
だがー、今日で”ケリ”をつけるー。
西田社長が、美由紀を呼びつけるー。
胸元を見せ付けるようなー、
妖艶な秘書のような格好を”させられている”美由紀が、
例の会議室に向かうー。
”妻”のそんな姿を見せられてもー、
今はドキドキなんてしないー。
彰浩が感じるのは、怒りだけだー。
「ーーー…」
彰浩は、慎重に会議室に近付くと、
こっそりと中を覗くー
”美由紀に洗脳音声を聞かせ始めたタイミング”
それがチャンスだー。
準備は、滞りなく行ったー。
あとは、今日、全力を尽くすのみー。
「ーさぁ、君の会社への忠誠を今日も高めるんだー」
西田社長が笑みを浮かべながらヘッドホンを手にするー
虚ろな目でヘッドホンを手に、それを聞き始める美由紀ー。
そしてーーー
「ーーー美由紀!!!!」
彰浩は、そのタイミングで会議室の中に
足を踏み入れたー
「ー!」
西田社長が驚くー。
美由紀は振り返りもせず、洗脳音声を聞き続けているー。
「ーお前!俺の妻に何をしてる!
何の音楽を聞かせている!?」
彰浩がそう言うと、
西田社長は「お前ー…清掃で出入りしているバイトー!?」
と、表情を歪めるー。
しかし、すぐに美由紀のほうを見ると
「そうかそうかー。この女の夫かー。
離婚届はもう書いたのか?」と、笑みを浮かべるー。
「ふざけるな!離婚は美由紀の意思じゃない!
お前がそうさせているだけだろうが!」
彰浩がそう言うと、
西田社長は開き直った態度を見せたー。
「ーークククーそうかそうか、見ていたのかー。
まぁいいー」
余裕の笑みを浮かべる西田社長ー
”見られたのなら仕方がないー
夫も洗脳してしまえばいいだけだー”
そう思いながら、西田社長は
美由紀のヘッドホンを取り外すと、
「夫が来たよー」と、邪悪な笑みを浮かべるー。
「ーーー」
美由紀が立ち上がって、彰浩のほうを睨みつけるー
「ーなに?仕事のジャマをしに来たの?」
美由紀のそんな言葉に、
彰浩は「助けに来たんだー」と、言い放つー。
「助ける?はぁ?
離婚届は?」
美由紀が怒りを露わにして叫ぶー。
「ー美由紀はこいつに洗脳されてるんだ!」
こんな言葉をかけてー”そ、そうだったの?”なんて、
なるとは思っていないー。
でも、言わずにはいられなかったー
「洗脳?あはっ…あははははははっ!
社長ー、わたしの夫、頭おかしくなっちゃったみたいですぅ
あははははっ!」
美由紀が笑いながら西田社長のほうを見ると、
「そうだね」と、言いながら
彰浩のほうを見たー
「どうだね?僕の洗脳はー
素晴らしいだろう?」
西田社長が彰浩に向かってそう言い放つー。
だが、横でそれを聞いている美由紀は
悪女のように笑みを浮かべたまま、
”自分が洗脳された”ことに気付く様子はないー。
彰浩が西田社長を睨むー。
「ーうちの社員は、全員、僕の”駒”だー
この”洗脳音声”を日々聞かせることで
僕が完全に支配しー、忠実なしもべに変えたー。
君の妻ー、いいや、これから元妻になるこの女もー
他の社員たちも、全てはこの僕の駒だ!」
西田社長が堂々とそう言い放つー。
「ーーー美由紀…!」
彰浩は、”西田社長がこんなこと言ってるぞ!”と言わんばかりに
美由紀を呼びかけるー
しかし、美由紀は「わたしは自分の意思で会社に尽くしてるの」の
一点張りだー
「ーークククー
何を言っても無駄だと言っただろう?
