憑依して乗っ取った相手を
”とんでもないタイミング”で解放して
その反応を楽しむ男ー。
彼の憑依な日々は、今日も続いていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーえっ…!?えっ!?えっ!?!?えぇっ?!」
大量のレジ袋を持った女が困惑しながらキョロキョロしているー。
買ったのは、高級食材ばかりー
まさに”散財”と言わんばかりの量の高級食材を買い込んだ女が、
自分の買ったものを見て、
困惑の表情を浮かべているー。
「ーーえっ…!?」
自分が出て来たばかりのスーパーのほうを振り返り、
今一度「えっ!?」と、言葉を口にする女ー。
ついつい、買いすぎてしまって、我に返ったー……
と、いうわけではないー。
彼女はたった今まで、”憑依”されていて、
自分の意志ではなく、買い物をさせられていたのだー。
そして今、正気に戻り、
いきなり”高級食材が入ったレジ袋”を両手に抱えて困惑しているー。
「ーーークククククー…
さっきから”えっ”しか言ってないじゃないか、あの女ー」
ニヤニヤしながらそう呟く剛志ー。
”人に憑依して、とんでもないタイミングで正気に戻し”
その反応を楽しむ悪魔のような憑依人・剛志は
今日も、反応を楽しんでいたー
「えっ…!? えっ…!? えっっ!?」
レシートを見て、悲鳴に似た声を上げるー。
さらには財布が空っぽ状態になっているのを見て
「えっ!?」と、もう一度声を上げると、
女はどうしていいのか分からずに混乱しているー。
やがて、スーパーの中に入っていくと、
返品したいと申し出た様子だったが、
何の理由もなく”食料品”を返品するのは難しいー
店員に断られた様子で、
絶望の表情を浮かべながらスーパーから出て来たー
「ーいいツラだ」
剛志は双眼鏡でその様子を見つめながらそう呟くと、
今日も満足そうに自分の家に向かって歩き始めたー。
剛志は、昼間は”普通のサラリーマン”としてちゃんと
働いているー。
そして毎日、仕事帰りに憑依をー
”憑依から解放した瞬間”を見て、楽しむー。
そんな日々を繰り返しているー。
「チッー」
駅のホームで人身事故が起きていることに気付き、
ため息をつくと”まだ電車も動かないみたいだし、
もうひと憑依楽しむかー”と、
部活帰りのような雰囲気の女子高生に憑依したー。
「うっ…」
ピクッと震えて、うめき声を漏らす女子高生ー。
「へへー…よしよし」
身体が意のままに動くようになったことを確認すると、
少女の身体で、剛志は移動を始めるー。
”今度は何をするかー”
そんなことを考えながらー。
「ーーよし」
駅の近くに低価格の理髪店を見つけた少女は
ニヤニヤしながらそのままそのお店に入っていくー。
女子高生は、あまり入らなそうな感じの店だし、
実際入らないとは思うが
お店側が”女性の来店はご遠慮ください”と書いているわけではないー。
利用すること自体は自由のはずだー。
そう思いながら
「わたしの髪、全部切ってください」と、微笑みながら店員に言い放つとー、
店員は「えっ!?!?」と、混乱した表情を浮かべたー。
綺麗な長い黒髪の子ー。
きっと、髪の手入れもちゃんとしているのだろうー。
それを、あえて奪うー。
少女に憑依している剛志は、満面の笑みを浮かべながら
「いいから、切ってくださいー」と、言い放つー。
流石に店員も困惑している様子だったものの、
剛志が少女の身体で「本人がいいって言ってるんですから、気にしないでください」と
何度も言い放つと、
やがて、髪を切り始めたー。
女子高生が入って来ることも珍しそうなこのお店ー。
しかも、その入って来た女子高生が
”わたしの髪を全部切ってください”なんて
言い始めたら、それは驚いて当然だろうー。
「ーーーへへへへ…ヤバい反応が見れそうだぜ」
そんなことを思いながら、
”女子として髪を切られる快感”を、少し味わいー、
笑みを浮かべるー。
彼はーーー
”人を物理的に傷つける行為”以外は何でもするー。
最初は小さな悪戯程度の憑依だったもののー、
最近では、人生を壊すようなことも、平気でしてしまっているー。
先程憑依した主婦っぽい女も、
有り金を全部使ってしまって、生活が破綻するかもしれないしー、
今、ニヤニヤしながら髪を切られているこの少女も、
大変なことになるかもしれないー。
でもー、
剛志は”乗っ取った身体で、物理的に傷つける行為”だけは
絶対にしないようにしていたー。
剛志なりに、良心に呵責というものがあるのだー。
もちろん、今でも人を傷付けていることには変わりはないー。
ただー、
乗っ取った身体で、飛び降りしてその瞬間を見たりー、
乗っ取った身体で、他の人間の命を奪ったり、ということは
したことがなく、
これからも、剛志自身、するつもりは全くなかったー
「ーーこちらで、よろしいでしょうか」
理髪店の店員二人が、戸惑いの表情を浮かべながら、
そのうちの一人が、鏡を手に、髪のなくなった彼女の方に
そう確認するー
「ぷぷっー…」
思わず笑ってしまう少女に憑依した剛志ー。
「ーーあ、すみませんー
最高です!ありがとうございます」
さっきとは別人のような状態になりー、
長かった綺麗な黒髪がバッサリとなくなっているー
そんな状態ー。
当然、普通の子なら泣き叫ぶ自体だがー
憑依されている彼女は嬉しそうにしながら
そのままお店から外に出るー。
”ったくー恨むなら俺じゃなくて人身事故を恨んでくれよ?”
