大人しく、真面目な性格だった彼女。
しかし、結婚してから彼女は
突然、異様な”浪費”をするようになってしまい…?
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「ーーま、またそんなに買ったのかー!?」
仕事から帰宅した修司(しゅうじ)は思わず声をあげたー。
「ーだって、欲しいものがいっぱいなんだも~ん!」
先月、結婚した妻の園香(そのか)は、最近、突然豹変したー。
ブランド品やら、高価なアクセサリーを、
ものすごい勢いで購入し始めてー
お金を”浪費”するようになったのだー。
「ーーそ、その気持ちは分かるけどー」
修司は、そう言いながらも困惑の表情を浮かべたー。
修司自身にもプラモデルを収集する趣味があり、
それなりにお金は使っているー。
元々修司は、技術が必要な専門職についていることもあり、
若くして年収はそれなりにあるー。
だがー
それでも”このペースで浪費されると”
時間の問題で破綻するのは、明らかだったー
「ー修司だって、プラモデルよく買うじゃん!」
不満そうに呟く園香ー。
「そ、それはそうだけどーき、金額が違いすぎるよー」
修司は困惑しきった様子で言ったー。
確かに、プラモデルはよく買う。
だが、金額的に今の園香が”浪費”するお金とはまるで違うし、
そもそも結婚する前に、そのあたりのことは
よく話し合って、お互いに納得もしているはずだー。
修司は”お小遣いの範囲内”を飛び越えることは絶対にしないし、
当然、園香の方の趣味も、理解し、それにお金を使うことは
修司自身も納得していたー。
が、しかしー
先月、結婚して実際に同居を始めると、
程なくして園香は豹変し、今に至っているー。
元々”興味がなかったはずの”ブランド品や
高価なアクセサリーを買いあさっては
それを身に着けた自分を、自撮りして満足そうに笑みを浮かべているー。
「ーーだ、大体どうして急にそんなー」
修司は困惑の表情を浮かべるー。
今までブランド品になんか興味がなかったはずで、
付き合っているころに、そもそも園香本人が
”こういうの、わたし、あまり得意じゃないしー”と、言っていたー。
去年のクリスマスだっただろうかー。
二人で買い物をしている際に
ブランド品が販売されている売り場を見ながら
園香本人が確かにそう言ったのだー
「ーわたし、こういう金額見ると
”アレだったら100個買えるのになぁ”とか、そう考えちゃうタイプだし」
とも、言っていたー。
アクセサリー類も、派手な装飾を身に着けるのは苦手で、
どちらかと言うと、落ち着いた感じの服装が好みだった園香ー。
そんな園香の趣味は”読書”と”スイーツづくり”ー。
だが、結婚してからの園香は全然本を読まなくなったし、
スイーツも作らなくなったー。
まるで別人のように、ブランド品とアクセサリーに溺れているー。
「ーーー文句あるなら、離婚する?」
不満そうに呟く園香ー。
「ーい、いや、そこまでは言ってないけどー」
修司は困惑したー。
大学で出会い、社会人2年目の今年、結婚したー。
だがー、こんなことになるとは思わなかったー。
”結婚は人生の墓場”だとか
”旦那がATMにされる”だとか、
そんな話を、大学の友人がしていたのを覚えているー。
だが、やつは元々結婚する気のない人間だったし、
”好きな人と結婚すればそんなことはないはずだ”と、
修司はそう思っていたー。
が、現実はこの通りだったー
”これじゃ、ホントに墓場になっちまう”
修司は強い不安を覚えるー。
このままでは、本当に破産するー。
技術職である故に、最初から収入はある程度はあるが、
このペースで浪費されてしまえば、
流石に持たない。
既に、日常生活に影響が出るレベルにまで到達しているー。
「ーー園香ー
園香の好きなことはさせてあげたいし、
園香を幸せにするためなら、どんなことだってしたい」
修司は、できるだけ穏やかな口調でそう呟くー。
「でも、これじゃ生活が持たないー…
このままじゃ、破産しちまうー」
修司が辛そうにそう呟くー。
「ー俺がもっともっと稼げるようになればいいのかもしれないけど、
やっぱり限界はあるしー…
だからーお願いだー。分かってくれー」
修司のそんな言葉に、
園香は表情を歪めるー。
