<憑依>再会した姉さんが他人だと言い張る②~不穏~

”「ーでも、わたしはあなたのお姉さんじゃないんですー」”

再会した”姉らしき人物”からそう言われてしまった
弟の昌弘ー。

”智花”を名乗るその女性ー。
しかし、どうしても昌弘には、彼女が”姉の綾香”に見えてしまうー。

果たして、その真相は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーーーーー」
帰宅した智花はため息をつくー。

”姉さんー”
帰宅中に声をかけられたことを思い出すー。

「ーーーーーーーーーーー……」
智花は、少しだけ表情を曇らせると、
ピクッと震えた右手を見つめるー。

「ーーーー……そうー」
智花はそんな右手の反応を見つめながら呟くとー

「やっぱりーーーー」

と、静かに何かを呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あれは…本当に姉さんじゃないのかー…」
智花を名乗るあの女性はー、
本当に姉の綾香ではないのだろうかー。

見た目もー、声も、ほくろの位置もー
姉の綾香そのものであるように思えたー。

違うのは仕草や喋り方ー
それに学生証と保険証と生年月日ー。

学生証と保険証には確かに
”大橋 智花”と書かれていたし、
生年月日も、姉・綾香とは異なっていたー
同じなのは生まれた西暦だけで、月も日も違うー。

「ーーーどうだった?久しぶりの再会はー?」
友人の勝義が、ぼーっとしていた昌弘を見かけて声をかけるー。

昨日から1日明けて、翌日になった今日ー
大学にやってきても、昌弘はずっと姉・綾香のことを考えていたー。

考えられることは3つ。

一つは”本当に他人であること”
もう一つは”家族と縁を切りたくて他人のフリをしている”ことー
最後はーーー”記憶喪失など、特殊な事例”

「ー…ん?あぁ、なんかー違う人だったみたいでー」
昌弘が勝義にそう返事をすると、
「はぁ?マジかよー」と、勝義が困惑した様子で声を上げるー。

「でもさー」
昌弘は少しだけ悲しそうな目で勝義のほうを見つめると
「とても、”別人”には思えないんだー」と、
ほくろの位置の話など、昨日、感じたことを素直に打ち明けたー。

「ーじゃあ、やっぱお姉さんなんじゃね?」
勝義が言うー。

「いや、でも学生証と保険証は別人のものだったー
 保険証はともかく、学生証は顔写真つきだったし」

昌弘がそう返すー。

「ーーーはは、そっかそっかー
 でも、それならどうしても気になるなら手がかりがあるじゃねぇか」

勝義の言葉に、昌弘は「ん?」と、勝義のほうを見つめるー

「”学生証”みたんだろ?
 だったらそのお姉さんかもしれない人がどこの大学に通っているかは
 分かったわけだ」

その言葉に、昌弘は「あ……確かに…」と、呟くー。

”姉さんかもしれない人と再会した”ことで、
色々な感情がごちゃ混ぜになっていたが、
確かに”智花”を名乗るあの女子大生の通う大学は、
昨日、学生証を見せてもらった時に覚えているー。

「ーーーありがとな、勝義ー
 今度、何かおごるよ」

そんなことを言いながら、昌弘は少しだけ笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

”智花”を名乗るあの女性が通っている大学の前にやってきた昌弘ー。

だがー…
ここで、ふと昌弘は表情を歪めたー。

「ーーーーーーこのあと、どうすればいいんだー?」
思わず、自虐的に笑みを浮かべてしまうー。

智花がここに通っているというのであれば
智花本人と会うことはできるだろうー。
しかし、智花本人に”姉さん!”と、これ以上聞いても無駄な気がするー。

仮に智花が姉の綾香が”とぼけているだけ”なら
何度も繰り返し、声をかければいつかは認めてくれるかもしれないが
全くの別人だった場合や記憶喪失などイレギュラーな事態が起きている場合、
最悪の場合は通報されてしまうー。

