とある大物政治家の息子が
事件を起こしたー。
それを聞いた父は、息子を庇うために
憑依薬を手に入れて、他人の身体で生きていくように言い放つー。
しかし…、美少女になった息子は、そんな父の目論見も無視して、
好き放題を続けるのだった…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー分かった。それはこの前話した通り処理してくれー」
菊池 紀之(きくち のりゆき)は、電話相手に向かって
そう呟いたー。
50代の彼は”大物”と呼ばれる政治家で、
いずれは”総理大臣”になるとも囁かれているほどの実力者だ。
国民に寄り添う姿勢を見せ、
少なくとも”表向き”は、話やすい気さくなおじさん、という感じの彼ー。
しかし、そんな彼もやはり政界という、
策謀渦巻くその世界で生き抜いてくるためにー
それなりに、手を汚して来たし、
若い頃のように、完全にピュアな心を持ったままで
やってくることはできなかったー。
この世の中は、そういう世の中なのだー、と割り切って
ここまで色々なことをしてきたー。
だが、それもあと少しー
ついに”次期総理大臣候補”と世間の一部で言われるところまで
上り詰めたのだー。
がー、そんな彼、紀之には悩みの種があったー。
それがー
現在20代の息子ー、菊池 正信(きくち まさのぶ)の存在だー。
息子の正信は、一言で表現するのであれば”バカ息子”だー。
幼い頃から裕福な家庭で育った正信は、ワガママかつ自分勝手な性格に
育ってしまい、
さらには”俺の親父は菊池紀之だぞ!”と、父親の威光を振りかざすような
そんな息子に育ってしまったー
大学を卒業した今も、遊び歩いていて、
度々問題も起こしているー。
そんな”どうしようもない息子”なのだー。
数か月前には飲酒運転で問題になったし、
先月にも知人に対する暴行事件を起こしているー
だが、その都度、父の紀之は、息子である正信を
”大物政治家”の立場を利用してもみ消しているー。
紀之としても、正信の振る舞いは
苦々しく思っているー。
しかし、どんなバカ息子でも、たった一人の息子ー。
妻も病気で5年ほど前に失くしている今、
彼にとっては、唯一残された大切な存在でもあったのだー。
”政治家としての立場を利用して息子の罪をもみ消す”
そんなことが”正しい”こととは思わないー。
けれど、それでも
”俺の手はもう、とっくに黒く染まっている”と、
”せめて息子だけはー”と、
息子の正信を、これまでずっと庇い続けて来たー。
だがーーー
”親父ー、俺さ、人、殺しちゃったよ”
そんな電話がかかってきたー
「なーー…なに!?
バ、馬鹿な事を言うな!」
思わず声を荒げる紀之ー。
だが、息子の正信は笑いながら
”だってこの女さ、俺が復縁しようって言ってるのに
首を縦に振らないんだよー。仕方ないだろ?”と、
何の罪の意識もなく、そう呟くー
「ーほ、本当に殺したのか?」
呆然とする紀之ー
”悪いのはこいつだし”
息子の正信は”肯定”の言葉を口にしたー
「ーーー…ーーなんてことをー…
なんてことをー」
頭を抱える紀之ー。
”まぁさ、今回も親父が何とかしてくれるんだろ?
俺、友達とこのあとパチンコ行くからさ!頼むぜ?な?”
その言葉に、父・紀之は
”俺は、とんでもないモンスターを育ててしまった”と、
歯ぎしりをするー。
それでも、紀之は”息子を守る方法”を必死に考えたー
”こういうところ”が、
息子の正信を”更なるモンスター”にしてしまったのだろうー。
元々、人間性に大きな問題があった正信ー。
その上、”何をしても親父が守ってくれる”という考えに
到達してしまったのだから、もう、どうすることもできないー。
「ーーーくそっー」
息子の正信を守りたいー。
そんな思いと
”息子”が逮捕されれば
最悪の場合、政治生命は終わりだという
恐怖に駆られるー
「くそっ、くそっーくそっ!」
頭を抱えながらそう呟く紀之ー。
”今回ばかりは”守れそうにないー。
既に、息子が殺した”元カノ”は遺体で発見されて
警察は殺人事件と断定、
捜査を始めているー。
まだ名前は出ていないが
流石に殺人事件ともなればもみ消すのは困難で、
週刊誌などが既に息子の正信がやったことだと
嗅ぎつけているー
「ーー磯島(いそじま)!」
紀之がそう叫ぶと、
秘書の磯島が「はい」と、紀之の方に近付いてくるー。
彼は非常に頭の切れる男だー。
「ーーー息子を守るためにはどうすればいい?
