ある頃を境に、
仕事に全てを捧げー、娘のことも放り出すようになった”ママ”ー。
夫は何とか、彼女の心変わりの原因を突き止めようとするもー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー今日も、遅かったなー
お疲れさま」
夫の彰浩が、帰宅した美由紀にそんな声をかけるー。
「ーーー」
美由紀は、帰宅すると同時に、
ノートパソコンを開いて、リビングでそのまま
パソコンの操作を始めるー。
「ーーー…まだ、仕事があるのか?」
彰浩がそう呟くと、美由紀は「そうよ。悪い?」と、
パソコンに視線を向けたまま呟いたー。
「ーーーー…」
最近、美由紀の帰りが妙に遅い日が続いているー
美由紀は”残業”と言ってはいるがー
本当に、残業なのだろうか、という疑いも
彰浩の中で出始めているー。
彰浩の職場の同僚からは
”そりゃ浮気だな”などと揶揄われている始末だー。
美由紀が浮気をするとは思えないー。
だが、ここ最近の”豹変”は、普通ではないー。
「なぁ、美由紀ー…
俺が何か悪いことしたなら、謝るよー…
でも、麻梨のことだけは、普通に接してやってほしいー」
彰浩がそう言い放つー。
何も心当たりはないのだが、美由紀にとって何か
不快なことをしてしまったのかもしれないー。
そう思いつつ、謝罪の言葉を口にするー。
だが、あれだけ可愛がっていた娘の麻梨を
放置するような、最近の美由紀の言動は解せないー。
どうして、急にそんな風になってしまったのかー。
「ーーーうるさいー。あんな足枷、産まなきゃよかった!」
美由紀が机を叩きながらそう呟くー。
麻梨が心配そうに、”ママ”と”パパ”のことを見つめているー。
「ーママ…」
悲しそうに、母親である美由紀の方に近付いてくる麻梨ー。
まだ保育園に入ったばかりの年齢である麻梨からすれば
”ママ”が急に変わってしまったことに、戸惑うことしかできないー。
「ー邪魔。あっち行って」
美由紀が、麻梨に言い放つー。
「ママー…ママ、こわい…ママこわい!」
麻梨が、豹変した美由紀に対してそう言い放つー
「ーママこわいー…!元のママがいい!いつものママがいい!」
美由紀に縋りつくようにして言い放つ麻梨ー。
「ーうるさい!」
仕事中の美由紀がキーボードを乱暴に叩いて叫ぶー。
その場で泣きだす麻梨ー。
「ーーうるさいって言ってんのよ!」
美由紀はついに、麻梨に手をあげたー。
麻梨にビンタする美由紀を見て、
彰浩は「いい加減にしろ!」と、美由紀に対して叫ぶー。
「どうしたんだよ!急に!
何か不満があるなら、何か悩みがあるなら言ってくれ!
言ってくれないと、俺も分からないよ!」
彰浩がそう叫ぶと、美由紀は「チッ」と、舌打ちすると、
「こんなところじゃ、満足に仕事もできない」と、
不満そうに呟いて、そのまま出かける準備をし始めるー
「お、おい!どこに!?」
彰浩が時計を見ながら言うー。
もう、深夜0時だー。
「ーーあんたらみたいな”邪魔者”がいないところよ」
美由紀はそれだけ言うと、そのまま乱暴に扉を開けて
家から出て行ってしまったー
「美由紀…いったい…どうしたんだ…」
彰浩は呆然としながら、すぐに泣きじゃくる麻梨を慰め始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー……」
まるで”ロボットのように”仕事を続ける美由紀ー。
既に、全ての社員の洗脳が終わり、
西田社長は笑みを浮かべるー。
”必要な時”以外は、
洗脳された社員たちはまるでロボットのように
忠実に仕事を続けているー。
「ーーーー」
目が充血しても、お構いなしに美由紀は
パソコンを見つめ続けるー
「ーククク…目が疲れているようだが?」
西田社長が笑いながら言うと、
美由紀は「いえ、わたしの身体よりも仕事の方が大事ですから」と、
笑顔で微笑むー。
見るからに疲れているー。
しかし、今の美由紀にとってはそんなことすら
どうでもよかったー
西田社長は満足そうに頷くー
今の美由紀にとっては
夫のことも、娘のこともー、自分自身のことさえも、どうでもよかったー。
”わたしは、この会社のために生まれて来たのだからー”
美由紀はそう思いながら、何の疑いもなく、”仕事”を続けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ごめんね…
