”美人局(つつもたせ)”に引っかかってしまったおじさん。
柄の悪い男たちに囲まれてしまい、
暴力を受け、散々な目に遭った彼は
”憑依”で復讐を決意するー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーありがとうございます。お礼にお食事でもどうですか?」
道端で困っていた若い女性を助けたー。
”下心”が、全くなかったと言えば嘘になるかもしれないー。
”綺麗な人を助けたことで、何か良いことがあるかもしれない”
ぐらいの下心はあったー。
もちろん、もう30代後半で”おじさん”と親戚の子からも
呼ばれてしまうぐらいの年齢になった自分が、
こんな、20前後ぐらいに見える若い子と付き合えるなどとは
思っていないし、悪さをするつもりもないー。
だが、こういう子を助けることで、ちょっといいことがあるかもしれない、
ぐらいの下心があったのは事実だー。
街中で”大事なお守りを落としてしまった”という彼女ー
道端で何かを探している様子だったために、
親切と、ほんのわずかな下心から、彼女のことを助けたー。
結果30分ほどで落とし物は見つかり、
彼女から感謝されて、お礼に食事に、と、誘われた…
それが、今の状況だったー。
「ーー…いや、でも、ただ探し物を手伝っただけですし、
そんなお礼までされるほどではー」
探し物を手伝った男、倉山 幸助(くらやま こうすけ)が、
そんな言葉を口にするー。
本当は、こういうお礼をちょっとだけ期待して探し物を
手伝ったのは事実だったし、
すぐに飛びつきたいところだったが、
”いかにもお礼を待ってました!”みたいな態度を取ることは気が引けて
幸助は遠慮する姿勢を見せたー。
しかし、相手の女性は、”本当に助かりましたし、せめて簡単なお礼だけでも”と、
食い下がって来たー。
幸助は内心でガッツポーズをするー
「そ、そこまで言うのでしたらー…お言葉に甘えて」
こうして、幸助は”お礼なんていいですよ”と言いつつも
相手から言われて仕方がなく…みたいな雰囲気を演出することに成功したのだったー。
「ーわたし、この先に美味しいデザートが食べられるお店を
知ってるんですー
甘いモノとかは、大丈夫ですか?」
そんな彼女の言葉に、幸助は「あぁ、はいー。甘いモノも好きですよ」と
笑みを浮かべながら頷いたー。
「あ、すみませんー。自己紹介がまだでしたねー
こんなにお世話になっているのに、ごめんなさいー」
彼女はそう言うと、梨奈(りな)と名乗ったー。
幸助も、自己紹介を済ませると、
梨奈は「じゃあ、案内しますー」と、微笑んで歩き出したー
長い黒髪に、優しそうで真面目な雰囲気を持つ彼女ー。
学生時代に一度だけ彼女がいたことはあるものの
恋愛経験に乏しい幸助はすっかり彼女のことを
気に入ってしまっていたー。
とは言え、食事を終えたあとには、特に何もするつもりはないし、
それだけで満足だー。
突然彼女をホテルに誘ったりするようなことは
死んでもするつもりはないし、
連絡先の交換なども求めるつもりはないー。
ただ、こうして”少しだけ接点を持つことができた”というだけで
満足だったし、幸助の下心とは、こういう小さな見返りを
ほんのちょっと期待した程度の、些細な下心だー。
決して悪さをしよう、というワケではないー。
”こんな可愛い子と食事できるなんてー
それだけで幸せだ”
そんなことを思いながら、
梨奈の後ろをついていく幸助。
だが、梨奈はどんどん人通りの少ない裏路地のような場所に
向かっていき、周囲に人影は無くなって行ったー。
やがて、梨奈は空き地のような場所で立ち止まるー
「こんなところに、お店が…?」
少し不安になった幸助がそう尋ねると、
振り返った梨奈はー
先程のような穏やかな雰囲気ではなくー
棘のある笑みを浮かべていたー
「ーーみんな~!今日の”エサ”をつれてきたよ~!」
梨奈がそう言い放つー。
一瞬、幸助は梨奈が何を言っているのか分からなかったー。
だが、すぐに梨奈は幸助に対して
その言葉を言い放ったのではなくー
”待ち伏せしていた連中”に言い放ったのだと分かるー。
周囲から、柄の悪い男と女たちが姿を現すー。
全部で、10人近くいるだろうかー。
金髪の男ー
ガムをくちゃくちゃと噛んでいる茶髪の男ー
明らかにヤバそうな鼻ピアスの男ー
サングラスにオールバックの表情をはかり知ることができない男ー
そして、赤い髪の男ー
その、赤い髪の男に梨奈が近付いていくと、目の前でキスをして、
梨奈が振り返ったー
「ーおじさん、馬鹿すぎでしょ?