必死に嘆願するようにー、
頭を下げる修司ー。
どうか、分かってほしい、と
そう願いながらー。
「ーーーーーうんーわかったー」
そんな修司の必死な願いが通じたのか、
園香は申し訳なさそうな表情を浮かべ、
そう謝罪するー。
「ーごめんなー。俺ももっと頑張るから」
散々浪費されても、優しく言葉をかける修司。
園香は「うんー」と、穏やかな笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
がー
”口だけ”だったー
翌日も、帰宅すると園香は
ブランド品のバッグを身に付けながら
鏡の前でご機嫌そうにポーズを取っていたー。
服装もどんどん派手で、高そうなものに変わっていくー
「そ、そ、そ、園香!?」
修司は、信じられない、という様子で
思わず声をあげるー。
「ーき、昨日ー…昨日、約束したじゃないか!?」
修司が困惑しながら叫ぶー
昨日、確かに”これからは浪費を控える”と約束したはずだー。
それなのにー。
「ーくふふふふふふ…
約束~?何のことぉ~?」
馬鹿にしたように笑う園香ー
目を細めて、心底、修司をあざ笑うようなー
そんな笑みを浮かべているー。
修司の必死の嘆願もー、
”今の園香”にそんな願いが通じるはずはなかったー。
何故ならー
今の園香は”自分たちの人生などどうでもいい”と、
思っているからー。
昨日、園香が謝罪したのは
単に”話が長くて面倒臭い”からー。
呆然とする修司を前に、
「いつもお仕事お疲れ様ぁ~」と、言いながら
園香は、部屋の方に戻っていくー。
そういえば、園香はパートをしているはずだが
最近はパートに出かけている様子も全くないし、
家のこともなにもやらなくなってしまったー。
元々修司も家事をしているため、
家事をこなすことには問題はなかったが、
園香のあまりの豹変に、修司は困惑し、
辛い日々を送っていたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーくくくく まさか
結婚したばかりの妻が”憑依”されてるなんて
夢にも思わねぇだろうなー」
部屋に戻った園香は、
ぶら下げた高価なネックレスをうっとりとした表情で
見つめながら、笑みを浮かべるー。
穏やかな園香が、
絶対に浮かべるはずのない、邪悪な笑みを浮かべながら、笑うー。
「ーー自分の妻がこんな目に遭っているのにー
本当のこの女は、たぶんお前に助けを求めたいのにー
ククー、浪費女としてこの女が憎まれていくー
たまらないぜ」
ペロリと唇を舐めると、園香は笑うー。
園香は結婚した”翌週”に、男に憑依されて、乗っ取られていたー。
浪費が始まったのは”憑依された”からー。
決して園香本人の意思ではない。
”憑依されて身も心も支配されてしまった状態”
憑依された側の園香に意識があるのかどうかは分からないが
もし、意識があったとすれば、
園香は必死に修司に助けを求めているだろうー。
しかし、助けを求めることもできずー
むしろ、結婚したばかりの大好きな夫からの
”評判”がどんどん落ちているこの状況ー。
そんな状況に、今の園香はゾクゾクしていたー
「日に日にこの女への愛情が失せていくこの感じー
たまらなく興奮するぜ」
園香はそれだけ呟くと、笑みを浮かべるー
男はー
”新婚カップルばかりを狙い、憑依で荒稼ぎ”をしている
憑依人、阿波野 俊治(あわの としはる)ー。
新婚の女に憑依して、
今の園香のように”ブランドモノやアクセサリー”を買い漁り、
それを売却し、換金ー。
手に入れたお金を、複数の口座を経由して
自分の手元に渡るようにしているー。
この経由は、憑依も絡めて非常に複雑なルートを
辿っているため、恐らくどんなに調べても、
誰も俊治の存在にたどり着くことは不可能だー。
そんな方法を用いて、
”新婚夫婦の女に憑依して、利益を得ている”のだー。
別に、”憑依”を悪用すれば
他に稼ぐ方法などいくらでもあるー。
だが、俊治はあえてこのような方法を選んでいたー。
その理由はーーー
「ーー園香…!」
「ーー園香…!! 園香!!!!」
ふと、夫である修司に呼ばれる声が聞こえて
「あぁ、俺かー」と、小声で呟くー。
他人に憑依を繰り返す人生を送っていると