最近、美由紀、うちにも全然連絡してこなくなったし、
LINEとか送ってもほとんど反応がなくてー”
「ーーそうですか」
彰浩は、妻である美由紀の実家ー、
彰浩からすれば義母にあたる美由紀の母親に電話をかけて、
最近の状況を相談していたー。
どうやら、夫の彰浩だけではなく、
実家に対しても冷たい態度を取り続けていて
”仕事が忙しい”の一点張りのようだー。
”ーこの前も、身体を壊さないように、って伝えたらー
”うるさい。いつまでも子供扱いしないで”なんて
言われちゃってー”
少し寂しそうに美由紀の母親が言うー。
彰浩は、そんな美由紀の母親を慰めながら
こちらの状況も報告し、
何か心当たりはないかどうか、確認するー。
”う~ん…彰浩さんにも分からないぐらいだからー…”
苦笑いする美由紀の母親ー。
確かに、それはそうだー。
一緒に暮らしている彰浩にさえ、原因が分からないのだからー、
美由紀と離れて暮らしている母親に原因が思い当たるはずなどー
”あ、でもー”
美由紀の母親がふと、呟くー。
”先月末だったかしらー…
美由紀と電話で話した時ー
最近後輩の子がちょっと変でー
って、言ってたようなー”
美由紀の母親のそんな言葉に
「変?」と、彰浩は繰り返すー。
”関係ないかもしれないんだけどー
後輩の子が、全然休まなくなってー、心配って
言っててー”
美由紀の母親の言葉に、
彰浩は表情を歪めるー。
仕事の話は、夫婦間でもすることはあるー。
だが、お互いに仕事での出来事を全て話すわけではないし、
美由紀の母親によれば”後輩を心配している”程度の話だったみたいだから、
別にその当時、美由紀本人が悩んでいたわけではないのだろうー。
とは言えー
”後輩が全然休まなくなった”と、いうのは気になるー。
まるで、今の美由紀と同じ状況だからだー。
「ーーーすみません。いきなり電話してしまってー。
美由紀にまた、色々聞いて見ますー。」
彰浩はそう言いながら、少し話を続けると、
そのまま美由紀の母親との電話を終えたー。
その日の夜ー。
「ーーーただいま」
不機嫌そうに帰宅した美由紀ー。
数日振りの帰宅に、彰浩は心配そうに
「ー大丈夫か?」と美由紀に声をかけるー。
だが、美由紀は
妙に色っぽい化粧をしていて、
なんだかいつもとは別人のような雰囲気だー
”浮気”
そんな予感も頭をよぎるー。
しかし、彰浩は美由紀の優しさを知っているー
今になって”豹変”するメリットは美由紀には何もないはずだー。
娘の麻梨のことをあんなに可愛がっていたし、
それを捨ててまで浮気するほどの男と出会った可能性は0ではないにせよ、
出会って、結婚して、子供が出来てー…
これまでの美由紀との生活を思い浮かべる限りー、
そんな可能性はほぼ0に等しかったー。
「ーーこれ、書いて」
美由紀はそう呟くと、乱暴に”離婚届”を机に叩きつけたー
「み…み…美由紀ー?」
彰浩は、思わず驚いてしまうー。
「ーど、どうしてー?」
彰浩がそう言うと、美由紀は「あんたも、麻梨も、仕事のジャマなの」と、
冷たい口調で言い放つー。
確かに見た目は”美由紀”だが、話している相手は
”そっくりな誰か”なのではないか、と、
そんな不安を抱いてしまうほどに、
目の前にいるのが美由紀とは思えなかったー。
「ーーー…子供の親権もいらないからー。
さっさとそれに記入して」
美由紀はそれだけ言うと、
自分の荷物をまとめ始めるー
「ーー…これは書けない」
彰浩が、離婚届への記入を拒否するー。
「ーーは?何言ってんの? 書いて」
美由紀は怒りを露わにして、彰浩に対してキツイ口調で言い放つー。
「ーーー書かない」
彰浩はなおも否定するー。
「ー会社で何かあったのか?
理由が分かるまで、俺は離婚届に記入はしない」
彰浩がそう言い放つと、
美由紀は何度も何度も舌打ちをしながら、
「早く書いて!」と、怒りを爆発させるー。
「ママー…」
言い争いに気付いた娘の麻梨が部屋から出て来るー。
「ーーママって呼ぶな!鬱陶しい!」
美由紀は、怒りの形相で麻梨にそう言い放つと、
離婚届を書くように迫って来るー。
それでも、彰浩は記入を拒否したー。
”今の美由紀は普通じゃないー
そんな美由紀を放っておくことはできない”
とー。
「ー普通じゃない?わたしが?」
美由紀は不満そうに言葉を口にするー
「ーーそうだよ…!お義母さんも心配してるぞ!」
彰浩がすかさずそう言葉を口にするー。
「ーわたしの生き方は、わたしが決めるの!
