<入れ替わり>回復魔法が使えません!③~巫女~(完)

魔王との最終決戦の最中に
入れ替わってしまった二人。

思うように相手の身体で力を発揮することが出来ず、
逆転の秘策も失敗。

二人の運命はー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーくそっ… くっ…」
ミレーヌ(レオ)が、勇者の剣を手に、
必死にその力を引き出そうとしているー。

「勇者の剣もー…
 力が引き出せなければー
 ただの剣にすぎぬー」

魔王プルートの蹴りと喰らって、
吹き飛ばされるミレーヌ(レオ)ー。

「ーーレオ!」
反射的に錫杖を手に、レオ(ミレーヌ)が、
回復魔法を唱えようとするー。

だが、やはりー
レオの身体では、そもそも”何も”出ないー。

さっき、ミレーヌの身体で不慣れなレオが、
回復魔法を唱えた際には、
一応、煙のようなものだけは出たー。

がー、レオの身体でミレーヌがそれを唱えても、
ミレーヌ(レオ)以下ー。
そもそも、何も出ないー。

「ーーその杖もー、
 何も魔法が使えないなら、ただの棒だな!」

魔王プルートが衝撃波を繰り出して、レオ(ミレーヌ)を吹き飛ばすー。

「ククククククー
 愉快だー。実に愉快だー。
 これが、我を苦しめて来た勇者と巫女の末路ー」

魔王プルートはそう言いながら、二人に近付きー、
ミレーヌ(レオ)を触手で拘束するー。

「ーどうだー我の”女”になるのなら、命だけは助けてやってもいいぞ?」
ミレーヌ(レオ)を触手で高くに持ちあげながら笑う魔王プルート

「ーこれから先の貴様は、魔王の巫女として
 我を満足させるためだけに、生きるのだ」

魔王プルートのその言葉にー
ミレーヌ(レオ)は、魔王の顔をめがけて唾を吐き捨てたー

「ーーーー…貴様…!」
魔王プルートの表情が、みるみるうちに怒りに染まっていくー

拳を叩きつけー、
触手で、ミレーヌ(レオ)を振り回すと、
そのまま壁に、床に、天井に、ミレーヌ(レオ)を叩きつけて、
ボロボロになったミレーヌ(レオ)を放り投げるー。

