<MC>感情を捨て去りなさい②~反撃~(完)

その日、人類の9割以上は
AIにより感情を奪われたー。

”感情こそ、人類の繁栄と存続に最も不要”

そう、AIが判断したからだー。

そして…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”何故、抗うのです?”

AI・アースは
”理解できない存在”の出現に困惑していたー。

自分に与えられた使命は
人類の存続・繁栄・幸福の追求だー。

アースは、その通りに数百年間、
人類を管理し続けて来たー

その結果、人類は栄えたー。
少子高齢化も、食糧問題も、人同士の争いも無くなったー。

そして今、
”更なる存続と繁栄、幸福の追求のため”に、
全ての人類を洗脳して、
”感情”を奪い取ったー。

人間の感情とは不確定なものであり、”無駄な”ものだー。

思わば”アース”が、人類を支配する前ー、
ほとんどの問題は”人間の感情によるもの”だったー。

”人類を産むのではなく、作る”
そんな技術がありながら、可能性がありながら
それを倫理的などという理由で拒み、
時には神への冒涜などという理由で人類は拒んだー。

食べ物もそうー。
効率よく栄養さえ補給すれば良いのだ。
そこに、味や感動を求めるから、食料問題が起きるー。

人間同士の争いも、全ては感情によるものー

元々の問題は全て”感情”のせいだと、AI・アースは気づいたのだー。

だからこそ、今日、人類のほとんどを洗脳し、
感情を消したー。

”幸福の追求”は、”わたしは、俺は、僕は幸せだ”と思い込ませるように
洗脳すればいいー。

実際に今ー、
世界中の人間は嬉しそうに「幸せ…」と呟いているー

これこそ、
人類の繁栄・存続・幸福
3つの使命を全て果たした状態と言えるー。

”素晴らしい世界ではないですかー。
 なのに、何故、抗うー?”

効率と結果しか求めない感情のない機械ー
そんなアースには”まだ”洗脳から逃れて
必死に抗っている人類の存在は理解できなかったー

「ーいいでしょう。これより”デバッグ”を開始しますー。」

逆らうものは、人間に非ずー。
バグは、排除しなくてはならないー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

287-982が目を覚ますー。

「ーーー!!」

”あれ、俺ー…?”

そう思いながら、
AI・アースが用意してくれた
新たなプログラムを脳に書き込む直前ー、
施設が何かに襲われてーー
そのまま意識を失ったことを思い出すー。

「ーー目を覚ましたかー。
 あの場所から救うことができたのは、君を合わせて3人だけだったー。
 すまない」

ふいに、男から声をかけられて
287-982は驚くー

「ーな、なんだお前たちは!?
 救うってなんだ?
 お、俺をどうする気だ!」

驚きながらもそう叫ぶ287-982。

「ー落ち着け。俺は別に君を傷つけるつもりはないー。

 俺たちは、一人でも多くの人間を”アース”の支配から
 解放するために戦っている」

男がそう説明すると、
思わず287-982は笑ったー

「なんだ、”バグ”かー」
とー。

男は不快そうな表情に染まるー。

287-982も”バグ”の存在は知っているー
”アース様に逆らうものたち”のことだー。

「ーー人間ですらないお前たちのことなんか、信じられるか!」
そう叫ぶ287-982。

生まれた時からAIに管理されている287-982にとって
”アース”は絶対の存在ー。

アースが、”自分に逆らうものはバグ”だと言うのであれば
それを信じて疑わないー。

”こいつらは人間じゃない”
287-982は心の底からそう思いながら、
「ーせっかく、”新しいプログラム”を貰おうとしてたのに
 お前たちのせいでー!」と、怒りの形相で叫ぶー

だが、今度は男の方がバカにするようにして笑ったー

「は!プログラム?
 お前も見たはずだー。
 それを受け取った人間がどうなったのか?

