気付いた時には、”わたし”と同じ姿をした人が
たくさんいる状況に陥っていた女子大生ー。
その先に待つ結末は…!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー…!!!」
意識を取り戻した彩夏が表情を歪めるー。
「ーーー……こ、ここはー…?」
彩夏が周囲を見渡すー。
”どこ”なのか具体的には分からなかったが
少なくとも、ここが病院であることは分かったー。
”ーーそっか…わたしー…”
彩夏はそう呟くと、自分の頭を押さえるー。
あの廃工場のような場所で
”同じ姿”をした人たちに囲まれてー、
その最中に転落してー…
それでー…
ズキッと痛む頭を押さえる彩夏ー。
「ーーー………変身ゴーグル…」
彩夏はそう呟くー。
”わたし”と同じ姿の人間がたくさんいたのは
そのせいなのだろうかー。
そんなことを思っていると、
病室を訪れた看護師が、意識を取り戻した彩夏を見て
安堵の表情を浮かべるー。
「ーーよかったー。意識が戻ったんですねー」
その言葉に、彩夏は「あ、はいー…」と、戸惑いの表情を浮かべながら
「わたしはー…」と、自分がどういう状況なのかを確認するー。
看護師によれば、
彩夏は数日前、廃工場の敷地内で倒れているのを発見されー、
そのまま救急搬送されて、
病院に運び込まれたとのことだったー。
頭を強打していることもあり、意識が戻るのに時間がかかったものの、
ひとまず命に別状はない、とのことだったー。
「ーー……あの場所、人が来ないはずですけどー…
どうしてわたしは発見されたんですかー?」
彩夏が不思議に思う。
あの廃工場地帯は、人は来ないはずだー。
”偶然”発見されたというのも、なんだかおかしい気がするー
「それはー…確か、女性から通報があったと聞いていますー」
看護師がそう言葉を口にすると、
彩夏は表情を歪めたー。
”女性”ー
まさか”偽物の彩夏”だろうかー。
偽物たちが、”転落したわたし”を見て、
慌てて救急車だけ呼んで逃げたー…
そういうことなのかもしれないー。
「ーーーーー…」
彩夏が少し目を細めながら、
「そういえばー…」と、言葉を口にするー。
イマイチ記憶がハッキリしない部分があるー。
自分の名前は分かるし、
通っている大学も分かるー。
そして、ここに至るまでの廃工場での出来事も
ぼやけているところはあるものの、覚えているー。
それなのにー
「ーーー記憶がハッキリしない部分があってー」
彩夏がそう呟くとー、
看護師が「頭を強く打ったショックかもしれませんねー
あとで先生にお話してみてください」と、言葉を口にするー
「ーーーー」
彩夏は、廃工場での出来事をさらに深く、
思い出そうとするー。
しかしー…
何だか大事なことを忘れているような気がしてー
それを思い出せない状態が続き、
彩夏は静かにため息をついたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーまさか、あんなことになるとはなー」
黒霧工業の幹部の男が、表情を歪めるー。
変身ゴーグルを手に、くるくるとそれを回転させながら
不満そうな表情を浮かべるー。
”黄川田”と街中で呼ばれていた男が、
彩夏の姿のまま
「すみませんー。僕と毛利(もうり)が尾けられたせいでー」と、
悔しそうに呟くー。
「ーまぁいい、”本物”に変身ゴーグルを見られたのは誤算だったがー、
そういうこともあるだろう」
幹部の男がそう言うと、
「ところで、毛利の状況はー?」と、言葉を付け加えたー。
彩夏の姿をした黄川田は
「ーあぁ、それならー」と、言葉を呟きながら
「まぁ、僕が変身ゴーグル持って行くんで、大丈夫ですよ」と、笑ったー。
「そうかー。で、あのバカたちの起こした問題の方は?」
幹部の男のその言葉に、
「ーーーそれはもうあの三人が”処理”したので、問題ないかと」と、
彩夏の姿で静かに呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
入院生活の続く彩夏ー。
警察にも”事情”は、話したー
あの廃工場で
”わたしの偽物”たちが何やら話をしていたことー。
”変身ゴーグル”などと呼ばれるもので、実際に変身を解除するところを見たことー。
そして、黒霧工業の幹部の男の情報や、
その目的、狙いなど、知っていることを全て伝えたー。
警察官の男が少し表情を歪めながら「変身…」と、呟くー。
「ーあぁ、…そういうことかー
この前はすまなかったなー」
一瞬、彩夏は警察官が何を言っているのか理解できなかったが
