<憑依>騒音ーノイズー①~声~

憑依薬を手に入れて、
好みの子に憑依した男ー。

しかし、乗っ取った相手の意識が消えずー…
あまりにおしゃべりな相手に
身体を乗っ取ったはずの彼が、逆に追い詰められていくー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーククク…やっと手に入れたぜー」

彼は思わず笑みを浮かべたー。

彼が嬉しそうに見つめていたものー…
それは”憑依薬”ー。

”憑依薬”なるものを売る”愛染(あいぜん)”と名乗る売人から
手に入れた謎の薬だー。

これを使えば、他人の身体を乗っ取り、
自分のものにすることができるのだと言うー。

「へへへへへ……これで俺の人生は変わるぜー」

彼は、そう呟きながら笑みを浮かべるー。

脇坂 修三(わきさか しゅうぞう)ー
彼は小さい頃から、自己中心的な性格で、
自分の思い通りにならないことがあると、
キレ散らかすー…そんな人間だったー。

そんな性格も災いしてか、学校でも孤立し、
友達ができることもなかったー。

幸いー…”あまりにも面倒臭い性格”であることから
いじめの対象にもならず
”とにかく関わらないようにしよう”と、
周囲が修三のことを避けたため、
いじめられたり、と言ったことはなかったが、
社会人になってからも”孤立”は続き、
彼の自己中心的かつ、面倒臭い性格が直ることはなかったー。

大学生の頃には、小さい頃からの幼馴染だった女子が、
修三のことを心配して”その性格を直したほうがいい”と指摘したものの、
修三は逆ギレをし、その女子に数時間にもわたり、怒鳴り声を上げながら
大学内で説教するという暴挙に出て、
それ以降、唯一心配してくれていたその子とも疎遠になったし、
”脇坂はヤベェ奴”と、大学内でも評判になってしまったー。

30を過ぎた現在でも変わらず、
先日、近所で道路工事が行われていた際には、
その音にキレて、工事現場まで乗り込み、
やはり、数時間にわたって説教したし、
近所の公園で子供が騒いでいると、
公園に乗り込んでいって”うるせぇぞ!クソガキども!”と、叫ぶことを
繰り返しー、やがて、その公園で遊ぶ子供はいなくなったー。

そんな人生を送って来たのが、修三だー。

しかし、修三自身も”俺の性格がゴミ”だということは
理解しているー。

”俺はゴミだ”
そう理解しつつも、それを変えることが出来ないー。
元々”努力するのも面倒臭い”という面倒くさがり屋で、
”自分はゴミのような性格だと”理解しているにも関わらず
それを直そうとする努力もしないのだ。

そんな彼が、憑依薬を手に入れた。
憑依薬で美少女に憑依すれば
”腐った俺の人生を変えることができるかもしれない”
そんな風に思ったのとー…

あとはーー

「うへへへ…」

下心だったー。

修三に女友達はいないし、女性の知り合いはいないー。
唯一、気にかけてくれていた幼馴染は大学の頃の数時間の説教で
疎遠になったー。

「まぁ…可愛い子なら、その辺で探せばいいしなーククー」
修三はそう呟くと、その翌日から、
街をフラフラし始めたー。

”乗っ取る身体”を探すためだー。

そして、街をフラフラし始めてから4日ー。

”見つけたー”