あんたの”普通”を押し付けないで!」
”今”の自分は、西田社長に洗脳されているのにー、
それを自覚することもできず、そんな言葉を口にする美由紀ー
「ーーとにかく、離婚届、書いておきなさいよ」
捨て台詞を吐くと、そのまま美由紀は立ち去っていくー。
「美由紀ー…」
ギリッと歯ぎしりをした彰浩は、
”やっぱり、会社で何かあったんだー”
と、困惑の表情を浮かべながら”ある決意”を固めていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”すみませんーよろしくお願いします”
娘の麻梨のことを、美由紀の両親、
そして、自分の両親に交代交代でしばらく面倒を見てもらうことにしー、
美由紀の異変の現況を探ることを決意していたー。
”美由紀の勤務先が入っているビルに何とか忍び込む方法はないかどうか”
それを考えながら、毎日仕事が終わると、
すぐに美由紀の勤務先の周辺で張り込みながら、
色々なことを調べたー。
休みの日には、娘の麻梨との時間も大事にしながらー、
美由紀の異変の原因を調べていくー。
そしてーーー
”ーーーこれだーー…!”
美由紀の勤務先があるビルの清掃・メンテナンスの短期バイトを
目にした彰浩はー、
そのバイトを利用して”美由紀のいるであろうビル”に忍び込むことを決意したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー社長のために、ちゃんと働きなさいー。
自分の身体と、社長、どっちが大事なの?」
美由紀が、後輩の久美子に冷たい口調でそう言い放つー
元々、可愛がっていた後輩に対しても、棘のある態度を露わにする美由紀ー。
「ーも、申し訳ありませんー」
高熱を出した後輩の久美子。
だが、美由紀は”それでも働け”と、久美子に言い放つー
「ーーわたしたちに、健康なんていらないー。」
美由紀はそう言い放つと、
明らかに睡眠不足なのが分かる顔つきのまま、
パソコンの前に向かうー。
「ーーーチッ」
自分の眠気に苛立ち、自分を殴りつける美由紀ー。
「ーー寝てる場合じゃないー。」
そんな美由紀の様子を見ながら、西田社長は
笑みを浮かべるー。
「ーーさて」
そんな西田社長が時計を確認すると、
「ーこっちに来なさい」と、美由紀を手招きするー。
例の会議室のような場所で、美由紀にヘッドホンを付けさせてー
”洗脳音声”を流すー。
定期的にこれを聞かせることで、
洗脳をより強め、持続させるー。
”つい、調子に乗ってしまったー”
ベンチャー企業として企業し、成功したことで
有頂天になってしまった西田社長は、
無謀な事業拡大を行い、甚大な損失を抱えていたー。
社員にもそれを隠し、
何とかしようとしていたその時ー
”彼ら”は現れたのだー
「ーー”人件費を大幅にカットし、会社に忠実な駒を手に入れる方法ー”」
それを、彼らは授けてくれたのだー
”クククー…
これさえあればー、これさえあればー、
僕の会社はー…僕の会社は立ち直れるー…!”
美由紀たち”駒”は給料すら必要としていないー。
食費や、美容代などー、必要な費用は掛かるが、
それ以外には、何も必要としないし、求めて来ないー。
それにー
「ーーそうだー、
例の会社との交渉、どうなってるー?」
西田社長がそう言うと、
美由紀は笑みを浮かべたー
「はい、もうすぐ契約を勝ち取れるかとー」
美由紀がそう言い放つと、
西田社長は満足そうに頷いたー
「君のその美貌で色仕掛けをすればー
あの社長はすぐに落ちるだろうからなー
引き続き頼むぞー」
とー。
そうー
洗脳した”駒”たちの”身体”を使えばー
何だってできるー。
「ーククク…夫と娘がいるのに
身体を使って、契約を勝ち取っているー
…君は母親失格だな」
西田社長が嬉しそうに言い放つー
「ーーわたしは、母親である前に、この会社の社員ですからー
もうじき離婚しますし、娘なんてわたしには必要ありません」
美由紀のそんな言葉に、
邪悪な笑みを浮かべる西田社長ー。
だがーー
「ーー!!!!!!!!!!!」
既に”清掃スタッフ”としてビルに潜り込んでいた
夫の彰浩に、その”決定的な場面”を、目撃されたことにー
西田社長はまだ気づいていなかったー
”み、美由紀ー…
くそっー……そういうことだったのかー”
”洗脳”
そんなこと、できるはずがないー。
そう、思いつつも、その決定的現場を
扉の隙間から目撃した彰浩はー、
こっそりとその場を離れー、
激しい怒りの表情を浮かべたー
③へ続く
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コメント
ハッピーエンドか、バッドエンドか、
予測不能の最終回は、明日のお楽しみデス~!☆
私の作品は、
最後までどっちに転ぶか分からないですからネ~笑
今日もありがとうございました~!☆
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