剛志はそんなことを思いながら、少女の身体から抜け出すー。
一昨日も、人身事故に引っかかってうんざりしていた剛志ー。
いや、もちろん、人身事故を起こそうと考えるような人が減る世の中になれば
それが一番いいのかもしれないー。
だが、剛志は正義のヒーローではないし、
そんなことをすることができるような立場の人間ではないー。
人身事故が起きれば、帰宅時間が遅くなるー。
彼にとっては、それだけのことで、
元々そういうことがよく起きるこの駅を通勤に使っている
己の不運を嘆くことしかできなかったー。
「ーいやあああああああああああああああっ!?!?!?」
少女の悲鳴が聞こえるー
正気を取り戻した瞬間にー
髪がなくなっていたら、そりゃまぁ、驚くだろうー。
剛志はそう思いながら
双眼鏡でその子を見つめるー。
ガクガクと震えながら
青ざめて、過呼吸のような状態に陥っているー。
「あららー…想像以上にヤバい反応だな」
剛志はそう思いながら、少し少女に同情するー。
ガクガクと震えて、悲鳴をあげながら、泣き叫ぶー。
周囲がどうしたのかと、慌てた様子で少女に事情を聞くと、
彼女は「か、髪がー…髪が…」と、言いながら泣き叫んだー。
はぁはぁと、パニック状態の息を吐き出しながらー、
騒ぎを聞いた理髪店の店員が出て来てー
事情を説明するー。
だが、通行人は、このお店が何かしたのではないかと疑いだし、
騒動に発展するー。
確かに、”この子が全部切ってくださいと言ったんです”と
お店が言っても、なかなか一般人には
信じがたいことだろうー。
少女は過呼吸を起こして
やがて、救急車が到着するー。
「ーーー」
剛志は、その光景を見つめながら
「ーーいいね」と、軽い調子で言葉を口にしたー。
警察も駆け付けて、
理髪店に事情を聞いているー。
店内にカメラがあれば問題はないだろうが、
あの店もとんだ災難だー。
「ーー今日はいいものが見れたー」
剛志はそんなことを呟きながら、
人身事故による遅延が解消されたことを確認して、
そのまま歩き出したー。
人を物理的に傷つけることはしないー。
ただー、
こういうことは、平気でするー。
剛志によって傷つけられた人間は
毎日毎日、一人以上ずつ、増えているー。
己の欲望を満たすためであればー、
誰が、どうなろうと知ったことではないー。
そんな、彼の憑依はまだまだ、続いていくー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「クククー」
剛志は笑みを浮かべながら
今日の”遊び相手”を物色するー。
”遊び相手”と言っても、
相手の意思など関係ない。
剛志が”こいつと遊ぶ”と決めたら
相手はそれに逆らうことは出来ないし、
拒否権はない。
剛志に憑依されてしまえば、
誰であろうと剛志の意のままに行動してしまうー。
時計を見つめる剛志ー。
まだ、午前中ー。
そう、休日には
毎週、朝から街へ足を運び、
複数の人間で”反応を”楽しむのだー。
「ーまずはあいつー」
剛志がそう言いながら、人目につかない物陰に隠れて
その場で霊体になるー。
剛志が憑依能力を会得するために使った薬は、
一度飲めばいつでも霊体になり、いつでも元に戻ることができるー。
色々試した結果ー
”霊体になった時に持っていたモノ”は、そのまま一緒に霊体になり、
元に戻る時にも、自分の手に持っている状態となる…
そんなことが分かったため、いつも”反応を見るための”
双眼鏡を持ち歩いているー。
「ーーーあんたなんか、大っ嫌い!消えろ!」
早速、仲良しに見えたカップルの女に憑依して、
彼氏に対していきなり暴言を投げつけるー。
相手の彼氏を罵倒し続けて、ついに彼氏があきれ果てて
その場を立ち去ると、女から抜け出しー、
剛志はいつものように、その光景を見つめるー
「ーーえっ!?ちょっと…!待って!」
正気を取り戻した女が、必死に相手の男に
言葉をかけているものの、
男は「もういいから」と言って、そのまま立ち去ろうとしているー
「ははははー…いいねいいね」
剛志は小声でそう呟きながら、
今日も最高の光景を見つめるー。
”憑依”という力は、実に素晴らしいー。
無趣味だった自分に、趣味を与えてくれたー。
この世には、他にも憑依の力を持つ人間がいるかもしれないー。
しかしー、剛志は思うー。
”こんな力の使い方をしているのは”
きっと自分だけだろうとー。
笑みを浮かべながら、
剛志は次のターゲットを物色し始めるー。
「ーーーーさて…次はー」
そう思いながらー、
ふとー、一瞬、何か違和感を感じたー。
そしてーー
「ーーー!?」
剛志がハッとするとー、
自分は、”いつの間にか”
線路の上に立っていたー。
すぐ目の前に、電車の影ー
「ーーえっ!?!?!?!?!?」
剛志は思わず目を見開いたー。
するとー
どこからともなく、声がしたー
”ーあんた、なかなか悪趣味じゃん”
とー。
「ーーなっ…!?」
剛志は困惑するー。
女らしき声が、クスクスと笑うー。
”さっき、駅でカップルがもめてたじゃんー?
