憑依してー
”とんでもないタイミング”で、その相手の身体から抜け出し、
第3者としてその反応を楽しむー。
とてつもなく、悪趣味な、そんな憑依人がいたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーねぇねぇ、わたしとホテルに行かないー?」
男を誘うような派手な格好の女が、
柄の悪い男たちに向かってそんな言葉を投げかけているー。
「ーーお?へへへーなんだお前ー?可愛いじゃんー」
金髪の男が反応すると、横にいた茶髪の男が
「え?マジで言ってんの?」と、笑いながら近づいてくるー
「ふふー…
わたし、男の人とヤリたくてヤリたくてウズウズしてるのー
どう?まとめて相手してあげるけどー」
クスクスと笑う女ー
その顔立ちは真面目そうに見えるのだが、
どうやら中身はそうではないようだー
「へへへへーやべぇやつだなお前」
金髪の男がそう言いながらも、嬉しそうに
一緒にホテルに行く話し合いを始めるー
「ーーふふ、じゃあー
今夜はあんたたちとた~っぷり遊んじゃう♡」
女は嬉しそうにしながら男たちと一緒に歩き出すー。
その時だったー
「うっ…」
女が一瞬ビクッと震えるー。
そしてーーー
少し離れた場所にー、
突然、男が姿を現したー
”急に”
そこに姿を現したのだー。
だが、それに気づいた人間はいないー。
その”急に”姿を現した男も、
自分が急に姿を現せば周囲が騒ぎになることは、
よく、理解しているからだー。
「ーーえっ…!? えっ…
あ…あれ…わたしー?」
少し離れた場所では、さっきまで男たちを自ら誘っていた女が
困惑の声を上げているー。
「ーーえ…な、なにこの格好…!?えっ…?」
戸惑う女に対して、金髪の男が
「へへーどうしたんだよ急に」と、女の腕を掴んで
「早くホテルに行こうぜ」と笑うー
「ほ、ほ、ほてる!?」
女は驚いた様子で叫ぶー。
「ーなんだよー急にどうしたんだよ?」
金髪の男の隣にいた別の男が笑うと、
女は突然悲鳴をあげながらその場から逃げ出すー
「お、おいっ!何だよ急に!?」
金髪の男がその女を追いかけようとするもー
周囲にいた他の通行人に止められて、困惑の表情を浮かべるー
「いや!待ってくれよ!
俺たち、あの女から誘われたんだぜ!?」
金髪の男が必死にそう叫んでいるー。
だがー
周囲はなかなかそれを信じてくれずー、
戸惑いの声をあげるー
「プッ…クク、ククククククー」
そんな様子を、先ほど”急に”姿を現した
スーツ姿の男が、双眼鏡を手に見つめていたー。
「ーーー…はぁー…やめられないなー」
彼の名はー、
福本 剛志(ふくもと つよし)ー
1年ほど前までは”ごく普通”の無趣味なサラリーマンだったー。
年収もそれなりにあり、
残業も少ない企業に就職していたため、
そういった面では不満はなかったものの、
とにかく彼は”趣味”がなかったー。
しかし、1年前ー
そんな彼が”趣味”と出会ってしまったー。
海外出張で、海外の怪しげな市場を訪れた際に
出会ってしまったのだー
”憑依薬”とー。
そこで、怪しげな老人が”憑依”を実演してくれたー。
近くの別の露店の男に憑依してー…と、いう
単純な実演で、
”どうせ事前に二人で打ち合わせして、芝居してるんだろ?”とも
思ったもののー
憑依された側の男の「あれ!?」という反応に、
何だか剛志は興奮してしまったのだー。
そして、剛志はその場で露店の怪しげな老人に現地の言葉で言い放ったー。
「ーーそれを買いたいが、本物かどうか判断できないー
判断するために、今ここで、俺に憑依して貰いたい」
とー。
憑依薬が本物なのかどうか。
それを知るためには”自分自身が憑依される”のが一番手っ取り早いー。
露店の老人は、そんな申し出をしてきた剛志を気に入り、
「面白い男じゃな」と言うと、憑依を剛志の身体で実演したー。
剛志の意識は飛びー、
次の瞬間、2分が経過していたー。
”これは本物だ”
そう確信した剛志は憑依薬を購入しー、
あの時の”実演”のようにー、
”憑依から解放された瞬間”を見ることにはまったー。
今の彼はー
