<憑依>再会した姉さんが他人だと言い張る③~真相~(完)

数年ぶりに姉と再会したー…

しかし、彼女は”あなたのお姉さんではありません”と言い張り、
その正体は謎のままー。

そして、ついにその真相が明らかにー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

人通りの少ない道の方にどんどん進んでいく智花ー。

昌弘は強い不安を感じながらも、
智花にそのままついていくー。

姉・綾香そっくりの”大橋智花”を名乗る女子大生ー。

彼女は、顔も、声も”姉さん”に見えるしー、
ほくろの位置も同じー。

しかし、口調や振る舞いは確かに違う気がするし、
性格自体は姉の綾香とは似ても似つかないー。

それでも、やっぱり喋っていると
”姉さんと喋ってる”ような、そんな気になってしまうー。

そんな”大橋智花”は、智花と同じ大学に通う
昌弘の高校時代の先輩・赤松先輩によれば、
以前知り合いらしき人物から”冬野さん”と呼ばれていたらしいー

昌弘も色々調べてみたものの、
この近所に”冬野香苗”という同年代の子がいたことー、
そしてその子は大学入学を目前に交通事故に巻き込まれて
寝たきりの状態になってしまい、
それから数年が経過した現在は、既に死亡しているとのことで、
大橋智花と何の関係があるのか、
それとも、この”冬野香苗”と、大橋智花が”冬野さん”と呼ばれていた件は
何も関係がないのかー
そのあたりのことは、結局分からなかったー

「ーーーあ」
昌弘が、不安に駆られたまま歩いていると、
ファミレスが見えて来て、少し安堵するー。

別に智花は、昌弘を人のいない場所におびき寄せて、何かをしよう、とか
そういうことを考えていたわけではなかったのだー。

「ごめんなさいー
 大学の子にはあまり聞かれたくない話なので」
智花は、少し離れたこの場所に、昌弘を連れて来た理由を
そう説明すると、そのまま店内に入ったー。

店内に入り、着席すると、智花はデザートだけを注文し、
昌弘には「あ、どうぞーお好きなものを」と、注文を促したー。

昌弘は緊張しながら、ドリンクとパスタを注文すると、
そのまま智花のほうを見つめたー。

「ーーまずー
 わたしはあなたのお姉さんではありませんー
 それは、以前お話した通りですー」

智花がそう言い放つー。

「ーー…そ、そうですかー」
昌弘が少し悲しそうにそう呟くー。

”姉さんが、家族と関わるのがイヤで、他人のフリをしている”
そんな可能性も考えていたのだが、
やはり、それは違うのかもしれないー。

「ーでも、わたしは”大橋智花”でもありませんー。」
智花がそう言いながら首を横に振るー

「え…」
昌弘がそう言うと、智花は少し暗い表情で昌弘のほうを見つめたー

「ーわたしは
 ”名前”と”中身”と”身体”ー
 そのすべてが”違う”んですー」

智花の言葉に、昌弘は「そ、それはどういうー…」と、聞き返すー。

「さっき、あなたはわたしのことを”冬野香苗”と呼びましたよねー?

 ーーどこまであなたがわたしのことを知っているのかは
 分かりませんが、
 確かにわたしは”冬野香苗”ですー。
 数年前に交通事故に遭って、それから寝たきりだった
 冬野香苗ー。
 それが、わたしですー」

智花がそう言うと、昌弘は首を傾げながら
「ーあ、あなたは冬野さんで、何らかの事情で
 大橋智花という偽名を名乗っている、と、そういうことですか?」と
昌弘は聞き返すー。

しかし、智花は「それは少し違いますー」と、否定してから
気まずそうに言葉を口にしたー。

「ーわたしは冬野香苗ー
 でも、”今の名前”は大橋智花ー
 そして、”身体”はーーー」

智花がそう言うと、ひと呼吸おいてから、言葉を続けたー。

「”身体”は、あなたのお姉さんのー…山浦 綾香さんですー」
智花の言葉に、
昌弘は「えっ…!?!?!?えっー!?」と、
届いたパスタを食べる手も止めて、スイーツを口に運ぶ
智花を見つめたー。

