<他者変身>わたしだらけの街①~異変~

わたしの住む街は
いつの間にか”わたしだらけ”になってしまったー。

”わたしの姿”で、悪事を働く”偽物のわたし”たちー。

一体この状況はー…
なに?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーまた明日~!」

大学帰りー、
一人暮らしの女子大生・村西 彩夏(むらにし さやか)は、
友達の莉々(りり)と別れると、そのまま一人、
帰り道を歩き始めるー。

いつも通りの、穏やかな日常ー。

”ーーー”
彩夏は、高校卒業後、大学入学を機に実家を出たー。

別に両親と仲が悪かったわけではないしー、
まだ実家にいたい気持ちもあったけれど、
こうして一人暮らしすることで、色々経験しておきたい、ということで
今は一人暮らしを続けているー。

”あ、そうだー”
彩夏は、スーパーの前を通りがかると
”ちょっと買い物しておこうかなー”と、
そろそろ無くなりそうな必要なものを頭の中に思い浮かべながら、
スーパーの店内に入っていくー。

今日の夜に食べるデザートを買って、
必要な日用品と食料品を購入して、
そのままお店を出るー。

一人暮らしともなると、
必要なものも、ちゃんと自分で把握して、
ちゃんと揃えないといけないー。

そういった点も含めて、最初は色々と大変なことばかりだったけれど、
一人暮らしを始めて2年が経過した今では
すっかりと慣れつつあったー

「ーーー…え」
スーパーから出た彩夏は、ふと、反対側の道を歩く女性の姿が
目に入り、少し驚いたような声を出したー。

一瞬”自分”が反対側の道を歩いているような気がしたのだー。

だが、車の通りが多く、車に遮られてすぐにその姿は
見えなくなってしまいー、
次に反対側の歩道が見えた時には、
もう、”わたしそっくりな人”の姿は消えていたー。

「ーーー…」
彩夏は少しだけため息をつくと、
「まぁ、雰囲気の似てる人なんて、たくさんいるもんね」と、
苦笑いするー。

彩夏はよく”可愛い”と言われるー。
自分で自分のことを可愛いと思うほど自惚れてはいないもののー、
友達からも、男子からもよくそう言われるしー、
自分でも容姿にはそれなりに気を使っているためー、
素直に”可愛い”と言われれば嬉しいー。

一方で、友達からはよくネタで”彩夏って”よくいるタイプ”の顔だよね”
などと言われることも多くー、
確かに自分でも”よくいる感じの顔”だとは思うー。

悪く言えば”個性がない”
良く言えば”王道”とでも言えば良いのだろうかー。

だから、よく”雰囲気の似ている子”を見つけることはあるー。

そのためー
今回も”また似てる子がいたー”と、苦笑いしながら
それ以上気にすることはなかったー

しかしーー

「おっとー、危ない危ないー。
 今の”本物”じゃね?」

反対側の歩道を歩いていた
彩夏”そっくり”の女が、そう言いながら
隣を歩いていた男に声をかけるー。

「いやぁ、どうだろうなー?
 既に数十人、その姿を使ってるんだろ?」

男がそう反応すると、
”彩夏そっくりの女”は
「へへー、まぁ、そっかー」と、笑いながら頷くー

「にしても、その子の姿、本当にエロイよなぁ
 今日も、遊ばせてくれよ」

男のそんな言葉に、
彩夏そっくりの女は、笑みを浮かべながら呟いたー

「へへへへー
 姿は違っても、俺は”男”なんだぜー?
 それでもいいなんて、モノ好きだねぇ」

彩夏の姿をした女のそんな言葉に、
男は「でも、今はついてねぇし、胸も完全に女じゃん!」と、
ツッコミを入れるー。

そして、男は笑みを浮かべながら続けたー

「中身が誰であろうと、そんな姿してりゃー、
 いいって男は多いと思うぜ?」

とー。

歩道の反対側を歩いていた
”彩夏そっくりの女”
それがー

”彩夏の姿に変身した男”であることに、
彩夏はまだ、気付いていないー。

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「ーーおはよ~!」

翌日ー
大学にやってくると彩夏の親友の莉々が、
いつものように声をかけてきたー

「あ、おはよ~!」
彩夏もいつも通り返事をするー。

しかし、莉々が笑いながら言葉を口にしたー。

「彩夏の彼氏、カッコよかったじゃん!」
とー。

「え?か、彼氏?なに?」
彩夏が戸惑うような笑みを浮かべながら
そう答えるー。

高校時代に彼氏はいたー。
が、今は既に別れているし、
大学生になってからは、今のところ彼氏はいないー。

「ーーえ~
 そんなとぼけなくたっていいじゃん~!
 昨日、男の人と一緒にいたでしょ?