毎日仕事が終わると、”憑依”して、
その身体で色々なことをしー、
”解放”ー。
解放された本人や周囲の反応を少し離れた場所で
見つめながら悦に浸っているー。
彼は、そんな”憑依人”だったー。
最初のうちは本当に、ただ憑依して場所を移動したりー
胸を触った状態で解放したりー
そんな程度の”小さな悪戯”レベルだったー。
しかし、”解放された後の反応”を見ることを
1年間も毎日のように繰り返していた彼は
やがて”刺激”を求めるようになったー。
だんだんと”反応を見るため”にやることが過激になっていったのだー。
今日もそうー。
大学から出て来た女子大生に憑依してー、
過激な服装に着替えて夜の街を徘徊ー
男を誘った直後に解放して、その反応を楽しんでいたー。
「ーーー」
何食わぬ顔で移動する剛志ー
やがてー、
少し移動すると、近くの公園のベンチで
泣いている”さっきまで憑依していた女子大生”がいたー。
いきなり意識が飛んで、
いきなり自分が普段しないような格好をして、
いきなり知らない男を誘った直後ー
なんてことになれば、やはり不安は感じるだろうー。
そう思いながら、剛志がニヤニヤとその様子を見つめるー。
だがー、
剛志は”本人”に声はかけないー
あくまでも彼は”反応を見て楽しむ”男だー。
本人に声をかければ、余計な疑いをもたれる可能性だって
あるわけだから、余計なことはするべきではないー。
「ーーー…」
やがて、女は泣いていても仕方がないと思ったのか
怯えた表情で、帰宅を始めたー。
「ーーククー、今日もいいものが見れた」
そう思いながら、剛志もその場から移動を始めー、
寄り道をすることなく、そのまま帰宅したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー♪~~~~」
バニーガールの格好をして街中を歩く女ー。
周囲がざわめき、周囲の視線が彼女に集まっているー。
そういう場でバニーガールの格好をしているのであればともかくー
彼女が現れたのは、ごく普通の街ー。
街をバニーガールの格好で、モデルのような歩き方をしながら
笑みを浮かべているその女はー
周囲から見れば”異様”だったー。
「ーー(ククククー見られてる見られてるー)」
見られてることに興奮しながら”憑依された女”は
街をバニーガール姿で歩き続けているー。
もちろん、普段はこんなことをする女ではないー。
しかし、剛志に憑依された彼女は、
予めとある場所に隠すように設置しておいたバニーガールの服を回収ー
そのまま駅のトイレでそれに着替えて、
今、街をこうして歩いているー。
元々着ていたスーツはトイレに置いて来たー。
持つのが面倒臭かったからだー
そしてー
街中で彼女を解放するー
「ーーえっ!?!?!?
えっ!?!?
きゃああああああああああああああああっ!?」
悲鳴を上げてパニックに陥る女ー
スーツ姿でー
恐らく帰宅中だったOLが
いきなり街中でバニーガール姿になっていれば
そんな反応も無理はないー。
剛志はいつものように、少し離れた場所で
霊体から元の姿に戻ると、
そのまま双眼鏡で、その様子を見つめたー
恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら
悲鳴を上げて、身体を隠している
バニーガール姿の女ー
「ーーははは、あの驚きぶりー、いいねー
活きがイイー」
剛志はそんなことを呟きながら
パニックに陥っている女と、周囲の反応を見つめるー。
「これだから、この遊びはやめられないー」
生まれてから一度も”趣味”と呼べるような趣味のなかった彼にとって
今のこの趣味は”最高の趣味”だったー。
同じシチュエーションでも、人によって反応は違うし、
シチュエーションを変えれば、当然人によって反応は変わるー。
前にもとんでもない格好で解放したことが何度もあるが、
中には何が起きているのか分からず、首を傾げるような子もいたし、
その場で泣いてしまったり、
夢だと思い込んだのか笑い出すような子もいたー。
「ーーー…な、なんで…わたし…!?