「ーーやめて!!!!!!!」
レオ(ミレーヌ)がそう叫ぶも、
魔王プルートは冷たい目でレオ(ミレーヌ)を見つめたー

「だから言ったであろうー?
 諦めて楽に死ぬ選択もある、とー」

魔王プルートはそこまで言うと、
少しだけ笑うー。

「だがもう手遅れだー。
 貴様たちには地獄の苦しみを味わってから、死んでもらうー」

魔王プルートがそう言うと、
レオ(ミレーヌ)は泣きながら、
ボロボロになったミレーヌ(レオ)に近付くー

「俺の顔で、そんなに泣かないでー」
ミレーヌ(レオ)が苦しそうにそう言うと、
レオ(ミレーヌ)は「ごめんー」と、弱弱しく呟くー

「ーーーーーー…」
魔王プルートは悦に浸るように、その光景を見始めるー。
これから死にゆく人間の感動のドラマは尊いー。

その尊いドラマを、圧倒的な力で一気にひねりつぶすのはー、
本当に、本当に、尊いー。
最高の瞬間だー。

「ーーーー…ミレーヌの身体ー…こんなにボロボロにしちゃってー」

弱弱しくボソボソと呟く二人ー。

会話の内容は、全ては聞こえなかったがー
互いに謝罪し合っているようだー。

魔王プルートは、そんな様子を”飽きるまで”見つめてから
二人を殺そうと、笑みを浮かべるー。

「ーーー…」

だがーー

ミレーヌ(レオ)はなおもまだ、諦めていなかったー。

ボソボソと呟きながらー
”わざと”魔王に聞こえる内容は、お互いに謝っているような話をしつつー
”小声で”作戦を練っていたー。

”武器を交換”してもダメだったー。

だからー
”その先”の戦術をミレーヌ(レオ)は思いついたのだー

「ーーーーー」
レオ(ミレーヌ)は静かに頷くとー
「ごめんねー」と、魔王に聞こえるようにわざと呟いたー。

「ーークククク
 素晴らしい演劇だー。」

魔王プルートはまるで敬意を表するかのように拍手をすると、
鋭い声で続けたー

「だが、もう飽きたー。死ね」
とー。

しかしー…

「死ぬのは、お前だー」
ミレーヌ(レオ)が突然立ち上がったー。
ボロボロの、身体でー。

「ーーーー…もう立てるはずがー?」
魔王プルートが少し驚きながら言うとー、
二人の手を見てハッとしたー。

二人が、手を繋ぎながらー
レオ(ミレーヌ)が錫杖を手に、回復魔法を唱えてー
回復魔法を発動していたー。

「ーー!!」
魔王プルートが二人を見つめながら表情を歪めるー。

回復したミレーヌ(レオ)とレオ(ミレーヌ)が、
手を繋ぎながらー、
魔王プルートを見つめるー。

ミレーヌ(レオ)の右手には剣ー。
レオ(ミレーヌ)の左手には錫杖ー。

お互いが手を繋いでいることによってー
ミレーヌの身体が持つ勇者の剣にも、勇者の力がー
レオの身体が持つ巫女の錫杖にも、巫女の力が行きわたったー

「ーーなんだとっ!」
魔王プルートが叫ぶー。

「ーー身体が入れ替わってもー…
 俺たちは、お前になんて負けない」

ミレーヌ(レオ)がそう言い放つとー、
レオ(ミレーヌ)も、「わたしたちは、負けない!」と叫ぶー。

「ーーク…クク…ククククー」
だが、それでも魔王プルートは笑ったー。

「なるほど、なるほどー
 そうして手を繋ぐことで、お互いの力をリンクさせたわけかー。」

魔王プルートはそう言い放つー。

ミレーヌになったレオには、
”魔法”の使い方が分からないー。
だからと言って、剣を握って剣を振るうことはできても、
ミレーヌの身体には勇者の血がないため、その真価を発揮できないー

だったら、手を繋いで、二人の力を、二人でつなげばー

そう考えたのだろうー。

「ーーだが」
魔王プルートは狂気の笑みを浮かべるー

「ー手を繋いだ状態でーー
 戦うことができるとでも思ったか!」
魔王プルートは叫ぶー

そう、手を繋いだ状態のまま戦わなければ
ミレーヌの身体が持つ勇者の剣に、勇者の力は行きわたらないし、
逆もそうー。

戦いの最中に手をつないだままで、倒せるほど
魔王プルートは弱くはないー。

「ー貴様らにふさわしい姿だー
 手を繋いだまま、死ーーーー」

魔王プルートはそこまで叫ぶと、表情を歪めたー。

二人の身体から、これまでに感じたことのない
強大な力が発されているー。

「ーなんだ…それはー」
魔王プルートが、初めて動揺したような声を出すー。

「ーーこれが、俺たちの力だー」
ミレーヌ(レオ)が叫ぶー。

勇者と巫女ー
二人の力が、リンクしたことによって、
これまで以上の強大な力を発し始めたのだー

「ーバ、バカなー!」
魔王プルートは思わずそう叫ぶー

手をつないだままでも、二人は信じられない速さー、
そして、信じられないほど息ピッタリのコンビネーションを見せ付けー、
飛び跳ねたー。

剣と錫杖を、二人で持ちー、
巫女の錫杖が、強大な魔力で、勇者の剣を強化するー。
勇者の剣が、勇者の血筋に反応して、さらにその力をふくらませー

二人はー
魔王プルートの方に向かったー。

「ーーーーーーくっ…この力はー」
魔王プルートは、何か打つ手がないかを考えるー。

だが、もうミレーヌ(レオ)とレオ(ミレーヌ)は眼前にまで迫っていたーーー

「ーーーこれで、終わりだーーーーーー!!!!!」
ミレーヌ(レオ)が叫ぶー。

二人の手で、剣と錫杖を握りしめてー
それを魔王プルートに対してーー

「ーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ミレーヌ(レオ)が、一瞬表情を歪めたー。

そしてーーー
魔王プルートに、勇者の剣が、突き刺さったー

「ーーひっ…ひぃいいいいいいいいいいいいいいぁああああああ!」
悲鳴を上げて、魔王プルートの身体は、
引き裂かれるようにしてーー
消滅したー

「ーーー…!」
レオは、表情を歪めるー

「ーーーあ」
ミレーヌがレオのほうを見つめるー

「ーーか、身体がー」
「も、元に戻ってるー」

二人は、そんな風に呟くと、
お互いの身体を嬉しそうに見つめながら
安堵の表情を浮かべたー。

「ーー魔王が死んだからー…元に戻れたんだねー」
微笑むミレーヌ。

レオは「そうだな」と、頷くー。

魔王が座っていた玉座のほうを見つめるー。
そこに、もう魔王はいないー。

滅び去った魔王の剣は、砕け散りーーー
魔王城を覆っていた邪悪なオーラは、次第に薄れー
やがて、黒雲の隙間から、
太陽の光が差し込み始めたー。

「ーーー…終わったんだねー」

「ーーーあぁ」

レオとミレーヌはそんな会話を交わしながら、
穏やかに微笑んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔王プルートは滅んだー。