わたしの”演技”にホイホイ引っかかっちゃって!」
梨奈が先ほどまでとはまるで違う振る舞いで言い放つー
幸助は動揺しながら「え…え?こ、これはー…」と、
周囲を見渡すー。
それぞれの男たちの横には、女が立っているー。
全部で、10人ー
男女のカップルー…いや、カップルではないかもしれないが、
5組の男女が、その場で幸助を取り囲んでいたー。
「ーあんたみたいなおっさんが梨奈に何をしようとしてたの~?」
女のうちの一人、いかにもギャルな女が言い放つとー、
梨奈は「ーわたしとご飯食べられるって思って、浮かれてたんだよ~?」と、笑うー。
ギャルな女がゲラゲラと笑うー。
「ーへへ…おっさん、俺の彼女に手を出そうとするとは、いい度胸じゃん」
赤い髪の男がそう言い放つー
幸助は”はめられた”と気づいたー。
だが、既に逃げることはできないー
金を要求されー、
幸助はそれを拒むー。
だが、その直後ー、
鼻ピアスの男に殴られ、サングラスの男に胸倉をつかまれて、
激しい暴力の嵐が始まったー。
あざ笑う女たちー。
”梨奈”も、ボコボコにされている幸助を見つめながら笑っているー
「だ…だ…だましたな!」
幸助が叫ぶと、梨奈は幸助に顔を近づけて笑ったー
「ー騙されるあんたが、悪いんでしょー?
ほら、さっさと金を出しなよ」
梨奈はそれだけ言うと、
「ーほら、もっとこいつをボコボコにしちゃって!」と、
赤い髪の彼氏に言い放つー
徹底的な暴力ー
幸助は、なすすべもなく痛めつけられてー
サイフを取り上げられて、金も、クレジットカードも盗まれてしまったー
やがて、空き地で服を脱がされてパンツ一丁にされた挙句、
その写真を撮られてー、
写真がネット上にばらまかれたー。
金も、尊厳も、何もかも奪われた幸助は、
最後に緑髪の女に唾を吐き捨てられて、
そのまま放置されたー。
美人局ー。
そんな罠にはまってしまった幸助は、
この日、地獄を見たー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”復讐”
”復讐”
”復讐” ”復讐” ”復讐”
”復讐”
その目には、憎しみだけが宿っていたー。
幸助はあの日以来、ネットに流された写真や動画が原因で
会社に行くことも難しくなり、
”奴らへの復讐”だけを考えて
部屋に籠っていたー。
最初は、奴らのアジトを突き止めて
全員を殴りつけてやろうと、思っていたー。
だがー、それ以上に面白いものを見つけたー。
それが”憑依薬”だったー。
「他人の身体を乗っ取ることできる薬ー…」
それなりの金額だったし、
そんなもの実在するとは思えないー。
何かの詐欺かもしれないー。
美人局に続き、悪質な商品の販売という”詐欺”に
引っかかるかもしれないー
そう思いつつも
”俺にはもう失うものなんてねぇ”と、憎しみに支配された
幸助は憑依薬を注文したー。
既に、あの場にいた10人の正体は突き止めたー。
全員、あの辺の繁華街で遊び歩いている若者たちだー。
梨奈も含めた10人に、復讐をしなければならないー。
そしてー
憑依薬が届くー。
怒りと憎しみに支配された幸助の復讐は、
この日、始まったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー…うっ…」
あの場にいた10人の男女ー
そのうちの一人である、緑髪の女・紗枝(さえ)に憑依した幸助ー
「ーすげぇ……本当に、憑依できてるー」
紗枝の身体を支配することに成功した幸助は
喜びに満ちた表情を浮かべながら、
両胸を揉み始めたー
「へへっ…バカにしてたおっさんに胸を揉まれる気分はどうだ!?」
思わず意地悪そうな声が出てしまうー。
しばらく胸を揉み続けると、
紗枝はニヤリと笑みを浮かべながら
その彼氏である金髪の男・善治(ぜんじ)に連絡を入れたー
”大事な話があるから、今すぐ来て”