 あれは”洗脳プログラム”だー
 俺たち人間から感情を奪い、
 ただ、”何もない幸せ”を感じ続けるようにするためだけの
 人間破壊プログラムだ!」

感情的になって言い放つ男に、

「違う!妹はすごい幸せそうだった!
 俺も、あのあとすぐ、幸せになれるはずだったのに!」

287-982が、怒りの形相で叫ぶと、
男はため息をついたー

「ー重症だな」
とー。

「ーーなんだと?」
ムッとする287-982。

「ーーお前、名前は?」
男の言葉に、
「名前?そんなものないよ。識別番号のこと?」
と、287-982が答えるー。

「ーーー…悲しいもんだなー。
 何もかも奪われて、それが正しいことだと思ってるー。
 
 何がバグだー。
 俺たちは人間だ」

男は皮肉っぽく、287-982にそう言い放つと、
「俺たちは、”アース”を破壊する」と、言葉を吐き捨てるー。

「なんだって…?」
287-982が驚きの表情を浮かべるー。

「ーとにかく、詳しく”今の世界の状況”を教えてやるー
 こっちにこいー」

そう言われて、渋々承諾すると、
287-982以外に救出された他の2人も、奥の部屋に
既に集まっていたー

「あ…!」
その中の一人には見覚えがあったー。

知識を書き込むセンターでよく会う機会の多かった
ツインテールの子
222-5959だ。

先日も”ごくごくなんて嫌だ”と愚痴っていたー。

「ーー…話、聞いた?」
222-5959が近付いてきて言うー。

「聞いたよ。でも、バグの言うことなんて滅茶苦茶だー。
 こいつらは人間ですらない、バグなんだからー」
287-982が当たり前のようにそう言うと、
222-5959は首を横に振ったー

「ーーー……わたしは、信じるー」
とー。

「え?」
287-982は、信じられないという表情で、222-5959を見つめるー

「ーーだってー…みた?」
222-5959が悲しそうに言うー。

先に”洗脳”された彼女の友達ー
彼女は、そんな友達に色々話しかけたが
”しあわせ”としか言葉が返って来なかったー

まるで、ロボットのようにー。

それでも、222-5959は”これでもっと幸せになれる”と思ったー。

だが、287-982同様、洗脳直前にこの男たちに救出されて、
ここに来て、話を聞いて222-5959は確信したー

「ーーわたしたちが間違ってたー
 あの、AI…何かおかしいよー」
とー。

「ーな、なにを言い出すんだよー…な、なぁ…?」
動揺する287-982ー。

だが、もう一人救出させた855-0985という少女も、
この男たちー
”バグ”たちのことを信じると言い始めたー

やがてー
”AI”と戦う男たち5人がこの世界の状況を説明し始めるー。

その内容はーAI・アースが度を越した統治で
人間を支配し、
更には先日”全感情を消し去る”という暴挙に出たというのだー

「あれじゃ、生きてても生きているとは言えないー」
さっき、287-982と話した男が言うー。

確かに、”アース”による支配は、
最初は的確だったー。
だが、やはり、人間には踏み越えてはいけない領域があるー。

それにこのまま続けばー
”人類はこの世に不要です”などと言い出す危険も、
男たちは考えていたー。

「ー三日後、AI・アース本体が存在する
 中央区に潜入して、アースに停止命令セットを組み込んだ
 ウイルスを流し込むー」

男の言葉に、
287-982は困惑の表情を浮かべるー

だが、今、聞いた話はー

そう思いながら、考え込んでいると、
男は287-982たち三人を見つめながら
「どうか、君たちにも力を貸してほしいー。
 人類を、AIから解放するんだー」と、
力強く言葉を発したー

「ーーーーー」
「ーーーー」

287-982は、妹の287-983が
この男たちの言う”洗脳”されて幸せを感じ続けるだけの操り人形に
なった姿を思い出すー。

やがて、拳を握りしめると、287-982は
静かに頷き、”俺も協力しますー。やっぱり、俺が間違ってましたー”と
男たちに向かって頭を下げたー。

「そうか、分かってくれたかー」
リーダーらしき男が嬉しそうに頷き、287-982に対して
握手を求めるー。

「ーいきなり”現実”を受け入れるのは辛いと思うー
 だが、AIの世界ではなくー
 我々”人間”の世界を、共に取り戻すため、
 戦おうー」

その言葉に、287-982は戸惑いながらも頷き、
「よろしくお願いします」と、呟いたー。

「ー決行は3日後ー。
 アースを停止し、世界を人の手に取り戻すー」

リーダーは、そう宣言すると
救出した三人と、元々の仲間たちを見て、頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーしあわせー」