僕が命令すれば、彼女は服だって脱ぐし、股だって開くー。
死ぬまで働かせることもー
自殺させることもできるー」
西田社長はそう言い放つとー、
美由紀は「ー社長の言うことなら、わたし、何でもしちゃうの」と、
彰浩のほうを見て笑うー。
「ーそれが洗脳だって言ってるんだ!」
彰浩は叫ぶー。
しかし、美由紀は応じないー。
「ーー無駄だよー。
透明な水に墨汁を入れたらどうなる?
水は黒く染まり、二度と元に戻ることはないだろうー?」
西田社長がそんな言葉を口にするー。
「ー染まった水は、2度と元には戻らないー」
「ーーーそして、君もー」
ニヤリと笑う西田社長ー
「君のことも、洗脳してしまえばー
”離婚届”を書かせることもできるー」
その言葉に、彰浩は表情を歪めるー。
大事な秘密をペラペラと喋っていたのはー
彰浩を正気で帰すつもりがないからだー。
そしてー
会議室の入口が開きー、
他の社員たちが逃げ場を塞ぐようにして立っていたー。
美由紀の後輩の久美子も、他の社員たちも、彰浩に敵意を向けているー。
だがーーー
その時だったー
彰浩が突然、笑い出したのだー
「ー何がおかしいー!?」
西田社長の表情から笑みが消えるー。
するとー、
彰浩は、自分の服に隠していたボイスレコーダーを手にして
笑みを浮かべたー
「ーー貴様…!隠し撮りをー!」
西田社長は、自分がペラペラと喋ってしまったことを後悔するー。
だがー、すぐに洗脳された美由紀が反応するー
「そんなものが何になると言うの!?
わたしは自分の意思でー!」
しかしーー
その言葉を遮るようにしてー、
会議室の外から、大勢の人が雪崩れ込んで来たー
「ー!?!?!?」
入口を塞いでいた洗脳された社員たちが押しのけられて、
大勢の人々が入ってくると、西田社長に罵声を浴びせたー
「うちの娘をよくも!」
「お姉ちゃんを返して!」
「姉さんを返せ!」
「妹に何をした!!!」
十数人の人々が、会議室に入ってきてそう叫ぶー。
呆然とする西田社長ー。
「ーーーあんたが洗脳した美由紀以外の社員の
ご家族に連絡したー
みんな、”異変”を悟ってたよー。
そして今日、ここに来てもらったー」
彰浩が言い放つー。
この数週間、彰浩は、
”美由紀以外の社員”たちの家族や関係者をできる限り探し、
”洗脳”のことを伝えたー
もちろん、全員が信じてくれるわけではなかったものの、
彰浩のように”様子がおかしい”と感じている人はたくさんいて、
今日、ここに集まってくれたのだー。
「ーーー…ーーくっ…」
表情を歪める西田社長ー。
「ーさっきの音声は、ネットでライブ配信してる!
声だけでもー、
もう、言い逃れはできない!」
彰浩がそう叫ぶと、
西田社長は慌てた様子で近くのパソコンを叩くー。
するとー、
”今の様子”がネット上にライブ配信されていたー。
「ーーー!!!」
西田社長が唖然として部屋の角を見つめるー。
そこには、”清掃”のフリをして彰浩が設置しておいた
小型のカメラが見えたー
「ーー貴様!」
カメラで映像をー、ボイスレコーダーで音声をー、
そして、他の社員の家族に協力してもらい、すぐにそれをライブ配信しているー。
「ーーーお前は、終わりだ!美由紀をー
社員たちを解放しろ!」
彰浩がそう叫ぶと
西田社長は呆然としながら、爪をがりがりと齧り始めたー
そしてーー
「ーーくそっ!”駒”ども!僕が逃げる時間を稼げ!」
そう叫ぶと、美由紀や他の社員たちが、彰浩たちの足止めをし始めるー
彰浩は襲い掛かって来る美由紀を何とか取り押さえるもー
会議室の非常口の扉を開けて、西田社長は逃亡し始めるー。
「待て!西田!!!!」
しかしーーー
西田社長は”洗脳された社員の家族たち”を振り切って
