<憑依>再会した姉さんが他人だと言い張る①~再会~

彼の家庭は荒れていたー。

横暴な態度の父親が
家族に暴力を振るうことも日常茶飯事だったからだー。

そんな家から、高校卒業と同時に家を出た姉。

弟である彼は、その姉と数年ぶりの再会を果たしたものの…?

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山浦 昌弘(やまうら まさひろ)は、
今年から大学生ー。

一人暮らしを始めたアパートで、
安堵のため息を吐きだしたー。

”やっと、あの家から出ることができたー”

昌弘は、静寂に包まれた狭いアパートの一室で
何度も何度も、安心したような表情で息を吐き出すー

「は~~~~~~~…」

”家で心の底からのリラックス”を堪能しているのは
何年振りだろうかー。

いいや、人生で初めてかもしれないー。

それもそのはずー、
昌弘の父親・拓真(たくま)は、
家族に対して横暴な振る舞いを繰り返し、
時には暴力も振るうような、最低な男だったー。
酔ってなくても、そういう態度だし、
酒が入ればさらにそれがエスカレートするー。

まさに、地獄のような空間だったー。

母である由紀恵(ゆきえ)は、
何度も何度も子供たちに謝罪の言葉を
小さいときから繰り返していたー。

父と母は、学生時代からの同級生だったようで、
元々はとても仲良しだったようなのだがー、
仕事中に事故で生死の境をさ迷ってから
父・拓真は変わってしまったのだと言うー。

最も、昌弘自身がまだ学校に通いだす前の話だから、
昌弘からしてみればそんな”優しかった父”の記憶は
ほとんどないー。

事故で、頭を強く打ち付けた父・拓真は
それ以降、人が変わってしまったのだー。

しかし、そんな事情があるとは言え、
昌弘と姉の綾香(あやか)からしてみれば
地獄でしかなかったー

”昔”はどうあれ、
”今の父”は、ああなのだからー。

それ故に、小さい頃は優しい笑顔が魅力的だった
姉の綾香も、高校に入ってからは荒れて、
ギャルのようになってしまい、
父親と喧嘩ばかりしていたー。

そんな姉・綾香は3年前に高校を卒業すると同時に
家を出て、”どこで暮らすのか”も告げずに
家族の前から姿を消したー。

ギャルになってからも、弟の昌弘のことだけは
可愛がってくれていたものの、
家を出て最初の1週間に何回か、心配する連絡が
届いたっきり、何の連絡もなくなり、
それから3年が過ぎたー。

そして、今ー
昌弘も晴れて高校を卒業ー
こうして、一人暮らしを始めていたのだったー。

”母さんのことは心配だけどなー”
昌弘はそんなことを思いながらも、
一人暮らしを始めたー。

あの父親を、母一人に任せることは
正直、とても申し訳ないと思うー。

でも、母・由紀恵は言ったー。

”わたしは大丈夫だからー
 何も気にせず、好きなように人生を送ってー”