「ーーーい、意味が分からないー…
 や、やっぱ姉さんってことー!?」
昌弘は思わず敬語で話すのをやめて、そう言い放つと、
智花は「落ち着いて下さいー」と、言葉を口にしてからー、
「ーわたしは、お姉さんじゃないんですー」と、再度、
自分は姉ではないと否定しながらー、
「ーーわたしはー……あなたのお姉さんの身体を
 結果的に奪ってしまったんですー」
と、自分の手を動かしながら言葉を口にしたー。

ピクッと手が震えるー。

「ーーー?」
昌弘もそれに気づくと、智花は少しだけ笑ったー

「ーー…あなたとこの前会ってからー時々ー
 こうなるんですー
 たぶん、あなたのお姉さんの意識が反応してるのかとー」

智花はそこまで言うと、
混乱する昌弘に対して、”全てをお話します”と、
言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数年前ー
交通事故に遭って昏睡状態に陥った冬野香苗ー。

ちょうど、その頃、昌弘の姉・綾香も実家を出て
一人暮らしを開始していたー。

この時点では二人に何の接点もなかったー。

だがー、決して表には出来ない
ある”禁忌の技術”が使われたー。

それがーーー
”病気や事故で昏睡状態に陥った人間を
 他人の身体で蘇生させる”ー

つまり、昏睡状態の人間を他人の身体に憑依させて
行動可能の状態にするー
そういう、”決して表にはできないこと”が、
この世では秘密裏に行われているのだー。

昏睡状態に陥った香苗の両親は、
悲しみに暮れるあまり、どうにか方法はないか、と探しているうちにー
この”憑依で他人の身体を使うことで、昏睡状態から回復させる”という
方法にたどり着いてしまったー。

政府とも繋がるとある機関が研究・運用しているこの技術はー
決して”表”に出すことは出来ない闇。

本来の目的は
”要人や、優秀な人材に何かあった時のために、
 他人の身体を奪い、蘇生するためのもの”とされているものの、
一般人でも、多額の金を払えば、利用することができるのだー。

香苗は裕福な家庭でー、
昏睡状態に陥った娘・香苗を何とか助けようと、
多額の金をこの機関に支払いー、
娘の”憑依先”をどうにか用意してほしいと頼み込んだー。

その結果ー、
昏睡状態だった香苗は、昌弘の姉である綾香の身体に憑依ー、
綾香の身体で意識を取り戻しー、
その機関から”大橋智花”という偽りの名を与えられて、
今に至るのだと言うー。

その機関は政府とも繋がっているため、
”新しい名前と住民登録”を作り、それを発行することもできるようだー。

「中身は”冬野香苗” 身体はあなたのお姉さんの”山浦綾香”ー
 そして、名前はあの機関から与えられた”大橋智花”ー
 それが、今のわたしですー」

智花は悲しそうに言うー。

こんな話、誰も信じやしないー。
そのため、その機関は、別に智花をはじめとする、
この技術を使った人間に”周囲に言わないように”とは言っていないようだー。

証拠がなければ、普通の人はそんな話は信じないー。

赤松先輩が目撃した、智花のことを”冬野さん”と呼んでいた二人は
冬野香苗が事故に遭う前に、大親友だった二人で、
香苗の家族以外にこのことを知る、数少ない人間だったようだー。

元々昏睡状態だった”香苗”の身体は
昌弘の姉・綾香に香苗が憑依したあと
”抜け殻”となったことで、程なくして死亡ー、
香苗はもう、自分の身体を失っている状態だー。

「ーいや、でも、待ってくださいー」
昌弘が口を挟むー

「そういうものが、あることは理解しましたー
 でも、何で、冬野さんー…いや、大橋さんの方で呼べばいいのかなー?