 それともアレはおにいちゃん!とか、そういうやつ?」

莉々が笑いながら言うー。

「え??え??ちょっとまってー
 何の話?」

莉々の話の意味が全く分からず、彩夏は
混乱するような感じで、そんな言葉を口にしたー。

彩夏のその反応を見た莉々は、
彩夏の反応が予想外だったのか、少し戸惑う様子を見せながら
「昨日…夜、ちょっと背の高い茶髪の男の人と、仲良さそうに歩いてたでしょ?」と、
言葉を続けるー。

「よ、夜ー?何時頃?」
彩夏がそう確認するー

「え~っと、昨日のバイトの帰りだからー
 22時とか、そのぐらいだったはずだけど」

莉々のそんな言葉を聞くと、
彩夏は思わず笑いながら首を横に振ったー

「じゃあ、それ、わたしじゃないよー。
 だって昨日、20時には家に帰ってたしー、
 そのぐらいの時間はお風呂に入ってた気がするしー」

彩夏の言葉に、「えぇ?」と、莉々は逆に驚いて見せるー。

「ーー…」
沈黙する莉々。

そんな莉々を見て、彩夏は
「ほら、わたし”よくいる顔”ってみんなも言うでしょ?
 わたしと似てただけじゃない?」と、笑うー。

だが、莉々はまだ戸惑いの表情を浮かべたままー。

そして、少し考えてから言葉を口にしたー。

「ーーーー似てただけじゃないでしょ?」
とー。

「え?」
彩夏の表情から笑顔が聞こえていくー。

そんな彩夏に莉々は言い放つー。

「ーだって昨日、”喋った”もんー」

「え?」

彩夏はさらに戸惑うー。

莉々は、”昨日の夜、男の人と一緒にいる彩夏”に
話しかけたというのだー。

バイト帰りに偶然、”男の人と一緒にいる彩夏”を見かけて
声をかけたら、反応もしていたし、
”人違い”だとも言われなかったー、と。

「ーー…そ、そんなはずないよー!
 わたし、絶対家にいたし!」

彩夏が混乱しながら
なおも”家にいた”と主張するー。

確実に、自分は家にいたー。
夜の8時過ぎからは、昨日は外には出ていないー。

「ーふ~ん」
莉々が少し不満そうに頷くー。

どうやら莉々は
”彩夏が彼氏の存在を隠そうとして嘘をついている”と
思っているのかもしれないー。

「そ、それ、絶対わたしじゃないから!」
彩夏が釘を刺すように言うと、
莉々は「じゃあ、昨日の彩夏は偽物だってそう言いたいの?
わたしが彩夏、って声をかけたら振り返ったのに?」と、
疑うような口調で言うー。

「ーーだ、だって、わたし、家にいたしー」
彩夏がそう言うと、莉々は「そっか」と、笑いながら頷いたー。

「わかった。もういいよ。
 彼氏のこと隠したいんだね。ごめんね」

莉々が笑いながらそう頷くと、
「あ、ごめん、もう時間だから行くね」と、
そのまま立ち去っていくー

「あ~…もう…」
一人残された彩夏がため息をつくー。

”莉々が拗ねてしまったー”

親友の莉々は、昔からそういう性格で、
時々、拗ねてしまうー。

拗ねると”もういいよ”とか”ごめんね”を連呼して、
半笑いのまま頷く動作を繰り返したり、
ひたすら”悪いのはわたしだから”みたいなことを言い出すー。

一緒にいつもいれば”すぐに”莉々が拗ねたことは分かるー。

「ー拗ねられてもね~…
 わたし、本当に昨日、家に居たし」

彩夏自身も少し不快に思いながら
そう呟くと「あ~…よくいる顔ならではの辛さ」と、
一人でため息をついて、そのまま歩き出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーしかし、いいものが手に入ったなー」

