<入れ替わり>1年で定年退職します②~遊び放題~

定年を迎えた部長と入れ替わり、
”入社1年目”だけで、定年後の人生を堪能することになった
”とにかく働きたくないOL”の彼女ー。

しかしー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「やった~~~!今日から遊び放題!」

笹岡部長の家に入って来た
笹岡部長(由香里)は、
嬉しそうに、部屋ではしゃぎまわるー。

60代の男性とは思えないぐらいに
きゃっきゃっしながら、しばらくはしゃぐと、
家の中を見回すー

笹岡部長はこの歳まで独身だったため、家族はいないー。
もし、笹岡部長に家族がいたら
笹岡部長の方も入れ替わりを持ちかけて来なかったかもしれないし、
仮に入れ替わりを提案されても
「え?でも部長?ご家族いますよね?」となったかもしれないー。

流石に”笹岡部長のフリをしながら家族と過ごす”のは
難易度が高すぎるー。

しかし、笹岡部長は独身ー
だからこうして、家の中ではどんな振る舞いをしていても
気付かれることはないー。

「部長、結構広い家に住んでたんだね~…
 しかも、うわっ!すごっ!」

笹岡部長から手渡された預金通帳を見て
思わず笑みを浮かべる笹岡部長(由香里)ー

これなら一生遊んで暮らせるだろうし、
しかも退職金もあるし、年金も貰えるようになる。
もはや、笑いが止まらないー。

「ーーーー」
ふと、鏡を見つめる笹岡部長(由香里)ー

「う~ん……まぁ、見た目ぐらいは我慢しないとー」
笹岡部長が”嫌い”というわけではないー。
容姿も”年齢なりに”普通で、汚いとか、そういうことでもない。

けど、20代の由香里からしてみれば
いきなり”自分が60代のおじさん”の見た目になるのは
流石に少し抵抗があったー。

「ーーあ、部長が悪いって意味じゃないですから!」
つい、鏡に映る笹岡部長にそんな言い訳をしてしまう由香里ー

「ってー…今はわたしなんだったー」
苦笑いしながら再び周囲を見渡すー

「う~ん…ちょっとニオイが気になるー」
笹岡部長(由香里)は、そんな言葉を口にするー

”自分の家”のニオイとは違うー。
それに、笹岡部長の身体のニオイも、自分とは違うー

「くさっ…」
”ごめんなさい”と思いつつも、
笹岡部長の身体は”由香里と比べると”ちょっと臭く感じたー

「加齢臭……ってやつ?」
少しイヤそうな顔をしながらも「早めにお風呂入ろっと」と、
思いつつ、さらに部屋を見渡したー

笹岡部長の部屋は清潔感はあり、
全体的に丁寧なレイアウトだー。
こういう点は好感が持てるー

ただー
「わたし好みじゃないからーわたし好みに色々変えていかないとねー
 部長もわたしの部屋を色々変えると思うしー」
由香里から見れば色々好みとは違うー。

少しずつ、”新しいわたし”となる笹岡部長の身体も、
笹岡部長の家も模様替えしていこうー

そんなことを思いつつ、笹岡部長(由香里)は
「まずはおっふろ~!」と言いながら、そのまま浴室の方へと向かったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「石沢(いしざわ)、ちょっといいか?」

”由香里”として仕事をしていた由香里(笹岡部長)は、
部下の石沢のことをそんな風に呼んでしまい、
すぐに”あっ!”と、声を上げたー。

呼ばれた男性社員の石沢が驚いた様子で口を開いたまま由香里(笹岡部長)のほうを見つめるー
周囲の他の社員も、同様に驚いたような表情を浮かべていたー。

当の由香里(笹岡部長)自身も、”やっちまった”と、いう表情だー。

そう、”笹岡部長”としての癖が出てしまって
いつものように石沢のことを呼んでしまったのだー

がー、
自分の口から出たのは由香里の可愛らしい声ー
それにすぐに笹岡部長自身も気づき”あっ!”と、声を上げてしまったのだー

”まずいまずいーあんまり普段の癖が出ると
 変な子だと思われちまうー”
笹岡部長は内心でそんなことを思うとー
「ーーな、なんか部長がいないと寂しいな~って思ったのでー
 えへ…うふふふふふふ♡」
と、誤魔化す言葉を口にしながら、着席するー