手段は択ばんー。
何か方法を、見つけてくれ」
紀之が憔悴した様子でそう呟くと、
秘書の磯島は少し笑みを浮かべながら
「お任せくださいー」と、頭を下げたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、その翌日ー。
ついに、息子の正信が容疑者として
指名手配されてしまったー。
これで政治家として大きなダメージとなるー。
自分が起こした問題ではないが、
謝罪会見などを繰り返しても、
この火を”鎮火”できるかどうかは分からないー。
その上ー、
息子まで”守れない”ー。
そんな風に思い、気落ちしていると、
秘書の磯島が部屋にやってきて、
机の上に液体の入った容器を置いたー
「これは?」
紀之の言葉に、秘書・磯島は「憑依薬です」と、答えたー。
「ひ、憑依薬?」
紀之が首をかしげると、
磯島は「はい。その名の通り、他人の身体を乗っ取ることができる薬です」と、
説明するー。
昨日、”息子を守る方法を手段を択ばずに探してほしい”と指示された
磯島は一晩でそれを見つけ、手に入れたのだー。
「ーつまり、正信にこれを渡して、正信が他人の身体を奪うことで、
罪に問われるのを回避するー
そういうことか?」
紀之がそう確認すると、磯島は「その通りでございます」と、頭を下げたー。
「ーーーーーー他人の身体を奪うー」
紀之はそう呟くと、立ち上がって窓の外を見つめたー。
そんなことが、許されるはずがないー。
いいやー
”許されない”のは今も同じかー。
今までも息子の罪を何度ももみ消して来たし、
自分自身、上にのし上がるために汚いこともたくさんしたー。
今更、許されるも、許されないも、あるものかー。
「ーーーわかったー…
磯島、お前に任せるー
それを息子に渡してくれ」
紀之がそう言うと、磯島は「かしこまりました」と
頭を下げて、憑依薬を手に
部屋の外へと向かって行ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
息子の”正信”が、変死体として発見された。
警察は自殺であると断定、
父である紀之も、色々と話を聞かれることになったものの、
彼は”真相”を知っていたー。
「では、息子は誰かの身体を奪った、ということだな?」
紀之が確認すると、
磯島は「その通りです」と、答えるー。
磯島が手に入れた”憑依薬”は、使用者を疑似的に”死亡”させることで、
幽体離脱させ、幽霊のような状態にし、
憑依を可能にする、というものー。
それ故に、正信の身体は死亡したものの、
既に正信は別の誰かの身体を乗っ取り、生活しているはずだと、
磯島は言ったー。
「ーーそうかーそれならいい」
紀之はそう呟きながらも
”息子はそのまま死んでしまったのではないか”と
少しだけ不安を覚えたー。
がーーー
それは杞憂であったことを、その日の夜ー、
彼は知ることになったー。
「ー親父」
背後から、女の声がしたー。
紀之が振り返ると、そこに立っていたのは、
制服姿の女子高生だったー
「ーーー…き、きみはー?」
紀之が少し困惑しながら言うと、
「ーーへへへー、俺だよー親父。分かるだろ?」と、
その女子高生が笑みを浮かべながら近づいて来たー。
「ーーな…… ま、まさか、正信ー… お前なのか?」
呆然としながらそう言い放つ紀之ー
すると、目の前にいる女子高生は
「へへーそうだよ」と、笑いながら
「まぁ、今は”藤崎 奈緒美(ふじさき なおみ)”だけどなー」と、
生徒手帳を見せ付けながら、ニヤニヤと笑ったー。
「ーーーま、正信ー…」
紀之が少し戸惑いながら言うー。
どう見ても、息子の正信とはかけ離れた容姿の
この藤崎奈緒美という可愛らしい女子高生。
しかし、その表情には歪んだ笑みを浮かべていてー、
見た目とは不釣り合いな印象を受けるー。
「ーへへへへっ やっぱ親父がいれば俺に怖いモノなんてないぜ」
奈緒美がそう言いながら、自分の胸をニヤニヤとしながら
揉み始めるー
「ーーへへっ おっぱいも揉み放題だしな」
ゲラゲラと笑う奈緒美ー
「ーーーーまさか、奪う身体が女子高生とはー」
紀之は困惑した様子で呟くー。
息子の正信に秘書の磯島を通して”憑依薬”を渡したー。
だが、まさかその息子が乗っ取る身体が女子高生のものとは
思わなかったー。
「てっきりー、男に憑依するものだとー」
紀之がそう言うと、奈緒美はゲラゲラと笑うー
「ははははは!親父ィ、せっかく他人の身体を奪えるんだから
女に決まってるだろ?何考えてんだ?」
奈緒美が面白そうに笑いながら、
「だって、こういう子の身体なら、ほらっ」と、
自分のスカートをめくって面白そうに笑うー
「ーこれで殺人もチャラだし、ホント、最高だぜ!ひははははっ!」
奈緒美の言葉に、紀之は不安を覚えるー
「おい、正信ー…
お前を守ってやることができるのにも、限度があるからなー?