続けて警察官が”駅前のリサイクルショップの強盗”も君じゃなくて、
君に変身した偽物だったんだな”と、言葉を口にしたー。
どうやら、前に話した警察官のようだ、と思いながら
彩夏が「いえ…」と呟くと、
「わたしの偽物たちを必ず捕まえて下さい!」と、
警察官に対して嘆願するようにそう言い放ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー話、聞いたよー、ごめん」
親友の莉々は、
”誤解”して、彩夏に腹を立てていたことを謝罪したー。
彩夏は「ううんー…いいの」と、言いつつも、
莉々のほうを見て、表情を歪めたー。
やっぱりまだ、記憶がハッキリしないー。
あの廃工場で転落して、頭を打ち付けた際のダメージが
想像以上に強く残っている。
莉々のことも、初対面のような気がしてしまって、
困惑の表情を浮かべながらー、
そのことを口にする彩夏ー。
「ごめんねー。まだ記憶がハッキリしなくてー」
彩夏がそう言うと、莉々も不安そうにー
「元に、戻るんだよねー?」と、彩夏に確認するー。
彩夏は「先生は、少しずつ記憶を取り戻していくハズって言ってた」と
頷くと、莉々は安堵した表情を浮かべながら、
「焦らなくていいから、少しずつ元気になっていこうね」と、
言葉を呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
「ーーククククククー…」
男が、患者に紛れて病院の中に入り込むと、
笑みを浮かべながら彩夏の病室を目指していたー。
「今、僕が迎えに行くぜー」
”黄川田”ー
彩夏が街で遭遇した”二人組の偽物”のうちの一人だった男ー。
彩夏の姿のまま、病院内を歩くー。
「あ…!村西さんこんばんはー」
すれ違った女性看護師にそう声をかけられると
彩夏の姿をした黄川田は「こ、こんばんは~」と、笑みを浮かべながら
そのまま歩くー
”ふ~…やっぱ変身ってすごいなぁ”
黄川田は改めて感心するー。
本来なら”不審者扱い”されてしまう状況でも
こうして”他人の姿”を上手く使うことで、
いくらでも疑いを抱かれないようにすることができるー。
「ーーー」
彩夏の病室をノックするー。
病室に入った彩夏の姿をした黄川田は笑みを浮かべながら、
”変身ゴーグル”を手にすると、
「ーーお迎えー」と、言葉を口にしたー
「うわああああああああああああああああああ!!!」
黄川田が変身した彩夏を見た彩夏は悲鳴を上げるー。
すぐに、近くにいた警備員が駆けつけて、
彩夏の姿をした黄川田は「ちょっ、おいっ!」と叫ぶと、
そのまま彩夏のほうを見て、何かを叫ぼうとするー。
だがー、騒ぎが大きくなったため
目的を果たせないと判断した黄川田はそのまま逃亡を図るー。
がー、黄川田はそのまま警備員に取り押さえられて、
駆け付けた警察官に連行されたー。
変身ゴーグルも警察に回収され、
取り調べを受けた黄川田が、警察に黒霧工業のことを話したことで、
黒霧工業が新たにアジトにしていた地下道も発見されー、
黒霧工業の構成員らは、あっけなく確保されたー。
「ーくそっ…!」
唯一逃亡した幹部の男はー、
協力関係にあった別の組織に逃亡しようとしたー。
しかしー
「ーー沈みかけの泥船を迎え入れるほど、俺たちは優しくないんでねー」
そんな言葉と共に、
”見捨てられて”、黒霧工業の幹部の男もその場で始末されてしまうのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーわたしは、わたしは彩夏よ!」
”彩夏の偽物”が叫ぶー。
しかし、警察官は「お前は偽物だと分かっているんだー」と、
偽物を指差しながら言うー。
「ーーー…チッ」
街中に広がった黒霧工業の残党ー
”彩夏の姿のまま”何とか逃げ切りを図ろうとしていた人間が
次々と逮捕されていくー
黒霧工業の逮捕した構成員たちの証言から、
組織のメンバーと変身したメンバーを割り出し、
一人ひとり、”偽物”を逮捕していくー。
「ーーーお願いだから、見逃して♡」
偽物の彩夏がスカートをめくって、色仕掛けで逃亡しようとするー。
がー。
「ーいい加減に観念しなさいー」
背後から女性刑事に腕を掴まれて、偽物の彩夏が表情を歪めるー。
そのまま暴れ出す偽彩夏ー。
けれどー、結局その場で倒されて”偽物”は、
また一人逮捕されたー。
各地で”彩夏の姿をした残党”が逮捕され、
ついに残り一人ー、”毛利(もうり)”という男だけが残ったー。