「ー(やべぇ、あの子可愛いなー)」

修三が見つめた先には、
大人しそうな雰囲気の漂う美少女ー。
小柄で、華奢な感じでー
守ってあげたくなるような、そんな雰囲気があるー。

物静かな雰囲気が、その見た目からも
漂っているが、顔は、正直なところかなり可愛いー。

「(俺の好みにストライクだぜ!)」
修三はそんな言葉を、心の中で叫ぶと、
早速”憑依薬”を手に、笑みを浮かべたー。

「ー愛染だか筑前だか知らねぇがー、
 こんなやべぇモン売ってるやつがこの世にいるなんてなー」

そう思いながら、憑依薬を出品していた愛染から購入した
憑依薬を飲み干すと、
早速修三はー自分の身体を捨ててー…、
その女子高生めがけて、霊体を突進させたー

「ーーひっ…!?」
びくっと震えて、驚きの表情を浮かべる少女ー

そして、すぐにその表情は
驚きから、邪悪な笑みに変わるー

「くく…へへへへ…マジかー」
手を見つめながら
手を握ったり、開いたりして見せるー。

動くー。
自分の思い通りにー。

自分が手を開こうと思えば
この子はその通りに手を開くー。

自分が手を閉じようとすれば
この子はその通りに手を閉じるー。

完璧だー。

そう思いながらー
ニヤリと笑うー。

制服の上からでも分かる胸の膨らみー
早速、この感触を味わってみようと思うと同時に、
自分の身体を見下ろすと、胸がこんな風に
眼下に見えるというこの状況ーー…

修三は、少女の身体で思わず下品な笑みを
浮かべてしまうぐらいー
興奮したー

だが、その興奮を打ち消す”声”が聞こえたー

”え…?な、なにこれ…?
 え…???え…?
 どうなってるのー?”

「ー!?!?!?」
少女に憑依した修三が、少女の身体で表情を歪めるー

”え…何で…何でわたし、”勝手に動いてる”の?”
その言葉に、少女に憑依した修三は困惑しながらも、
「ーーだ…誰だ!?」と、声を上げながら
周囲を見渡すー。

だが、周囲にはそれらしき人間はいないー。

いきなり”誰だ!?”と叫びながら
周囲をキョロキョロする少女の姿ー

周囲から見れば何か幻覚でも見ているのかと思ってしまうような
そんな、危険な光景だったー。

”だ…誰だって!?そ、それはこっちのセリフよ!
 え…?なんでわたしの身体が勝手にー?
 あなたこそ、誰!?”

その言葉に、
少女に憑依した修三は表情を歪めながら
”この声”が何なのか理解したー

「チッ…この女の意識か何かかー…
 憑依すれば、封じ込められるんじゃなかったのかよー」

一人でボソッと呟くと、

「ーーお前…”この身体”の持ち主か?」
と、修三が少女の身体で尋ねるー

”な、なに言ってんの…?意味分かんないー…”

少女の意識はそう言いながらも

”わたしは、荒川 晴美(あらかわ はるみ)ーー”
と、自己紹介をすると、
”あんたこそ、誰なの!?”と困惑した様子で叫んだー。

「ーーーーッ」
晴美に憑依した修三は、周囲をキョロキョロするー。

だが、周囲は特に反応を示していないー。

と、言うことは、たった今、晴海の意識が叫んだー
”あんたこそ、誰なの!?”というセリフは
周囲には聞こえていないようだー。
聞こえていれば、周囲は何らかの反応を示すはずー。

”ーってことは、この声は俺にだけ聞こえてるのかー”
修三は、晴美の身体で表情を歪めるとー
「お前の身体は、俺のものだー」と、
自己紹介をせずに、晴美の声で言葉を口にしたー

”ー名前ぐらい名乗りなさいよ!”
晴美が叫ぶー

「(チッ、なんだよ、ムカつく女だな)」
修三はそう思いながらも、
”何かあった場合に備えて”自分の名前を名乗ることはせずに、
「ーごちゃごちゃうるせぇやつだな」と、言い放つー

「お前は俺に憑依されたんだー
 お前の身体はもう俺のものー
 いいから、黙ってろ」

修三が、晴美の声とは思えないぐらいに
恐ろしい口調でそう言い放つとー、

”やだ”
と、晴美が即答したー

「あぁ?」
不満そうな声を出す晴美になった修三ー

”っていうか…憑依ってなに?
 わたしの身体から早く出て行ってよ!
 何なのこれ!?”

晴美の声ー。

修三は、晴美の身体で苦笑すると
「残念だけど、俺はお前の身体で
 可愛い女子高生として生きていくんだー
 お前の身体から出てくつもりなんてねぇ」
と、言葉を口にするー。

”ーはぁ?
 何言ってんの!?
 それに、女子高生として生きていくって言ったって、
 わたしはあと1年半で女子高生じゃなくなるし!

 それより、憑依って何?
 あんたの名前は?
 わたしになんか憑依して何するつもりなの!?”

次々と質問をしてくる晴美ー

あぁ、うるさいー

そう思いながら、晴美に憑依している修三は、
うんざりした様子で、
「お前に名乗るつもりもないし、お前の身体はもう俺のものだー
 黙ってろ!」と、小声で囁いたー

”は…はぁ!?
 そんなこと許されるわけないでしょ!
 早く、早く身体を返して!
 大体あんたは誰なのよ!”