魔王の指揮の元、王国の平和を脅かしていた
魔物たちも一時的に撤退し、一応の平和が取り戻されたー。

しかし、王国側の読みは外れたー。

魔王を打ち取れば、魔物たちは戦意を喪失して、
脅威ではなくなるのではないか、と、そう戦術担当の大臣は
考えていたものの、そうはならなかったー

魔物たちはいまだに健在で、一時撤退の構えは見せてはいるものの、
これからも、魔物との戦いは続くのだろうー。

「ーお疲れさま」
ミレーヌが、今日の戦いを終えたレオに優しく微笑みかけるー。

「ーーーありがとう」
レオが、ミレーヌにお礼の言葉を告げて、王宮内の自分の部屋に向かうー。

元々は小さな村の出だった、勇者と巫女ー。
しかし、魔物たちとの戦いで成果を挙げた二人は、
こうして王宮への出入りも許され、
そこで生活しているー

”戦いが終わったら、故郷に帰ろうー”
そんなことを夢見てはいるもののー
それは、もう少し先になりそうだー。

「ーーーーー」
部屋に戻ったレオは、一人、剣の手入れをしながら
”あること”を考えるー

魔王プルートを倒す直前ー
”あのイヤな感覚”がしたー。

そうー
レオとミレーヌが入れ替わった時に感じた
”魂が抜けるような”そんな、感覚だー。

最初は、魔王プルートを倒したことで、
魔王の秘術の効力が消えー、
自分の身体に自分の魂が戻ったことによって
”その感覚がした”のだと、そう思っていたー。

しかしー

”ーーーあれは、魔王に最後の攻撃を叩きこむ直前だったー”
レオは、険しい表情を浮かべるー。

”魔王を倒したことによって”元に戻る時に、
”あの入れ替わった時の何とも言えないイヤな感触”を感じるのであれば
それは理解できるー

だがーーー
戦いに必死で100%そうだったとは言い切れないもののー
”あの入れ替わった時の感触”を感じたのはーー
”魔王プルートに最後の攻撃を叩きこむ直前”だった気がするー

「ーーーーーーーー」

もしー

”もしも”

魔王プルートが、あの秘術とやらを
”もう一度”使っていたとしたらー?

「ーーーーー………いやー…でもー」

”ミレーヌ”は魔王を倒したあとも
”今まで通り”の振る舞いをしているー。

そんなことは、あるはずがないー。

それに、もう一度秘術を使ったとしてもー
入れ替わるのはミレーヌ(レオ)と魔王プルート、
あるいはレオ(ミレーヌ)と魔王プルートだったはずだー。

今、レオはレオ自身の身体で普通に過ごしているから、
「レオ(ミレーヌ)」と「魔王プルート」の入れ替わりは起きていないー。

が、ミレーヌの身体を魔王プルートが使っているとするなら、
起きたのは「ミレーヌ(レオ)」と「魔王プルート」の入れ替わりのはずー

そうなれば今頃は、レオは魔王の身体で死んでいなければおかしいー。

「ーーーーーーそうだよ、あるわけがないよー」

気のせいだー。
レオは自分にそう言い聞かせるー

いやー、
でもー

”入れ替えられる対象が、二人まで”とは限らないー

あの瞬間に、レオをレオの身体に戻し、
魔王プルートがミレーヌの身体を、レオの身体にいたミレーヌを魔王プルートの身体にー

三人同時に入れ替えられる可能性だってなくはないー

それとー

「ーーひっ…ひぃいいいいいいいいいいいいいいぁああああああ!」

魔王プルートの最後の断末魔ー
今、思うと、何か違和感があった気もするー

「ーーーーー…」
レオはそこまで考えると、首を横に振りながら
「いや、考えすぎかー」と、笑うー。

きっと、戦い続きで疲れているんだー。
そう思いながらレオは少し休むか、とベッドの方に向かって歩き出したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー」
ミレーヌは部屋で錫杖の手入れをしながら、
鏡のほうを見つめたー。

「ーーーーーー」
自分の顔をその手で触るとー、
指をペロリと舐めてから、笑みを浮かべるー。

そしてー
錫杖のほうを再び見つめると、
少し乱暴な手つきで、錫杖の手入れを
再び始めるのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

「回復魔法が使えません!」の最終回でした~!

アイ様とのコラボも実現できて、
私にとっても、思い出深い作品になりました~!★

お読み下さった皆様&素敵なイラスト(①に載ってます~)を下さったアイ様、
ありがとうございました~!

コメント

  1. TSマニア より:

    最後の展開は予想してました!

    1話目の時に魔王が自由自在に入れ替えができるので

    殺される寸前にミレーヌと入れ替わって生き延びるなと…

    魔王がこのままおとなしくしてるとは…

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      わわっ!予想的中~!☆!

      確かにこのまま大人しくしているとは思えませんネ~!!

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