かと言って、他の子にいきなり
「大橋智花さんについて聞きたいのですが」なんて声をかければ
それこそ不審者だろうー。

「ーー……」
少し考えてから、昌弘はため息を吐きだして
「やっぱ、帰るかー」と、帰ろうとするー。

だが、その時だったー。

「ーあれ?山浦じゃん」

聞き覚えのある声が聞こえて、昌弘がバッと振り返るとー

「ーーあ…!!赤松(あかまつ)先輩!」
と、嬉しそうに声を発したー

赤松 宗司(あかまつ そうじ)ー。
高校時代の先輩で、昌弘が所属していた
卓球部で、いろいろ良くしてもらった先輩だー。

1学年上の赤松先輩は先に卒業して、
それ以降はほとんど連絡を取る機会はなかったもののー、
まさか、この大学に通っていたとはー

「ーーーどうしたんだ?
 まさかこの大学に転入してきたとか?」

赤松先輩の言葉に、昌弘は「いえー、そうではないんですけどー」と
少し苦笑いをするー。

「ははー、じゃあまさか俺に会いに来たとか?」
冗談をよく口にする赤松先輩は相変わらずだったー

「ーそうだと言ったらどうします?」
昌弘も冗談を返すと、赤松先輩は「はははー飯でも食いに行くか?」と、
笑いながら時計を見つめたー。

昌弘からしても、赤松先輩との再会は嬉しかったしー、
それにーー
”智花のことを聞くチャンス”でもあるー。

そう思いながら、一緒に近くのファミレスに入店したー。

近況についてお互いに雑談を交わす二人ー。

そしてー

「そういや、何で正門前にいたんだ?
 なんか用があったんだろ?」

と、赤松先輩が聞いて来たタイミングで、
昌弘は”本題”を口にしたー。

「実はーーー」

今までの事情を隠さず、全て説明する昌弘。
別に、隠さなければいけないようなことはないし、
家庭環境のことで、高校在学中に相談したこともあるため、
赤松先輩は昌弘のことをある程度理解しているー。

「なるほどー
 大橋さんが、姉さんに似ている、と、そういうことかー」

赤松先輩はそう呟くと、
「ーー大橋さんのことは、俺もある程度は知ってるよー」と、
言葉を口にしたー。

赤松先輩の彼女が美術系のサークルに所属していて、
”大橋 智花”も、そのサークルに所属している関係でー、
彼女を通じて知り合い、話をしたこともあるのだというー。

「美術…ですかー」
姉は絵を描いたり、そういうのは苦手だったはずだー。
やっぱ別人かー、と思いながらも、
赤松先輩の話をそのまま聞き続けるー。

「ー彼女は、確か最初は別の大学に通っててー
 転入してきた子だった気がするなー」

赤松先輩がそう呟くー。

「転入ー…」
昌弘は表情を歪めるー

姉の進学した大学は知らないー。
実家と縁を切りたかった姉は母親にしか進学する大学を教えておらず、
母親も、それを語ろうとはしないー。

だが、今の大学に”大橋智花”が転入してきたというのであれば
その際に名前や経歴を偽っている可能性もー…
そんなことはできるのか分からないけれど、あるのかもしれないー。

「ーーー」

日常的な振る舞いはとても真面目であることー
家族については聞いたことがない、ということー
彼氏はとりあえずいないらしい、ということー

色々な日常的なことを聞かされるー。
だが、それでは”姉・綾香”=”大橋智花”なのかどうかは分からないー。

「ーーーあ、そういえば」
赤松先輩が注文したドリアを口に運びながら
思い出したように言うー。

「一度だけ「冬野さん」って呼ばれてたことがあったなー」

「はい?」
昌弘は困惑しながら、そう聞き返すー。

「ーあぁー。
 正門の前で、たぶん、昔の友達か何か何だと思うけど、
 見たことのない二人と 大橋さんが話してた時さー、

 女の子の一人が、大橋さんのこと、”冬野さん”って、呼んでたー。

 その時にーー
 ”その名前で呼ばないで”とか、なんとか言ってたようなー」

赤松先輩は”まぁ、うろ覚えだけど”と、言葉を付け加えたー。

「ーーーーー…冬野ー…」
昌弘はますます混乱するー

姉の名前は”山浦 綾香”だー。
そして、”姉さんに似たあの子”は”大橋 智花”と名乗ったー

だが、その大橋智花を”冬野さん”と呼ぶ子がいたー、となると
さらに訳が分からないー。

「ーーこれも、うろ覚えだから、確実じゃないんだけどなー
 確か、そん時、もう一人が、”かなちゃん”がこんなことになるなんてー
 とか、相手が言ってた気がするー」

それが本当ならー
”ふゆの かな”という名前が浮上するー。

だが、全く意味が分からないー

大橋智花が
昌弘の姉ー山浦綾香の名前ーー
そう、例えば”山浦さん”とか”綾香ちゃん”と呼ばれて否定していた光景ならともかくー
”ふゆのさん” ”かなちゃん”とはどういうことなのだろうかー。