そのままオフィスから逃走し、行方をくらましてしまったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”西田社長の恐るべき素顔ー
社員を”洗脳”ーーー
翌日ー
ニュースでは大々的に西田社長の件が報じられたー。
彰浩がライブ配信した映像と音声もそうだがー、
西田社長が”洗脳音声”が流れるヘッドホンを放置して
逃亡したことで、警察も確かな証拠があると、動き始めたのだー
失踪した西田社長の行方の捜索も続いているー
逮捕も時間の問題だろうー。
そしてー、
洗脳された美由紀たちは、警察によって取り押さえられて
病院に入院することになったー。
”洗脳”を解く方法は分からないー。
しかし、西田社長が言うような”自殺させたり”みたいなことは
直接、言葉で命令しないことにはできないようで、
少なくとも、美由紀がこれ以上、過度に変な事をさせられる心配はなくなったー。
医師の診察によれば
脳波に見たこともないような異常が生じているもののー、
”洗脳音声”を聞くことはもうなくなるためー、
少しずつ、脳の状態は回復する可能性があるー、とのことだったー。
「ーー美由紀ー」
美由紀が入院している病室にやってきた彰浩はー、
目を背けている美由紀のほうを見つめるー
「ーわたしから”仕事”を奪ったー。
あんたのこと、一生許さないー」
美由紀が、そんな憎しみの言葉をぶつけて来るー。
「ーーーごめん」
彰浩は悲しそうにそう言い放つー
もうー、
もう、”元の美由紀”には戻らないのだろうかー。
「ーーーーーーー……でも、警察と病院の人から聞いたー。
わたしに何が起きたのかー」
美由紀は、彰浩のほうを見ないままそう呟くー。
「ーーーーもし、それが本当ならー」
美由紀はそれだけ言うと、大きくため息をついて
彰浩のほうを見たー
「ーーいつか、あんたのこと、許せる日も来るのかもね」
美由紀は不快そうに、彰浩のほうを見つめながら言うー。
”わたしは、わたしの意思で家族より仕事を優先したー”
美由紀は、今でもそう思っているー
でも、警察と病院が嘘をついてまで”わたし”を
こんな風に入院させる必要があるとは思えないし、
西田社長は逃亡しているー。
「ーーー美由紀ー」
彰浩は、美由紀の言葉に、ほんの少しだけ希望を覚えるー。
「ーー無駄だよー。
透明な水に墨汁を入れたらどうなる?
水は黒く染まり、二度と元に戻ることはないだろうー?」
西田社長は、そんなことを言っていたー。
だがーー
”汚れた水だって、ろ過はできるさー”
彰浩は、そんなことを思いながら、美由紀を見つめるー
もう、美由紀が洗脳音声を聞かされることはないー。
少しずつー、ほんの少しずつでもー
元の美由紀が戻って来てくれればー
そして、いつの日か、また家族三人でー…
「ーーママー…」
ついてきていた娘の麻梨が、不安そうに美由紀のほうを見つめるー
「ーーー…」
美由紀は、麻梨を見て、不満そうな表情を一瞬浮かべるー
「ーーママー…また、遊んで…」
寂しそうに呟きながら、麻梨は”ママ”の手を握るー。
「ーーーーーーー」
ギリッと歯ぎしりをする美由紀ー。
正直”今の美由紀”には、麻梨の存在は不快でならないー
しかしーーー
「ーーーー”今は”ーそいつー…
ーーー…パパに遊んでもらいなさい」
美由紀は不愛想に、それだけ呟いたー
悲しそうな麻梨ー。
美由紀は、そんな麻梨を見て
”ほんの少しだけ”ー、何かを感じたのか
麻梨の頭を優しく撫でると
「いい子にして、待ってなさい」と、少しだけ穏やかな口調で呟いたー
「ほんとにー…?ママ、また遊んでくれる?」
麻梨がそう言うと、
美由紀は「ーーーーーうるさい」と、顔を背けるー。
「ーーー…そんなこと言うなよー…
約束してやってくれよー」
彰浩が少しだけ苦笑いしながらそう言うと、