大声でキーキーと騒ぐ晴美ー
まるで”ノイズ”だー。

そう思いながら修三は、晴美を無視して
そのまま晴美の身体で歩き始めるー

(しかし…想像以上にうるせぇ奴だなー
 見た目はすごく大人しそうに見えたけど、
 見た目通りじゃなかったってことかー)

修三はそんな風に考えるー。

そう考えている間にも晴美は
”警察に訴える”だとか
”変なことをしたら許さない”だとか、
”名前を名乗らなくても絶対に突き止めるから”だとか
”今日の8時から見たい配信があるから絶対見るように”とか、
色々ごちゃごちゃ言っているー。

「ーあ~!くそ!うるさい!黙れ!」
晴美の身体でそう叫ぶと、
”黙らない!嫌なら出ていきなさい!”と、
晴美の意識が叫んだー

(くそ…!人は見た目通りのやつもいるけど、
 こいつはそうじゃなかったってことだなー
 大人しそうな顔をして、おしゃべりなうるせぇ奴だったってわけだー)

修三はそう思いながらも
(まぁ、この女の意識を抑え込んでしまえば関係ないー)と、
心の中で囁くー。

憑依薬の出品者・愛染の説明によれば
憑依すれば相手の意識を封じ込めることができるー…とのことだったはずだー。

なのに、晴美とかいう子の意識は残っているー

自分が何か失敗したのか、
それとも憑依薬が不良品だったのか、
あるいはこの晴美という子の自我のようなものが想像以上に強かったのかー

それは分からないが、とにかくこの子の意識を
封じ込める必要があるー。

そう思った修三は、晴美の身体で深呼吸をするとー
何となく”晴美本人の意識”を消すためー
精神統一のような、そんなことをし始め、目を静かに閉じたー

(消えろ消えろ消えろ消えろー
 この身体はもう、俺のものだー)

そんなことを、心の中で強く願うー

”あ!そうだ今日、帰りに新発売のスイーツを買って帰る
 予定だったの!”

”っていうか、アンタ、スイーツとか分かるの!?”

”ほら、早くあっちにコンビニあるから行って”

”ちょっと聞いてるー!?ねぇ!ほら!ねぇ!ねぇねぇねぇ!”

「あ~~~~!うるせ~~~~~~~~~~~~~!」
晴美に憑依した修三はうんざりした様子で叫ぶと、
「ーもうこの身体は俺のものなんだ!黙ってろ!」と、
可愛いけれど恐ろしい声で叫ぶー。

周囲の通行人が”やべぇ奴がいる”という目線を送ってきて、
晴美は思わず目を逸らすと、
「おい!このままじゃお前もやばい子扱いされるぞ!家はどこだ!」と
小声で呟くー。

”その前にスイーツ”
晴美の意識が言い放つー

「はぁ?俺はスイーツなんか食べねぇよ
 家に帰ってお前の身体で遊ぶんだー。
 これを揉んだり、鏡にキスをしたりー
 へへー色々させてもらうぜ」

晴美の身体で、勝ち誇った笑みを浮かべる修三ー

”うわっ!キモ!変態じゃんー…最低!
 わたしの身体でそんなことするとか、あり得ないー”

”絶対住所教えない!早く出てって!”

”あ、ほら、それよりコンビニに行って!
 さぁさぁさぁ早く!”

”っていうか、憑依ってどうやってるの?
 あんた、幽霊か何か?”

”わたし、何か恨まれるようなことした?”

まるでマシンガンのように、次から次へと
言葉を吐き出す晴美の意識ー

あまりの煩さに、
晴美に憑依した修三は、”ダメだこの女ーノイズ女め!”と、
煩すぎるこの身体から脱出しようと、
憑依から抜け出そうとしたー

がー

「ーーー!?!?!?」
晴美に憑依した修三は表情を歪めるー

「ーーあれ…!?あれ…!?おいっ!」
晴美の身体で一人叫び出す修三ー

”なによ?”
晴美の意識が不満そうに聞いてくるー。

そんな晴美に対して
修三は晴美の身体で答えたー

「ーくそっ…お前の身体からでれねぇ…」
と、絶望の表情を浮かべながらー…。

②へ続く

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コメント

憑依した相手がお喋りすぎて
逆に苦しめられてしまうお話デス~!

どうなってしまうのかは、また明日のお話を
確認してみてくださいネ~!

ありがとうございました~!☆

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憑依<騒音ーノイズー>

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