”部長がいなくなって寂しいから部長の物まねをしちゃいました”
という体で、なんとか誤魔化すー

だが、笑い方も滅茶苦茶不自然で、
「絶対、周囲からおかしな目で見られてそうだなー」と、
ため息をつくー。

”由香里”としてなりすますことは、
それほど難しいことではなかったー

と、言うのも笹岡部長はこの1年間、部下として由香里のことを
見てきたわけだから、
”他の社員との接し方”は分かっているし、仕事態度や受け答え
そういったことも理解はしているー

由香里に”先輩社員とこっそり恋愛関係だった”とか、
そんな秘密でもない限り、周囲が多少違和感を抱くことはあっても、
問題なく過ごすことができるだろう。
仕事自体は、由香里の何十倍も長くこの仕事をやっているわけだから
問題なくこなすことができるー。

逆に”いきなり由香里が天才女子社員”にならないように
気を付けるぐらいだー。

(にしても、OLの制服ってなんか落ち着かないなー
 胸もそうだし、胸のところに下着つけてるのも落ち着かないなー
 なんかかゆくなるっていうか、気になるー)

そんなことを思いながらも
”明日からノーブラで出社するかー?いや、さすがにそれはまずいかー”
などと色々なことを考える由香里(笹岡部長)ー

そうこうしているうちにー
”笹岡部長”の後任である”平間部長”がオフィスに入って来たー

「どうも、平間、ですー」
少しうさん臭そうな雰囲気の、ネチネチした感じが漂う部長だー。

”平間ー”
笹岡部長は、この平間部長のことも当然知っているー。
違う部署を渡り歩いてきたため共に仕事をしたことはないが、
”ちょっと面倒なやつ”と言う認識だー

「よろしくお願いしますー」
社員たちが、平間部長に挨拶をし、そのまま仕事が続行されるー。

だがーーー、
お昼すぎー
コピー機を使っていた由香里(笹岡部長)の近くに
平間部長がやってきたその時だったー

「ーーこれは失敬ー」
平間部長がどさくさに紛れて由香里(笹岡部長)のお尻のあたりに手を触れたー

ゾワッと、悪寒が走るー

由香里(笹岡部長)は、咄嗟に”おい!”と叫びそうになったものの、
”俺はもうOLなんだ”と思いとどまり、苦笑いを浮かべながら
平間部長の近くから離れたー

”くそっ!なんだあいつはー
 セクハラするようなやつなのかー?

 俺が俺だったらガツンと言ってやるのにー”

”笹岡部長”の立場なら、平間部長にガツンと言えたー
だが、今の自分は入社1年目の由香里だー。
ガツンと言うのは難しいー

「ーーーー」

それにしても、お尻を触られた時のゾワッという感じは
想像以上にー…

”由香里の身体”の影響かー
それとも、自分自身が嫌な感情を受けただけかー。
どちらなのかは分からなかったものの、とにかく”嫌な”感触だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した由香里(笹岡部長)は
「やっぱー可愛い感じの部屋だな」と、苦笑しつつも、
着替えにドキドキして、
トイレにドキドキして、
お風呂にドキドキしてー
大変な1日を過ごしたー

そしてー、
夜にはいつものように仕事帰りのビールを飲んだところー
想像以上に由香里の身体が酔ってしまいー、
そのままソファーでだらしのない格好を晒したまま
眠ってしまったー

翌朝ー、
”あぁ、お酒に強い弱いも、身体によって違うんだなー”と、
昨夜の状態を反省し、そのまま仕事へと向かったー。

二人はー
入れ替わったままそれぞれの生活を堪能したー。

笹岡部長になった由香里は
”定年退職ライフ”を堪能しー
好きな漫画を読み漁ったり、
好きなスイーツを食べあさったり、
好きなアイドルのグッズを買い漁ったりしてー
”充実した趣味ライフ”を送ったー

ただ一つ、”おしゃれ”を楽しむことができなくなったのは
残念だったものの、贅沢は言ってられないー

部屋もすっかりモデルチェンジして、
”わたし色”の、笹岡部長と、笹岡部長の家を順調に作り上げていたー

一方、由香里になった笹岡部長は、
由香里の髪は伸ばしたままにすることを決意して、
色々なおしゃれを堪能したー。
休日になると、”自分の身体では楽しめなかった”
女子としてのおしゃれを色々してみたり、
逆に色々戸惑ったりしながら生活を続けるー。