”自分”が、”自分以外の名前”で呼ばれることも度々あるー。
そのため、つい、”今の身体”の名前で呼ばれても、
時々”自分が呼ばれている”とは思わずに
反応が遅れてしまうこともあるー。
「ーーーなに?」
”園香”として笑みを浮かべながら答えるー。
「ーーあー、いや、明日、残業で帰りが遅くなるからー
伝えておこうと思って」
修司がそう言い放つと、園香は「そ。お疲れ様ー」と、
あまり興味がなさそうに呟くー。
「ーーーー晩御飯も会社で済ませることに
なると思うからー」
修司がそう伝えると、園香は「わかった」とだけ答えたー。
修司は思うー。
”俺のことはやっぱりお金目当てだったのだろうかー”
とー。
そんなことは思いたくないし、
園香のことをそんな風に見たくはないー。
けれど、最近の態度は、明らかにー
そう、”修司とこれから人生を歩んでいこう”とするような
振る舞いには思えないー。
でもー、修司は大学で出会い、一緒に過ごしてきた園香のことを
よく知っているー。
これが本性だとすればー
園香は大学生活の間、ずっと”自分を偽って来た”ことになるー。
修司は確かに専門職であることから、
同世代の他の子よりは収入は高めだー。
とは言え、まだ若いし”高い”と言っても限度はあるし、
決してお金持ちではないー。
その修司をターゲットに何年もかけて”お金目当てで結婚”する
必要などないはずだし、
それならもっと他の人を狙った方が効率が良いと思うー。
「わからないー…」
修司は困惑の声をあげながら、
自分の部屋に飾られている
大学時代の修司と園香の写真を見つめるー
写真の園香はとても楽しそうに笑っているー
優しくて、控えめな性格だった園香ー
この笑顔も、振る舞いもー
全部、嘘偽りだったと言うのかー。
修司はそんなことを思いながら
辛そうな表情を浮かべー、深々とため息をついたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーそりゃ、大変だなー」
職場の先輩、大塚(おおつか)が、苦笑いしながら
首を横に振るー。
「ーーどうしたらいいか、よく分からなくて」
修司がそう言うと、
大塚先輩は、修司の状況を詳しく聞いて来たー。
彼はー、修司が入社した去年、指導を担当していた先輩で、
一通りの研修関係が終わってからも、修司のことを何かと気にかけ
可愛がってくれているー。
「ーーん~~~……俺が思うにー」
大塚先輩は、話を聞き終えると、少し考え込みながら
言葉を口にするー
「その奥さんー…”浮気”してないか?
あるいはー…ホストにはまってるとか」
その言葉に、修司は表情を歪めるー。
「そんなに急にブランド品を買い始めるなんてー
普通じゃないー。
大学の頃から付き合ってたんだろ?
そういうの、今までも買ったりしてたのか?」
大塚先輩の言葉に、修司は園香が
「ーわたし、こういう金額見ると
”アレだったら100個買えるのになぁ”とか、そう考えちゃうタイプだし」
と、言っていたことを改めて思い出すー。
あれが演技かどうかは別として
少なくとも結婚する前までは、ブランド物を買っているところも
興味がある素振りも見せたことがないー。
「ーー相手の男に貢いでるとかー、
そういう感じかもしれねぇぞー
奥さんが買ったブランド品、ちゃんと家に全部あるのか?
無くなったりはしてないか?」
その言葉に、修司は強い不安を感じたー。
そして、帰宅すると改めて園香に気付かれないように、
園香が買い漁ったブランド品やアクセサリーをこっそり確認するー。
「ーーー」
確証は持てないー。
が、今まで買ってきたものが全部家にあるかどうか、と
言われると怪しい気がするー。
修司は、さらに園香に対する不安を強めながら、
最近は部屋にほとんど籠りっぱなしの園香の部屋のほうを見つめー
表情を曇らせたー。
②へ続く
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コメント
急に散財するようになってしまった妻…!★
早く憑依に気付かないと大変なことになってしまいそうですネ~!
続きはまた明日デス~!
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