今度は、あまりやりすぎるんじゃないぞ?」
紀之が心底心配そうにそんな言葉を呟くと、
奈緒美は「わかってるって」と、笑いながら手を振ったー
「ーま、今日はとりあえず親父に報告ってことで」
笑みを浮かべる奈緒美ー。
「ーーこれからも、俺が何か困ったら助けてくれよ?」
奈緒美に憑依した正信が、”わざわざ”父親に
報告しに来たのは”このためー”
”誰に”憑依したのかを父・紀之に伝えておかなければ
今後も”もし”何か問題を起こした場合
助けてもらうことができないー。
悪知恵の働く正信はそう考えて
奈緒美を乗っ取ったあとに、こうしてわざわざ挨拶に来たのだー
”俺の新しい身体はこれだ”と、
父親に知らしめることでー、
これからも守ってもらうためにー。
「ーーーーー」
不安そうな表情を浮かべる紀之ー。
「ーーー俺が、お前に憑依薬を渡したのは、
”身体を使い捨て”にするためじゃないからな?」
釘を刺すようにして言うー。
息子の正信が”何か問題を起こしても次の身体に憑依すればいいや”という
歪んだ考えにたどり着いてしまうと、困ってしまうー。
憑依薬なるものがそう何度も何度も手に入るとは思えないし、
仮に手に入ったとしても、色々な身体で問題を起こされれば、
被害者も増えていくし、自分の身も、正信の身も危うくなるー
だがー、そんな言葉を正信は真剣に聞き入れることはなかったー。
「ーーこれからも、わたしが何か問題を起こしたらよろしくね?
おとうさん♡」
可愛らしい声を出しながら、クスッと笑う奈緒美ー。
「ーおい!正信!」
紀之は、そんな息子の姿に危機感を覚えながら叫ぶー。
しかし、奈緒美は振り返ると
「わたしは奈緒美だけど~?」と、クスクス笑いながら
そのまま立ち去って行ったー。
「ーーーーー…正信ー」
呆然とする紀之ー。
”俺は、モンスターを更なるモンスターに進化させてしまったのかもしれないー”
紀之はそんなことを思うー。
正信が小さい頃から、母親は病弱で、
入退院を繰り返していた故にー、
正信は一人でいることが多かったー。
”一人にしてしまってすまない”
そんな想いから、何でも息子の願いを叶え、守って来たー。
妻は5年前に死にー、
正信を守ってやれるのは自分だけー。
そう思ってきたー。
しかし、その結果が、これだー。
紀之は、
悪魔のように微笑む”乗っ取られた奈緒美”のことを思い出しながらー、
呆然とその場に立ち尽くしたー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
とっても不穏な感じですネ~!
この息子に憑依薬を渡してしまうのは
危険なのデス…!
そういえば、今日でゴールデンウィーク最終日ですネ~!
ゆっくり休めた皆様は明日から頑張ってくださいネ~!
GW中もお仕事(学校)だった皆様は
私と一緒に頑張りましょう~☆!
今日もありがとうございました~!
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