「ーしあわせー」

「ーしあわせー」

AI・アースにより”洗脳プログラム”を書き込まれた人間たちは、
まるで操り人形のように、そう呟き続けているー。

何も幸せなことなどないのに、
洗脳による”偽りの幸せ”を感じ続けながら、
ただ、”生きるための行動”を、何の感情もなく続けているー

「ー幸せー…」
「幸せー」
「幸せー…」

287-982の妹、287-983も、そう呟きながら
今日も”栄養の補給”を行っていたー。

栄養の補給を終えると、虚ろな目のまま座りー、
何もせずに、ずっと”幸せ”と、呟き続けているー。

”感情を排除したことで、さらに効率的になりましたねー。
 永遠の繁栄と存続ー、そして、幸せにまた一歩、近付きました”

AI・アースの本体は満足そうにそう思考すると、
その3つの目的に従い、また思考を始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3日後ー。

”AIからの解放”を目指す者たちの
解放作戦が始まったー。

AI・アースに停止命令プログラムを流し込みー、
アースを止めるー。
そして、この世界を人間の手に、取り戻すのだー。

だがーーー

「ーーな、なんだと!?」
AIに対抗する集団のリーダーが叫ぶー。
周囲にいる数名も、困惑した様子を見せるー。

”確実に”この地点の警備は薄かったはずなのにー、
AI・アースがコントロールするロボ軍団が
待ち構えていたのだー。

「ーーくそっ!撤退!」
リーダーが叫ぶー。

が、ロボット軍団が、リーダーを、
そしてその他のメンバーに容赦ない銃撃を加えて、
あっという間に、287-982達を助けたメンバーは全滅したー。

残された287-982と、一緒に救出されて、
このレジスタンス的なメンバーたちと協力していた
855-0985、222-5959はロボットたちのほうを見つめたー

「ーーど、どうしよう…は、早く逃げないと!」
222-5959が言うー。

だがーー
287-982は突然笑い出したー。

「ーー…な、何笑ってるの!?」
呆然とする222-5959。

「ーーはははははは!お前らはもう人間じゃなくて”バグ”だ!
 バグは、取り除かなくてはならない!」

287-982が叫ぶと、
残りの二人は呆然とするー

「ま、まさかあなたー…まだ…!」
222-5959は気づくー。

レジスタンスのような集団に救出されて、
”AI・アースによる支配が間違っていた”と気づいた222-5959。

だが、287-982は違ったー。
彼らの話を聞いてもなお、”アース様は正しい”と思い込んでいたー。

287-982は”あえて”改心したフリをしつつ、
AI・アースに情報を流し、こうして今日、レジスタンスと裏切り者を
”全滅”させようとしていたー。

「ーーアース様は、AIは俺たち人間を導いてくれてるんだー!
 お前たちが裏切るなんて、がっかりだよー…!失望した」

287-982がそう言い放つと、
彼とよく話していた222-5959が困惑しながら叫んだー

「ーーー…め、目を覚まして!わたしたち、AIに支配されたままじゃー…」

「ーー”バグ”は黙ってろ!」
287-982は叫んだー。

もう、彼には、222-5959たちは”人間”には見えなかった。
彼からすればAIに逆らう”バグ”でしかないー。

「ーーーそ、そんな…た、助けて!」
222-5959の悲鳴を聞いてもなお、
287-982は全く取り合わずー、
その場で222-5959と855-0985は”処理”されたー。

”ーあなたが”人間”で良かったー。
 さぁ、早速新しい”効率化プログラム”を書き込みましょう”

AI・アースからの言葉に287-982は嬉しそうに
「ありがとうございます」と、笑みを浮かべるー。

そして、何も疑うこともなく、
彼はいつものセンターに行き、”洗脳プログラム”を
脳に直接刻まれてーーー

「ーーしあわせ…」

「しあわせ…」

「しあわせ…」

永遠に偽りの幸せを感じ続けながら、
ただ、生きるための行動を何の感情もなくし続けるー
そんな、状態になってしまったー

他の、人々と同じようにー。

AIによって奪われた”感情”ー

そこはもう”効率化”しか存在しない、
かつての世界とはまるで違う世界に変わり果てていたー。

おわり

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コメント

恐ろしい未来世界を舞台とした洗脳モノでした~!
ゾクゾク様子はあまりないタイプでしたが、
たまにはこういった作品も…☆!

ちなみに、今日は18時に
半年ほど前に、KPmouse様(入れ替わり中心に活動されている方ですネ~)の、
合同誌企画に提出した作品が、
解禁日(※作者の独自判断で好きなように公開してOK☆!)を迎えたので、
その作品(入れ替わりデス)を憑依空間に掲載します~!
見たことのない方は、ぜひ楽しんでくださいネ~!

それではいったん、ありがとうございました~!
また夜にお会いするのデス…!

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