 その、…大橋さんが憑依した身体が、姉さんの身体なんですかー?」

困惑する昌弘ー。
どうして”憑依先”が姉さんなのかー

今の話からでは、それが分からないー。

元々、冬野香苗と姉さんに接点などなかったはずだー。
知り合いや家族が憑依対象に選ばれるなら分かるー。

だが、何の接点もない相手が勝手に憑依対象に選ばれて憑依されるー
なんてことは流石にないはずー。

「ーーーーーー」
智花は”詳しい事情は分かりません”としたうえで言葉を続けるー。

確かに、彼女は事故で昏睡状態になり、
気付いた時には、綾香に憑依した状態になっていたのだから
綾香を選ばれた事情を詳しく知らないのも無理はないー。

だがーー

「ー”売られた”のだと思いますー」

「ー売られた?」
昌弘が困惑するー。

「ーーはいー。
 ”身体”は、主に犯罪を犯した人や、孤児ー、
 あとはー…”家族に売られた人間”で
 賄っているー、と、そう聞きましたー」

「ーそれは、どういうー?」
昌弘が聞き返すー。

「ーーその機関に”身体”を売ると、
 多額の報酬を貰えるんですー

 言い方は悪いですが、
 いらなくなったものを売るー
 それと同じ感じですー。

 だからー、あなたのお姉さんはー
 誰かに”売られた”んだと思いますー」

智花がそう呟くー

目の前にいるのは”姉さん”ーーー
姉さんの身体なのにー
中身は姉さんじゃないー

そんな事実に辛い思いをしながら、
昌弘は、困惑の表情を浮かべるー。

「ーもちろん、他人が他人を売ることはできませんー。
 あなたのお姉さんをその機関に売って、
 お金を貰える人間ー

 それはー」

智花がそこまで言うと、昌弘は青ざめながら、
その意味を察したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日ー

昌弘は実家に足を運んでいたー。

父・拓真と、母・由紀恵が表情を歪めるー。

「ー姉さんを、”売った”のか?」
昌弘が言うと、
拓真と由紀恵は顔を見合わせて、
表情を曇らせるー。

そしてーーー
由紀恵が口を開いたー

「ーだ、だってー
 仕方がなかったのー
 
 ”綾香”の身体を提供すればー
 お金がー、お金がー」

由紀恵の言葉に、昌弘は呆然としたー。

確かに、実家はお金に困っていたー。

それは知っているー。

父・拓真が事故に遭ってから
仕事もあまりできなくなってしまい、
家計はとても苦しかったー。

だがーーー

「ーーあんな反抗的なやつは、娘じゃないー。
 売ってお金にするのは当然だろうがー」

父・拓真が言うー。

昔から横暴な態度の父。
姉も、昌弘もこの父が原因で早く家を出ているー。

姉・”綾香”の身体を”売却”したのは、
両親だったー。
お金に困り果てた両親は
色々探しているうちに、
”子供の身体を提供する、莫大な報酬を貰える”
その研究機関の存在に気付いたー。

”他人に憑依される身体”を提供すると
提供した身体に応じて、数千万、数億円の報酬を貰えるのだー。

そしてー
両親は決断した。

”綾香”を提供するとー。
綾香が一人暮らしを始める直前、まだ住民票上、親と同居している状態の
タイミングで、両親は”綾香”を売却したー。

その結果、一人暮らしを始めた直後の姉・綾香の元に
その機関の人間たちがやってきて、綾香はそのまま連れ去られてー、
研究機関の”憑依する用の身体”とされてしまったー

そして、機関側が
香苗の両親から”新しい身体が欲しい”と
金を積まれて、
香苗と年齢が同じだったことから、香苗の新しい身体として
綾香が憑依先として選ばれー、
香苗は綾香に憑依した状態となったー。