とー。

母があの父と別れない理由は、
直接は聞いたことはないー。

けれど、恐らくはー
”事故に遭う前の父”は、優しかったのだろうー。
今の父ー、
つまり”事故に遭った後の父”は、父の本当の姿ではないのだろうー。

昔の父を知っているからこそ、母・由紀恵は
あんな風になってしまった父・拓真に寄り添うことを
決意しているのかもしれないー。

だが、それが母の決めたことなのであれば、
昌弘は、力になれることは全力で支えつつも
”別れたほうがいいよ”と、言うことはできなかったー。

「ーーまぁーようやく、俺の人生、スタートって感じだよな」
昌弘は少しだけため息をつきながら
部屋の中を見回すー。

何を買おうかー
何を置こうかー
どんな部屋にしようかー。

色々やることはあっても、
充実した日々だったー。

やがてー、
大学生活にも慣れて来て、
春が間もなく終わろうとしていた日のことだったー

「ーーーえっ!?!?」
大学の友達・勝義(かつよし)と一緒に歩いていた
昌弘は思わず声を上げたー

「ーな、なんだよいきなりー!?」
急に大きな音がすると、いつも驚く勝義がそう言うと、
昌弘は、少し離れた場所を歩く女性を見つめていたー。

「ーーん?何?知り合い?」
勝義が昌弘にそんな声をかけるー

「ーーー」
だが、昌弘は少し離れた場所を歩くその人を
見つめたまま、呆然としているー。

「ーーえ??え??な、なんだよー
 一目ぼれ?」
返事がないことに戸惑いながら勝義がそう言うと、
昌弘はようやく返事をしたー

「ね…姉さんー…?」

いやー、その言葉は勝義に対する返事では
なかったのかもしれない。

勝義が「姉さん?」と、聞き返すと、
昌弘は勝義のほうを見て
「ーほら、前に実家を出た姉さんの話しただろ?」と、
ようやく事情を説明し始めたー

そして、事情を説明し終えると、
少し離れた場所で、友達と思われる女性と
話をしている”姉らしき人物”を見つめたまま、
”本当に姉さんだよな?”と言わんばかりの表情を
昌弘は浮かべていたー。

それもそのはずー
姉が実家を出た際には
姉の綾香は”典型的なギャル”のような風貌だったー

しかし、今、視線の先にいるのはー
黒髪のポニーテールに、穏やかな雰囲気の眼鏡をかけた女性ー。

だが、それでもー
弟の昌弘が見間違えることはないー。

あの表情ー
あの声ー
あれはー、姉さんだと確信するー

数年の間に、また昔のように真面目な雰囲気に
イメージチェンジした、ということなのだろうー。

そう思っていると、姉らしき人物が友達と手を振りながら
別れて、一人になって歩き出したー。

話しかけるには、絶好のチャンスだー。

「勝義ー、悪いー。」
昌弘が申し訳なさそうに、姉に話しかけに行こうとしながらそう言うと、
勝義は「お、おぅ、じゃあなー」と、戸惑った様子で手をあげたー。

勝義と別れた昌弘は、姉らしき人物に近付いていきー、
そして、ついに声をかけたー

「あ、あの…!」
昌弘がそう叫ぶと、
「え…?」と、振り返る”姉・綾香らしき人物”

振り返ったその顔はー
やっぱり、”姉さん”そのものだったー

ギャルだった姉さんが”普通”の感じに戻っていて
その上、最後に会ってから3年以上経過しているため、
大分雰囲気は違うー。

それでも、確実に姉の綾香だー。

昌弘は、そう確信して嬉しそうに声を発するー

「姉さんー…やっぱり、姉さんだー」
とー。

「ーーえ?」
綾香らしき人物は、もう一度そんな風に声を発したー。

「ーーーあ、急にごめんー
 姉さんー俺だよー、
 弟の昌弘ー」

昌弘がそれだけ言うと、
綾香らしき人物は困惑した表情を浮かべながら
言葉を返すー

「え…あ、あのー…すみませんー
 どちら様ですか?」
とー。

「ーえ…えぇっ…?」
昌弘は困惑しながらも、
”いつ姉と再会してもいいように”と
学生証の中に挟んでおいた
”自分と綾香の写真”を見せるー

しかし、それでも綾香らしき人物は
戸惑いの表情を浮かべながらー
「ーあの…申し訳ありませんが、
 人違いだと思いますー」と、
少しだけ洗うと、綾香らしき人物が学生証を鞄から取り出したー。

姉が大学生になり、家を出たのが3年前。
そのまま順調に進んでいれば、今年からは大学4年生になっているはずで、
やはり、綾香と一致しているー。

しかしー

「ーーー!」
その学生証には、大橋 智花(おおはし ともか)と、
書かれていたー

昌弘は”やべっ!”と、途端に顔を真っ赤にして
「ご、ご、ごめんなさいー」と、慌てて頭を下げたー。

この世界には、似ている人間が必ず何人かはいる、とか何とか、
そんな話を聞いたことがある気がする。

とにかく、学生証まで別の名前だということは、
綾香ではないのだろうー。

そう思いながら、必死に頭を下げていると、
智花は笑いながら
「いえいえー、大丈夫ですよー」と、優しく言葉をかけてくれたー。

「本当にすみませんー
 3年前に実家を出てから音信不通の姉に
 とっても似ていたものでー…」

昌弘がそう言うと、
智花は「そうだったんですねー」と、穏やかな口調で
言葉を発したー

”ーーーーーー”

でもー
やっぱり、話せば話すほど”姉さんの声”であるように思えるー。

智花が少しだけ心配した様子で、
姉である”綾香”のことを聞いてくるー

昌弘は、”姉さん”のことを説明したー。
とても優しい性格であったことー、
家庭環境が原因で高校時代からは荒れてしまったことー、
それでも、そうなってからも弟である自分のことは
可愛がってくれていたことー。