とー。
「ーーーこれでよし」
紗枝はそう呟くと、鏡を見つめるー
「ーーーーー」
緑髪の紗枝の姿を見て「ークソ女が」と、
紗枝の身体で呟くと、唾を何度も何度も吐き出して
それを紗枝自身の顔に塗りつけてやったー
”俺に唾を吐き捨てた仕返しだ”
そう、思いながらー
早速、家の中を見回して、紗枝はある準備をするー。
それはー
”首吊りをする準備”だったー。
「許せねぇー…
俺は絶対にお前たちを許さないからなー」
鏡に映る紗枝の姿を見つめながら
憎しみに満ちた言葉を吐き出すー。
あの時ー、
パンツ一丁にされた挙句、その写真と動画をネットにばらまかれた
幸助の人生は崩壊したー。
”下心を持って若い子に近付いた挙句、無様な姿をさらしたおっさん”として
ネットの玩具にされているー。
もう、まともな生活を送ることは出来ないー。
仕事も失い、幸助に残されているのは、復讐のみだったー。
鏡に顔を押し付けて怒りの形相で、
紗枝を睨みつけるー
「ーまずはお前から…壊してやる!!」
紗枝は自分に対してそう言い放つと、笑みを浮かべながら
”首吊り”の準備を始めるー。
”最後”に仕留めるのは、幸助を騙した”梨奈”だー。
梨奈の仲間9人を地獄に送りー、梨奈を精神的に追い詰め、
最後に地獄に送ってやるー。
「ーーーひひ…できたできた」
紗枝は胸を触りながら、首吊りの準備を終えて笑うー。
実際に試したことはないし、
”自分”がそんなことをするつもりは、毛頭なかったが、
まさか”憑依”と言う形でこれをすることになるとはー
「首吊りはー、死にざまがやべぇらしいからなー
お前みたいなクソにはふさわしい最後だぜ」
そう言うと、紗枝は躊躇なく、台に乗ってー
首にロープをかけてー
そのまま台を蹴り飛ばしたー
「くふふふふっ…
あはっ…!あははははははっ!♡」
笑いながら足をぱたぱたとさせる紗枝ー
やがて、紗枝は呼吸も苦しくなり、
声も出せなくなるー。
そしてーー
そのタイミングで、紗枝から抜け出したー
正気を取り戻した紗枝は、何が何だか分からないままもがきー
動かなくなったー
そこに、紗枝に憑依している間に紗枝の身体で連絡した
彼氏の善治がやってくるー。
あの時、調子に乗っていた金髪男の善治は、
彼女の無残な姿を見て悲鳴を上げるー
”安心しろよーお前もすぐに彼女のところに送ってやるー。”
幸助は善治に憑依すると、
台所まで歩いていき、包丁を手に、善治をそのまま自殺させたー。
残りは、8人ー。
だが、幸助は自分の家に放置した自分の身体に戻ると、
ふと呟いたー
「俺、優しすぎだろ…」
とー。
そうだー
”憑依して死なせる”なんて、優しすぎるー。
「ーー死んじまったら、それで終わりじゃないかー」
幸助は呟くー。
緑髪の紗枝は、最後の瞬間、驚いただろうし、苦しんだだろうー。
だが、それはたった数十秒のことだったー。
金髪の彼氏・善治だってそうだー。
「ーー甘かったー」
幸助はそう呟きながら立ち上がるー
「ーそんな復讐じゃ生ぬるいー」
”俺は優しすぎる”幸助は改めてそう思ったー
”憑依して、対象を死なせる”
そんなのは、復讐ではないー。
「そうだー…
”生き地獄だ”」
幸助は笑うー。
一瞬にして人生を奪うだけでは、あの美人局のクズどもに対する
復讐としては生ぬるいー。
「俺だって人生を壊されたんだー
お前たちにも俺みたく、絶望の人生を送らせてやるー」
”簡単に殺すなんて優しすぎるー”
10人のうち、2人への復讐を終えた幸助は
残り8人に対する復讐をさらに苛烈なものにしようと、
不気味な笑みを浮かべたー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ダーク一直線な憑依X復讐モノデス~!
次回以降も、恐ろしい展開が続きそうですネ~!
続きはまた明日デス~!
今日もありがとうございました~!
コメント