「ーー母さんも、知ってたのかー?」
昌弘がそう言うと、
母・由紀恵は、気まずそうな表情で頷いたー。

姉・綾香と音信不通になってからも母・由紀恵は
確かにあまり心配する素振りは見せていなかったー

”わたしたちと関わらず、元気で生きて行ってくれればそれでいい”と、
いつもそう言っていて、これまでは昌弘もそれを信じていたー。

少し前に、母親に姉・綾香の大学を聞いた時、
答えてくれなかったのも、”姉さんはもう他人に身体を使われている”から
だったのだろうー。

聞けば、両親は
娘である綾香の身体を”提供”したあとのことは知らず、
”冬野香苗”という子に憑依されて”大橋智花”という偽名で生きていることまでは
知らなかったようだー。

だから、この前電話でその二つの名前を出しても
母は無反応だったのだろうー。

「ーーーーーー」
昌弘は拳をぎゅっと握りしめたー。

「ーーもう、話すことはないよー」

両親には失望したー。
それだけー。

父・拓真には元々失望していたけれどー、
まさか母・由紀恵までそんな考えの持ち主だったとはー。

「ーだって、こうでもしないと生活できなかったから!」
母・由紀恵が昌弘の背中に向かって叫ぶー。

だが、昌弘はもう返事をすることなく、
そのまま親と会うことはなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日ー

「ーーーあ…」
”姉さん”の身体で大橋智花を名乗る、冬野香苗ー。

彼女の前に再び姿を現した昌弘は、
彼女に言葉をかけたー。

「ーーーあの……お姉さんの身体を勝手に使ってー…そのー」
智花は申し訳なさそうにそう呟くー

けれどー
昌弘は静かに笑ったー

「ーー大橋さんは、何も悪くないですー。
 だからー、姉さんの身体を、大事にしてあげてください」

昌弘は、そう言い放ったー。

色々思うところはあるし、
姉さんとまた会いたい気持ちもあるー。

でもー
少なくともこの”冬野香苗”という子は、事故で昏睡状態になり、
香苗の両親が勝手に、”新しい身体に憑依させる”という方法を思いつき、
目を覚ました時には姉さんー綾香の身体に憑依していた状態だったわけだからー、
この人には、何の罪もないー。

と、昌弘はそう考えたー。

まさか、”姉さんの身体から出ていけ”と言う気にもなれなかったー
そんなことができるのかどうかも分からないし、
香苗に”死ね”と言っているようなものだー。

「ーーーでもー…」
なおも、申し訳なさそうな智花ー。

「ーーそんな顔しないでくださいー」
昌弘はそれだけ言うと、”姉の身体”を使っている彼女に対して、
穏やかな口調で言葉を投げかけたー。

「ーー姉さんの身体を大事にしてくれそうな人が、
 中身で、良かったですー」

とー。

そして、頭を下げると昌弘はそのまま立ち去っていくー。

「ーー姉さんー」
昌弘は空を見上げながら寂しそうに呟くー。

「ーー俺…姉さんに何もしてあげられなかったー…
 ごめんなー」

昌弘はそんな言葉を呟きながら、
静かに自宅に向かって歩き始めたー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

最終回でした~!☆

身体は大切な人なのに、中身はそうじゃない人と
話をする人の気持ち…

一度味わってみたいデス~笑

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    娘の身体を売り払う両親とか、最悪すぎますね。しかも開き直ってるとか、あり得ません。

    全てを奪われることになった綾香は気の毒というしかないですが、欲望丸出しのおじさんみたいなろくでもない相手に憑依されなかったのはせめてもの慰めですかね?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆
      恐ろしい両親ですネ~…!

      憑依した子自体は、何も悪意がなさそうなのは
      救いデス…!

  2. TSマニア より:

    昌弘と姉さんと香苗がかわいそうですね( ;∀;)

    今の日本政府のどうしようもない連中ばかりだしお金に物言わせるので本当にこういう機関ありそうですね!泣

    • 無名 より:

      いつもありがとうございます~!☆☆

      実は身の回りに既に憑依されている人が…!?
      ぶるぶるぶるぶる…!

      • TSマニア より:

        誰が憑依されてるか((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

        っていうか

        自分もちむちゃんのカラダを人生を奪おうとしてました笑

        自分の場合は意図的にというか計画的にというか悪意しかないですね笑