”なんかこうー色々大変だな”というのが
笹岡部長の感想だったー。

朝、仕事に向かうにも”男”だったとは自分とは違い、
色々準備が面倒臭いー。
最初はそれもドキドキして楽しかったけれども、
自分が由香里として過ごす時間が増えれば増えるほど
それが”当たり前”になってきて、そのドキドキは薄れて来るー。

どんなことでも、同じことを繰り返せば”新鮮味”は失われるー。
他人と入れ替わってもそれは同じことで、
”由香里の身体”にも慣れて来て、次第に新鮮味は失われていたー

”宮森の身体を使っている”という感覚が、
だんだんと”わたしの身体”という感覚になっていくー。

もちろん、自分が自分であったことを忘れるようなことは
ないけれど、外でいつも”わたし、わたし”ばかり言っていると
だんだん”俺”が”わたし”になっていくのを感じるー。

「ーでも、やっぱ髪は長い方が好みなんだよなぁ…」
髪を見つめながら呟く由香里(笹岡部長)ー。

正直、髪は長いと色々面倒臭いところはあるー。
でも、何となくバッサリと切るのは勿体ない気がして、
元の由香里の髪の長さをそのまま維持しているー。

「ーー……それはそうとー」
由香里(笹岡部長)は、少し表情を曇らせるー

どうして、自分が定年退職を迎えた身体を
由香里に明け渡したのかー。

”老後に備えてたっぷりと貯金”もしてきたし、
老後の生活を何十年も夢見続けて来たー。

ようやく定年退職を迎えた自分が、
何故、由香里に身体を明け渡したのかー。

それは、下心からではないー。
もちろん、由香里の身体になったからにはー
そういうお楽しみも多少はするー。

だがー、別に相手は男でもよかったー。

由香里を選んだ理由は単に
普段から”定年退職したい!”と言っていて
入れ替わりの話を持ち掛ければ性格的にも
”引き受けてくれる可能性が一番高い”相手だと思ったからだー

「ーー”そろそろ”かー」
由香里(笹岡部長)は、そう呟くと険しい表情を浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

笹岡部長(由香里)は、
今日も好きなアイドルグループのグッズを大量に買い込んで
満面の笑みを浮かべていたー。

「お金が有り余ってる~!
 時間も有り余ってる~~!」

イケメンのグッズを抱え込んで
嬉しそうににこにこしている定年を迎えたおじさんの姿に
街行く人々は少し困惑するー。

帰宅して、趣味を堪能する笹岡部長(由香里)

だが、最近少し気になることがあるー。

何だか”風邪を引いたような”そんな漠然とした体調不良が
続いているのだー。
とりあえず市販の風邪薬を購入したけれど、
その症状が落ち着く様子はなく、
日に日に悪化しているのを感じるー。

それでも、動くことには支障のないレベルでー
笹岡部長(由香里)は、それほど深くは気にしていなかったー。

しかし、その数日後ー、
笹岡部長(由香里)はアイドルのライブのブルーレイを見ている最中に
急激に体調が悪くなるのを感じたー

「ーえ…なんか…やばっ…」
真っ青になりながら、少し耐えたものの、
限界を感じて、スマホに手を伸ばすー

がー、
救急車を呼ぼうと119に電話をかけた直後ー、
猛烈な吐き気のようなものを感じてー
その場で吐血してしまったー

”えっ…!?”
身体中の激痛と驚き、そして、すっと意識が抜けていくのが分かったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”残念ですがー、あなたはあとーー”

「ーーーー…」

”余命宣告”を受けた時のことを思い出しながら、
由香里になった笹岡部長は、シャワーを浴びていたー

長い髪を洗いー、
男だった頃よりもお風呂が楽しい気持ちと、面倒な気持ちー
その両方を味わいつつ、鏡を見つめるー

「ー誰だって、死にたくないからなー
 悪く思うなよー…宮森ー」

由香里(笹岡部長)は、そう呟くと、
この世からも間もなく”退職”する自分の身体のことを思いながら
静かに髪を洗い流したー

③へ続く

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コメント

次回が最終回デス~!

入れ替わりの話に乗るときは
相手の状況を良く調べてからじゃないと
危険ですネ~笑

今日もありがとうございました~!

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