美由紀はもう一度麻梨の顔を見てー、
「ーー…分かった…約束するからー」と、不満そうに言葉を口にして、
麻梨と”また遊ぶ”ことを約束したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーママ…はやくげんきになってね」
病室からの去り際ー、
麻梨がそんな言葉を口にして、美由紀に手を振るー。
「ーーーーー」
美由紀は相変わらずムスッとした表情を浮かべていたもののー、
そのままぎこちなく手を振り返してくれたー
麻梨が嬉しそうに先に出ていくと、
彰浩は美由紀のほうを見て呟いたー
「ーーー美由紀がこの先どんなになっても、
俺は美由紀の味方だからー
美由紀のことー
”おかえり”って迎えられる日を、待ってるー
ずっとー」
彰浩はそれだけ言うと、少しだけ笑うー。
「ーーーバカなやつー…」
美由紀はそう呟くと、彰浩から目を背けてー
窓のほうを見つめたー
「ーーーははーー昔から、お人好しみたいによく言われるよ」
彰浩はそんなことを口にして、立ち去っていくー
美由紀はきっと、また優しい美由紀に戻ってくれるー。
その日を信じてーー
美由紀の帰りをいつまでも待ち続けるー
彰浩はそう思いながら、麻梨の後を追って、病院の廊下を歩き始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ーーー地下にあるとある事務所で、
男が言葉を口にしていたー
「ーー洗脳した社員たちに、わざわざ家族や友人たちにも
攻撃的な態度を取らせて、周囲の人から疑われるような使い方をするー」
「ーー乗り込んで来た夫に、ペラペラと洗脳のことを喋るー」
「洗脳音声を聞かせる時に会議室に、鍵もかけないー」
男はそう言うと、震える西田社長を見つめながら、言葉を続けたー
「クソみてぇな無能ぶりですねー
西田社長ー
そんなんだから、事業拡大の方法を見誤り、
調子に乗って、負債を抱えることになるんですよ」
優しい雰囲気の男がそう呟くと、
西田社長は「も…申し訳ありませんーせっかく、ご支援頂いたのにー」と、
震えながら言葉を口にしたー。
西田社長が逃亡した先は、
西田社長の会社を救うため”洗脳音声”を提供してくれたー
”国際犯罪組織ガルフ”の拠点の一つ。
会社を救う見返りとして、今後売上の一部を”上納”することになっていたー。
西田社長は、そこに逃げ込み、助けを求めていたー。
だがー
「ー我々の”鉄の掟”ご存じですか?」
国際犯罪組織ガルフの日本支部責任者・クロサワがそう呟くと、
西田社長は「お…お…掟?」と、震えたー
「無能と言う名のゴミはー、消去」
その言葉と同時に、西田社長は
自分が社員を洗脳するために使っていたヘッドホンで
”洗脳音声”を聞かされて洗脳されーー
翌日、全ての罪を背負う言葉を口にしながら、駅前でさらし者のように
自ら命を絶ち、悲惨な最期を遂げたー。
それはー
私利私欲のために、社員を洗脳した西田社長に
ふさわしい最後だったのかもしれないー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
最終回でした~!☆
優しいママに戻る日が
いつの日かきっと、やってくるのデス…!
お読み下さりありがとうございました~!☆!
コメント
恐ろしいやぁ~( ;∀;)
平和な家族生活が戻るといいですネ☆
洗脳って本当にあると思いますっ!
特に宗教系が多いと思いますっ!汗
宗教系は否定しませんが家族や周りの人に迷惑がかからなければ…
あっ!?
自分は無名教信者なのデス笑
コメントありがとうございます~!☆
少しずつ洗脳の影響もなくなって、いつかは…☆!
無名教…!?笑
一緒に欲望に身を委ねるのデス~!