彩夏が住む街ー。
その街はずれの廃工場地帯にアジトを構えている
裏社会で暗躍する犯罪組織、
黒霧工業(こくむこうぎょう)ー。

最近、その黒霧工業の幹部の男があるものを手に入れたー。

それが、他人に変身するためのゴーグルだった。

このゴーグルを装着した状態で、他人の姿を見つめると、
その姿をスキャンすることができ、
いつでもその姿に変身することができるという、
夢のようなアイテムー。

犯罪組織としてはそれほど規模も大きくなく
”弱小”に位置づけられる黒霧工業は、
この”変身ゴーグル”とでも言うべきものを
国際的な犯罪組織から購入し、
それを使い始めたー

狙いは単純だったー。

”他人の姿に変身して悪事を行えば、色々と悪事をやりやすくなる”
と、そんな理由だー。

使い方は簡単ー。

ゴーグルで、変身したい相手の姿をスキャンし、保存することで、
いつでもゴーグルを装着してスイッチを押せば
その相手に変身することができるー。

そして、この犯罪組織の幹部の男が最初にその変身相手に選んだのが
”偶然”街中で見かけた可愛らしい女子大生・彩夏だったー。

彩夏の姿をゴーグルを装着した状態で、遠くから見つめ、スキャンー。
彩夏の姿をゴーグルに保存したー。

これで、あとはいつでも、
このゴーグルを装着してスイッチを押せば、
彩夏の姿に変身することができる。

一度スキャンさえしておけば、スキャンするときに
ゴーグルを装着していた人物以外でも、このゴーグルさえ装着すれば、
いつでも保存した姿に変身することができるー。

既に、黒霧工業の構成員5,6人が”彩夏”に変身して
その辺をウロついている状態だー。

だがーー
黒霧工業にとって、誤算が起きたー。

変身ゴーグルで”一度に保存できる姿”は一人分だけだが、
当初、削除できると聞いていたー。

つまり、保存した”彩夏の姿”を削除すれば
また違う人間の姿を保存し、別の人間に変身できるーー
そのはずだった。

が、国際犯罪組織から受け取った”変身ゴーグル”は不良品で、
保存した姿を削除できず、上書きも出来ない状態になっていて、
”彩夏の姿にしか変身できない”ーそんな事態に陥っていたー。

「くそが!あっちとも連絡がつかねぇ!」
彩夏の姿をした黒霧工業の幹部が苛立ちを露わにするー

「へへー…まぁいいじゃないですか
 この女、誰だか知らないけど、美人だしー
 みんなこいつに変身すればー」
彩夏の姿をした別の構成員が言うと、
さらに別の男ー…彩夏の姿をしたままランニングシャツ姿で
煙草を吸っている男が、笑みを浮かべたー

「ははは、この子にとっちゃ、災難だなー」

不良品を掴まされたことにより、
”彩夏”にしか変身できなくなってしまった
黒霧工業の面々はー、
彩夏の姿で、各地で悪事を働き始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーえ…」

数日後ー。

彩夏は、信じられない光景を目の当たりにしたー

”わたしそっくりの”二人組が歩いていたのだー

”え?今、わたしが歩いてなかったー?”
そんな風に思いながら、彩夏はその二人組が
歩いて行った方向に引き返すー。

「ーー」
その二人組を見つけた彩夏は、
気付かれないように後をついていくー。

一人はポニーテール、
もう一人はツインテールだがー、
聞こえて来る声も”彩夏の声”に似ているー。

「ーー??」
彩夏は混乱しながら、”わたしそっくりの二人組”の
後をついていきー、
大通りに出たところで、二人に気付かれないように、
二人を追い抜いてー、さりげなく少し離れた場所から
振り返ると、
その二人の顔を確認したー

「ーーえっ……」
彩夏は驚くー。

”よくいる顔”と、昔から友達には言われていたし、
確かによくいる顔で”似てる子”を街で見かけることはよくあったー。

しかし、これはーーー

(え…完全にわたしなんだけどー…)

しかも、一人ではなく、二人ー。

”わたしそっくりの女が二人で歩いているー”

そんな状況に、彩夏は混乱しながらー
「え…なに…どうなってるのー…?」
と、その二人に声をかけることもできないままー
困惑の表情を浮かべるのだったー

②へ続く

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コメント

”どんどんわたしが増えていく”
そんな、恐ろしい状況に陥る他者変身モノデス~!

こんな状況になったら、びっくりしちゃいますネ~!

今日もありがとうございました~★!

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