以前、彩夏が街中で遭遇し、尾行した二人組の偽物のうちの一人だった男だー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー本当に、ありがとうございます」
入院中の彩夏が警察官に対してそう言い放つー。
警察官が”偽彩夏”をほぼ全滅させたことを彩夏に
告げたのだー。
記憶を失った状態のままの彩夏は、
窓の外を見つめながら
「わたしの記憶はもう、戻らないんでしょうか?」
と、少し不安そうに呟いたー。
「ーーー戻るといいな」
警察官はそれだけ言うと、病室の外に出るー。
そして、病院の先生に
「彼女の記憶はー」と、確認する。
「ーえぇ…彼女は本当に記憶喪失です。
いくつかの質問をして、脳波や心拍数の反応を見ましたが
嘘をついている感じはありませんー
名前や一部のことしか覚えていない」
病院の先生の言葉に、
警察官は表情を歪めたー
「ではーーーー
彼女はー、いいや、やつ、”毛利”は、
自分が偽物だと自覚もできていない?」
警察官がそう言い放つー。
「ーーーはい、そうです」
病院の先生は、そう答えたー。
病院で目を覚ましー、
自分を”本物”だと思い込んでいる彼女もー
偽物だったー。
彼女は、本物が黒霧工場のアジトで
偽物たちから逃げる際に、
本物の彩夏に腕を振り払われて階段から転落した男・毛利が変身した姿だー。
その際に頭を強打し、記憶を失ったー。
ただ、彩夏の姿に変身していたことから、自分が彩夏だと思い込みー、
通っている大学を把握していたのは、彩夏のことを変身する前に
ある程度調べていたからだー。
そして、黒霧工業の仲間が、
その場から逃げる前に、彼を助けるため救急車を呼び、
ここに運び込まれたー。
その後、仲間の黄川田が迎えにやってきたものの、
記憶を失った毛利ー…”彩夏に変身した毛利”が悲鳴を
上げてしまったため、黄川田は確保されてしまい、
それが黒霧工業の壊滅に繋がったー。
「ーそれで、本物のあの子はー?」
病院の先生が不安そうに確認するー
「本物はもうこの世にいないー。
逮捕した奴らの証言から
奴らのアジトで散々遊ばれた挙句、山中に遺棄したと奴らが言ってるー。」
警察官が悔しそうにそう呟くー。
”本物”は、
偽彩夏の一人を階段で振り払い、転落させたあと、
三人組に囲まれてその場で散々弄ばれた挙句ー、
最後は何とか逃げようとした際に、命まで奪われてしまったー。
もう、”本物”はいないのだー。
今は、警察に発見されるのを、ただただ、動かぬ躯となって待つ身ー。
「ーーーーーーーーー」
病院の医師の部屋を出て、病院から立ち去ろうとする警察官ー。
ふと、彩夏の病室にお見舞いに来ている大学の友人たちの姿を見かけて
大きくため息をつくー。
「ーーー…どうしたもんかなー」
”この子は偽物だ”と、言うべきかどうかー。
本人も記憶を失っていて、取り戻す可能性は薄いと言っているー。
あの子ー…彩夏の家族や友達は、今入院中の彩夏が”本物”だと思っているー。
”こいつは偽物だ”と言って、
誰かが幸せになるのだろうかー。
「ーーいや…でも、言わなきゃならねぇよな」
”自分を本物”だと思い込んでいる”偽物”の彩夏も
いつか記憶を急に取り戻す可能性はあるし、
死んだ本物の彩夏だって、”偽物をわたしの代わりにするなんて”と
きっと、怒るだろうー。
「ーーー…はぁ。厄介な事件だなー」
”ここにいる彩夏は偽物で、本物は既に死んでいる”
そのことを彩夏の家族や友人に伝える時のことを
思い浮かべながら、警察官は大きくため息をつくのだったー。
おわり
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コメント
最終回でした~!☆
「②」までは本物の彩夏視点でしたが、
「③」で病院で目覚めた彩夏は偽物でした~!
廃工場地帯を”あの場所には人が来ないはず”と言っていたり、
警察に黒霧工業のことを妙に詳しく伝えたり、
他の偽物が来た時に上げた悲鳴が「うわああああ」だったり、
ちょっとした怪しい部分が③の中に隠されていましたネ~!
お読み下さりありがとうございました~!☆
コメント
確かに、真実が人を幸せにするとは限らないので、知らない方がいいことってありますよね。
自分の彼女、あるいは妻が、実は自分が出会う前からおっさんに憑依されてたり、皮にされて着られていたりとかみたいな真実なら、いっそ知らないままの方が確実に幸せですからね。
ありがとうございます~!☆
知らないままでも何も不幸にならないなら、
知らない方がいいのかもデス…☆!