あれ、あんただよね?
あんた、急に駅の中で姿を現して
双眼鏡でそのカップルを見てたー。
それを見て、わたし、気づいたのー
あんたも”憑依”できる人なんでしょ?”
女の言葉に、
剛志は「ま、まさかお前もー」
と、呟くー
”ピンポーン…!わたしも、憑依できる人ー。”
女はそこまで言うと、
”あんたは、多分、憑依した人を解放したあとの反応見て
楽しんでるんだよね?”
と、質問口調で呟いたー。
まるで時が静止しているかのような状態で、
言葉を続ける女はー、
続けて”悪魔のような”言葉を囁いたー。
”わたしはねー…
憑依した人間を、自殺させてー、
その瞬間を楽しんでるのー”
クスッと笑う女ー
「ーーー!!!!」
剛志は、目の前に電車が迫っている状態で、
自分が線路に立っている”意味”を理解したー
「まーー…待て…やめー」
剛志が叫ぼうとするー。
女は笑いながら言うー。
”ある時は包丁で自分を刺して”
”ある時は飛び降りて落下する途中で”
”ある時はこうして線路に入って”
”知ってるー?
憑依して乗っ取ってる身体が死んでも、
憑依してる側のわたしは死なないのー。
痛いけどー
死なないー。
それって、すごくないー?
死ぬ瞬間を何度も何度も体験できるの!”
剛志に憑依した女はー
”憑依した相手”を死なせてー
その瞬間を一緒に楽しんでいる狂った女ー。
反応を楽しむだけではなく、”死ぬまで”憑依した状態でー
死ぬ身体と一緒に、痛みを楽しんで、興奮している狂人ー
”電車に当たる瞬間、滅茶苦茶痛いんだよー?
うふっ♡ 興奮しちゃうー”
剛志は、自分の身体が動かないことに怯え、叫ぶー。
「ーーや、やめろ…!ふ、ふざけるなー人の身体を、勝手にー!
やめろ!助けて!助けてくれ!」
剛志は必死に叫んだー。
だが、女は取り合わなかったー。
”ーあんたのそういう反応ー最高…!
これだから、憑依はやめられないー!”
女のそんな言葉に、
剛志は、悟ったー。
”俺は、ここで死ぬー”
とー。
そしてーーー
”上には上がいるー”
”俺より狂ったやつなんて、この世界にはいくらでもいるんだー”
とー。
剛志は、この駅で、度々”人身事故”が起きていた理由を悟ったー。
他の駅に比べても、この駅は特に多かったー。
利用者自体は、そんなに多くない駅にも関わらず、だー。
”あぁ、この狂った女のせいだったんだな”
剛志は諦めに満ちた表情でそう思うとー、
そのまま何も考えられなくなったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ~~~~今日も最高だった♡」
女が、少し離れた場所で霊体から元の姿に戻るとー
興奮した様子で、騒動になっている駅のほうを振り返ったー。
「ー明日は、どんな風に死のうかなぁ…
まぁー、死ぬのはわたしじゃなくて、他人の身体だけど」
女は、そう呟くと、
まるで罪悪感のない様子で、楽しそうに笑いながら
その場を後にしたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
”反応を見る男”は、さらに危険な
”反応を見る女”に葬られてしまいました~…!
恐ろしいですネ~…!
お読み下さりありがとうございました~~!
コメント
大切な髪を滅茶苦茶にされた女の子が気の毒すぎます。人生を壊されたという程ではないとはいえ。
あと、理髪店は妙な悪評が立って、そのうち潰れたりしそうな気がします。そして、店が潰れた元凶に見える女の子に店主が恨みを抱いて恐ろしい事件に発展しそう。
あと、憑依人は因果応報な感じですよね。女の憑依人は危険すぎますけど。
コメントありがとうございます~!
被害を受けた人々は、本当にこれからが大変そうですネ~!…
”反応を見る女”の方は、危険すぎて
もうどうにもならないのデス…!
剛志もヤバいけど
それ以上にヤバいですねっ!
この女よりも
さらに上には上がいそうですね…
危険な憑依人と危険な憑依人の共演…☆!
”反応を見る女”の執筆予定は
今のところはありません~笑