大学に進学するのを機に、実家を出て、
それ以降は音信不通であることー

「ーそうですかー」
智花は穏やかな口調で頷くと、
昌弘は、そんな智花のほうを見つめるー。

”昔の姉さん”に雰囲気…と言えば良いのだろうか。
オーラのようなものがとても似ているー。

もちろんギャルになる前ー
中学生時代の綾香と、今、目の前にいる智花という女子大生では
年齢も全く違うー。

けれどー”ギャルになる前の姉さん”の面影を
とても、強く感じるー。

「ーーーー……お姉さんはー」
智花がふと口を開くー。

「連絡が無くても、きっとお姉さんは今でも、
 あなたのこと、心配してると思いますよー」

智花がにこっと笑うー。

一瞬”姉さんー”と言いそうになってしまったー
目の前で微笑んでいる彼女が、姉の綾香に思えて仕方がないー。

けれどー
学生証の名前も違う以上、人違いだー。
この人は、”姉さん”じゃないー。

そう思いながら、昌弘が
「あ、呼び止めてしまってすみませんでしたー」と
改めて謝罪の言葉を口にすると、
「いえ」と、智花は首を横に振ったー。

「ーーーお姉さん、見つかるといいですねー」
智花はそう言いながらも、何だか今度は
少し戸惑うような表情を浮かべると、
そのまま頭を下げて昌弘に背を向けたー

「ーーーー…!?」
昌弘は、背を向けた智花を見てドキッとしたー。

首筋に”姉さん”にもあった”ほくろ”があったのだー
見間違えるわけがないー
全く、同じ位置にー

「ね、姉さんー…?」
思わず声を上げてしまう昌弘ー

「えっ…?」
智花が振り返るー。

「ーーあ、ーーーー…」
昌弘は、”姉さん、だよなー?”と言いたくなる気持ちを
ギリギリのところで抑えるー。
偽名で大学の学生証を手に入れることは
カンタンではないはずだー。

そしてー、
”ギリギリ”の言葉を口にしたー。

「ーー姉さんと同じ位置に、ほくろがあったので、ついー」
昌弘は遠回しに”姉さんだよな?”と、言いたげな、
そんな言葉を吐き出すー。

もしも、目の前にいるこの女子大生が”姉さん”なら、
遠回しに指摘されていることは伝わると思うし、
”本当に姉さんじゃない”なら、
「そうなのですねー」で、終わることだー

「ーーーーーー」
智花は少し戸惑った様子で首筋のあたりに手を触れるとー、
「ーーごめんなさいー」と、だけ口にしたー。

「ーでも、わたしはあなたのお姉さんじゃないんですー」
智花はそう言うと、戸惑った様子で、
さっき見せて来た学生証ではなく、
”保険証”を取り出して昌弘にそれを提示したー。

そこに書かれていた名前はー
”大橋 智花”で、生年月日は、姉と生まれた年は同じだが
誕生日が違ったー

ここまで偽造できるはずがないー。
名前を変えることはできたとしても、
生年月日まで変えることはそう簡単ではないはずだー。

「ーーーー…ですよねー…すみません」
昌弘がそう言い放つと、
智花は今一度頭を下げて、そのまま立ち去って行ったー

「ーーーー…」
昌弘はそんな智花の後ろ姿を見つめるー。

”姉さんじゃないー”
そうは思いつつもー、
どうしても、あの人が”姉さん”のように思えるー。

「ー姉さんに会いたくて、おかしくなってるのかな、俺ー」
自虐的に笑う昌弘ー。

だがー
昌弘はその日の夜、
帰宅してからも、どうしてもあの人のことが頭から抜けずー、
そして、どうしてもあの人が”姉さん”のように思えて
仕方がなかったー

②へ続く

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コメント

まだ、何が”憑依”なのか、
これから”憑依”が起きるのか、ハッキリ分かっていませんが、
これ以上はネタバレしそうなので、まだ言えません~☆!

次回以降を見て下さい~☆と、だけ…!

今日もお読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. TSマニア より:

    父親は事故の時に…勝手に予想してますっ!

    姉さんは謎ですっ!

    続きも楽しみにしてますっ!

    姉さぁぁぁあ~んっ!笑

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