「ーーー山浦さんとか、綾香ちゃん…ではなかったですか?」
昌弘が念のため確認するー

「いやぁー……確か…冬野とか、かなちゃんとか、そんな感じだったはずだけどなぁ」
赤松先輩はそれだけ言うと、
それ以上は特に覚えていることはない、と言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”ふゆの かな”

そんな名前が手掛かりになるかもしれないー。
そう思いながら、その名前を調べる昌弘ー。

そしてーーー
調べに、調べ通した挙句ー。
”同年代”のそれらしき人物を発見したー。

”冬野 香苗(ふゆの かなえ)”

赤松先輩が聞き間違えたのかー
”かなえ”のあだ名が”かなちゃん”だったのか、分からないがー、
関係してそうな人間を見つけたのだー。

”共通点”が不自然なほどに多いのだー

まず、その子は、
姉・綾香と同年代ー。
しかも、高校時代に”美術コンテスト”での優勝経験がありー、
ポニーテールの髪型の優しい感じの子だったー。

”大橋 智花”とはまるで別人のような顔だが、
共通点は確かに多いー。

しかし、その子はー
数年前、大学入学を目前に交通事故に巻き込まれて
”寝たきりの状態”になっている、というネットニュースも見つけたー。

”美術コンテスト優勝の冬野 香苗さんがー”という見出しで
少し話題になったようだー。

「ーーー」
昌弘は、そんな”冬野 香苗”のことを調べていくー。

しかし、調べていくうちに”冬野香苗”は既に死亡していることが判明し、
入院していたという病院にも、もう彼女の姿はなかったー。

結局ー。
冬野香苗が、何なのか。、
姉さんそっくりの大橋智花は姉さんなのか、そうではないのか、
何の情報を得ることもできなかったー。

「ーーー母さんー、姉さんってどこの大学に通ってるんだ?」

”ーーそれはー”

数日後ー
今度は、姉の綾香が通っている大学をダメ元で実家の母親に
確認してみたー。

しかしー、
姉から口止めされているのか、
やはり、母は姉・綾香が通っている大学の名前を
口にすることはなかったー。

姉の綾香が通っている大学を確認することができればー、
そこに姉・綾香が今も通っていることを確認できればー

それならば、”姉・綾香”と”大橋智花”は別人であることが確定するー。

しかしー、姉の姿が確認できない以上、
どうしても、大橋智花=姉さんなのではないか、とそう思ってしまうー。

「ーーじゃあ、母さんー
 ”大橋智花”って知ってるー?」

昌弘は、母に聞いても仕方がないだろうー、
と思いつつ、そう確認するー。

だがーー…
母の反応は薄かったー

”誰?”
という感じだー。

「ーーははー…ごめんごめんー
 じゃあ、”冬野香苗”って知ってるー?」

そう聞いてみたが、やはり反応は薄かったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

昌弘は、”智花を名乗る姉そっくりの女性”が通う大学の前に
再びやってきていたー。

大学から、友達と一緒に智花が出て来るー。

「ーーー!」
智花は、昌弘に気付くとー
困惑したような表情を浮かべて、友達に何かを告げると、
”先に帰っていて”と、でも言ったのだろうかー。
友達と別れて昌弘の方に近付いて来たー。

「ーこんにちは」
智花は穏やかな笑みを浮かべつつも、少し不安そうだったー。

「ーーーー」
昌弘は迷った挙句、智花のことを揺さぶる目的で、
こう言い放ったー。

赤松先輩によれば、以前智花は
同年代の子から”冬野さん” ”かなちゃん”と呼ばれて
”その名前で呼ばないで”と言っていたのだと言うー。

そもそも、”冬野香苗”なる人物と、この智花が
何の関係があるのかも分からないー。

だがー
分からなくも、揺さぶりをかけられればー、
それでいいー

「ーー冬野香苗さんー?」
昌弘がそう言うと、
智花は露骨に表情を歪めたー。

明らかにー
何かを知っている顔だったー。

「ーーーーー今、お時間ありますか?」
智花が暗い表情で、昌弘にそう言い放つー

「え…?あ、あぁ、はいー」
昌弘が戸惑いながら言うと、
「ーここだと”わたしも困る”ので、場所を変えませんか?」と、
智花が少しだけ微笑みながら言うー。

その微笑みが、少し怖いようなー
そんな気がしつつも、
昌弘はそれに応じ、智花と共に移動を始めたー

③へ続く

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コメント

何が起きているのか、
”憑依”はどの部分なのか、
それは明日の最終回のお楽しみデス~!☆

今日もありがとうございました~!

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