み、見ないでください!」
顔を真っ赤にしながら悲鳴を上げる
バニーガールの女ー
「ーーーへへへ…さっきまでニヤニヤしてたくせにー」
剛志はそんなことを呟きながら、
双眼鏡を手に、その様子を見つめると、
満足そうに、バニーガール姿のOLの混乱する様子を
観察し続けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日も、その翌日も、”憑依して”
とんでもないタイミングでその身体を解放してはー、
その反応を見て、楽しみ続けていたー。
おとといはー
二人組の仲良さそうな女子高生の片方に憑依して、
いきなり相手に喧嘩を売るような発言を繰り返してー、
大喧嘩に発展させたー。
そして喧嘩になったタイミングで解放して、
戸惑うその子の様子を見て、楽しんだー。
正気を取り戻した直後は、謝ったり、
困惑した様子を浮かべていたその子もー
相手から色々言われてやがて怒り出してしまい、
大変なことになったー。
昨日は、憑依した相手の身体で、
トイレに入り、下着だけを脱ぎ捨てて
ノーブラの状態にして、解放したー。
気付いた瞬間の周囲をキョロキョロするような
あの感じは、とてもたまらなかったー。
顔を真っ赤にして、ソワソワした様子も、
またいい感じだったし、そういう些細な反応を見るのも
剛志の楽しみの一つだー。
最初に”この遊び”を始めてから、
彼の行動はどんどん過激になって行ったー。
最初は、ほんの些細な悪戯レベルで、
本人の人生を傷つけるようなことはしなかったー。
しかし、今は違うー。
先日のバニーガールの時なども含めー
時に、”憑依された本人”の人生に傷をつけるようなことも
するようになったー。
バニーガールの格好で街を歩かされたOLは
SNSでも話題になってしまっているしー、
物理的に傷つけられたわけではないものの、
心に大きな傷を負っているだろうー。
そしてー
今日もー
「ーーえいっ!えいっ!えいっ!」
笑いながら女が、購入したばかりと思われる
ブランド品のバッグを地面に叩きつけて、
踏みつぶしているー。
騒然とする周囲ー。
「ーへへへへ…これ高いやつだろ?
買ったばかりの高いものをこうして
滅茶苦茶にするのも、たまんねぇよなぁ」
憑依されている女は、ニヤニヤしながら
そう呟くと、そのブランド品を踏みにじりー
唾を吐き捨てたー。
既に”汚れ”だけではなくー
明らかに”ダメージ品”になってしまったバッグを見て
ニヤニヤと笑うとー、
剛志はその女の身体から離脱しー、
少し離れた場所で実体化して、予め用意していた
双眼鏡でそれを見つめるー
「ーな、な、なにこれ!?!?!?
誰!?!? 誰よ!こんなことしたの!?」
女が叫ぶー。
通行人たちが、女を見て”関わらないように”という風に
慌てて通り過ぎていくー。
女からすれば”誰かにやられた”と思っているのだろうー。
だが、周囲から見れば”自分でバッグを滅茶苦茶にして
一人で切れているヤバい女”でしかないー。
「ーちょ、ちょっと!!
誰がやったの!?」
自分の意識が飛んだことも理解できていないのか、
そう叫ぶ女を見て、
剛志は思わず吹き出してしまうー。
やがてー
その女は、少し離れた場所にある交番にボロボロになった
バッグを手に、”誰かにこんな風にされた”と駆け込んだもののー
交番からも見えていたのか、
その警察官に「ーあなた、自分でやってたじゃないですか」と
失笑されてしまったー
「ーーえっ…そ、そんなことするわけないでしょ!」
女がキレ始めるー
「ーあ、わかった!あんたがわたしのこれ、滅茶苦茶にしたんでしょ!」
あくまでも憑依されていたことを理解していない女は
交番の警官に向かって騒ぎ出すー。
やがてー、交番内で大騒ぎして
警官に取り押さえられてしまった女を見つめながら、
剛志は「あ~あ、バカなやつ」と、他人事のように笑ったー。
そしてー
帰路につき始めるー。
今日の女も含めー、
その後どうなろうが、剛志の知ったことではないー。
あくまでも、剛志が楽しみたいのは
”解放された直後の反応”だ。
その後は、どうでもいいー。
剛志は、今日も1日を終えると
明日は”どんなことをして、反応を見ようか”と、
笑みを浮かべながら、明日のことを考え始めた…
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
シンプルに”憑依直後の反応”を見て
楽しむ男の物語ですネ~!
最後まで反応を堪能するのか、
それとも何かが起きるのかは、
明日のお楽しみデス~!
今日もありがとうございました~!
コメント
この話の憑依人、ずっと前の、見知らぬ地で解放して反応を楽しむ憑依人に近いタイプですね。
こういう話はシンプルに面白いので好きですね~。
ところで、思ったんですけど、憑依じゃなくて、入れ替わりで、相手の反応を見て楽しむ男、みたいな話も面白くなりそうな気がしません?
コメントありがとうございます~!★
置き去り憑依人のお話ですネ~笑
確かに入れ替わりや他のジャンルでやってみるのも
面白そうデス…!!